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『楽しい『日常』生活の始まりは 』
和田・京太郎1837)&鬼頭・郡司(1838)&(登場しない)

 和田京太郎はごく普通の人間である。
 ごく普通の高校生である。
 誰が何と言おうと、ごくごく普通の高校生なのである。
 そう、誰が何と言おうと――

「俺がパパだぜ♪ 京太郎」

 目の前に現れた同級生がいきなりそう言っても、やっぱり京太郎はごく普通の……

「いいか〜京太郎、お前につきまとうのは父親として当然のことだ。まして俺たちは今まで長く会えなかったんだ。それを埋めるために一緒にいるべきだ」

 そんなことを言ったのは鬼頭群司。金髪に緑の瞳の映える、しかし虎皮のふんどし一丁の少年である。
「これからはパパと一緒に寝ような♪」
 ――京太郎の下宿屋『飛流』にやってきた郡司は、そうのたまうだけのたまって、突然京太郎の部屋に居座った。
 繰り返すが京太郎は人間である。
 誰が何と言おうと、京太郎本人がそう言うのだからそうなのである――

 天界に、風鬼と雷鬼がいた。
 二つの種族の交わりは禁忌とされていた。しかし二人はそれを破り、ひとりの子をもうけた。
 その子は生まれてすぐ天界から人間界へと落とされた。そして人間として育てられた。
 生まれた子は、母親である風鬼にそっくりであるらしい。ゆえに父親である雷鬼に溺愛されることになる。
 それこそ、己も少年の姿に変えられながらも、人間界まで息子を追ってきてしまうほどに――

「冗談じゃねえぜ……っ」
 京太郎の朝はやけくそな一言で始まった。
 京太郎の布団の隣で、郡司がとんでもない寝相で眠りこけている。まだ起きる様子はない。
 それをいいことに京太郎はそーっとそーっと、音を立てないように制服に着替え、忍び足で台所へ行ってパンをもらうと、それを口にくわえたまま外へ飛び出した。
 郡司に見つかる前に、学校にたどりつかなくては――
 走る走る。京太郎が走る。
 京太郎はそれなりに足に自信があった。というより、運動神経には自信がある。
 だというのに――
 学校への道を半分くらい過ぎたころに、背後から身の毛のよだつような恐ろしい気配が襲ってきた。
「きょーたろー! 俺を置いて行くなー!!」
 それはまぎれもない、群司の声……
 走りながらおそるおそる肩越しに背後を見やると、郡司が四足走り、猛スピードで追いかけてくるところだった。
「ひいいいいいっ」
 京太郎は逃げた。今まで生きてきて、こんなに必死になったことはないのではないかというくらい必死に逃げた。
 学校だ。学校に飛び込んでしまえばきっとヤツは諦める。
 そう信じて、学校の門を通り過ぎた。
 しかし――
 京太郎の考えは甘かった。
「京太郎〜〜〜!」
 郡司は虎皮ふんどし一丁のままで学校に飛び込んできた。
 京太郎は校舎へと走る。どうせ郡司など、あの姿のままなら校門で見張っている生徒指導教師が黙っているはずがない。
 しかし――
 郡司の動きがあまりに素早くて、生徒指導の教師は郡司を捕まえられなかった。
「京太郎、俺も混ぜろっ!」
「ひいいいいっ!」
 京太郎が校舎へと飛び込む。
 がっしゃん!
 郡司はガラス戸を突き破って飛び込んでくると、
「京太郎ーーー!」
 と後ろから京太郎に抱きついた。
「いてえええええ!」
 ガラスの破片が体に刺さり、痛さで京太郎は口にくわえていたパンを落としてしまった。
 郡司が険しい顔になり、
「なにっ!? いてえのか!? どうした誰にやられた、俺が電撃でぶっ倒す!」
「……っ!……っ!……っ!」
「なに!? あの戸が悪いのか!? よーし今俺がぶっ壊してやるからな!」
 京太郎が指差したのは郡司だったのだが、郡司は自分を通り越して京太郎の指先の指す先を見て、ガラス戸に目をつけた。
 ガラガラガッシャーン!
 電撃が落ち、大方のガラス戸が破壊される。
「ああ京太郎、血が出てるじゃないか、かわいそうに!」
 郡司は京太郎の背に刺さっているガラスの破片をぬきとり、その傷跡に顔を近づけて舐めようとした。
「やめろーーーー!」
 京太郎は己の体を死守した。舐められるなんて冗談じゃない。
「ばかっ京太郎、すぐに治療しなけりゃ菌が入って死ぬぜ!」
「てめーの頭にもう菌が生えまくってんだよ! 近づくなうつる!」
「ばかだな京太郎、俺はパパだぞ。俺に生えてる菌ならお前にはとっくに生えてる」
「ふざけんな俺はお前の息子じゃねーーーー!」
 くすくすとまわりから笑い声が聞こえる。
 ガラス戸破壊の怖さを通り越して、二人のやりとりが他の生徒たちの笑いの種になっていた。
 京太郎は真っ赤になって、さっさと上履きに履き替えるとずんずん廊下を歩き出した。
 ……背中がちょっと痛いのは我慢することにする。
「京太郎、待てよー!」
 郡司は上履きなどほったらかしで後をついてきた。
「京太郎、どこへ行く気だ?」
「教室に決まってんだろ!」
「こら、キョウシツなんて部屋にいったら訳の分からない洗脳されっぞ!」
「てめえが授業の内容理解してないだけだろうがっ!」
 教室にたどりつくと、郡司も堂々と同じ部屋に入ってきた。
 京太郎が席につくと、べたべたべたべた京太郎の体に触ってくる。
「触んな気持ち悪ぃ!」
「今まで会えなかった分の“すきんしっぷ”だ。京太郎、寂しかったろう?」
「仮に寂しくてもてめーの息子だなんて認めねえーーーー!」
 クラスメイトたちが腹を抱えて大爆笑している。
「京太郎、同い年の父親ができたのか?」
「似合うぜ京太郎、そっくりだ」
「親子ならスキンシップ当然だよなあ」
「そうそう京太郎、父親の愛情は受け止めろよ」
「無責任なこと言うなーーー!」
 京太郎は悲痛な声でクラスメイトたちを怒鳴りつけた。
 とかなんとかやっているうちに、
「和田京太郎君、鬼頭郡司君」
 ごほんと咳払いをしながら、いつの間にか教室の入口にいた教頭が、「二人とも、生徒指導室に来なさい」と呼び出した。
 げ、と京太郎は引きつった。まさかガラス戸のことか?
 渋々生徒指導室に行くと、そこで二人は教頭にこんこんと説教をされた。もちろんガラス戸破壊のことで。
(何で俺まで叱られなきゃならねーんだよ……っ)
 一番重要な郡司など、説教されてうなだれるどころか半分寝ている。
「そもそも鬼頭君、その格好は何だねその格好は! 学校に来る服装ではないぞ!」
 教頭は郡司の虎皮ふんどしを指差しながら、つばの飛びそうな勢いで怒鳴る。
 郡司は首をかしげ、
「そりゃーこれ、俺の服だからよ」
 といけしゃあしゃあと言った。「自分の服で来て何が悪ぃんだ?」
「ここは学校だぞ……っ」
「おう、学校だっ」
 郡司には何も通じていない。
(こんな父親いらねー!)
 京太郎は心の底からそう思った。

 教室へ戻ってくると、一限目が始まりかけていた。
 慌てて京太郎は席について用意をする。
 郡司は――空いている席をみつくろって、そこに座った。
 京太郎の席とは大分離れていた。京太郎はほっとして、授業中は救われると天に感謝した。
 しかし――

 ぐごー ぐごー

 授業が始まるなり、始まったどでかいいびき……
 教師の顔が引きつる。京太郎は頭が痛くなってきた。

 ぐごー ぐごー うごごっ

 ああもう、頭痛いからこのまま頭破裂して一度生まれ変わりたい。
 京太郎の苦悩も知らず、郡司のいびきはどんどん大きくなってくる。
 教師は我慢ならず、郡司の席に行き、ばん! と机を叩いた。
 郡司が目を覚ます。目をこすっている彼に、「教室から出て行きなさい!」と教師は言った。
 まずい、と京太郎は思った。出て行ってもらえるならもらいたいが、郡司の場合は――
 そして案の定、
 いったん無理やり教室から出された郡司は、やがて十分もしないうちに、
 ガラガラピッシャーン
 と電撃を教室の入口に放ち、
「京太郎、洗脳されてないか!?」
 と教室に飛び込んできた。
「洗脳されてなんかいねーから抱きついてくんなー!!!」
 京太郎は思い切り郡司を殴った。
 郡司は殴られた頬に手を当てて、嬉しそうな顔をした。
「やっとでお前から触ってくれたな、京太郎」
「そういう意味じゃねーーーーー!」
 京太郎はそれこそ破裂しそうな声で怒鳴った。
 クラスメイトが爆笑していても、教師が燃える瞳でこっちを見ていても、もうどうでもよかった。

 生徒指導室に呼ばれること二度目――
 郡司は、今度の相手の生徒指導の教師に向かって、
「そのつるっぱげは電撃が落ちやすいと思う。注意したほうがいいぜ」
 とのたまった。
 つるっぱげ生徒指導教師は真っ赤になった。
「おお、ゆでだこ。うまそう」
 ――一瞬同感だと思ってしまった京太郎は、激しく自己嫌悪した。

 三限目――体育。
 今日はバスケットボールだ。
 運動神経のいい京太郎にとってはとるにたらない授業内容で、いつもなら楽しめるはずが――
 郡司がおとなしくしているはずがなかった。
 ボールを見ればとりあえず追いかける。バスケットボールのルールなど守っているわけがない。
 他の人間にとられそうになると、電撃を落として阻止する。
 京太郎は身を張ってボールを抱きしめると、
「鬼頭! 電撃を落とすのは禁止だ!」
 と郡司に言いつけた。
 郡司はうなずいた。そして、
 京太郎が安心して他のクラスメイトにパスしたボールを――
 ふんどし一丁、四足で駆けて奪い去り、おまけにボールを受け取ったクラスメイトの腕にかみついた。
 クラスメイトが痛い痛いと悲鳴をあげる。
「鬼頭ーーー!」
 京太郎は声を枯らして怒鳴りつけた。
 郡司はきょとんとして、
「電撃は使ってないぜ?」
「他人の邪魔をするな! 電撃もかみつきも禁止だ!」
「あぁ? じゃあ……体当たりがいいか?」
「体当たりも禁止だーーー!」

 生徒指導室に呼ばれること三度目――
(だから何で毎回俺も呼ばれるんだよ……っ)
 おまけに教師は、郡司には言っても聞かないことが分かり始めてしまったために、京太郎を責めてくる。
(ありえねえ、ありえねえ、ありえねえ……っ)
 京太郎は心の中で世の不条理をひたすら呪った。

 四限目も似たような授業で終わり、そして昼休みの時間がやってくる――
「参ったな……」
 京太郎はぐるぐると鳴るお腹を必死でなだめていた。
 今日の朝は郡司から逃げるのに必死で、下宿のおばちゃんからお弁当をもらってくるのを忘れたのだ。
「しかし……静かだな」
 その点は満足で、京太郎はうん、と伸びをする。
 郡司が近くにいないと、なんて平和なんだ。この平和がいつまでも続くといいのに。
 ――しかし、そう思うと必ず希望なんて言葉はぶち壊されるもので――
 ガッシャーン
 教室の窓に雷撃が落ちて、郡司がひらりと入ってきた。
 京太郎はずるずると椅子からすべりおちて、もうこのまま床にのめりこんでもいいやと考えた。
 郡司は異様な姿をしていた。口やら脇やらに、パンや弁当箱その他をくわえたり抱えたりしていたのだ。
 それをぺいっと京太郎の机の上に吐き出し放り出し、
「さ、京太郎。一緒にご飯だ」
 郡司は近場の椅子を引き寄せてそうのたまった。
 京太郎は顔を引きつらせて、
「おい……どっから持ってきたんだ、これ?」
「ちょっと『狩り』してきた。遠慮なく喰え」
「ちょっと待て学食にはパンは売ってても弁当箱は売ってねえぞ」
「だから『狩り』してきたんだよ」
 京太郎は激しく嫌な予感がした。
 そしてそれは外れることなく――

 生徒指導室に呼ばれること四度目――
「盗みはいかん! 盗みは!」
 生徒指導の教師は頭から湯気が出そうなほど怒っていた。
 そう、郡司が昼休みに『狩って』きたのは、学食と他の学生から奪い去ってきたものだったのだ。
 郡司が珍しく教師に食ってかかった。
「盗みじゃねえ! 『狩り』だ!」
 ――通じるわけねえだろ、と京太郎は思った。
 気がつくと、生徒指導室の窓が開いていた。
 あああそこから飛び降りたいな、と京太郎はぼんやりした気持ちで考えた。

「京太郎ー。何してんだー?」
「宿題」
「ばっか、お前洗脳されてんのか!?」
「お前に洗脳されるよりマシだ」
 べたべたべたべた。郡司は何度追い払っても京太郎につきまとう。邪魔なものは電撃でぶち壊しだ。
 そんな過激なパフォーマンスと人懐っこさで、郡司は生徒たちには人気があった。
 が――京太郎の中ではブラックリストナンバーワンである。
 宿題をやっているというのにあまりに郡司がしつこく話しかけてくるので、一本背負いさながら投げ飛ばしてみたりした。
 郡司は痛打したはずの背中をさすりながら笑顔になって、
「なかなか痛かった。京太郎……成長したんだな」
 京太郎は武器を携帯してこなかったことを心底後悔した。
 次の作戦。とりあえず無視をきめこんでみる。
 ガラガラガッシャーン
 やりかけの宿題が、電撃で吹っ飛んだ。
 京太郎の怒りの頂点ついに突破、自分でも訳の分からないことを散々怒鳴りつけると、
「京太郎がそいつに洗脳されかかってたから、処分したんだ」
 郡司は大真面目に言ってきた。
 京太郎は本気で殺意を覚えた。今までの人生の中でもこれほど強い殺意はなかったに違いない……

 どんな方法で追い払おうとしても、結局電撃には叶わない。
 己の弱さに京太郎は激しく苛立ちながら、学校から下宿へと帰途についた。
 横に郡司がぴったりとくっついている。
 郡司は明るい笑顔で京太郎に言った。
「今日は同じ布団で寝ような、京太郎!」
 ……布団の中で首でもしめてみようか、と京太郎は思った。
 それとも自分が寝る前の風呂に沈んでみようか。
 悲壮な顔つきで京太郎は歩く。
 郡司は適当な音をハミングしながら、上機嫌に歩いている。

 そんなこんなが――
 京太郎と郡司の共同生活の、楽しい始まりだったのだ。
 そう、『始まり』でしか、なかったのである……


(続く、かも?)
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
笠城夢斗 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年09月25日

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