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『スイーツアー 』
藤井・蘭2163)&マリオン・バーガンディ(4164)&水鏡・雪彼(6151)&熊太郎(NPC3751)


 藤井・蘭(ふじい らん)は、手に四枚のチケットを握り締め、小走りに走っていた。待ち合わせにしている公園が、次第に見えてくる。
 公園に着くと、蘭はきょろきょろと辺りを見回す。すると、中央にある噴水のところで「蘭ちゃーん」という声が聞こえた。蘭はそちらに待ち合わせをしている相手の姿を確認し、ぱあ、と顔を綻ばせた。
「お待たせ、なの」
「雪彼も、さっききたところ」
 水鏡・雪彼(みなみ せつか)は、そう言ってにっこりと笑う。
「今日はどうしたのですか?」
 きょとん、としながら、マリオン・バーガンディが尋ねる。
「いいものを、もらったのー」
 蘭はそう言って、にこにこと笑う。そして、小さく「あ」と言ってきょろきょろと辺りを見回す。
「熊太郎さんは?」
「熊太郎さんも呼んだのですか」
 マリオンが言うと、雪彼は「え?」と言って小首を傾げる。
「熊太郎ちゃん?」
「熊さんなのー。もふもふなの」
 不思議そうな雪彼に、蘭は説明する。微妙に伝わっていない気がする。
「動く熊さんなのです。テディ・ベアともいうのです」
「テディ・ベア?」
 マリオンの説明に、雪彼はぱあっと顔を明るくする。「可愛いのかな?」
「かわいいのー」
「可愛いのです」
 蘭とマリオンが揃って頷く。すると、向こうからぽてぽてと歩いてくる茶色い物体があった。
 茶色い物体、つまりは熊のぬいぐるみが。
「すいません、遅くなりまして」
「熊太郎さんなのー」
 蘭はそう言って、熊太郎をぎゅっと抱きしめる。熊太郎は「あ、どうも」と言って抱きしめられたまま頭を下げた。
「こんにちはなのです、熊太郎さん」
 マリオンはそう言い、蘭から熊太郎を受け取ってやっぱり抱きしめる。熊太郎は再び「どうも」と言って頭を下げた。
「可愛い!」
 雪彼はそう言って、ぱん、と両の手を合わせる。その音に気付いた熊太郎は「あ、初めまして」と言って地上に下ろしてもらい、お腹についているチャックを開けて名刺を取り出す。
 そこには「熊太郎派遣所所長 熊太郎」と書いてある。不思議な肩書のテディ・ベアである。
「私は、水鏡・雪彼よ。よろしくね」
「はい、仲良くしてください」
 熊太郎はそう言い、前足をそっと差し出す。雪彼はにこにこと笑いながら、握手をして返した。もふもふの触感が、なんとも心地よい。
 雪彼は思い切って熊太郎を抱きしめる。もふ、と柔らかな素材が気持ちよかった。
「そういえば、今日は楽しい事があるとお伺いしたんですが」
 雪彼に抱きしめられたまま熊太郎が言い出すと、蘭は「そうなの」と言って握り締めていたチケットを差し出す。きっちり人数分あるそれには「スイーツ食べ放題、割引券」と書いてある。
「スイーツなのですか」
 マリオンはチケットを見、にこっと笑う。
「雪彼、甘いの好きよ」
 熊太郎を地上におろしつつ、雪彼もそう言って嬉しそうに微笑む。
「熊太郎さんは甘いもの、好きなのー?」
 蘭が尋ねると、熊太郎は「そうですね」と言って頷く。
「比較的好きな部類に入ります。何しろ、甘いものは人の心を落ち着かせる力がありますから」
「そうなの?」
 蘭がきょとんとして尋ねると、熊太郎はさらりと「持論です」と答える。
「そういえば、このお店ってチョコレート噴水のところじゃないですか?」
 じっとチケットを見ていたマリオンが皆を見回しながら訪ねる。
「チョコレート噴水?」
 雪彼はチケットとマリオンを見比べながら訪ねる。マリオンは「ええと」と言いながら、待ち合わせに用いた噴水を指差す。
「こんな感じで、水の代わりにチョコレートが出てくるのです」
「水の代わりに、チョコレート?」
 蘭が目を丸くする。
「全部がチョコレートなの?」
 雪彼が言うと、マリオンはこっくりと頷く。
「こんなに大きな噴水ではないのですが、水の代わりに流れているのは全部チョコレートなのです」
 マリオンの言葉に、蘭と雪彼が「おおー」といいながらぱちぱちと手を叩く。熊太郎は「なるほど」と言いながら、こくこくと頷いた。
「じゃあ、レッツゴーなのー」
 蘭の掛け声に、皆は「おー」と拳を挙げるのであった。


 四人、もとい三人と一ぬいぐるみがやって来たのは、外まで甘い匂いが漂ってくるスイーツショップだった。
「ほえー……綺麗なのー」
 蘭が思わずうっとりしたように呟く。今時のカフェスタイル、というのだろうか。庭のような空間の中に、外から中の様子が伺える大きな窓がある。夏になれば、涼しげな木陰でスイーツを堪能できる事もできるのだろう。
 勿論、今の季節は外で食べる人はいないのでテーブルも椅子も置かれてはいないが、外に設置されている時期はさぞかし外のテーブルが賑わっている事だろう。
 店の前に置かれた看板も、センスの良いデザインだ。見ているだけで、胸がわくわくしてくるようだ。
「いつも外から見るだけで、行くのは初めてなのです」
 マリオンは自然に口元を綻ばせながら、嬉しそうに言う。
「おしゃれな所ね。良い匂いがするし」
 雪彼はくんくんと匂いを確認し、にこっと笑った。
「なかなか素敵な所ですね」
 熊太郎は辺りを見回しつつ、こくこくと頷く。
「それじゃあ、入るのー。いっぱい食べるのー!」
 蘭の言葉に、皆が「おー」と賛同する。そうして、皆で中へと入っていった。
 入った瞬間「いらっしゃいませ」と軽快に声をかけられる。総勢四人だと告げると、窓際の席へと誘われた。その時、最後に入ってきた熊太郎を見て、不思議そうに首を捻っていたが。
 店内をきょろきょろと見回していると、丁度真ん中に大きな置物があった。それは甘い匂いを漂わせ、とろとろとミルクブラウンの液体が流れている。
 それこそがチョコレートの噴水である。
「チョコレートの噴水、本当にあるのね」
 雪彼はそう言って、目を輝かせる。
「甘くて良い匂いなのです。楽しみです」
 マリオンは噴水から溢れるチョコレートを見て、にこっと笑う。
「早く食べたいのー」
 蘭はそう言ってにこにこと笑う。テーブルに案内していた店員が、皆の様子に思わず顔を綻ばせた。
 席に着くと、蘭は一番に割引券を店員に渡す。店員はにこやかに「スイーツ食べ放題ですね」と答え、チョコレート噴水のある辺りを指し示す。
「あのチョコレート噴水を中心に、ケーキやアイスクリーム、プリン、ババロアといったスイーツが置いております。お好きなものを取っていただき、お召し上がりください。あちらにはドリンクもございます」
「あのチョコレートは、どうやって食べればいいのですか?」
 マリオンが尋ねると、店員は噴水の隣を指し示す。そこには、色とりどりのフルーツやカステラ、シフォンケーキなどが一口サイズに切っておいてある。
「あれらを串やフォークに刺し、チョコレートフォンデュとしてお召し上がりください」
「チョコレートフォンデュなのー」
 蘭がきゃっきゃっと喜ぶ。
「ああ、チョコレートをつけて食べるのですか。僕はてっきり、コップに入れて飲むのかと」
 熊太郎は前足で後頭部をもふもふと触る。照れているようだ。
「熊太郎ちゃんは、そういう風にしたかったの?」
 雪彼の問いに、熊太郎はゆっくりと首を横に振る。
「決してそういう訳ではないですよ。ただ、そうすると大変に甘いなぁと」
 それはそうだろう。何しろ、チョコレートをそのまま飲む事になるのだから。
 皆がくすくすと笑う中、マリオンが「では」と口を開く。
「ともかく食べに行くのです」
 マリオンの言葉に、皆がこっくりと頷く。そして、各々が皿を持って中央部分に向かう。そうして、真っ先にチョコレート噴水の元へと進んでいく。
 近づいて見ると、チョコレート噴水の迫力は凄まじいものがある。噴水の形はしていても、水とは違うゆるやかな動きがある。漂ってくるのは甘い香りで、とろとろと流れてくるのを指ですっと掬ってやりたくなるような滑らかさがある。
「凄いのー。おいしそうなのー」
 蘭はそう言うと、そっとフォークに刺したイチゴをチョコレートにつける。イチゴによって二つに遮断されたチョコレートの滝が、イチゴにとろりとかかっていく。
「まるで、モーゼのようですね」
 熊太郎は二つに遮断されたチョコレートの滝に、妙な感想を出す。何処で手に入れた知識なのだろうか。
「雪彼は、ケーキにしよう。おいしそう」
 そう言うと、雪彼はフォークに刺した一口サイズのシフォンケーキを滝に向かって差し出す。とろり、とケーキにチョコレートがかかっていく。
「チョコケーキになるんですね。ふむふむ」
 熊太郎は何か納得したかのように、こくこくと頷く。どこかに納得するポイントがあったのであろう。
「なら、私はこれにするのです」
 マリオンはそう言い、バニラアイスの棒を差し出す。とろり、とチョコレートが絡むと同時に、カチンコチンに冷凍されているバニラアイスによってチョコレートが固まる。
「ほほう、それも面白いですね」
 妙に興味を示しながら、熊太郎はそれを見る。すぐに固まるチョコレートが面白かったのだろうか。
「熊太郎さんはどれにするのー?」
 蘭が尋ねると、熊太郎は「そうですね」と言いながら辺りを見回し、串にイチゴだとかケーキだとかパインだとかいったものを、いろいろ刺していく。極め付けに、一口サイズのバニラアイスまでつけてしまった。
「これで完璧です」
 熊太郎は妙に誇らしそうにそう言い、チョコレートの滝にずぼっと突っ込んだ。そしてゆっくりと手前に引いていった。
「あ、熊太郎ちゃん。凄く豪勢ね」
 雪彼は熊太郎の製作したチョコ串を見、笑う。
「熊太郎さんは、欲張りなのです」
 くすくすとマリオンも笑う。
「早く食べるのー」
 蘭はそう言い、席に帰らずにひょいっとイチゴを口に持っていった。とろ、としたチョコレートと甘酸っぱいイチゴが良く合っている。
「あ、雪彼も」
 蘭の嬉しそうな表情を見、雪彼もケーキを口にする。ふわりとしたケーキととろりとしたチョコレートが口いっぱいに甘味を広げる。
「そんな事いったら、私も食べたくなるのです」
 マリオンはそう言い、アイスを口に持っていく。ひんやりとしたアイスと、固まったばかりのチョコレートがぱりっとし、口の中で溶けていく。
「むむ、皆さん待ちきれないのですか」
 熊太郎はそう言い、でもやっぱり自分も待ちきれずに串を口へと運んだ。もきゅもきゅ、と一気に食べていく。
「美味しいですね」
「美味しいのー」
「美味しいわ」
「美味しいのです」
 四人は顔を見合わせ、にっこりと笑う。とろとろと落ちていくチョコレートの噴水が、美味しさを増しているかのようだ。
「次は熊太郎さんみたいな、いろいろ串を作るのです」
 マリオンはそう言い、串を手にする。
「僕はプリンに挑戦するのー」
 蘭はそう言い、プリンの置いてあるコーナーへと進む。
「雪彼はパフェを作ろうかな」
 雪彼はそう言い、パフェ用の器を取る。
「では、僕はおおよそのスイーツを選んでいきます」
 熊太郎はそう言い、大きな皿を持って足取り軽くスイーツの並んでいる所へと向かっていった。
「熊太郎さん、甘いの大好きなのー」
 蘭はそう言い、にこっと微笑みながらプリンを手にする。それにチョコレートをかけるかどうかを悩みながら。
「甘いのは、落ち着かせるものね」
 雪彼はそう言い、パフェの器にアイスを盛り付けていく。最後にとろりとチョコレートをかけるのを楽しみにして。
「私も負けないのです」
 マリオンはそう言い、串にメロンを突き刺した。次は何にしようかと、フォンデュの材料を目踏みしながら。
 熊太郎はと言うと、大きな皿に一つ一つスイーツを乗せていっていた。店員がちらちらと熊太郎を見、不思議そうな顔をしている。
「皆で、スイーツの食べ比べをしましょうか」
 チョコレートをかけ、いろいろ串を完成させたマリオンが、蘭と雪彼に提案する。
「楽しそうなの」
 蘭は嬉しそうにそう言い、ついにプリンにチョコレートをとろりとかけた。
「負けないからねー」
 雪彼は誇らしそうにそう言い、パフェに最後の仕上げとしてチョコレートをたっぷりかける。そして、向こうに熊太郎の姿を確認して手を振る。
「熊太郎ちゃーん、スイーツの食べ比べ大会よー」
「あ、はい。分かりました」
 熊太郎はそう言い、大皿に盛ったスイーツを持って、ぽてぽてとやって来た。四人はそろい、テーブルへと戻っていった。
 甘い香りが漂う店内で、やっぱり甘いスイーツを心行くまで堪能する為に。


<スイーツアーはまだまだ続き・了>
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東京怪談
2006年11月17日

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