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『炊事日記のススメ 』
門屋・将紀2371)&門屋・将太郎(1522)&(登場しない)

○月○日(はれ)

 青い僕のお箸はなんや細うて短こうて、青ネギに似とる。おっちゃんのお箸は茶色くてごつごつしとるから、ごぼうさんみたいや。そろそろ寒なってきたし、ささがき入れてお鍋もええなあ。まんまるのつくねも、入れるんや。

 ここまで書いたところでタイマーが鳴り出し、門屋将紀は慌てて椅子から飛び降りた。じゃが芋はゆですぎると水っぽくなる。少し固いくらいでザルにあけて、そのまま鍋に戻したのを軽く火にかけて粉拭き芋にするのだ。それからマヨネーズと塩コショウ、ゆで卵と一緒に潰して混ぜて、ポテトサラダの出来上がり。最後に刻んだキュウリも入れる。叔父の門屋将太郎が作るときは、さらに量を増やすためマカロニを入れる。
「グラタンならええんやけど」
ポテトサラダのマカロニとグリンピースは、将紀はあまり好きではない。
 今日は夜に日記をつける時間がないので、昼間夕方など時間のあるときに少しずつ書いていた。当日の記録を残すという意味では、間違ってはいない。
「はよご飯食べてしまわな、テレビが始まるわ」
時計の針と競争で、将紀はちょこまか台所と食卓を往復する。今日の夕食は炊きたてのご飯にワカメの味噌汁、スーパーの特売で買ったメンチカツと今出来上がったばかりのポテトサラダである。
「よっしゃ、間に合うた」
赤い時計は七時四分前。今から夕食を食べて、後片付けは将太郎に任せ、宿題を片づけて風呂に入れば九時に間に合う。今日と来週の九時からはアニメ映画の大作が一部、二部で放送されるのだ。
「懐かしいなあ」
一昨年公開された一部は家族で見に行った。去年の二部は、将太郎にさんざんねだったのだが結局連れて行ってもらえなかった。そして今年の冬の完結編は。
「ここで映画見せれば、おっちゃんも三部見たなるやろ」
そのために、急いで夕食を準備したのだ。
「おっちゃーん、ご飯やでえ」
「おう」

 熊のような巨体でのっそり椅子に腰掛けた将太郎はポテトサラダを見るなりマカロニはどうした、と一瞥してまずメンチカツへ箸を伸ばした。身なりはだらしないくせに妙なところで折り目正しい将太郎は箸の持ちかたにも厳しい。メンチカツも箸を立てたりせず挟んで持っていく。
「よいしょ」
引き換え将紀は、同級生の中ではまあ箸使いの上手いほうだとは思うが、丸いものや小さいものが苦手だ。プラスチック製の箸なので、転がっていくのだ。
 もっとも、将太郎にそんなことを言おうものなら
「箸のせいにすんな」
と夕食を取り上げられる。黙って急いで、将紀もメンチカツを挟む。
「お前、今日はやけに食事の準備が早かったな」
ポテトサラダを飾りのレタスで巻きこんで口へ放り込み、飲み込む将太郎。
「九時から見たいテレビあるんや。学校で人気あるアニメなんやで」
一年生はごっこ遊びしよるわと、味噌汁をすすりながら将紀。底に残ったワカメを箸でかき寄せる。
「お前らもそんなことするのか」
「僕らはそない子供やない。でも、カード持っとる子はぎょうさんおるで」
「どっちも子供じゃねえか」
会話が弾むと比例して皿の上の料理も早くなくなる。最後のポテトサラダは将太郎が一口にいただき、さらに茶色い箸が五つあったメンチカツの最後の一つへ伸びる。
「あ」
咄嗟に青い箸も出る。二膳はほとんど同時にメンチカツの端と端を取り合った。
「・・・・・・」
一瞬にして、和やかな雰囲気が険悪に変わった。
「おっちゃん、油のとりすぎは体に悪いで?」
「お前こそ、俺の半分しかないくせに欲張りすぎだ」
おっちゃんのでかさはバケモンや、と言い返そうとした矢先にメンチカツがぐいっと持ち上げられた。手を伸ばし、なんとかついていこうとするのだが箸が滑る。
「あ」
かちんと、箸が鳴った。その瞬間メンチカツの所有権は将太郎へと移る。ざまあみろとばかりに容赦なく、将太郎は将紀の目の前でメンチカツを頬張った。
 その日、頬を膨らませた将紀はテレビも見ずに不貞寝してしまった。

○月○日(はれ) 続き

 信じられん。おっちゃん、あれでも大人か?おっちゃんがあれ以上大きくなってどないするつもりなんやろう。大きくなるのはボクみたいな子供に任せて、おっちゃんはしぼんどけばええのや。
 ハラ立ってボクはもう、テレビなんか見とられんかったわ。

 この間の屈辱から一週間、今日は映画の第二部が放映される。将紀の作ったポテトサラダの中にはこれでもかとばかりにマカロニが入っていた。スーパーで特売していたのは残念ながらメンチカツではなく鶏の唐揚だったが、この間とほとんど変わらない献立である。
「よっしゃ」
準備が終わり、時計を見る。
「ご飯できたでえ」
ここまでは先週とほぼ同じ。だが返ってくる将太郎の返事が違った。
「やっとか」
風呂上りの湿った髪からしずくを垂らしながら、タオルを首にかけた将太郎が大股で入ってくる。騒がしい足音もぺたぺたと湿っている。
「ったく、どういう風の吹き回しだ。もう八時半じゃねえか」
「今日はお風呂の後でご飯や」
先週の映画は見損ねたけれど、あれは一度見ていたので諦めもついた、今週はなんとしても見なければ。明日教室での話題についていけないし、完結編を見に行くためにも将太郎の心を掴んでおかなければならない。
「ご飯食べたらテレビ見よな、おっちゃん」
「・・・ああ、そうだそうだ。忘れるところだった」
よく思い出させてくれたと珍しく将太郎が将紀の頭を撫でた。一瞬、これは脈ありかと目を輝かせる将紀。今年の冬は、映画へ連れて行ってくれるのだろうか。
 ところが将太郎のお目当ては映画ではなく、その裏で放送されるサッカーの試合だった。外国で行われている世界大会、決勝戦まで深夜放送だったので将紀はまったく知らなかったのである。
 味噌汁用のお玉を片手にたじろぐ将紀。このままでは夕食の後サッカー中継に流されてしまう。機嫌のいいときの将太郎は普段とは別の意味で人の話を聞かなくなる。耳に入らなくなってしまう。

「おっちゃん、まずはご飯や。はよ食べなお味噌汁冷めてまう」
「ん?ああ、そうだな・・・と、なんだこりゃ」
言われるがまま席に着いた将太郎は自分の前と将紀の前に置かれた皿を見比べた。どう見ても、二人のポテトサラダの量は違っていた。
 これが、将太郎のほうが少なければなんなんだと噛みついたはず。けれど多いのは将太郎の皿のほうで、どうした風の吹き回しかと驚きながらも将太郎は箸を鳴らした。
「お前もようやく、大人を尊敬するようになったんだな」
そんなんとちゃうけど、と心中で舌を出しつつ唐揚を二人の真ん中に置いた。
「んじゃ、いただきます」
「いただきます」
青い箸を取った将紀は真っ先に唐揚を一つ齧る。今日買ってきた唐揚は九つ入りで二割引、この間の仕返しに五つは食べなければ。
「おい、どうした?今日はやけに大人しいな」
自分も一個目の唐揚を口に放り込みながら将太郎は、黙々と箸を動かす将紀の顔を覗き込む。将紀は機械のようにポテトサラダをかきこみ、ご飯を二口食べよく噛んで飲み込んでから。
「おっちゃん」
「なんだ?」
「今日ボクは映画を見る予定や。テレビ権は食べたもん勝ちや」
「は?」
「そういうことや」
律儀に宣戦布告をしてから、また唐揚に箸を伸ばす。将太郎が現状を把握するまでに、少しでも皿の上を空にしておかなければ。
「・・・あ!お前、そうか!俺が決勝戦見るの邪魔するつもりだな!」
「邪魔しとるんはおっちゃんや」
十数秒遅れてようやく理解した将太郎に、将紀はとどめの一言を放る。既に将紀のポテトサラダは残り半分、唐揚も三個目を食べきってしまった。

 卑怯なことしやがってと慌てて箸を動かしはじめた将太郎であったが、ポテトサラダを噛んだ瞬間口の中のものを全部吐き出しそうになった。手の平で抑え、なんとか飲み込んでから
「このガキ!俺のサラダ、ほとんどマカロニじゃねえか!」
「おっちゃんはマカロニ入っとったほうがええんやろ?」
「入れるにも、限度ってもんがあるだろうが!」
将紀は、将太郎のほうにだけマカロニを大量に混ぜ込んでいた。ポテトサラダの量自体は二人とも変わらないのでつまり、将太郎のサラダは半分以上がマカロニということになる。
ざまあみろとばかりに鼻を鳴らして、将紀は四個目の唐揚を自分のものにする。
「この野郎・・・!」
悪態をつきながら、将紀からは怒りながら食べると消化に悪いでとたしなめられた、将太郎は意地でマカロニ味のポテトサラダをかきこむ。ごはんとマカロニを一緒に食べていると、炭水化物同士で気持ちが悪くなってくる。
「もらいや」
「あ」
そうしている間に、将紀には五個目の唐揚を奪われてしまった。ポテトサラダに気を取られすぎていて、唐揚のことはすっかり忘れていた。過半数の唐揚を奪いとってしまうと、これ以上食べるのは殺生やとばかりに将紀は
「ごちそうさま」
箸を置いてテレビのほうへ行ってしまった。

「ごちそうさんでした・・・っと、おい将紀、チャンネルよこせ」
「いやや。はよ食べたんはボクのほうやからチャンネル権はボクのもんや」
始まったばかりの映画から目を逸らさずに、将紀は器用に首だけを背けた。
「そんなの、お前が決めたルールだろうが。リモコンはどこだ」
最後、半ば無理矢理口に押し込んだマカロニを噛みながら将太郎は将紀が持っているはずのテレビのリモコンを探し始めた。だがソファのクッションをひっくり返したり、雑誌の山をどけてみても、見つからない。
「どこにやったんだ」
「言ってもええけど、返さへんで」
「おお、いい度胸だ」
腕ずくだと暗にほのめかしながら、将太郎はリモコンの場所を将紀に問う。
「ここや」
しかし将紀の示した場所とは。
「・・・う・・・」
そこはさすがに、将太郎も手が出せない場所だった。どこかといえば、将紀はリモコンを自分のパジャマの中に隠しこんでしまっていたのだ。上着のボタンを一つ外した幼い胸元に、リモコンが覗いている。
「乱暴したら、じどうぎゃくたいで訴えるで」
この間は大人の卑怯を使われたので、今の将紀は子供の卑怯を使うことになんのためらいもなかった。奪うべきか否か悩み、結局拳を握り締め、不機嫌にソファへ身を投げ出した将太郎に、将紀は勝利の笑みを投げかけた。

○月□日 (くもり)

 今日はボクの勝ちやった。見たい映画が見れて、ほんまよかった。けど、おっちゃんはぜんぜんおもろないみたいやったなあ。映画の続き、つれてってくれるやろか・・・。
 ま、明日おっちゃんの好きな肉じゃが買うてくればええな。食い意地の張ったおっちゃんのきげん取るのなんか、かんたんや。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2006年11月06日

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