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『人外と人内 』
天織・辰巳4857)&御御霊・珊瑚(6456)&(登場しない)


 何も、この東京において賃貸形式はあれの専売特許ではない。座敷童こそついてこない物の、インタホーン付きの部屋だってあるし、歌姫こそ居ない物の、掃除をしに来る管理人が居る物件もある。
 一人暮らしに食事を作る管理人、という誠有り難いオプションが付くのは、鬼無里荘なる古ぼけたアパートである。フローリングではなく畳敷き、当然ロフトもつかない部屋だが、住人はきちんと集まっているのだ。
 東京という利便を省みれば当然の結果とも言えるかもしれないが、一番なのは、あれと一緒で、少々人並みはずれた者が入居しても差し障りが無い、という事かもしれなく。まぁこの東京じゃ、SF(少し不思議な)人達がやたら跋扈しているのだけど――ともかく、つまり現在とある部屋にて、
 勉強を教えている年上のお姉さんも、勉強を教えてもらっている年下の少年も、SF(少し不思議)というか、KF(ケンタッじゃなく結構不思議)な人達であった。
 年下――少年の名前は、天織辰巳。
 自称退魔師、これは現実であっても大法螺としか認識されない。自分の身分で言って通じるのは、中学生、という前置詞だけである。さて、それを説明されて、黙っている天織辰巳を見た人間はこう言う。今年は受験の季節ですか? と。
 顔つきはまだあどけなさを残すけれども、背は高く、体つきもしっかりしているのだ。元々は山間の田舎暮らしとあって、その自然の恵をその侭肉に食ってきたかのようである。未だ成長期の最中であるから、あと数年後にはどれだけになるのか。
 ただまぁ近くば目にも寄って見たら、十中八九、13歳ですかと言い当てられるのだが。天然の自然は彼を純朴且つ怪童に育てていて、振る舞いはまるっきり子供なのである。本来、中学生となったら小学生の時とは違う、と、七五三のように自分的に儀式を終えて、無意識に多少落ち着きを見せるものだけど、どうもそういう意識も無かったのか、中身はまだまだ遊び盛り。廊下を駆け回り大声をたて、従兄弟の拳骨を脳天に食らうのはしょっちゅうである。
 ある切欠で従兄弟と供に東京というコンクリで出来た密林に身を置く事になったが、現在こそ治まって来たものの、未だ、日本の中心という圧倒的存在に目を回す毎日だ。
 自分が忌み嫌う、正確には、祖父から忌み嫌うように教えられた人外との出会いも含め。
 東京がどうとか関係は無い、人間と化物が共存するコミュニティがある事実は、最初、天織辰巳を酷く憤らせたものだが、今は従兄弟の拳骨付きの教育で、なんとか対話を試みるようになり、場合によっては協力も辞さなくなった。
 それでも――両親の居ない少年にとって、厳しく自分を育て上げた祖父は、神よりも絶対なのである。そうやすやすと宗旨替えは出来ない。これはまだ、ここでの成長によって改善を望むしかないのだろう。
 同じ物を食って騒げば生きるもの皆兄弟、そんな戯言を笑ってうなずける日は、近いとは言わないが、多分来るもののはずである。実際、兆候はあって、
「あーわかんないよこれ、ねぇ、これ答えなんなの?」
「問題は解かなきゃいけないのよ、たっちゃん」
 赤い色の髪と瞳は、明らかに人内のそれではない。
 染めたとか、カラーコンタクトだとか、無限に言い訳は出来るけれども、
 勉強を教えている年上の女性は――確かに、人では無いのだ。
「たっちゃんが解く力を得る為に、先生は宿題を出したんですもの。何も、答えを出して欲しい訳じゃないの。力を身につけてほしいのよ」
 式神である。
 年上、二十の前半くらいの外見であるが、実際は平安時代に《作られた》存在であるからして、年齢という概念に当てはめるならば、三桁では収まらない。そして正体は、赤い勺玉を依り代という、本来、手足も何も無い物体である。
 人の姿を基本としてとっているが、本性を表すと赤い竜となる。そして、角は彼女の名前と同じ物が生えている。
 御御霊珊瑚が、式神の名前だ。
 人外嫌いの主を持つ、人外が、主人が命ぜられた事は、“好きに生きろ”という事であった。
 それは枷の解放という、一般的には尊ばれるべき事であるが、従う為に作られた式神にとっては、本来は絶望の類である。傘は自由を与えられても、人を雨から守るの領分であって、チャンバラごっこなどで使われては、骨が痛み寿命が短くなる。
 だが、珊瑚は素直に従った。人間に従属する彼女は、その言葉に従属したのである。
 命令されなければ人を攻撃するのも侭ならない存在が、好きに生きるという事――強盗に出会う可能性も勿論あるのだけれど、戦わずとも逃げれば良い東京であっては、そんなに、問題では無かったらしい。
 だからこうして今日も好きに、主であるたっちゃんの元へ訪れて勉強を教えている。


◇◆◇


 そもそも、少年の中でどういう整理がついているのかは定まっていない。
 人外ではあるが、人間に作られた存在であるならばいいのか、
 式神は別! と特別条件を与えているのか、
 そもそもそんな難しい事まで頭を回してないのか、
 ……実際の所、辰巳が珊瑚に対してどう思っているかは――


◇◆◇


「カルピスとケーキ、管理人さんにもらって来ましたわ。休憩しましょたっちゃん」
「うん……ちょっと待って珊瑚ねーちゃん」
 普段ならすぐ甘い誘惑に飛びつくお子様が、今回はどういう訳か机ににらめっこしている。さっき引っかかっていた文章問題だ。
 この手の問題は、読解力もさる事ながら、その法則性を見出す事が肝要。多分、少年にとっては苦手とする分野なのだけれど、どうやらいい所まで言ったらしい。
 珊瑚はすぐ傍らに、ケーキとカルピスが一対乗ったおぼんを置いてから、前髪をかきあげつつ、後ろから覗き込む、
 こういう時は余り口出ししない方がいいのだけれど、どうやら、初歩的な部分に足を取られているみたいで、
 そこさえこの主に教えれば、一人で進む事が出来ると彼女は、
「いいですか、たっちゃん」
 綺麗な指を宿題の用紙に伸ばして、
「ここの部分は、最初にあった問題の応用で――」
 文章をなぞったその指先は、シャープペンシルを握った少年の手に触れて、
「……あら?」
 進むはずだった少年を、
「たっちゃん?」
 停止、させた。

 秒数にしたら、大した事はない。なんでもないという一言で簡単に再起動する。
 けれど辰巳の心臓は、何故だか鼓動を速めている。
 人間の辰巳は、人じゃない珊瑚をどう捕らえているかは、実際の所、
 なぜか、ドキドキするお姉さん、……と。
 余りにも人間らしい存在として、思っている事を、彼女は知っているのか知らないのか。

 ……知らないからこんな事もできるような、いや、元から天然だからか、
「はい、良く出来ましたたっちゃん」
 問題が解けた辰巳の頭を、掌でぐりぐりと撫で始める。13歳の男子にとって、それは容赦なく嫌悪する事のはずであるのだけれど、
「子供じゃないんだけど俺」
 そう不貞腐れても、その手を払えと命令しないのは、矢張り、そういう事か。


◇◆◇


 御御霊珊瑚は式神であり、そして、人間に対しては命令無しに危害を加えられない存在だ。安全装置の握り主は、今のところこの主だけか、他にも居るのか。
 例えばこの主が、自分と戦えと言った時、
 断りたくても断れないのが、式神という人外の領分である。
 そして、彼女は力の加減ができない、アクセルは例外なく全開であり、躯への変貌へ突き落とすのには躊躇いが無い。
 半不死の彼女にとっては、道連れという言葉が存在しない。そんな兵器としては完全である彼女に、何故、式神を作った一族は、感情というものを生み出したのか、
 それも、こんな優しくて、おかしい、誰もが好きになってしまうような人物に。
 ――単にそこまで設定できなかった、というのが本当だろうけども
 ただの道具だったならば、好きに生きろという事を言う事もなかっただろうし、
 そして珊瑚も、この未熟な主の命令を受けて、絶望もしなかったはずである。
 怪我の巧妙か、仕組まれていた事か、とりあえず、


◇◆◇


「今日はお疲れ様、管理人さんと作ったハンバーグですわ、このキノコソースは自信作なの」
「うわー! すっげーうまそう! ……でもなんで自分の部屋で?」
 このアパートの習いとして、食事は食堂? のはずであるのだけれど、
「食べてすぐ宿題出来るようにって、管理人さんが言ったのですわ」
「ゲッ」
 夕食の時間になっても、天織辰巳の宿題は底が尽きてなかった。とある仕事で一週間休んだツケが、こういう形になって返されているらしい。
「今日が土曜日でよかったですわ。明日は日曜日ですもの。……疲れきって仕上げた翌日が平日じゃ、たっちゃんも気が滅入るでしょ」
「それはそうだけどさー。……あ、ハンバーグにもキノコ入ってる」
 エリンギの触感が歯に心地よい、ナイフとフォークでなく箸で口に運びながら、ソースの味で、お変わりの必要がないよう丼に持った白いご飯を、三口、三口と飲み込むように。……で、良く噛みなさいと、やんわりと怒られる。
「ほらほら、口元にご飯粒がついてますし」
「え、あ、自分でとるから」
 流石に意識的には――そういうお決まりのシチュエーションを回避するくらいの、恥じらいというかなんというかはあるらしく、指でとった米粒を、自分で口に含んだが、
「ソースで口が」
 ……指摘と行動を供にされては抗う術が無く、彼女の右手にあるティッシュで、口元は綺麗に拭かれた。はぁ、と溜息がつく。
 何か、調子が狂う。どうしてか、胸がどきどきする。
 それを例の感情に結びつけるには、まだまだ少年はお子様のようで、
 ……人と、人じゃない物の結びつきなんて、大昔にはたくさんあったけれど、
 その幾つかは、悲劇へと繋がっていたけれど、
「ほらまたソースがー」
「じじ自分でやるからいいってばぁ!」
 この二人の繋がりは、今の所は、そんなストーリーへ繋がらないようには思えて。


◇◆◇

 尚、翌日の日曜日、宿題が終わったご褒美に東京の中心街に連れられた事で、
 はしゃぎすぎたか単に気分が悪くなったか知らないが、少年が彼女に膝枕をされたとかどうとかの話は神のなんちゃら。べんべん。
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東京怪談
2006年11月06日

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