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『真夏の夜の夢 』
黒榊・魅月姫4682)&榊船・亜真知(1593)&立花香里亜(NPC3919)

「今日も暑いですね」
 昼下がりの蒼月亭で、黒榊 魅月姫は自分が座っているカウンターの前にいる立花 香里亜とお喋りをしながらいつものようにティータイムを楽しんでいた。
 今日は「暑い夏を爽やかに過ごせるようなお茶」という魅月姫の注文に応え『オレンジ・スパイスティー』が入れられている。オレンジの香りとシナモンの香りが爽やかだ。そしてデザートは今が旬の桃のタルト。それを味わいながら、香里亜とお喋りをする時間が魅月姫は好きだった。
「毎日暑くて大変ね。香里亜は東京の夏は初めてだけど、大丈夫?」
 暑い…と言いながらも、汗一つかかず涼しげに魅月姫がそう言うと、香里亜は笑いながら手のひらで自分を仰ぐ。
「夏は好きなんですけど、こっちは湿度が高いですね。北海道は湿度が低かったから…でも、窓を開けてて魅月姫さんからもらった風鈴が鳴ると、涼しい感じがして何か嬉しくなります。あ、亜真知さんからもらった鬼灯の鉢にも、毎日お水あげてますよ」
 香里亜は今年の春に北海道から東京に来たばかりだ。暑いのは仕方がないが、少しでも涼しい気持ちになってもらえたら…と思ってプレゼントした風鈴を気に入ってもらえているらしい。それを聞き、魅月姫がくすっと笑う。
「気に入ってもらえて良かったわ」
 自分が選んだ物を大事にしてくれているのは嬉しいし、その話をちゃんとしてくれる。香里亜のそういう所が魅月姫のお気に入りだ。元々無表情気味の魅月姫だが、香里亜はそんな事を全く気にしない。
「さて、そろそろ帰ろうかしら」
 魅月姫が時間に気付きカウンターから立ち上がる。蒼月亭は昼と夜の営業の間に休憩があり、あまり長居しているのも迷惑だ。香里亜はいつものようにレジで精算をした後、店の前まで見送ってくれる。
 そしていつものように香里亜が挨拶をしようとしたその時、魅月姫は思い出したように顔を上げた。
「あ…香里亜、明後日土曜の夜だけど何か予定はあるかしら?」
 それを聞き、香里亜はきょとんと目を丸くする。
「いいえ、何もありませんけどどうかしましたか?」
 何もない…という答えを聞いて、魅月姫が微かに微笑む。
「明後日、私が居候させてもらっている神社で夏祭りがあるの。もし良かったら来ない?私と亜真知が神社を案内してあげるわ」
「えっ、いいんですか?」
 その嬉しそうな様子を見て、魅月姫は自分も嬉しくなる。夜も暑い日が続くが、自分が居候している神社は自然が多く涼しげだし、自分の家に香里亜を招くのは初めてだ。それを喜んでもらえたことが素直に嬉しい。
「いいに決まってるじゃない。じゃあ午後六時に境内の口で…神社の場所は知ってるかしら?」
 香里亜がにっこりと笑って頷く。
「大丈夫です。夏祭りか…すごく楽しみです。絶対に行きます」
「待ってるわね。それじゃあ、明後日に」
 そう言って遠ざかろうとする魅月姫の背に、いつもの挨拶が聞こえた。
「ありがとうございました、またお越し下さいませ」

 当日、香里亜は白っぽい地に黒猫と鞠が描かれた浴衣に、薄紫の帯を花結びにして人の多い道を歩いていた。帯留め代わりに魅月姫からもらった赤い薔薇のブローチをして、肩まである髪はくるっとひとまとめにして青い簪で留めている。手には小さな日本酒を包んだ風呂敷と、薄紫の巾着を下げていた。
 その神社は都会の喧噪から切り離された場所にあった。古く由緒正しい神社のようで、近づいていくだけでも空気が澄んでいくのが感じられる。鎮守の森も自然に溢れていて、普段から人々の憩いの場所になっているようだ。
 その境内の口に近づいていくと、そこには魅月姫と一緒に榊船 亜真知が並んで待っていた。二人とも巫女装束で、ぱっと見双子に見える程似ている。
 だが印象は亜真知が『陽』で魅月姫は『陰』と対照的だった。それは悪い意味ではなく、二人の調和が取れているように見える。
「香里亜、こっちよ」
 そう呼びかける魅月姫に、香里亜は小走りで近づいていった。
「こんばんは、魅月姫さん、亜真知さん。今日はお招きありがとうございます。あ、これ小さいですけど神社にお納め下さい」
 ぺこりとお辞儀をする香里亜を見て、亜真知は渡された日本酒を受け取る。
「いらっしゃいませ、香里亜様。こちらお納めしておきますね、ありがとうございます」
「香里亜ってば、今日は私が誘ったのだから、気を遣わなくても良かったのに」
 そう言う魅月姫に、香里亜が笑って首を振る。
「いえいえ、お祭りですから何かお納めしないと。今日はお二人とも巫女姿で素敵ですね。何か緊張しちゃいます」
 左右に魅月姫と亜真知がいる格好になり、香里亜が右手を頬に当てながら見とれるようにそう言った。実際二人の姿は優雅で、道行く人々が思わず振り返るぐらいだ。
 だが、そんな事には構わないというように魅月姫が香里亜の手を取る。
「さあ、行きましょう」
 境内に続く参道に並んだ色とりどりの様々な屋台には、参拝客や祭を楽しみ来た人々が賑わっている。そんな人波の中を魅月姫が香里亜の手を取り色々と説明する。
「私達はここの離れに住んでるの。後で香里亜をお招きするわ」
 そんな魅月姫の様子を亜真知がにっこり笑って見つめている。こんな風に魅月姫が誰かと何かを楽しんでいるのは珍しい。それは亜真知から見て、とても嬉しいことだった。
 そんな魅月姫に手を引かれながら、香里亜は何かに気付いたように二人を見る。
「あ、屋台もいいですけど先に参拝しなくちゃ。手水舎はどこにありますか?」
「え…と」
 いきなり参拝するという香里亜に、魅月姫が戸惑う。そこに亜真知がそっと助け船を出した。持ってきた日本酒といい参拝前の清めといい、香里亜は結構神道に関してしっかりしている。
「こちらですわ、香里亜様。でも、手水舎に寄って行くなんて、よく知ってらっしゃいますね」
「はい、お父さんがそういう作法に厳しいんですよ。だから、屋台とかまわる前にまずお清めをしてお参りして…ってやらないと、何か怒られそうな気がするんです」
 そう言って微笑む香里亜を、亜真知は手水舎に案内した。そこで香里亜が右手にひしゃくを持ち左手を清め、同じように右手も清める。左の手のひらに水を注ぎ、口をすすぐ所までしっかり出来ている。
「香里亜は物知りなのね」
 ハンカチを差し出しながら魅月姫がそう言うと、香里亜は悪戯っぽく笑って「手水の作法」と書かれた看板を指さした。
「全部はちゃんと覚えてないんで、途中ちょっと見ちゃいました。でも、ここはお水も冷たくていいですね。わき水とかですか?」
「ええ、地下からわき水が沸いております。では先に参拝を済ませましょう。屋台も色々出ているので、楽しいですわ」

 『二礼・二拍手・一礼』の参拝を済ませた後持ってきた日本酒を納め、三人は屋台を回っていた。あんず飴を食べながら、香里亜が笑って二人を見る。
「お祭りで売ってる食べ物って、普段食べないのに屋台で見るとすごく美味しそうですよね」
「そうね、あんず飴とかってお祭りでしか売ってないし、私はあまり食べないの」
 魅月姫がそう言うと、香里亜は自分が持っていた最中に乗せられたあんず飴を魅月姫の方に差し出す。
「美味しいですよ。どうぞ」
 一つの物を何人かで分けて食べるというのも魅月姫には新鮮だった。あんず飴だけではなく、チョコバナナや人形焼きなど、ちょこちょこと何か屋台で買っては香里亜はそれを魅月姫や亜真知に分けてくれる。いつもならこういう駄菓子の類を口にしないのに、香里亜が嬉しそうに分けてくれると、それだけでものすごく美味しく感じる。
「美味しいわ。ありがとう、香里亜」
「香里亜様、私達に分けてばかりでよろしいのですか?」
「皆で食べると美味しいんで、いいんですよ。それに少しずつだと色々食べられますから…あ、型抜きやりませんか?私これ上手いんですよ」
 そう言って香里亜は一つの屋台に近づいていく。
 それは白い板に人や傘の絵が描かれており、それを目打ちのようなもので削って抜くという遊びの屋台だった。魅月姫も香里亜の隣に座りそれに挑戦する事にした。
「香里亜、これはどうやってやればいいのかしら」
 女の子が描かれた板を持ち魅月姫が小首をかしげると、香里亜はその板をぺろっと一度舐める。
「一度舐めたりしてから抜くと、上手に抜けますよ。後はちまちまと溝を削るだけなんですけど、何か熱中しちゃうんですよ」
 そう言いながら、香里亜は真剣にカリカリと溝を掘っている。それを見ながら魅月姫も同じようにやってみることにした。そんな二人を亜真知は微笑みながら見つめている。
「…何か単純なんだけど、楽しいわ」
「あ、魅月姫さん上手ですね。これ抜けたらジャムせんべいとかもらえるんで、上手く抜けたら亜真知さんにもあげますね」
「ふふ、楽しみにしてますわ」
 この神社に居候してから二人とも結構長いが、こうやって屋台で遊んだり何か食べたりするのは珍しい。特に魅月姫が「誰かと何かを楽しむ事」は、ものすごく久しぶりのように思える。それがすごく新鮮で楽しく、過ぎていく時間を忘れそうになる。
「はい、抜けましたー。おじさん、ジャムせんべい下さいな」
「私も出来たわ。これでいいのかしら」
 上手く抜けた型を見て、屋台の店主が嬉しそうに二人に商品を渡す。
「お嬢さん達可愛いから、何かおまけしちゃおうかな」
「可愛いですか?そんな事言われると照れちゃいますよ、おじさん商売上手ですねー」
 そんな事を言いながら、香里亜がにこにこと小さなべっこう飴を指さした。店主は魅月姫と香里亜の後ろに亜真知がいるのを見て、べっこう飴を三本渡してくれる。
「みんなで仲良く食べな。美人が三人もいるといいね」
 普段そんな事を言われても全く心が動かないのに、魅月姫も香里亜につられて微笑んだ。
「ふふふ、今日は両手に花なんですよ」
「ありがとう。頂くわ」
 二人が屋台から出るのを見て、亜真知はそっと魅月姫に今の時間を告げた。楽しい時間は過ぎるのが早い。本当はもっと色々と楽しみたいのだが、亜真知からそれを聞き魅月姫は思い出したように香里亜の手を引いた。
「私ってば、香里亜を招待した本当の目的を忘れる所だったわ。香里亜、こっちに来て頂戴」
「香里亜様、もうすぐ奉納舞がありますからご案内いたしますわ」
 二人は香里亜を社殿近くの舞台前に案内する。その前の方にはちゃんと香里亜のために席が用意してあった。
「奉納舞って、もしかして魅月姫さんや亜真知さんが?」
「ええ、ここで座って待っていてね」
 その席に香里亜を座らせ、魅月姫と亜真知が立ち去っていく。辺りには篝火が焚かれ、人々のざわめきが響いてくる。
 しばらくすると、笛や笙の音と共に舞台の両端から巫女姿の二人が現れた。それは魅月姫と亜真知だった。二人が現れた途端辺りのざわめきが消え、感嘆の声が漏れる。香里亜もその二人の美しさに見とれていた。
「綺麗…」
 実はここ数日、魅月姫は亜真知の指導の元でこの舞の特訓を受けていた。それはより美しい舞を香里亜に見せたかったからで、指の先まで凛とした緊張感が漂っている。
 その好対照な二人が舞う舞は、幻想的な美しさと共に更なる神々しさがあった。陰と陽、光と闇…その二つを感じさせつつ、二人は舞台の上で美しく舞い踊る。鼓の音が神々しい空気の中響き渡る。
 それを見ながら、香里亜は思わず呟いていた。
「『神楽』にふさわしいです…」
 神に奉納するための舞。神が人のために舞う踊り。
 真夏の夜の夢のような幻想的な神楽に、香里亜は息も出来ず見とれていた。

「二人とも奉納舞でお疲れなのに、いいんですか?」
 奉納舞や屋台を回ったりするのが一段落した後、香里亜は二人が住む離れに招待されていた。まだ巫女姿の亜真知が冷たい緑茶を出してくれる。
「最初に『お招きするわ』って言ったでしょう?」
「そうですわ。それに魅月姫ってば香里亜様が来るのを、すごく楽しみにしてましたのよ」
 亜真知がそう言った途端、魅月姫がくるりと亜真知の方を振り向く。楽しみにしていたのは本当だが、本人の前で言われるとちょっと恥ずかしい。
「亜真知のお喋り」
 魅月姫がふくれる様子を見て亜真知がくすっと可愛らしく笑う。香里亜は先ほど型抜きの屋台でもらったジャムせんべいとべっこう飴をテーブルの上に置いた。
「楽しみにしてくれてて嬉しいです。お土産も買ったし、なんかいいですね…素敵なお家です」
 純和風の部屋の中で、香里亜が正座をしながらお茶を飲んだ。それは爽やかで冷たく、体にしみこんでいく。
「香里亜はお土産に何を買ったの?」
「えーっと、東京カステラと飴細工で作った鷹です。飴細工間近で見たの初めてだったから、勢いで買っちゃいました。あと、皆で食べようかと思って綿あめも」
 ピンクの袋を開け、香里亜がふわふわとした綿あめをちぎって魅月姫と亜真知に渡した。それを口に入れるとあっという間に優しく溶けていく。
「私、綿あめ大好きなんですよ。全部砂糖だろって言われても、絶対買っちゃうんですよね」
「そうね、ただの砂糖を舐めるのとは全然違うわ」
 楽しく笑いながらお喋りをしている魅月姫と香里亜に、亜真知が皿に乗せた和菓子を持ってきた。
「香里亜様、和菓子も召し上がってくださいませ。『あじさい』と『びわ寒天』ですわ」
「ありがとうございます…あ、いい風…」
 窓からは涼しげな風が吹き込んでくる。
 祭り囃子を遠くに聞きながら、夏の夢のような一夜が過ぎていく。
「香里亜、明日はお店がお休みだから泊まっていったらどう?」
 魅月姫の提案に、亜真知も笑って頷く。
「そうですわね。香里亜様がよろしければ、泊まっていってくださいませ」
「え…どうしようかな…」
 迷っている香里亜の顔を、魅月姫がじっと見る。香里亜はそれに向かって微笑んだ。
「じゃ、甘えちゃいます…って、初めて招かれたのに図々しいかな」
「私がいいって言ったからいいのよ。私の部屋はこっちなの、来てちょうだい」
 香里亜を引っ張って自分の部屋に連れて行く魅月姫を、亜真知は微笑みながら見つめていた。

fin

◆登場人物(この物語に登場した人物の一覧)◆
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
4682/黒榊・魅月姫(くろさかき・みづき)/女性/999歳/吸血鬼(真祖)/深淵の魔女
1593/榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)/女性/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?

◆ライター通信◆
夏祭りへのお誘いありがとうございます、水月小織です。
香里亜を誘っていただくということで、屋台を楽しんだりさせていただきました。
魅月姫さんも亜真知さんも、あまり屋台で何かを買って食べたりとかしなさそうですが、香里亜に引っ張られて色々食べたり型抜きなどで遊んだりと、いつもと違ったお祭りを楽しんでいただけたらなと思っております。
リテイクなどがありましたら、ご遠慮なく言ってくださいませ。
また誘っていただいたりしてくださいませ。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
水月小織 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年08月11日

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