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『もしも……絶対無いだろう対決:三下忠雄編 』
鷲見条・都由3107)&三下・忠雄(NPCA006)


 ぱん、ぱぱんっ!
 勢い良く、煙球が空へと登っていき、弾けていく。あたりはざわざわとどよめいており、これから起こる一大イベントを見逃さないようにと身を乗り出す者さえいる。
 そう、一大イベントがこれから始まるのだ。
「皆様ぁ、長らくお待たせしましたっ!」
 突如響く声に、集まっていた人々が一層ざわついた。中には「おおお」と感嘆を漏らすものまでいる。
 みなの目線の先にあるのは、ステージだ。客席から見下ろす形になっている、ボウル型のホールである。その真ん中には、マイクを持った男が立っている。そして、どの客席にいたとしてもステージの詳細が分かるように、至る所に巨大な画面が設置されている。
 普段はコンサートや室内競技が行われているのだが、今回催されるのはそのような類のものではない。
「皆様の禍々しいまでの思いを受け、開催されるこの大会!己の神に祈りつつ、はたまた別の神に祈りつつ。自らの手から解き放たれし紙と紙との熱き戦いが、今まさに不死鳥の如く燃え上がろうとしておりますっ!」
 司会者の言葉に、観客がざわめく。同時に「上手い、座布団!」という声や「駄目だ、全部持っていけ!」という声が、様々な所から出てくる。
「さあ、皆様。長らくお待たせを致しました。念願の、選手入場となりますっ!」
 ぱぱーんっ!
 ファンファーレ音共に、勢い良く銀色のテープが飛び上がる。またもや、客席に熱気が立ち込めてきた。
「どうして僕が、こんな目に。そう言い続けて早何年。月刊アトラス編集部所属の期待の星になれたらいいなと、上司達から言われてきた。赤コーナー……三下・忠雄!」
 ばんっ!
 ファンファーレと共に、スポットライトが赤コーナーにばっと向けられた。そこには、おろおろしながら「が、頑張ります」とへこへこと頭を下げている三下の姿があった。いつも通りの三下である。
「対しまして、青コーナー。柔らかな物腰と優しい接客が大人気。この人がいなければ、学園なんて用は無いと豪語する生徒続出。神聖都学園みんなのお母さん的存在とも言える、購買のおばちゃん……鷲見条・都由(すみじょう つゆ)!」
 ばばんっ!
 三下の時とはまた違ったファンファーレが鳴り響き、スポットライトが青コーナーに向けられる。すると、落ち着いた雰囲気を持った女性がにこやかに笑いながら立っていた。髪は邪魔にならないように一つに括り、眼鏡をかけているのが場を和ましている。
「こんにちは〜」
 にこ、と笑いながら都由はそう言って頭を下げる。すると、観客の間から「おばちゃん日本一!」だとか「勝っちゃえ勝っちゃえ」だとかいう声が飛び交う。
 かくして、ステージの上に両者が揃ったのである。
「では、準備してください」
 司会者の合図によって、中央に箱が出てきた。何処にでもあるような、オーソドックスな箱である。
 その上に、都由と三下は丸い厚紙を置き始めた。犬や猫といったキャラクタの柄が描かれていたり、美しい風景が描かれていたりする。
 いわゆる、メンコ。
 視線をステージからずずっと上へと持っていけば、大きな垂れ幕に「メンコ大会〜ドッキリ三本勝負〜」と書かれているのであった。


 ばばばばんっ。
 軽快な音と共に、司会者が「それでは始めます」と勢い良く拳を掲げた。
「勝負は三本。一枚ずつメンコを放ち、より多くの枚数をひっくり返した方の勝ちとなります。先に二本取った方が、今試合の勝者です。では、先攻後攻を、先に決めてもらいましょう」
 司会者が言うと、都由がにっこりと笑う。
「先にどうぞ〜」
「へ?」
「だって〜、三下さん初めてだそうですし〜」
 都由の言葉に、三下は「は、はあ」と言って頷いた。都由の指摘どおり、三下はメンコというものを手にしたのは初めてであった。ある事は知っていたし、それを使って昔はよく遊ばれていたという事も知識としてあった。だがしかし、こうして実際に自分が使ってみるのは初めてなのである。
 それなのに、どうしてこの大会に出たのか。裏にアトラス編集部が絡んでいるとかいないとか。
「で、では。お先に失礼しますね、鷲見条さん」
「は〜い、どうぞ〜」
 三下はメンコを掴み、大きく振り上げた。そして、強く地面に叩きつけ……。
――へしょっ。
 られなかった。
 審判が確認し、びしっと赤い旗を掲げた。一枚もひっくり返す事ができなかった為である。三下の放ったメンコは、頼りない音と共に地面へと落ちていってしまったのだ。
「結果、ゼロッ!」
 司会者のコールに、三下はがっくりと項垂れた。
「三下さん〜、ドンマイ〜ドンマイ〜」
 都由はそう言い、自らのメンコを用意する。綺麗な桜が描かれたメンコだ。都由は「いきます〜」と言い、ゆっくりと上に掲げる。一番上まであがった所で、じっと箱の上の獲物たちを見つめる。
 ぐっとメンコを掴み、勢い良く腕を振り下ろす。勢いづいた所でメンコは手から放たれ、箱の上へと向かっていく。
 ビシッ!
 小気味良い音と共に、メンコは箱の上に叩きつけられた。すると、ひらり、とその周りに設置されていたメンコが三枚ほど裏返った。審査員が白い旗をびしっとあげる。
「結果、三枚!」
 おおおお、とどよめきが会場内に湧き上がる。三下も思わずその姿に見とれ、口をぽかんと開けて手をぱちぱちと叩いた。
「はー……すごいですね」
「まだまだ〜これからです〜」
 都由は三下にそう答え、「さ〜次に〜いきましょうか〜」と呟きながら、次に取り出すメンコを選び始める。一本目は三下の先攻だったので、二本目は都由が先攻となる。
「これに〜しましょう〜」
 都由はそう言って、朝顔が描かれたメンコを取り出す。夏らしい一枚だ。
「さあ〜行きますよ〜」
 都由はそう言ってにこっと笑い、構える。先程とはまた違った構え方だ。
「おおっと、鷲見条選手、新たな構えを見せました!」
 ヒートアップする司会者。観客達も、固唾を呑んで都由の動きを見守っている。勿論、三下も。
 真上へと振り上げられた一本目とは違い、今回は斜め上に手があげられていた。そうしてある程度まであげられた後、一呼吸置いてからその手が箱の上に設置されているメンコに向かっていった。
 ザシュッ!
 メンコを打ったとは考えにくいような音が、会場内に響き渡る。ぐるぐると回りながら都由の放った朝顔メンコは、他のメンコたちをひらりひらりと発生する風によってひっくり返していく。
 その数、四枚!
 それを確認した審査員が、びしっと白い旗が揚げられた。
「結果は、四枚!驚くべき数字です!」
 司会者の言葉に、観客一同が「おおおお」と感嘆の声を漏らす。三下だけが「え?」と軽く青ざめている。
「よ、四枚も」
「あら〜失敗〜してしまいました〜」
「失敗、ですか?」
「そうなんです〜。最高は〜八枚まで〜ひっくり返せたんですが〜」
 最高記録に比べれば、確かに失敗といえるかもしれない。だが、それでも四枚だ。素晴らしい成績には違いない。
「次は〜三下さんですね〜」
 都由は残念そうに微笑む。失敗してしまったから、勝ちが怪しいとでも言うのだろうか。
 もしここで三下が四枚以上ひっくり返せる事ができたならば、三本目の勝負に持ち込む事ができる。だが、三枚以下ならばそれでこの試合は終わってしまう。
 三下は「月刊アトラス編集部」と書かれたメンコをじっと見つめる。大会に出る折に、編集部から持たされたメンコだ。
 メンコ初心者である三下は、達人の域に達していそうな都由に勝てるとは既に思っていなかった。それよりも、まだ一枚もひっくり返していない事がきになった。一枚もひっくり返す事ができずに終われば、編集部で何が行われるかは容易に想像がつく。
 三下はぎゅっとメンコを握り締め、勢い良く振り上げる。
「さあ、崖っぷちに立たされた三下選手!一本目とは違い、綺麗に上へと腕が伸ばされましたぁ!」
「それなら〜ひっくり返るかも〜」
 司会者の説明の後、都由は三下を見て呟く。そうして、三下の手が勢い良く振り下ろされる……!
 ばちっ。
 微妙な音がし、箱の上のメンコが一枚だけ、そよ、とひっくり返った。三下は思わず涙目でガッツポーズを取る。これで安心だといわんばかりに。
 司会者はそんな三下を気にすることなく、マイクを握り締めた。
「結果、一枚!よって、鷲見条・都由選手の勝利です!」
「ありがとう〜ございます〜」
 都由はそう言い、にこっと笑った。三下も、ぱちぱちと手を叩いている。
「鷲見条選手、何か一言どうぞ!」
 司会者によって向けられたマイクに、都由は「ええと〜」と言いながら、メンコを一枚取り出す。そこに描かれていたのは、紅葉柄。
「これを〜使えなくて〜ちょっとだけ〜残念です〜」
 都由はそう言って、にこにこと笑った。司会者は「そうですか」と何度も頷き、それから都由の手を持って大きく掲げた。
「さあ、皆さん。勝者に大きな拍手を!次回の試合にも御期待ください」
 こうして、観客から盛大な拍手を受けつつ試合は終了した。都由はメンコを見つめ、次の試合に思いを馳せるのだった。

<次の試合を心待ちにし・了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
霜月玲守 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年08月21日

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