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『ドールアリーナ 』
マシンドール・イレヴン4964)&三嶋 小太郎(NPC4205)

「うひゃぁ……すごい人だなぁ……」
 とある闘技場にやってきた小太郎は、その中に居る人の多さに完全におのぼりさんになっていた。
 キョロキョロと辺りを見回してはそこに居る人たちを眺め、周りの売店なんかに目をやったりしていた。
「こんな所もあるんだなぁ……」
 一人で感心し、貰ったチケットを見て自分の席に向かった。

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 それは数日前のこと。
 いつものように興信所で暇を持て余していた小太郎は、フラリとやってきたマシンドール・イレヴンに声をかけられたのだ。
「あぁ、居た居た。君が小太郎くんね」
「え? ああ、そうだけど」
 やってきたのは小柄な女の子。小太郎は自分と背を比べて僅差で負けていることに気付き、気付かれないように舌打ちした。
「アンタ、だれだ?」
「私? 私はマシンドール・イレヴン。よろしくね」
 マシンドール、と言われて小太郎は一つ思い当たる。
 確か、似た名前の人と一緒に仕事をしたことがある。多分その人の関係者なんだろう。
「お姉ちゃんから聞いてたんだけど、どうやら君、強くなりたいんだって?」
「え? ああ、そうだ。俺は強くなりたい。……とりあえずは誰も殺さなくても済むように」
「そんな貴方に朗報です! ジャーン! ドールアリーナのチケットぉ!」
 イレヴンは紙切れを高く掲げ、それを小太郎に渡す。
「チケット? ドールアリーナってなんだ?」
「私たちみたいなマシンドールが真剣勝負を行う場所よ。私たちにはランキングがつけられてて、そのアリーナで勝つことでそのランクが上がるわけ。で、それを観戦するのに必要なのがそのチケット」
「……観戦? 俺が? 何で?」
「それはアレよ。第三者の視点で戦いを見れば、何か見出せるかもしれないでしょ。例えば、ほら……」
 首をひねりまわすイレヴン。上手い例えが見つからないらしい。
「と、とにかく、絶対に来るように! 来なかったらチェーンソーの刑だからねっ!」
 なんとも恐ろしい名の刑罰に怯え、小太郎はブルリと震えた。

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「まぁ、タダで見れるんなら儲け物だしな」
 指定された席に座り、小太郎はそんな事を呟いた。なんとも貧乏性な考え方である。

 観客席に囲まれたアリーナには色んな建物が建っていた。
 ビルやらコンビニに似た建物やら、パッと見、小さな町だった。
 それもそのはず、今回のアリーナテーマは市街。市街戦を想定したバトルが繰り広げられるらしい。
 その分、観客から見られない場所があるので、アリーナ内にはいくつもカメラビットが飛び回り、アリーナの隅々を様々な角度から映し、それを観客席に取り付けられた大モニターで見ることが出来る。
 なんともハイテクな環境に、小太郎は少し酔っていた。

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 アリーナ内。
 今回のカードであるイレヴンともう一人のマシンドールは最早アリーナの中に入っていた。
 試合開始までアリーナの中を見て回り、戦略を立てているのだ。
 とはいえ、イレヴンの方にはこれと言って策は無い。と言うか必要ない。
「何があっても敵を叩き潰すだけ。それだけだもんね」
 観光するようにアリーナを歩き回りながら、イレヴンはそんな事を呟いた。
 その時、でかめの虫のようなビットがイレヴンに近付いてきた。
 シグナルに数字が表示され、それが刻々と少なくなっている。試合開始までの時間を表示しているのだ。
「あ、いけない。そろそろ準備しなくちゃね」
 イレヴンは手に得物を持っていない事に気付き、パタパタと控え室に駆けて行った。

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『レディィィス エェェン ジェントルメン!!』
 ナレーションがマイクを使って叫ぶが、それをかき消さん勢いで観客も吼える。
 その轟々とした客席に囲まれた中で、イレヴンはアリーナのど真ん中であるらしいスクランブル交差点に立っていた。
 特に作戦を持たないイレヴンの今回の戦闘スタイルは『待ち』だ。
 接近戦特化のマシンドールであるイレヴンはどうしても相手と接近戦に持ち込みたい。
 接近戦であれば、『最良』と呼ばれるイレヴンの姉妹機よりも強い自信がある。ならば自分の土俵で戦った方が確実に有利。
 ただ、前情報に因れば相手もどうやらインファイターらしいので多少心配は残るが、逆にそれが待ちの作戦が有効な事を示している。
 遠距離攻撃が無いなら向こうからこちらに向かってくるしかない。
「負けてらんないもんね。私は絶対イチバンになるんだから」
 マシンドールランキングのトップになり、そこで初めて何かが見える、と信じて疑わないイレヴンは、ただそこを目指して駆け上がるのみなのである。
『それでは今宵のメインイベント、最終戦! 試合開始です!!』
 ナレーションの開始合図と共にゴングがなる。
 イレヴンはその手に持つ、やたら長い鉄棒を軽々と振り回し、その場で構える。
「さぁ、何処からでもかかって来なさい。私は負けないよ!」

 頭の中に残る相手のデータ。
 三メートル近い巨体を武器にする完全に接近戦専用のマシンドールだ。
 ランキング的にはイレヴンより一つ上だが能力としては僅差なはずだ。ランキング一つの違いにそれほど差は無い。
 上手く隙を突いてこちらのペースで戦闘をリードすれば勝てるはず。
 鉄の棒、ギガントロッドを握る手に力を込め、相手の出方を窺う。
 ペースを握る上で『待ち』は不利だが、安易に相手に踏み込むのも不安だ。
 死角が出来易い市街戦で、あちらが自分を狙っており、十分勝てる見込みがあるなら、下手に動かずに相手が自分に食いついてくるのを待つ。
 それにイレヴンが立つアリーナのど真ん中はそれなりにスペースが開けており、戦いやすい。相手に遠距離武装があると厄介だが、鋼のボディ自慢の相手ならばその心配もあるまい。
 これは消極的な行動ではなく、積極的な待ち。この場で戦うのに、それほど心配はしていなかった。

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 数分して、どうやら耐え切れなくなった相手マシンドールがアリーナ中心部の広場に姿を現す。
 三メートル近い巨体を隠すのにも一苦労だったろうが、それも徒労だったようだ。
「お待ちしておりました〜」
 姿を確認して、イレヴンはギガントロッドを構え、相手に突撃する。
 かなり開いていた間合いを詰め、左手だけでロッドを握り、まず突きで距離を測る。
 突きは易々とガードされ、左手に弾き飛ばされたが、
(まだ半歩浅い。まだ詰められる)
 イレヴンに十分なほどの情報をくれた。
 その後、すぐに踏み込んでロッドの中ほどを右手で握り、相手の右脇腹目掛けて振り上げる。
 それをバックステップで躱されたので、すぐに薙ぎ。
 相手はそれを受け止めようとするが、薙ぎはイレヴンのフェイント。
 少しロッドを引き、すぐに突きの体勢に移る。
 それに面を喰らった相手は防御しなおすのに手間取り、次の瞬間に放たれたイレヴンの突きを腹部にクリーンヒットさせた。
 鉄が歪む音が聞こえ、相手が耐えられず吹っ飛び、奥にあった建物にぶつかってその一角を破壊した後、客席から歓声が巻き起こった。
 それこそ試合終了を思わせるほどだったが、まだ終わりではない。
 アレほどの巨体で防御性能が低いとは思えない。あの程度の一撃で沈むはずが無い。
 そして、その考えの返答であるように、建物が崩れて巻き上がった煙の中から、イレヴンに向かって『制限速度五十キロ』の標識が飛んできた。
 根元から折られたらしいそれを、イレヴンは軽々弾き飛ばし、次の攻撃に対して構えようとするが、なんとすぐ目の前に相手のマシンドールが。
 豪腕一閃、相手の左ラリアットがイレヴンの顔にヒットし、イレヴンはそのまま地面を転がって吹っ飛んだ。
 だがすぐに立ち上がり、体勢を立て直そうとする。
 意外だった。相手のあの機動力は侮れない。
 顔を上げ敵を視認しようとするが、前方には居ない。見えたのは縦に吹き上がる土埃と自分のすぐ下に落ちる自分のではない影。
 つまり、敵はイレヴンの頭上。
 それに気付き、間一髪、敵のニースタンプを飛び退いて躱す。
 すぐに後ろ溜めにロッドを構え、捻り込む様に撃つ!
 膝を地面に埋めていて体勢を崩していた敵は大して踏ん張る事も出来ず、不完全な防御でそれを受けた。
 小柄ながら他を圧倒するほどの力を持つイレヴン。その攻撃を形の悪い恰好で防御できるわけも無く、ダメージを受けて敵は吹っ飛んだ。
 だがやはり、それも決定打には至らず。敵はすぐに起き上がり、戦闘体制をとる。
「流石に楽勝って事にはならないかぁ。少し本気を出さないとやられちゃうかも?」
 イレヴンは笑みを浮かべながらそう言う。言葉の割にはまだ余裕がある。
 ロッドを構え直し、相手の出方を窺う。
 距離は五、六十メートルほどか。敵の一跳びの間合いである事は間違いない。
 それに対し、イレヴンは機動力に難があるため、一跳びでは相手を間合いに収める事は出来まい。
 完全に相手に有利な間合い。それでもイレヴンがここから動かないのは勝機があるから、と言うただ一つの理由から。
 クリティカルサイトを展開させ、相手の行動を一つ一つ注意深く観察する。
 相手の攻撃の機を見逃さない。それが勝利に繋がる鍵。狙うはカウンターだ。
 そのままの状態でしばし沈黙が続いたが、痺れを切らした相手がイレヴンに向かって攻撃を仕掛けた。

 地を滑るようにして広い間合いを詰めた相手は、イレヴンを自分の間合いに収めた瞬間に左のパンチを繰り出す。
 軽いジャブだ。イレヴンはそれを軽くパリィし、次の攻撃を窺う。
 次はもう一撃、ジャブ。やや高め、イレヴンの頭を狙った一撃だ。イレヴンはそれも軽く受け流し、最早繰り出されている次の対処に移る。
 ジャブとほぼ同時に繰り出されていた右ローキック。ジャブを目くらましにした、本命の一撃だろう。
 これを切り口にコンビネーションが続けるつもりだろう。上に下に、右に左に打ち分けた厄介なコンビネーションだ。相手の機敏さとイレヴンの鈍重さを比べてもそれを受けていては不利一方なのは明らか。
 イレヴンはローキックを躱すと共に、相手の間合いから一度離れるために後ろに飛び退く。
 相手は空振りしたローキックをそのままステップに変換し、踏み出しながら長い右腕で拳で打ち下ろしを繰り出してくる。
 大振り。当たれば痛いだろうが、これを凌げばイレヴンのチャンスだ。
 クリティカルサイトを展開しているイレヴンは、比較的楽にその右拳を躱し、敵の懐に入る。
 敵は多少焦ったように左ショートフックを迎撃に繰り出す。ただ、右腕を引ききって無いため、大した威力もスピードも無い。
 イレヴンはそのフックを、ただでさえ低い身長で更に体勢を低くして躱す。
 そして好機。相手の両腕の間から敵の下顎が丸見えである。
 そのクリティカルポイントに向かって、イレヴンはギガントロッドを捻り込む。
 相手は慌てて腕でガードしようとするが、力強いイレヴンの穿撃を止める事は出来ず、ロッドは相手の下腕を破壊しつつ爆進、敵の顎を粉砕する勢いで穿ち、敵はそれに耐えられずにダウンした。
「っふぃ……」
 イレヴンの気を抜いた一息が試合終了を物語っていた。
『ノックダゥゥゥン!!』
 ナレーションの絶叫、そして客席からの歓声がイレヴンの笑顔を包んだ。

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 試合後。興信所にて。
「すげえよ、姉ちゃん! マジ強いんだな!」
「へっへ〜ん、甘く見ないでよ、あのくらいの相手なら楽勝なんだから!」
 尊敬の視線で小太郎に見られ、イレヴンもどうやら鼻高々らしい。
 小太郎を招待した甲斐があったというものだ。
「で、私の戦いを見て、何を学んだのかな?」
「学んだ?」
「え? 第三者の視点で戦いを見て何かを学ぶ、ってのが今回招待した目的なんだけど?」
「……すげえ楽しかった」
「中学生らしい感想をありがとう……」
PCシチュエーションノベル(シングル) -
ピコかめ クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年11月17日

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