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『夏の一日、彼らたちの海 』
天波・慎霰1928)&和田・京太郎(1837)&伍宮・春華(1892)&(登場しない)

 爽快な潮風、美しい海!
「いやー! いい眺めだねってんだ」
 気持ちよさそうに両手を広げて潮風を吸い込んだのは天波慎霰。
「ふん。いい日を選んだからな」
 ぶっきらぼうながらもご機嫌なのが端々に見えているのは、伍宮春華。
「今日なら楽しく過ごせそうだぜ!」
「ひとりで暴走すんじゃねえぞ」
「任せとけって」
「……お前のそのせりふって、あまり信用できねえ」
「どーゆー意味だそりゃ!」
 ――二人の後ろで、ひとりの少年がものすごく嫌そうな顔をしながら突っ立っていた。
 和田京太郎。彼ははだしに砂浜の暑さを感じながら、ぼんやりと思う。
 ――どうして俺はここにいるんだろう?

 ことの始まりは、春華がいつものごとく慎霰を遊びに誘ったことだった。
 春華は海に行きたかった。というわけで行き先は海――と、そのあたりまでは簡単に決まった。
 しかし。
「二人だけで行くのもつまんねえって」
 慎霰はにししっと笑って、ひとりの同級生に声をかけた。
 それが和田京太郎。外見年齢で言えば慎霰とも春華とも変わらない十五歳。
 ノリノリの慎霰と違って、京太郎は海に行くのをよしとしてはいなかった。

「まだ夏休みの宿題が終わってねえよ……」
 ぶつくさ言いながら、京太郎は身をひるがえして帰ろうとする。
 慎霰はにひひと笑って、指をパチンと鳴らした。
 と、京太郎はその場ですっ転んだ。
「慎霰! てめえ!」
 即座に起き上がり怒鳴った京太郎に、慎霰は涼しい顔で対応する。
「帰さないっての。今日は三人で遊ぶんだからな」
「宿題が終わってねえんだよ!」
「何言ってんだ、京太郎」
 慎霰は真顔で、人差し指を一本立てて京太郎に迫った。
「――夏休みの宿題ってのはな、夏休みの最後の一日を使ってやるのが醍醐味なんだぜ」
「アホかお前はっ!」
「……俺も今の意見は反対だぞ、慎霰」
 成績上位を保っている春華は難しい顔をした。「大体最後の一日じゃやりきれない量だ、宿題は」
「ばーか。夏休み終わってもやるんだよ、提出日までぎりっぎりで。それがいいんじゃん」
「お前は一回海に沈んで頭ごと冷やしてきやがれ!」
 京太郎は再度大声で怒鳴りつけ、もう一度帰ろうと身をひるがえした。
 パチン。慎霰の指が鳴る。
 京太郎の右足が勝手に持ち上がった。
 京太郎はその体勢のまま、左足一本でとっとっとっとと砂浜を跳ねさせられた。
 なんだなんだと周囲の視線が集まる。京太郎の頬が紅潮した。
 ――天波慎霰は天狗である。念力、なんてものはお手の物だ。
 やがて京太郎の体がふわっと浮いた。
「うわ、こら、降ろせ慎霰! 馬鹿野郎降ろせ!」
「帰らないって約束したらなー」
「このくそったれー!」
 空中でくるくる体を回されて、京太郎が目を回す。
 他の客たちが、半ば悲鳴をあげてそれを見ている。
 春華はそれを、楽しそうに笑いながら見ていた。
 ――伍宮春華は、こちらもやはり天狗である。慎霰ほど悪意ある悪戯はしないタイプだが、京太郎も人間ではない異能の者だと慎霰から知らされているため、遠慮なく楽しんでいる。
 やがて京太郎を空中で回すのにも飽きたのか、慎霰はパチンと指を鳴らして京太郎の体を降ろした。
 偉そうに胸を張り、
「いーか、逃げ出そうとしたら遠慮なく今みたいにすっからな」
「くそっ」
 京太郎はふらふらする頭を支えながら、心底悔しそうに慎霰をにらみつけた。
「いいじゃねえか、京太郎」
 春華が邪気のない笑顔で言った。
「要するに、楽しんでいきゃいいってことだぜ?」
「楽しめるかーーーーーーー!」
 京太郎の悲痛な叫びは、海に吸い込まれてはかなく消えた。

 さて。
 海に来た。となれば何をしたものか。
「俺さあ、ビーチボールってのに憧れてたんだ」
 膨らます前のビーチバレーと、簡易なビーチバレーのネットセットをさしだしながら、春華が言う。
「どうやるか分かんねーんだ、教えてくれねえか?」
「……三人だぞ、やれるわけがねえ」
 京太郎が不機嫌に言う。春華が首をかしげた。
「何でだ?」
「ビーチバレーってのは二手に分かれて勝負すんだよ。三人じゃ人数合わねえだろうが」
「そういうもんなのか……」
 考えこむ春華に、うるさそうに京太郎は手を振って、
「あー、どうしてもやりてえなら慎霰と勝負しろ。俺は見てるだけでいい」
「それは間違っている!」
 慎霰が大声をあげた。
 再び周囲の視線を集めたが、慎霰がそんなことを気にするわけがない。
 慎霰の大声に驚いた京太郎は、
「ンだよそんな大声出して。何が間違ってるって?」
「京太郎がやらずに俺と春華の一対一じゃ、春華は絶対的に不利だ! 何しろ春華はビーチバレーのやり方を知らない」
「んなもん簡単に教えられるじゃねえか。ただボールを打ち合ってりゃいいこった」
「そんな簡単なもんじゃないんだぜ、これが」
 慎霰は難しい顔をして、「こう、ボールを打つ角度とかな、レシーブするタイミングとか、そりゃもう難しいスポーツなんだぜ」
「お前ビーチバレーの大会にでも出るつもりか……?」
 京太郎が片手で顔をおおって、はあと大きくため息をついた。
 それらを見ていた春華、
「俺はさあ」
 と京太郎をじーっと見て、
「……三人で、遊びてえ」
 京太郎は春華の純粋なまなざしに、うっと一歩退いた。
 春華は子供のように京太郎を見つめる。
「三人がいい」
「う……」
「三人」
「いや……っ」
「こんなにも純粋にお前と遊びたがってる春華の心を、台無しにするのか!? 京太郎!」
 慎霰が大げさに嘆いた。
 周囲の他の客にも聞こえるように、
「ああ……! お前がそんなひどいやつだとは知らなかった……! 友情が台無しだ……!」
 なんだなんだと他の客がこちらを見る。
「ひどいわねえ、一緒に遊んであげないなんて」
 とどこの誰とも分からぬ客にまで白い目で見られて、京太郎は真っ赤になった。
「く……っやりゃあいいんだろ、やりゃあ!」
 春華が嬉しそうに、
「三人だ!」
 と言った。

「で、どう分けるんだ?」
 三人となったら、どちらかが二人ペアにならなくてはならない。京太郎はぶすっとした声で問う。
「春華はビーチバレー知らないからな。俺が一緒のチームになる」
 慎霰はそう言った。「京太郎のほうが身体能力も高いし、ちょうどいいつりあいだろ」
「……何かいやな感じのチーム分けだな」
「気のせい気のせい」
 京太郎VS慎霰・春華チーム。
 春華が持ってきたビーチボールを膨らませる。ポールを立ててコートを作る。
 先攻は天狗チーム。
「とりあえず、こっちにきたボールは打ち返して、あっちのコート内にボールを落とせばいいからな」
 慎霰は春華におおざっぱすぎる説明をする。
 そうしてビーチバレーは始まった。

 パン!
 ビーチボールを慎霰が打ちこむ。
 京太郎とはまったく違う位置にそれは落ちるはずだった。しかし、京太郎は驚異的な足腰でボールに追いつき、レシーブした。
 天狗コートに戻ったボールは春華がわたわたと打ち返す。
 ネットにかかった。京太郎に一点が入る。
 春華が首をかしげて、
「意外と難しいな……」
「負けるなよ、春華」
 相方を励ます慎霰の顔は、どう見てもにやついていた。
 二回目。京太郎サーブ。
 京太郎の打ったボールは綺麗に弧を描き、天狗コートに入る。
 慎霰がそれを打ち返した。京太郎は即座にそのボールに追いついた。
 パン!
 叩きつけるようにボールをまっすぐ斜め下に打つ。スパイク。
 慎霰も春華も動けないまま、ボールは天狗コートに入った。
「うわあ……」
 春華が、てんてんと転がっていくボールを見つめてつぶやいた。
「京太郎、かっこいい」
「惚れんなよ、春華」
 慎霰が重々しく言う。
「? 男同士じゃん」
 春華はわけが分からないといった風に慎霰を見返した。
「世の中にはなあ、春華――」
「変なことは植えつけなくていいーーーーーー!」
 京太郎が慎霰の言葉をさえぎった。
 そしてその大声で、またもや周囲の人々の視線を集めてしまい、京太郎は赤面した。

 結局、圧倒的に京太郎が有利なまま試合は進んでいく。
「たしか二十五点で終わりだったな……っ」
 京太郎側二十四点まで来たところで、京太郎は舌なめずりをした。
 慎霰が、にやりと笑った。そしてこそこそと春華に小声で話しかける。
 春華が困ったような顔をする。しかし慎霰はひどく元気にサーブを打とうと構えた。
 京太郎の頭の中で、危険信号が鳴る。
 そして――その危険信号は、間違いがなかった。
 慎霰がサーブを打つ。ボールが今まで通りに弧を描いて京太郎のコートへ来る。
 それをまともにレシーブしようと京太郎が構えたところで――
 ぐりん
 京太郎の両手両足がおかしな風に動いた。まるでピエロのような動き。
 当然レシーブなどできるはずがなく、ボールは京太郎コートに落ちた。
 突然の京太郎のおかしな動きに、周囲に集まってきていた観客たちが大笑いをする。いつの間にか彼らは見世物になっているらしい。
 京太郎は顔を真っ赤にして、
「てんめ、慎霰……っ!」
 慎霰はぴゅうと口笛を吹いて、
「何言ってんの。京太郎がおかしな踊り踊ってるからこうなったんだぜ」
「お前が踊らせたんだろうがっ!!!」
「何のことだよ人を疑うのはよくないぜ〜京太郎」
 いけしゃあしゃあと慎霰はのたまった。
 春華は春華で、京太郎の動きがツボにはまったらしい。腹の底から大笑いしている。
「きょ、京太郎、すげ、似合う……!」
「はーるーかー!」
 ――その後も、慎霰の念力によって京太郎かボールのどちらかがおかしな動きをし、天狗チームはあっという間に二十五点を奪取してしまった。
「いえーい俺たちの勝ち〜」
「よくもそんなことを言えるなこの……っ」
 この期に及んでイカサマを認めない慎霰は、さらに言い出した。
「こっからは負けた罰ゲームだぜー京太郎」
「ぁあ!?」
 いつの間にそんなルールができたんだ俺は認めん断じて認めんと騒ぐ京太郎はやはり慎霰の念力で動きを封じられ、
「やっぱ、砂浜の罰ゲームっつったらこれだよなー」
 熱い砂浜に寝転がらされ、
「ほーら春華! 砂持ってこーい」
「て、てめ、慎霰……!」
 慎霰と春華共同作業で、砂浜の白い砂が集められて京太郎の体にどさどさ乗せられる。
 やがて、完全に体を埋められ、京太郎は頭だけとなった。
「なあ春華、お前すいか割りやりたいって言ってたよな」
 流れる汗を爽やかに拭い取りながら、慎霰は天狗の相棒に言う。
「え? ああ、やりたいやりたい」
「あっちの売店ですいか売ってんだ。買ってこようぜ」
 ――そして買ってきた冷えたすいかは――
 体の埋まった京太郎の、頭のすぐ横に置かれた。
「よし! すいか割りだ」
 春華が持っていた手ぬぐいで目を隠す。
 そして、すいか割り用の木刀を構える。
 すいかを間近に置かれた京太郎は、ひいと悲鳴をあげた。
「ちょっと待、待て! おい! 別の場所でやれ……!」
「何言ってんだよ。大切な友達のお前を放り出して他の場所でやるわけねえだろ?」
 慎霰がはっはっはと爽やかな笑みをこぼす。
 これ以上ない悪意の笑みだった。
 目隠しをした春華が、木刀を持ったまま近づいてくる。
「待て! 頼むから待て! てめえら俺を殺す気か!」
 京太郎が暴れようとするが、砂浜の砂は思いの外重い。
 春華が木刀を振り上げた。
 京太郎が声にならない悲鳴をあげた。
 わあっと――これは三人を面白がってずっと見ている観客たちの悲鳴だろうか。
 春華の木刀の先は、京太郎にもすいかにも当たらず砂浜を打つ。
 京太郎はこのくそ暑い時期に、冷や汗をかいていた。
 慎霰は大声で笑っていた。

 実のところ――
 春華はとても感覚が鋭いため、目隠しをしていてもすいかの場所も京太郎の顔の場所も分かるのだ。
 しかしそんなことは知らされていない京太郎。
 木刀が振り下ろされるたびに、死にそうな気分を味わった。
 「仕事をしていてもあんなに死にそうな気持ちは味わったことがない」とは、京太郎の後日談である。

 すいかを春華が見事割ってみせ、京太郎を掘り出して三人で割れたすいかを堪能した後、彼らは売店に向かった。すいかだけでは物足りなかったのである。
「やきそばでも食うか……」
 疲れきった声で、京太郎はやきそばを頼んだ。横から慎霰や春華も。
「ったく……疲れたぜ」
 京太郎はぶっきらぼうにつぶやく。
 これで疲れを取り戻してやる、とばかりに、京太郎はやきそばを猛烈な勢いで食べ始めた。
 と、ここでも慎霰はにししと笑い、
 同時に、京太郎の使っていた割り箸が動きを止めた。
 即座に京太郎は反応した。
「てめ、慎霰――」
 言い終わる前に――
 割り箸は、京太郎の鼻をつまんだ。つまんだまま、ぐいぐいぐいぐい引っ張る。
 春華や周囲の客が爆笑した。
 慎霰のいたずらだとは知らない周囲の観客などは、
「おーい大道芸の兄ちゃん! もっと面白いことやってくれー」
 などと京太郎がやっているものと思いこんでいる。
 慎霰は京太郎の割り箸を操り、鼻の他に頬をつまんだり下唇をつまんだりして遊んでいた。
 その慎霰の無防備なやきそばを、ひそかに春華が食べていたりもしたが。

 結局――
 京太郎は一日、散々遊ばれ、くたくたになっていた。
「もうお前らとは関わらねえ……もう二度と関わらねえ……」
 血走った目で何度もそうつぶやく京太郎は、後ろから、
「京太郎」
 と呼ばれて、「ぁあ?」と壮絶な顔つきで振り向いた。
 そこには――
 無邪気な、春華の笑顔があった。
「すっげ楽しかった」
 春華はにこにこしながらそう言った。
「また、遊ぼうな」
「―――」
 京太郎はその無邪気さに毒気をぬかれて視線を泳がせ、
 やがて――大きくため息をついた。
「くそ……っ今度はやられるだけじゃすまねえぞ」
 春華がにっこりと満面の笑みを見せる。
「あっはっは! 友情とは許しあうものなり!」
 慎霰が京太郎と春華の肩をがしっと抱き、豪快に笑った。
「お前はどっか行け慎霰ーーーーー!」
 京太郎の叫びが、夕焼けに輝く海にはかなく散っていく……

 彼らは揃って帰途についた。
 悪態をつきながら、肩を並べて……


 ―Fin―
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
笠城夢斗 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年08月24日

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