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『ある長い長い一日 』
天波・慎霰1928)&桐嶋克己(NPC3325)




 一箇所目、現れる気配なし。

 二箇所目、すでに現れた場所。

 三箇所目、空振り。

 そして四箇所目も結果は同じらしいと悟り、慎霰はがっくりとうなだれた。ぎらぎらと照りつける太陽と蝉の大合唱が疲労と苛立ちに追い討ちをかけ、鬢からじわじわと滲み出す汗を手の甲で乱暴に拭うと思わず舌打ちが出る。

 「まったく。何をやっている」

 一方、桐嶋克己管理官は冷房の効いたリムジンの中で舌打ちをする。「天狗のダウジングというのも案外役に立たん」

 「う・る・せ・え・っ!」

 慎霰はずかずかと車に近付き、両の拳を後部座席のウインドウに乱暴に叩きつける。窓越しでも聞こえたのか、と桐嶋は半ば呆れ顔を作った。

 「文句があんならてめぇで探しやがれ! 自分だけ涼しい車の中で何様のつもりだ!」

 「ベタベタ触るな、ガキ。手垢がつくだろうが」

 桐嶋はウインドウ越しにうるさそうに顔の前で手を振る。慎霰はかぁっと顔を紅潮させ、汗を飛ばして拳で窓を殴りつけた。が、防弾仕様のこのガラスは拳で破れるほどヤワなものではない。それが慎霰の苛立ちに拍車をかける。

 「てめぇも少しは外に出て働け! このクソ暑いのになんで俺ばっか!」

 「ギャーギャー喚くな。暑苦しい」

 桐嶋は足元に置いた紙袋をシートの上に乗せ、葉巻をくわえながら捜査資料をめくる。「捜査は足と頭で行うものだ。足は貴様、頭は俺。とにかく赤天狗が現れそうな場所を探れ。その数珠は飾りか?」

 「命令すんな! ちったぁ休ませろよ、こっちは暑さでバテてんだよ!」

 「却下する。俺はまったく疲れていない」

 自分さえよければ後は一切構わないという口調で言い切り、桐嶋は口許に冷笑を浮かべる。「それとも、あの写真をあいつに見せるか?」

 「くそっ・・・・・・分かったよ! やりゃあいいんだろやりゃあ!」

 慎霰は乱暴に喚き散らし、肩をいからせて再び炎天の下に出て行った。

 なぜ慎霰が桐嶋にこき使われるはめになったのか、話は三時間ほど前にさかのぼる。
 
 



 目が覚めるとそこは監獄の中だった。

 「やっと起きたか、天狗め。これより取調べを行う。出ろ」

 そして、檻の向こうには硬い髪をオールバックにまとめた桐嶋がにやにやと笑いながら立っていたのだった。

 どうやらここは以前関わった所轄警察署、しかも取調室らしいと慎霰が気付くまでにはそう時間はかからなかった。しかも、どういうわけか自分が座らされているのは被疑者が座るべき席である。

 「気付いたようだな。どうだ、覚えがあるだろう」

 と皮肉っぽい笑みを浮かべながら慎霰の前に手をつくのは警視庁捜査一課の桐嶋克己管理官、天上天下唯我独尊の俺様男。なぜ彼が自分の前にいるのかは知らないが、慎霰は本能的に嫌な予感を覚えて居心地悪そうに尻をもぞもぞさせる。

 「貴様は俺が担当する。所轄担当の事件だから所轄の取調べ室を借りるがな。管理官のこの俺が自ら出向いてやるのだ、ありがたく思え」

 桐嶋は捜査資料を手にしながら悠然と椅子に腰を下ろす。落ち着かなく室内を見回した慎霰は、記録係として部屋の角の席に着いている少女を見つけてあっと声を上げた。白い髪に紫色の目をしたその少女は慎霰に向かって思い切りあかんべえをしてみせた。

 「名は天波・慎霰で間違いないな? 年齢と職業は――」

 「ちょちょちょ、ちょっと待てよ」

 ようやく我を取り戻した慎霰はがたんと音を立てて椅子を蹴り、桐嶋の言葉を乱暴に遮った。

 「ふざけんなてめぇ! なんで俺が捕まんなきゃなんねぇんだよっ!」

 「釈明があるのならば聞こう。しかし物には順序というものがある。質問しているのはこちらだ」

 猛禽類のように吊り上がった桐嶋の瞳にぐっと力がこもる。有無を言わせぬ迫力は圧力にも似て、十五にすぎぬ慎霰は奥歯を噛んで拳を握り締めるしかない。

 「名は」

 「・・・・・・さっきてめぇが言ってたじゃねぇか。天波・慎霰、十五歳。職業は高校生」

 慎霰はすとんと椅子に腰を下ろし、苛々と頭をかきむしる。桐嶋の唇がにやりと持ち上がった。

 「高校生兼天狗だろう。貴様のことくらい調査済みだ」

 「だったらわざわざ聞くんじゃねえよ」

 「ひとつ忘れていた。今は高校生兼天狗、兼、刑事事件の被疑者だな」

 「だからなんで俺が捕まんなきゃなんねぇんだよっ!」

 わざとやっているのではないかと思われるほどに人の神経を逆撫でする桐嶋の口調に慎霰は頭に血を昇らせる。「俺はあの野郎を捕まえようとしてあそこに行っただけだ!」

 「捕まえようとしたもののあえなく返り討ちに遭い、負けたのだろう?」

 “あえなく”“返り討ち”“負けた”という単語にアクセントを置いて桐嶋はフフンと鼻を鳴らす。必要以上に癇に障る言い方に慎霰は拳をデスクに叩き付けた。

 「うっせぇな、あの妖具さえなけりゃあんなヒョロい奴――」

 「ほう。出所を知っているか」

 桐嶋は両の肘をデスクにつき、組み合わせた両の指の上に顎を乗せてゆっくりと慎霰の目を見据える。「何か怪奇が絡んでいるのではないかとは思っていたが、天狗の持つ妖具というやつか。俺もこの事件を追っていたのだが、今回は事件発生を聞いて現場に行ってみたらたまたま貴様が倒れていたから保護してやったのだ。ありがたく思え」

 「だからっ・・・・・・俺はあいつを捕まえようとして!」

 「分かっている」

 桐嶋は口の端でせせら笑った。「でなければあんなに間抜けに伸びているはずがない」

 「てめぇ、分かってて言ってやがるだろ!」

 「イキのいいガキだな。からかい甲斐がある」

 「この――」

 「よしなって、しーんざん」

 記録係の少女が両手でメガホンを作り、からかうように声をかけてくる。「あんた、桐嶋さんにはかなわないよ。相性が悪すぎるわ。いや、逆に相性がいいのかな?」

 キャラキャラと笑う少女は充分に慎霰を激昂させるものであったが、相手が異性では天狗の力で悪戯を仕掛けることもできず、慎霰はパイプ椅子に八つ当たりを食らわせる。

 ――話の大元は一ヶ月ほど前。

 ことの起こりは、通勤ラッシュの電車で発生した痴漢事件。満員の車内で痴漢行為を働かれた女性が降車後も犯人を追うが、通勤ラッシュでごった返す駅で追いつくことは容易でない。犯人の背中がどんどん遠ざかり、あわや取り逃がすかと思ったその時、犯人がその場に急に崩れ落ちた。そして、女性や周囲の乗客から知らせを受けてようやく駆けつけた警察官は目を見開くことになる。

 犯人は息をしていなかったのだ。ついさっきまで全力で逃走していた犯人が。

 病院に運ばれた犯人はすぐに意識を取り戻す。しかし、「逃げている時に妙な笛の音を聞いたと思ったら急に目の前が真っ暗になって力が抜けた」と妙なことを言い出したのだ。だが、警察の調べによれば、事件発生時にそこにいた人間は誰も笛の音など聞いていないという。それでいて犯人の体にはどこにも異常はなかったし、急に意識を失うような要因も見当たらない。急に気絶した謎は残るが、笛の音に関しては結局犯人の聞き間違いだろうということで処理された。

 しかしその後も同様の事件が頻発する。銀行に押し入り、行員に銃を突きつけた犯人が急にその場に倒れる。万引きをして逃走しようとした高校生が同じく急に倒れ、気絶してしまう・・・・・・。そして、犯人が倒れている間に警官が駆けつけてお縄となり、その後意識を取り戻した犯人は異口同音に「笛の音を聞いた」と主張する。これが一連の事件のパターンであった。

 この妙な事件は新聞の三面記事として取り上げられ、ワイドショーやニュース番組でも放映された。報道によれば、どのケースも筆で“天誅”と書き殴られた半紙が犯人のそばにひらひらと落ちてくるという。そして犯人が倒れる直前、あるいは直後に、きまって真っ赤な天狗の面をかぶった緋色の装束の人間――体格から察するに男ではないかという――が目撃されているのであった。

 当然、そんな事件であれば慎霰の知るところとなる。

 天狗を気取った天誅事件。そして話を聞く限り、そこに関わっているのは恐らく慎霰が捜し求めている天狗の妖具。慎霰が独自に調査を開始するまでにはそう時間はかからなかった。追跡と調査の結果、相手の赤天狗――正確には天狗ではないが――が持っているのはやはり天狗の妖具であることが判明した。そして数珠の反応を元に赤天狗の行方を追い、今日ようやく“天誅”を働く彼を見つけたのであるが・・・・・・。

 敵の持つ笛の効力は思った以上に強く、その音で意識を奪われてしまい、倒れてしまったのである。

 そこまではいい。そこまではいい――が。

 なぜ自分が“逮捕”されなければいけないのか、そこが分からない。

 「天誅を気取っているのは赤い天狗。貴様も同じく天狗であろう」

 桐嶋の詰問口調がこんがらがってぷすぷすと黒煙を上げている慎霰の頭に容赦ない追い討ちをかける。「奴と貴様はグルではないのか? あの下手糞な“天誅”の字はいかにも貴様らしい」

 「冗談じゃねぇ」

 慎霰は拳を握り締めて首を幾度も左右に往復させる。「あんな奴と一緒にすんな! 俺は天狗の妖具が関わってるって聞いたから調査してただけだ! ここから出せよ、俺はなんにもしちゃいねぇんだよっ!」

 「ふむ。それも分からない話ではない――が」

 桐嶋はにやりと笑って一枚の写真を取り出した。「貴様が被疑者だということには変わりない。口を慎め」

 差し出された写真を見て慎霰は目を見開いた。写っているのは、“証拠品”のタグを貼り付けられた一対の小ぶりな刀。黒塗りの鞘と柄、そこに刻まれている不思議なツタの紋様は見間違えようもない。紛れもなく慎霰の愛刀・忌火丸ではないか。

 「貴様の懐から出てきた」

 桐嶋は人差し指でとんとんと写真を叩きながら喉の奥で笑う。「この大きさだと小太刀といったところか。しかし銃刀法違反の要件は立派に満たす大きさだ」

 慎霰は半ばぽかんとして口を開けた。桐嶋は腕を組み、背もたれに長身の体躯を預けながらにやにやと罪名を告げる。

 「銃刀法違反の現行犯。それが貴様の罪名だ」

 なるほど、それでは天誅事件に関わっておらずとも捕まるのは無理はない。――が、そんなことで慎霰が納得しようか。

 「そんなちっぽけな犯罪なんてどうでもいいだろうが! 俺にはやんなきゃなんねぇことがあるんだよ、ここから出せ! ついでに忌火丸も返しやがれ!」

 「あの刀は罪の証拠物件。被疑者の手に戻すことはできんな」

 「んなこと言ったって――」

 「だが」

 桐嶋は腕を組んだまま背中を起こし、にやりと笑って慎霰を覗き込む。「確かに送検には値しない。送検したところで不起訴処分が妥当。その程度ならば最初から警察で処理することも事実上可能」

 桐嶋が何を言わんとしているのか察しかねて慎霰はぎゅっと眉を寄せる。

 「従って」

 桐嶋は悪事を思い立った悪の帝王のような笑みを浮かべて言葉を継いだ。「貴様の改悛の情次第では、罪を不問に付すことも考えぬではない。つまりは司法取引だ、原則日本では認められていないがな」

 「あぁーうるせぇ! 難しい単語ばっかりゴチャゴチャ並べんじゃねぇよ、ソウケンだのカイシュンだのフモンだのってよぉ!」

 まどろっこしい言い方に耐えかねた慎霰は両の拳をデスクに叩きつけて椅子を蹴立てる。「はっきり言いやがれ! 結局俺に何をしろってんだ!」

 「ほう。意外と物分りがいいではないか」

 桐嶋はくっくっと低く笑い声を立てた。「要はこうだ。今回の天誅事件には天狗の妖具が関わっていることが貴様の話ではっきりした。ならば天狗である貴様の力を借りるのがいちばん手っ取り早いというわけだ」

 「・・・・・・そりゃどういう意味だ」

 慎霰の頬がぴくっと引きつる。「協力しろってことか? おまえの捜査に?」

 「まぁそういうことだ」

 桐嶋は組んだ足の上で悠然と両手を組む。「元は所轄の担当だが・・・・・・世間を騒がせている事件でもあるし、面白そうだからな。俺も私兵を使って密かに裏で動いていた。しかし足取りがいまいち掴めずに頭を悩ませていたところでな。貴様も俺の私兵の末席に加えてやろう。ありがたく思え」

 「だーかーらーよぉ」

 慎霰は頭をがりがりとかきむしる。「漢字ばっか使うんじゃねぇって言ってんだろうが! なんなんだよシヘイだのマッセキだのって!」

 「分からんか。要は俺の手下の一番下っ端、という意味だ」

 「下っ端・・・・・・って」

 この俺が? 手下? しかも一番下っ端? こんな嫌味な男の?

 ――冗談じゃない。

 慎霰の頭がその結論を導き出すまでに要した時間は一瞬で充分であった。

 「ふっっっざけんなぁっっっ!」

 慎霰の怒鳴り声は取調室を貫き、フロア全体をびりびりを震わせた。窓ガラスが不快な音を立てて震え、デスクに申し訳程度に出されたお茶の表面が波立つ。しかし桐嶋は尊大な笑みを崩さぬまま動じない。

 「てめぇ人間のくせに生意気だぞ! 俺が本気を出せば忌火丸を奪い返すことくらいなんでもねぇ! 今すぐここから出てってやるからな! ついでにてめぇもタダじゃおかねぇ!」

 「実力行使か。それはそれで構わぬが――」

 桐嶋は不敵な笑みを浮かべてもう一枚別の写真を懐から取り出した。「逃げ出すようなことがあれば、この写真をあいつに見せるぞ」

 そして、親指で少女を背中越しに指しながら慎霰に写真を示した。

 慎霰の顔から血の気が引いた。――写真いっぱいに大写しにされているのは、赤天狗の笛で間抜けに口を開けて伸びている自分の顔ではないか。あまつさえ目は半開き、口からはよだれすら垂れ流しになっているではないか!

 全身から汗が噴出す。いけない。こんな顔をあの少女に見られては何を言われるか分からない。もし見られたらきっとこの先何年にもわたって、下手すりゃ一生ネタにされ続けるだろう。ねえねえしーんざん、あの顔は傑作だったよねっキャハハハ、とでもいった具合に。

 それだけは。それだけは。

 断固、避けなければならない。

 「ねえねえ桐嶋さん、なぁにそれ?」

 案の定、気付いた少女が席を立って桐嶋の背中を覗き込む。桐嶋は「いや、何」と曖昧な返事をしながら慎霰に流し目を送る。さあどうする、貴様の態度次第だ。貴様の命運は俺が握っているのだぞ。桐嶋の目は明らかにそう言っていた。

 慎霰はがっくりとうなだれた。

 ・・・・・・選択の余地はなかった。

 「取引成立、だな」

 桐嶋はにやりと笑って立ち上がった。

 かくして、れっきとした天狗である天波・慎霰は、人間である桐嶋・克己管理官の私兵(手下)の末席(一番下っ端)に加えられる運びとなったのである。





 「本当にここなのか」

 店員がメニューを置いて去った後で桐嶋は慎霰に猜疑の視線を向ける。「休みたくて嘘をついたのではあるまいな?」

 「そんな嘘ついてどうする。こっちだって早く妖具を取り戻してぇんだ、のんびり休んでる暇なんかねぇよ」

 冷房の利いた店内で手足を伸ばした慎霰であったが、桐嶋の言葉は半分は当たっていた。

 所轄所を出た後、慎霰の数珠の反応を元に赤天狗の現れそうな場所を片っ端から当たり、今までの捜査で得られた情報を桐嶋が総括・分析して赤天狗の行方を追っているのであるが、赤天狗に直接つながるような決定的な手がかりは未だ得られていない。

 しかも季節は真夏。憎たらしいくらいの猛暑である。

 自分だけ炎天下で働かされている慎霰が「数珠がこの場所に反応した」と偽って桐嶋をこのカフェに案内したのも無理からぬことであった。

 しかし、数珠がこの近辺に反応したのは事実だ。慎霰の腕の数珠が示したのはこのカフェから見えるテナントビル。何かが現れればすぐに駆けつけられる距離だし、窓際の席からならばさりげなく監視もできる。要は張り込みというわけだ。もっとも、普通の張り込みに比べればいささか快適すぎる環境かも知れないが。慎霰は早速季節限定メニューのカキ氷を、桐嶋はアイスコーヒーを注文した。

 「そんで、よぉ」

 涼しげなガラスの器に盛られたイチゴのカキ氷を猛烈な勢いでかき込みながら慎霰は斜めに桐嶋を見やる。「おまえの推理ってのをちったぁ聞かせろよ。ヤツの目星はついてんのか?」

 「赤天狗は犯罪を行っているわけではない。だから警察も公式に捜査しているわけではない――が、今までの情報からすれば赤天狗の人物像は見えてくる」

 「・・・・・・ふーん」

 桐嶋がガムシロップを立て続けに四つ開け、なおかつそれらを残らずコーヒーに入れて、さらにうまそうに口に運ぶのを見ながら慎霰は半ば呆れて相槌を打つ。

 「真昼間に真っ赤な天狗の面をかぶり、あまつさえ真っ赤な衣装で現れる。自己顕示欲の強いタイプ、この場合は目立ちたがり屋だな。それから、この半紙」

 桐嶋は書類ケースから一枚の写真を取り出してテーブルに差し出した。写っているのは毛筆で“天誅”と書きなぐられた半紙。一連の事件で、空から降ってくるというあの紙である。お世辞にも達筆とは言えない字だ。

 「こんな物をわざわざ用意することから考えても、正義漢を気取った自己陶酔型と見た。おまけにこの下手糞な字。自分の行動に酔っているようだが、中身は伴っていないようだな」

 「相当イタイ野郎ってことか。あーっいててててて!」

 「慌てて食うからだ。意地汚いガキだな」

 カキ氷を一気に食べたおかげで激しい頭痛に見舞われ、頭を抱えてウンウン唸る慎霰に桐嶋は呆れ顔で応じる。

 「おまえはどう見る? 赤天狗が持っている妖具とやらを」

 「さてね」

 頭痛がおさまるまではカキ氷に手を出せない。片手でスプーンを握り締め、片手を膝に置いて残った氷を苛々と見つめながら慎霰は答える。「どこから手に入れたか知らねぇが、結構レベルの高い妖具だと思うぜ」

 「ほう」

 桐嶋はかすかに目を細め、グラスを置いて慎霰を見た。

 「犯人は笛の音を聞いたって言ってんだろ。でも現場にいた他の連中は笛なんか聞いちゃいない。犯人だけに笛の音が届いてるってことだ。普通、笛系の妖具は音が届く範囲にいる全員に効果があるもんだからな。それに・・・・・・意識がなくなったって言ってたろ。相手を眠らせるくらいならともかく、意識を奪うくらい力が強いってのはあんまり聞かねぇな。もしかしたら一時的に魂を奪うような効果があるのかも知れねぇ」

 「なるほど。しかし、レベルが高くて力の強い妖具を普通の人間が扱えるものなのか?」

 「さぁな。見た感じじゃそんな様子はなかった。ツラは見えなかったけど能力者っぽい感じもしなかったぜ」

 そろそろ頭痛もおさまってきたし、もう大丈夫だろうか。慎霰はそろそろと氷にスプーンを差し込んでみる。

 「ならば赤天狗は天狗を気取った普通の人間、か。人間ならば探して捕まえられないことはない。その笛を吹く隙さえ与えなければの話だが」

 「任せろ。今度は本気でやってやる」

 慎霰はスプーンをくわえたままどんと拳で胸を叩いてみせる。「ヒョロそうな奴だからあん時は油断しちまった。笛さえ吹かせなきゃちょろいぜ。真っ先に笛を奪っちまえばいい」

 「知っているか。そういうのを大言壮語と言うのだ」

 「あぁん? 難しい単語使うんじゃねぇって言ってんだろが」

 「分かりやすく言えば、貴様は別の意味での“天狗”ということだ。一度赤天狗にあえなく敗北しておいて何を言う」

 「なんだとコラ!」

 テーブル越しに桐嶋に掴みかかろうとした慎霰だが、はたとその動きを止めた。桐嶋が窓ガラス越しに前方を注視しているのだ。慎霰もつられてその方向に目をやる。視線の先にあるのは幹線道路を支える高架橋。その下、ちょうど暗がりになっている辺りに、若者が数人集まっている。数人のチンピラ風のグループが、ブレザーを着た男子学生を取り囲んでいるところだった。

 「なんだ。カツアゲか?」

 「恐らく。それに」

 桐嶋はちょうど高架橋の斜め前に立っているビルを指した。慎霰の数珠が反応した場所だ。

 「例えば、あの屋上のビルからならばあの連中の様子がよく見える」

 桐嶋の言わんとすることを察して慎霰の全身がぎりっと緊張する。それとほぼ同時に手に巻きつけた緑色の数珠がかすかに震え始めた。数珠の一粒一粒に瞬く間に光が満ちる。

 「行くぞ」

 桐嶋は傍らに置いた紙袋を掴み、二人分の飲食代をテーブルに叩きつけて店を飛び出した。言われるまでもなく慎霰も後を追う。


 


 小高いビルの屋上から悪党どもを見下ろしながら、青年は朱塗りの横笛を唇に当てる。

 真っ赤な天狗の面の下に滾るような怒りと正義を隠して。

 この笛を手に入れた時は心が震えた。笛を手にしたのはただの偶然であったが、これは運命だと感じた。自分にこの世を清めるために神が遣わした聖なる笛なのだと、そんなことさえ本気で考えた。

 ひとたび笛に息を吹き込めば、清浄な空気が体内を満たしていく。

 眼下では、街をうろつくチンピラ系の少年グループが学生服を着た男子学生を取り囲み、恐喝を働こうとしている。

 この涼風のような清い空気はおまえたちには感じられまい。そんなことを考えて青年はかすかに笑みを漏らす。

 ああいう連中がいるから弱い者や正直者が不幸になる。そんなことは断じて許さない。神が許してもこの俺が許すものか。

 「――今こそ天誅を」

 震える声で時代がかった台詞を口にした青年の表情には恍惚が見られた。それはあるいは陶酔とも言えるべきものだったかも知れない。そして小さく息を吸い、笛を奏でようとしたその瞬間であった。

 左手の甲に熱が走った。続いて足に。からぁんと小気味よい音を立てて笛が落下する。何が起こったのか分からなかった。反射的に右手で左手の傷に触れるとぬるりとした感触があり、手が切れたのだと初めて分かった。

 足にも同様の傷ができていた。なぜ? 突然、勝手に切り傷ができるなど有り得ない。あるいは今まさに成敗せんとしていた連中がこちらに気付いて攻撃してきたのだろうか。やや狼狽した目を左右にせわしなく振り向けるが、それらしき姿は見当たらない。

 「どこ見てやがる」

 不意に頭上から舌打ち交じりの声が降ってくる。青年は弾かれたように顔を上げた。しかし不用意に頭上を仰いだのがいけなかった。さんさんと照りつける太陽がまともに目を射り、思わず顔を背ける。

 「天狗を気取るならもちっとマシにことを運びな」

 声から察するに相手は少年であろうか。頭上高くに浮かんだ少年はゆっくりと上体倒し、獲物を急襲せんとする猛禽類のごとく態勢を整える。白い太陽を背にしたその姿は黒っぽい影になってはっきりとは見えなかったが、青年は少年の背中から一対の黒い翼が生えているのを確かに見た。あの時襲って来た少年だと直感した。

 「迂闊に太陽を見上げるなんて甘いんだよ。てめェみたいなマヌケな野郎に天狗を名乗る資格はねぇ!」

 少年は怒気を含んだ声とともに急降下した。弦をいっぱいに引いて放たれた矢のように。

 しかし青年とて伊達に天狗を名乗っているわけではない。少年の第一撃を紙一重でかわし、アスファルトの上をごろごろと転がった。しかし身にまとった赤い羽織りのあちこちが裂けている。少年が起こしたかまいたちだとようやく気付いた。手足の傷もそのせいであろう。しかしそんなことには構っていられない。青年は体を起こすと本能的に辺りを見回した。笛。笛はどこだ。首を幾度も往復させた青年の視界を赤いものが掠める。あそこだ。青年はありったけの力でアスファルトを蹴る。しかし少年のほうが速かった。びゅうっという風切り音が耳元を通り過ぎ、気付いた時には笛を手にした少年が翼を大きく動かしながらゆっくりと目の前に着地していた。

 「ちょろいぜ」

 少年は笛をくるくると手の中で回して腰に手を当てる。「笛さえなけりゃおまえなんか並以下だ」

 「くそ・・・・・・笛を返せ! 俺が下しているのは天誅だぞ、邪魔をするな!」

 「何が天誅だ。これは元々天狗のもんだ。だから返してもらうって言ってんだよ」

 「天・・・・・・狗?」

 「よぉっく覚えとけ。俺は天波・慎霰。てめぇなんぞとは違う、本物の天狗だ」

 慎霰は高らかに名乗りを上げた後で再び翼を開き、アスファルトを蹴る。「悪者退治を気取るなら、せめててめぇの力でやりやがれ! 天狗様のフンドシで相撲取って、偉そうにしてるんじゃねぇ!」

 目にも留まらぬ速さであった。慎霰は真っ直ぐに低空を飛び、突き出した拳に目一杯の力と怒りを込めて青年の顔面にぶち込んだ。よける暇すらなかった。反射的に頭をのけぞらせることすらできなかった。渾身の力を込めた慎霰の拳は真っ赤な天狗の面を粉砕して青年の鼻にまで届き、骨に亀裂が入るかのような鈍い音が聞こえた。

 「無粋だな」

 青年が昏倒したのを確かめて、様子を見守っていた桐嶋は半ば呆れて腕を組む。「天狗のくせにわざわざ殴ることはあるまい。もっと効率的に倒す方法はいくらでもあるはずだ」

 「ムカついたからな。直接殴ってやりたかったんだよ」

 慎霰は青年に近付いてその腹を蹴った。青年はかすかに呻いたが、目は開かない。歳の頃は二十代後半といったところ。健康的に日焼けしてはいるが、男にしては華奢な青年である。

 「ところで、なんだその紙袋? ずっと持ってたけど、結局開けなかったな」

 「ああ。いざという時のための秘密兵器だったんだが、必要なかったようだ」

 桐嶋はがさりと音を立てて手に提げた紙袋を持ち直した。「笛は取り戻したようだな。ならば用は済んだわけだ。こうもあっさり片付けられるのならなぜ前回は負けたのだ?」

 「うっせぇなぁ。笛の力が思ったより強かったんだよ」

 「なるほど。しかし・・・・・・力の強い道具を力のない人間が持つと副作用のようなものが出るというのがよくあるパターンだが――」

 桐嶋の言葉はそこで途切れ、同時に慎霰が警告の声を発する。桐嶋は上体を大きくのけぞらせた。硬い髪の毛が幾本か切れて宙を舞う。慎霰は手を伸ばしたが、遅かった。

 朱塗りの笛が慎霰の手を離れ、禍々しい墨色の光を纏って宙に浮いていたのだ。





 「これが副作用か」

 直感的に事態を察知したのであろう、桐嶋はそう吐き捨てて葉巻を投げ捨てた。「仮にも妖具。やはり使用者に害のない物ではなかったということだ」

 「効果があるかどうかはわかんねぇが、一応耳ふさいでな。音を聞いたら終わりだ」

 慎霰も舌打ちして拳を握り締め、本能的に身構える。やはりそれなりに力の強い妖具だったのだ。この不気味なまでのオーラはどうか。墨汁のように深く、剣のように鋭い。ちょっとでも触れれば皮膚など簡単に裂けてしまうであろう。

 笛はふわりと宙を漂い、青年の手に戻った。青年の体がびくりと痙攣する。そして青年はゆらりと立ち上がった。

 慎霰は息を呑んだ。笛が青年の右手の中でびきびきと音を立てて裂けていく。笛から現れた木の根のようなものが青年の手を突き破り、腕に食い込んで、やがて完全に青年の腕と同化して異形の刀となるまでにはそう時間はかからなかった。

 「くそっ」

 慎霰は激しく舌打ちして地面を蹴った。「一体なんだってんだ! こんな厄介な妖具を人間が持ってんじゃねぇよ!」 

 翼の風圧とともにかまいたちが放たれる。桐嶋は信じられない光景を目にした。青年が右腕を大きく振った、というよりは右腕に食い込んだ笛の刀によって振らされたという様子であったが、ともかく右腕が振り下ろされたと同時にかまいたちがパァンと音を立てて弾け飛んだのだ。

 しかしそんなことは計算済みであった。かまいたちは一瞬でも隙を作らせるための、いわば目くらまし。かまいたちを放つと同時に突進した慎霰は勢いを殺さずにそのまま青年へと突っ込む。振り下ろされたままの青年の右腕は防御には間に合わない。
 とらえた。慎霰も桐嶋もそう確信した。

 が。

 次の瞬間、慎霰はもんどり打ってその場に転がっていた。

 刀から伸びた木の枝のようなものが肩を貫いていたのだ。

 素早く起き上がり、反射的に肩口に手をやる。ジクジクと疼くような痛みと生ぬるい感触、鈍い鉄のにおいに思わず舌打ちが出た。

 <邪魔は、させぬ>

 うつろな目をした青年の口が開いた。それは青年の声であったが、青年の言葉ではなかった。青年に乗り移った笛の言葉であると慎霰は直感した。

 <私は正しいことをした。なのに、なぜこの私が封印されなければならぬ! 力のない己らに悪党の粛清などできるものか!>

 笛の声はもはやただの音であった。高周波の、不快な音であった。慎霰は思わず耳をふさいで顔を歪める。それほどまでに強烈な音だった。魂を奪われてしまうのではないかと思うほどに。

 幾重にも枝分かれした木の根のような触手が慎霰めがけて繰り出される。慎霰は素早く身を傾がせ、アスファルトに右手をついてそれをかわした。その拍子に体が開き、わずかに態勢が崩れる。

 もちろん敵がそれを見逃すはずがない。慎霰の脇を通り抜けた触手が枝をしならせ、軌道を変えてユーターンする。間一髪、慎霰は地面を蹴って空高く舞い上がった。それでも触手の勢いは止まらない。慎霰は舌打ちして矢のごとく一直線に飛ぶ。ちらりと振り返ると触手がホーミングミサイルのような精確さと勢いで後を追って来るのが見えた。この分では物理的ダメージを与えることは相当難しい。慎霰は奥歯を激しく噛み鳴らした。忌火丸を押収されたことが悔やまれる。

 「天波、上へ飛べ! 真上にだ!」

 桐嶋の鋭い声が不意に耳朶を打つ。桐嶋に命令されるのは癪だが、そんなことを考える前に体が反応していた。翼の向きを素早く変えて空を蹴り、直角の軌跡を描いて方向転換する。が、触手のほうは間に合わなかったようだ。勢いを殺すことすらできずに隣のビルの壁へと激突する。桐嶋が何事か叫んだ。両手を伸ばせ、と聞こえたような気がした。反射的に空に伸ばした手に、桐嶋が投げ上げた何かがくるくると回転しながら飛んで来て触れた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

 なおも勢いをつけて上昇を続けながら慎霰は勝ち誇った笑みを浮かべる。両手になじんだこの感触。黒塗りの柄に刻まれたツタの紋様。まごうことない、忌火丸そのものであった。

 壁に突っ込んだ触手は一時的に慎霰を見失っていたらしい。一瞬だけ動きが遅れた。慎霰は空中で素早く後方に宙返りして体に勢いをつけ、刀身から鞘を外した。抜き身の刃から金色の陽気が陽炎のように揺らぎ立つ。そしてそのまま両の刀を頭上に振り上げ、足から矢のように急降下した。

 鋭い気合の声とともに二条の光が一閃した。ざん、という鈍い音、同時に鼓膜をつんざくハウリングのような高音。ありったけの力で振り下ろされた忌火丸は触手を鮮やかに断ち落とし、なおかつ金色の炎が残りの触手に燃え移っていた。

 「焼け死ぬのではないのか?」

 地面に降り立った慎霰に桐嶋が問う。笛の触手は青年の腕と同化しているのだ。触手を燃やせば青年の体にも火がついてしまう。

 「天狗火だからまっとうなもんには害はねぇ。やけどくらいはするだろうが」

 慎霰はふうっと息をついて顎から滴る汗を拭った。「忌火丸、持って来てやがったのか?」

 「いざという時のために、な。この刀を持ってきていることを気付かれぬように厳重に包装するのには苦労したが」

 「証拠品を容疑者に返していいのかよ」

 「司法取引と言ったであろう。赤天狗を見つければ罪を不問に付すとな。赤天狗を確保した時点で取引は成立。ならば証拠品を返しても構わない理屈だ」

 「難しい言葉ばっか並べやがって」

 慎霰はがりがりと頭をかきむしり、倒れた青年へと歩み寄って笛を拾い上げた。

 「ようやく思い出したぜ。ずーっと昔、バケモノみてぇに強い天狗がいたそうだ。そいつは自分の力に酔って、天誅と称して悪者を見境なく斬って回った。魂を斬るほどの一撃だと恐れられたそうだ。腹に据えかねた他の天狗たちが協力してそいつを封じ、封印の目印として一本の木を植えた」

 「なるほど。その木から作り出されたのがこの笛・・・・・・か?」

 「ああ。そいつはしぶとい野郎でな。木になっても力は衰えなかった。周囲の生物の命を吸ってどんどん大きくなっていったそうだ。見かねた天狗たちが笛としてその力を弱めて何とか封じ込めた・・・・・・。笛の音を聞いた連中が意識を奪われたのもそのせいだ。一時的に魂を吸い取られてたんだろう。小悪党をこらしめるのにはちょうどいいだろうが・・・・・・諸刃の剣ってやつだな」

 「ふむ」

 桐嶋は得心した様子で顎に手を当てた。「一時的にせよ魂を奪う笛か。ならば、その笛を常に所持していた者はひとたまりもなかろう。笛の力でいつしか心身を乗っ取られたというわけか。天誅を気取っていたのもあるいはそのせいなのかも知れん。――それと」

 そして桐嶋は懐に手を差し込み、一枚の写真を取り出した。

 「約束の品だ。好きにするがいい」

 と桐嶋が言う前に慎霰は写真を奪っていた。見るのすら恥ずかしい。慎霰は耳まで赤く染めた顔を背けてびりびりと破り捨て、破片を空中にばらまいた。

 「さぁて、一件落着ってか」

 晴れ晴れとした表情で大きく伸びをする慎霰に傾きかけた太陽が穏やかな光を投げかける。遠くで鳴くヒグラシの声が鼓膜を涼やかに刺激した。




 
 その数日後、慎霰は桐嶋に呼び出されて例の所轄署へと出向いた。赤天狗に関する報告をまとめるために協力しろという。約束は果たした以上その命令に従う義理はないが、所轄の連中、特にあの少女に自分の武勇伝を披露するのも悪くない。

 「しーんざん!」

 いつもの物置部屋に入った慎霰を出迎えたのは例の少女であった。両手を後ろで組み、にやにやしながら慎霰を覗き込む様子に嫌な予感を覚えて慎霰は視線をめぐらせる。案の定、物置部屋の粗末な応接セットに腰掛けた桐嶋が不敵な笑みを浮かべながらこちらに視線を送っていた。

 「桐嶋さんにいいモノ見せてもらっちゃった。あんたにも見せてやろっか?」

 「・・・・・・あ?」

 慎霰の頬がかすかに引きつる。少女はなおもくすくすと笑いながらポケットから一枚の写真を取り出した。

 それは、赤天狗の笛で気絶した慎霰の顔をアップで激写したあの一枚であった。

 「てめぇ!」

 慎霰は少女を払いのけ、一直線に桐嶋に食ってかかる。「約束は果たしたじゃねぇか! なんで見せやがったんだよ!」

 「俺は“あの写真”と言ったのだ」

 桐嶋はにやにやしながら胸倉を掴んだ慎霰の腕をほどく。「“データ”とは言っていない。デジカメのデータをこいつに見せたら是非プリントしてくれと言うのでな。貴様はデジカメの写真をプリントするなとは一言も言っていないはずだが?」

 「ふっっっざけんなぁぁぁぁぁ!!」

 顔を真っ赤にした慎霰の怒鳴り声が物置部屋を揺るがした。「そんなの屁理屈だろうが! 返せ、今すぐ返せ! デジカメごとよこしやがれ!」

 「いつ見ても笑えるー。傑作だよねっしーんざん、キャハハハ!」

 「いい加減にしろてめぇ、ぶん殴るぞ!」

 その後数時間にわたって慎霰の怒声と少女の笑い声が署内に響き渡り、桐嶋と物置部屋の主である糸目の警部補は紅茶をすすりながらその様子を観戦していたという。

 無論、完全な他人事として。  【了】


PCシチュエーションノベル(シングル) -
宮本ぽち クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年08月17日

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