▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『優しさゆえの悲劇 』
天波・慎霰1928)&和田・京太郎(1837)&(登場しない)

 和田京太郎は、仕事で約束したことは破らない性根の少年である。
「……たとえ依頼人が慎霰でもな……」
 約束の場所へたどりついたとき、引きつった顔で京太郎はひとり笑った。
 天波慎霰。友人と言えば友人、悪友と言えば悪友、そして天敵と言えば天敵。
 それでも。約束した以上は京太郎に破る気はない。
 そんなわけで、こんな辺境な地にも慎霰の言うとおりに京太郎はやってきたのだった。
「にしても……ヘンなところで待ち合わせさせやがるなあ……」
 山の奥の奥の奥。そこに一本の太い樹がある。待ち合わせ場所はそこだ。
 慎霰はまだ来ていないらしい。それらしき気配が近くになかった。
「おっせえな……」
 うん、と体を伸ばしてみて、京太郎は深呼吸をする。山の空気は新鮮でおいしい。普段東京のゴミゴミした空気を吸っている身として、すごく体が軽くなったような気がする。
 そういえば慎霰が以前言っていたか――東京の空は汚い。これじゃあ雲も風もかわいそうだ――と。
 慎霰がここへよく来るというのなら、たしかに慎霰の言葉は納得できると京太郎は思った。
 なんとなく清々しい気分になりながら、あたりを見渡してみる。
 普通の山々だ。――一本だけ、不自然に浮いた雰囲気の樹がある以外は。
 京太郎はその樹に興味を持った。
「何か……不思議な雰囲気を持ってんな……」
 ふとその樹に触れてみたくなって、京太郎は手を伸ばした。
 瞬間、

 浮遊感が体を襲い、意識が吹っ飛んだ。

 気がついたときには――
 そこは見知らぬ場所だった。
 たしかに山の中。しかし今までいた山の中とは違う。雰囲気がただならぬ――
 京太郎ははっと周囲を見渡した。
 そして驚いた。
「侵入者だ!」
 いつの間にか自分を、大量の少年たちが囲んでいた。
 京太郎はとっさに懐にしこんである銃をたしかめながら、
「ここはどこだ!」
 と逆に少年たちに大声で問う。
 少年たちは顔を見合わせ、やがてひとりの少年が、
「ここは『山界』の天狗の隠れ里だ!」
 と怒鳴り返してきた。
「天狗の隠れ里……?」
 京太郎は耳慣れたその言葉に首をかしげる。たしか、慎霰がよく口にする――慎霰が天狗になった原因の場所ではなかったか。
 人間の子供を幼いうちにさらい、天狗として育てる。そんな場所じゃなかったか。
 しかしそんなことを考えている余裕はなかった。少年たちは――
 問答無用で、京太郎に襲いかかってきた。
「!」
 京太郎は応戦した。力づくで京太郎をどうにかしようとする少年には、カウンターの体術で地面に叩きつける。あるいは関節技をきめて相手が動けなくなってから離れた場所へ放り出した。
 少し離れた場所からは、少年たちが大気を操って京太郎に何か術をかけようとしている。
 京太郎はすかさずその大気を自分の支配下に置いて、逆に少年たちを吹き飛ばした。――大気を操るわざなら京太郎のほうが上だ。
 少年たちの数が多い。
 下手に怪我をさせてもいけないので、やりすぎると重傷を与えてしまう急所は避けて戦った。主にみぞおちに重点を置き、カウンターと関節技との合わせわざでひとりひとりを確実に地面に沈めていく。
(この子供たち……翼は隠しているが天狗だな……っ)
 京太郎はそう判断すると、天狗なら普通の子供よりも頑丈だろうと少しだけ力を強くしてカウンター攻撃を続けた。
 近くの木々に、地面に、のきなみ叩きつけられ、子供たちのうめき声がそこかしこで聞こえる。
 最後のひとりを背負い投げで地面に放り出し、それで戦闘は終了となった。
「まったく……」
 京太郎は服を整えながら嘆息した。「この程度で俺に勝てるかよ」
「うう……」
 少年のひとりが、京太郎を見てうらめしそうな顔をした。
「あんだよ。文句あんのか?」
 襲ってきたのはてめえらだろうが――と京太郎はにらみ返す。
 少年は両手をふるふると震わせ、
「慎霰兄者に怒られる……!」
 悲痛な声で訴えてきた。
「慎霰に……?」
 京太郎はいぶかしげに眉をひそめた。
 少年たちは、涙ながらに話し始めた。
 ――天波慎霰。彼は後輩たちにはひどく厳しい。掃除洗濯料理ただのお使い、すべて後輩たちに任せ、少しでも気に入らないことがあると暴力を振るう。あるいは慎霰の能力でいじめられる。あるいはあるいはいじめられるというかいじられる。
 例えば。掃除した場所に埃がひとかけあれば、「拭きだらねえんだよ!」と部屋を百往復雑巾で拭かされる。
 例えば。慎霰に頼まれたものが売り切れで買ってこられなければ「お前が遅いからだ!」と妖術をかけられホラーな体験をさせられる。
 例えば。うっかり慎霰の悪口を言ってしまえば三倍返しどころか十倍返しで恥ずかしい話やあることないこと周囲に言いふらす。
「今回のことも、慎霰兄者の命令です……あなたが来たら襲えって」
 聞いていた京太郎は深く納得した。あの慎霰ならやりかねない。京太郎自身、慎霰にはひどい目に遭わされ続けているのだから。
「今回は……慎霰兄者に言われて……あなたがこっちの世界へ来たらつかまえろって言われて……」
 ひっくひっくと、少年たちは泣き続ける。
「うわあん! これに失敗したら、慎霰兄者が『ゴキブリ食わしてやる』ってー!」
「俺は裸で隠れ里一周って言われたー!」
「僕は翼むしって服作る材料にしてやるって言われた……」
「慎霰兄者の報復は怖いよー! 念力で指折られるよー!」
「俺この間念力で腕ひねられた……折れるかと思ったー!」
「………」
 京太郎はため息をついて、前髪をかきあげた。
 ここはどうしてやるべきか……
 自分も慎霰には色々……色々あるから、少年たちを責めることはとてもできなかった。
 この少年たちに味方する義理はない。義理はないが……同情はする。
「……仕方ねえな」
 京太郎は脱力して起き上がらない少年たちの前にかがみこんで、ため息とともに言った。
「分かったよ。望みどおり捕まってやらあ」
 その瞬間――
 キラーン、と少年天狗たちの目が光った。
 しゅばっ! と意味不明な音が聞こえて、気がついたら服を着替えさせられていた。
 なぜか裸とパンツの上に半纏。
 その上、体が動かない。
(こいつら……妖術使いやがった……!)
 後悔してもすでに遅し。ニヤニヤし始めた少年たちは、
「慎霰兄者はさすがだね」
「ばっかでー。慎霰兄者の言うとおりにしたら本当にこれだ」
「まぬけーまぬけー」
「お前ら、何の話してやがんだ!?」
 京太郎が思わず怒鳴ると、ふふんと鼻を鳴らした少年天狗のひとりが、
「これは慎霰兄者いわく『京太郎泣き落とし作戦』ってヤツ」
「―――!」
 京太郎は歯ぎしりした。慎霰の野郎、よくも……っ!
 そう、よくよく考えれば子供とは言え妖術を使える天狗たちに、京太郎が簡単に勝てるわけがないのだ。
「やーいやーい、いつも慎霰兄者にからかわれてるおばかさんー」
「本当に泣き落としで落ちてやんの」
「慎霰兄者はすげえや」
「ていうかこいつがばかなんじゃないのか」
「まーぬけー。まーぬーけー」
 茶化すように少年天狗たちは繰り返す。
 京太郎は怒りで顔を真っ赤にした。近場の少年を殴りたい衝動にかられたが、体が動かない。
 少年たちは、まるで慎霰の真似をするかのように、京太郎の体を念力で操って遊んだ。
 真っ先に、裸に半纏姿で踊りを踊らされた。まるでピエロのような滑稽な動き。
 あーらえっさっさーと、訳の分からない言葉が勝手に口をついて出てくる。
 次になぜかストレッチ。両足を広げてぐーっと体を前に倒される。
「いって……いてえよてめえら!」
 訴えると、余計に少年たちはけらけらと笑った。
 ついでにブリッジもやらされた。普段から鍛えているぶん楽ではあったが、屈辱は倍増したような気がする。
 先ほどの戦いで京太郎に関節技をきめられた少年天狗は、「お返しだい」と京太郎の腕をひねったり手首をひねったりと危険きわまりない念力をかけてきた。
(折れたらどうしてくれんだよ……っ!)
 俺は手加減したのに、と京太郎は悔しげに胸中で毒づく。
 他に、少年たちに向かって「お尻ぺんぺん」をやらされたり、三回回ってワンをやらされたり、もうしたい放題に遊ばれた。
 京太郎の心が屈辱に染められていく。
 少年たちに対する怒りではなく――天敵に対する怒りとなって。
(慎霰――後で見てやがれ……っ!)
 心の中で、京太郎は叫んでいた。

「そろそろ、これつけよっか」
 ひとりの少年がふんどしを持ってくる。
 何事か書いてあるようだが、京太郎には見えなかった。
 京太郎は樹につるされた。そして再び妖術で今度はふんどし一丁姿に着せ替えられた。
「これで、慎霰兄者に言われたとおりにできたよね」
「慎霰兄者が来るのってあと何分後だっけ?」
 少年たちは楽しげにしゃべっている。
(慎霰の野郎、慎霰の野郎、慎霰の野郎……!)
 京太郎は心の中で、ひたすら友人――ではなく天敵に毒づいていた。
 裸にふんどし一丁。風が吹くとひらひらとふんどしが揺れる。強い風が吹くと樹がきしんだ。少し寒いかもしれない。
 体は、相変わらず動かない。暴れようにも暴れられない。
 しかし心の中で燃えている怒りの炎が外に出せれば、樹一本軽く燃やせそうだった。
 京太郎は歯ぎしりしたい気分で胸中にて天敵に怒鳴りつけていた。
(こんなことまでして俺で遊んで……何を考えてやがんだ慎霰……っ!)
 京太郎は気づいていなかった。
 『山界』の天狗の隠れ里。そこが今、美しい紅葉で飾られているということを――

 数十分後。
「いよっ。京太郎」
 慎霰は、京太郎もよく知る人物ひとりを引き連れてやってきた。
 京太郎の目はすわっていた。よくも、よくもよくもよくも――
 風が吹いて、ふんどしがひらひらと揺れた。
 その先のことは……皆さんお知りの通り。
 色々あって毒気が抜けた京太郎は結局、慎霰ともうひとりともに紅葉を楽しむこととなったのだった。


 ―FIN―
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
笠城夢斗 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年11月16日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.