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『喧騒が止まぬように 』
玲・焔麒6169)&露樹・故(0604)&(登場しない)

■ 翡翠色のコンクリート

 静かに流れるクラシックも流行のポップスも、町の喧騒の中では悲しい程に小さく、それがBGMであるという事さえ忘れてしまう。ただの内緒話、秘密事を囁くように軽やかに、そして静かにコンクリートで靴を鳴らせば冬も近い硬質な足音が自分の物であると主張する。
(やれやれ久々のオフがこれではあまり楽しめそうにありませんね…)
 空を仰げば下界とは随分と違う曇り模様、賑やかに騒ぐ青空、ないし嵐のような人々とは打って変わっての静けさと不気味さが漂う、そんな自らの生業をお回せる光景が露樹・故(つゆき・ゆえ)は好きであった。
 いつも自分の気の向いた時に仕事を抜けているのは事実であったが故は立派にこの東京という土地で職を持つ者である、自分から抜けたのではなく休暇として本当に気侭に過ごせる時間を、仕事時よりは数段地味な白い無地のシャツとシックなボアの付いたコートに身を包み、サングラスであまり自分と人に見つからぬようにして歩く。
 普段ならあまり好き好んで歩くような町並みでもない、この騒ぎの中で偶にはと思ったのは間違いであっただろうか。
 特に目を引くめぼしい何かも見つけられぬまま人通りの多少は少ない道へ出ると疲労のため息が出る。
「毎年この時期となると随分賑やかですが…どうせいつもこの場所は賑やかですからね」
 小声でそうごち、息を吐けば微かに白い。
 東京という町はまるで不夜城の如く、賑やかで、それでいてこうして一つ別の道を行くと過ぎ去った嵐のような、或いは嵐の目のような場所に辿り着くことができた。
(…おや?)
 一通り静かな場所を目指して翡翠色の瞳を滑らせ、一軒のカフェに視線が止まる。
 西洋文化を取り入れた、あまり日本の文化を感じない、洒落たといえばそうであるがどちらかと言えば入り辛い空気を纏った店内に、そこから伸びるカフェテラスがその空間だけ別の次元へ抜き取った感さえ覚えてしまう。
 そんな場所で。
(何処かで出会いましたかね…)
 実際にカフェに目が奪われたわけではない。確かに、その内装や趣向は好きであるかと問われるならば故の趣味に合っていたし、何も無ければその店のカウンター席に座っている事だろう。

「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか?」
「はい」
「では申し訳御座いません、現在カウンター席が掃除中ですのであちらの方での相席でお願いしますでしょうか?」
 知らずに伸ばした足が止まる。今しがた目を奪われた『者』、青銀の髪に、故とは正反対の黒いタートルネックを纏った男性は一度、こちらに向かって口の端を上げた後ゆっくりと頭を下げた。
(相席の事を気にしていないのでしょうかね)
「はい、構いません。 あちらの方にはご了承は?」
「先程お取りしましたので。 お客様には本当に申し訳ないです」
 軽く頭を下げてその男の席へ案内する店員に深い意味は無さそうだ、店内の入り辛い雰囲気は逆にカフェテラスを満員にさせる効果があり、そんなカフェを利用するのはカップルや若い女性の連ればかり。これで店内が掃除中だというのなら確かに席は気になる男の隣だけとなる。
「いえ、では俺はコーヒーを。 追加があれば後ほどお願いします」
「かしこまりました、それではごゆっくり」
 案内させる席に言われるがまま座るまで、なんとも言えない、言わせない表情の男は眉一つ動かす事も無く言葉一つかける事無く、故の方を向き、そしてゆっくりと眼鏡の奥の琥珀色だけで微笑を見せた。
(今時人外も珍しくは無いでしょうか…、ですが)
 このカフェが目に止まったのも、カフェテラスに足を向けたのも、全てはこの目の前の男が気になっての事だ。人外と人括りに言ってしまえば今の東京、世界的に見ても故の居る世界ではそれ程珍しいものではない。
 ただ、矢張りどこか気になってしまうのはその琥珀に輝く視線と含みのある微笑、他人が気になるという考えを起す事すら珍しい故はその感情をどこか遠くで眺めるように、店員が運んできたコーヒーを口に運んだ。
 ブラックの渋い香りが心地良い。
(矢張り、何か知り合いに通ずる物があるのでしょうね)
 相手がどこの誰だかは分からない、ただ共通する雰囲気の何かが、故の興味の対象の一つと酷似している。例えそれが本来の対象とは別の存在だったとしても、一度興味を持ったものに食いつく獣のように。
 柔らかい翡翠はその視線をコーヒーよりも微笑みながらも言葉を投げかけるその瞳に、相手がしたような同じ笑みで答えるのである。

■ 金を纏う琥珀の午後

(今回は外れですね。 さして内容に考え深さを感じません)
 青銀の髪を持つ青年は手にした洋書を半分程読み終えると深くため息をついた。
 自らの持つ店の開店は本日休業、相も変わらず自由気侭な生活ではあったが寒くなったここ数十日は風邪薬の作成依頼が絶えず続き、久々に楽しむ時間を見つけ、本屋で興味のあった洋書を適当に手にすると、なかなか今までには入る機会の無かったカフェへと入る。そうして、ようやく落ち着いた。そんな気がしたのだが。
(このまま読み進める気にもなりませんし、どうしたものでしよう…)
 休日の肌寒い風にあたるのは嫌いではない、五月蝿い喧騒も、静かに過ぎ行く風の音も何もかも玲・焔麒(れい・えんき)にはある種の新鮮さと何かがあるのではないかという奇妙な期待感を抱かせてくれるからだ。
 が、久しぶりに読んだ洋書だけは焔麒の心を掴めないらしい。天界に居た頃には殆ど目にもしなかった文字から瞳を上げ、ため息をつくと。
「おや」
 視界内のコンクリートと人波の一つから逸れる様にして、一人の白い『魔物』が現れたのだ。
 今時人では無い者に出会った人ではない者からと言って驚く程ではないだろう、焔麒も一度だけそう考え、別の楽しみを探そうとするがどうにも気になって仕方ないのはなかなかに美しい魔物。
 人の姿をした者は多く居れど、こうして合間見えるのは必然か、奇跡か、人のものなど物ともしない嗅覚もこちらに気付いているのか、カフェテラスの下で見上げてくる翡翠は何か自分。焔麒と関係のある、けれど思い当たりの無い何かと繋がっているようで、心の底から水が湧き出るような感覚に襲われる。
「すみません、コーヒーのおかわりをお願いできますか?」
「はい」
 興味が沸いた、それはイコール言葉を交わしてみたいという事である。カフェテラスには人だかりが出来、今現在開いているのは店内のみ。そこに案内させれば、あの魔物と話せる確立も減ってしまう。
(なんだかこんな事をすると怒られてしまいそうですが)
 薬、香を人の心を操る道具に使う事は天界が知れば何を言うかわからない。けれどほんの少し。
(席をこちらに預けて下さい、ね)
 シンプルな服装に胸ポケットは無い為、取り出した香は少量の物で、スラックスのポケットに偶々入れ持ち歩いていたものだ。
 逆に言えば少量であるから他の人間にまで作用しない、という利点もあるがそんな物騒な事を考えるよりも早く興味の対象と対峙してみたい。
「それでは、少しお待ち下さい」
「ええ」
 最大級とは言わないが、笑みを見せる焔麒は香が効いてきた事に至極ご満悦気味に答える。同時に警戒をしているのか、店員に文字通り誘導されてきた翡翠の瞳を持った魔物は軽くオーダーをすると焔麒の隣へ腰掛け、その言葉を待つかのようにして視線を投げかけてくる。

「ああ、私の事はお気遣い無く。 …それとも気になってしまいますか?」
 口にした言葉を魔物はどう取るだろう。人外とお互い分かった上での会話と取るか、単に相席を許し読書の邪魔になると取るか。
「気にならない、と言えば嘘になりますが。 丁度席があって良かったですよ」
 焔麒より多少男性らしさが混じる声ははっきりとそう告げ、お互いが同じ考えの上に立っている事を主張した。

■ 言葉に秘める金琥珀の言葉

 会話術において、人と目線を合わせないという事は失礼に値する。が。
「なかなか美味しいでしょう? ここの珈琲は。 私も始めて入った店だったのですがなかなか気に入ってしまいました」
 一度合わせた目線を早々に外した焔麒はまた大して興味の無い洋書を広げると形だけ、その内容を追うように視線を何度も移動させる。
「ええ、俺も初めてですよ」
 この店は、という事か。人外に出会ったのは、という意味なのか。もしかすると別の意味合いか。焔麒の中で素早く出来上がった考えが選択肢のように枝分かれする。この翡翠色の魔物が近づくにつれ大きくなった、見知った天界の香り。ただどうしても、そのような場所に魔物が行ける、行ったという記録は無い。
(怒られない程度に探ってみましょうか…、いえ)
 もう既に探ってしまっているのかもしれない。
「おや、初めてでしたか? てっきりこういう雰囲気のお店にはよく来られているように見えましたが」
「そうですか?」
 言葉にしていて焔麒自身、あまりにもくだらないと思う。だが、相手の服装を見る限りは五月蝿い店よりはこういったカフェによく足を運びそうな雰囲気を纏っている。
「あまり賑やかな所は慣れないので。 仕事柄多いせいでしょうかね。 貴方こそ始めてとは思えない」
 コーヒーを口に運び、中の液体を静かに啜る魔物は翡翠色を随分と翳らせながら焔麒の方を覗く。
 初めてとは思えない、この一言は店に来た事を言っているのは理解できる。だが、それでも初めて出会ったとは思えない。そういう意味合いにも聞こえてしまうのは焔麒の敏感すぎる感覚のせいだろうか。
(矢張り天界独特の香りですね…購入した薬や別のどこかのものとは違う)
 隣に座る魔物が纏う香りはどこか落ち着いた、単なる香水ともう一つ。焔麒がよく作成する香、ないし天界で使用される物や草木、建物の香り。特に間違えようが無かったのは、それらが確実に自分の側に以前はあった何かと同じだという事だ。

■ 翳る翡翠の色

 喧騒が騒がしいと来たカフェで何故奇妙な会話を続けているのか。故は一度背けられ、何かしらの洋書を片手にする相手を怪しまれない程度に眺め、コーヒーをまた一口口にする。
「そう思っていただけると照れてしまいますね。 仕事の方が一段落したので。 ああ、私はいつも様々な場所に赴くのですよ、きっと趣味なのでしょうね」
 落ち着いたカフェに似合う。互いに褒めあうのはとても奇妙であり、滑稽なシーンに取れるが人外として、何よりどこか気になる容姿をしたこの男には警戒心とは違うまた何か懐かしい空気を感じずにはいられなく、一度沈黙と洋書のざらついたページが捲られる音のみが故の居る空間の全てになったような錯覚を覚えた。
「様々な場所ですか…。 俺は…」
 そういえば暫くは町や店というよりも、山や誰も居ない場所でゆっくりしていた事の方が多かっただろうか。考えて、言うべき事なのだろうかと口ごもる。
「どうしました?」
「いえ、俺は結構静かな場所にばかり足を運んでいたので。 偶には色々と歩くのも良いなと考えただけですよ」
 そう言って口の端を上げると明らかに興味の視線が故の胸を貫く。
(珍しいですね…ここまで詮索されるのも久々と言いますか…)
 出会う事も少なくは無い人外同士。だからと言って出会い、詮索を繰り返しているわけではなく、その逆で会ったきりその後は一切出会わない確率の方が確実に多い。
 だというのにこの青銀の男は、どこか懐かしい何かを纏う者は、どういう事だろう。
「静かな場所、ですか。 では一度私の薬屋も紹介しておきましょうかね?」
「薬屋、ですか?」
 洋書から目を離し、故を薄い琥珀の瞳の中に入れた男は静かに頷きながら洋書に挟んだ一枚の栞を差し出してくる。

「ここでお会いできたのも何かの縁でしょう。 静かな店ですし、一度訪ねてみてください」

 故のサングラス越しに見える古い中国文字に、喉の奥から笑いがこみ上げてくる。脳内には一つ、つかえていた何かが取れたような清々しいとも言える思いが。
 もう少し、このカフェテラスで他愛ない話をした後に、名前も知らぬこの男に、或いは思い出せる事に何を言ってやろう。とりあえずは。
「ええ、必ず」
 笑って受け取ると、そもそも洋書には興味が無かったと思わせる手つきで相手は本を傍らに置くと何か満足げな含み笑いを、天狐の一族は投げかけてきた。

■ 口を閉じる事も無く

 東京の隅、喧騒の狭間に出来たこのカフェテラスに人ではない者が二人。この町が眠らないように、焔麒と故もまた少しづつ探りあいを続けていくのだろう。
 ただ、これからは相手と自分の共通点を理解した上での言葉遊び。相手の全てが見えぬまま、その曖昧さを楽しむが如く会話だけが続いていくのである。

 五月蝿い人ごみの声、車のクラクション、路上のライブ。それらが止む事の無い様に。




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東京怪談
2006年11月15日

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