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『『サムシングフォー』 』
メラリーザ・クライツ3271)&朝霧・乱蔵(3272)&(登場しない)


 サムシングフォー。
 それは乙女のジンクス。
 共に人生を歩んでいくと決めた大切な人と幸せになりたい女の子たちが生み出した想いの奇跡。
 最初の想いがそれを作り出し、次の想いがそれを同じように実践して、そうして語り継がれ、想いの力を溜め込んできたが故に力を持った想いの魔法。
 女の子たちに受け継がれてきたジンクス。
 願い。
 祈り。
 どうか二人で幸せになれますように、と。
 私、メラリーザ・クライツと朝霧乱蔵が。



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 知っている。
 死が二人を別つまで一緒に居られる、
 という事がどれぐらい幸せで、
 そしてどれぐらい残酷なのかを。


 扉をノックする。
 部屋の中にはメラコの気配。
 だけどメラコからの返事は無い。
 悪い事が重なったんだ。
 メラコが種から育てた花があって、そのうちの二輪がまったく同じ日に花開く様をメラコと俺は目にしていて、
 そしてだからメラコはその花に自分と俺とを重ねていたんだと思う。
 だけどいくら同じ日に咲いたってそれが同じ日に枯れるという訳も無くって、ましてや永遠に咲いているなんて………。
 だから片方だけが枯れているその光景にメラコはショックを受けたようで、
 魔法で、枯れた花を再び咲かせようとしたメラコをだけど俺は止めた。
 枯れた花に手をかざして魔法の詠唱を唱えようとしたメラコの手を俺は握ったのだ。
 か細いメラコの手首は小さく震えて、そして俺を見たメラコの頬は涙で濡れていた。
 夢を見たそうだ。
 とても哀しい夢を。
 俺に置いていかれる夢。
 夢の中でメラコは俺を探していた。
 だけど見つけられなくって、
 それが哀しくって、
 寂しくって、
 心が痛くって。
 だから俺の家へ朝一番に来たメラコの調子はおかしかった。
 魔法を失敗しなかったし、
 妙にはしゃいで、テンションが高くって、
 それでこの花を見たがって、
 だけどその花は…………


 死が二人を別つまで、愛し合う。
 ―――なんと、物分りのいい言葉。


 そう。そう感じるのはそれを理解できないから。
 愛し合うのならもう絶対に永遠に別れたくない。
 ずっと一緒に居たい。
 どんな犠牲を払ってでも。


「メラコ。メラリーザ・クライツ」
 俺は扉の向こうの彼女に話しかける。
「明日の別れを怖がって、今日はおろそかにするのは馬鹿らしいと思わないか?」
 扉の向こうで震える気配。
 俺は扉を開ける。
 俺のベッドの上でメラコは頭からタオルケットをかぶって、まるまって泣いていた。
 まるで幼い子どものようだと思った。
 怖い夢を見た、それを理由に泣いている。
 そういう時はどうするのだろう?
 ―――ふと考える。
 俺はメラコをタオルケットの上から抱きしめて、頬があると思われる場所にタオルケット越しにキスをした。
 ―――決まっている。怖い夢を見た幼い子どもは親の布団に潜り込むものだ。
 メラコは怖れていた。
 絶対的な別れ、死を。
「メラコ。ありがとう」
 ―――そんなにも俺を愛してくれて。



 そう。
 メラコの愛を感じた。
 メラコは全身で言ってくれていた。
 俺を、
 置いていくのも、
 俺に、
 置いていかれるのも、
 嫌だって。
 だからメラコは死に対して泣いている。



 それに呆れる事は無い。
 呆れを通り越して苦痛を感じる事も無い。
 ただ嬉しかった。
 誰かにそこまで愛される事が。
 自分が誰かの心をそこまで独占する事が。



「なあ、メラコ。俺はそんなにも俺を愛してくれるメラコに何がしてあげられるだろう? 何をあげられるだろう?」
 


 決まっている。
 そんなにも俺で自分の心をいっぱいにするメラコに俺があげられるのは俺しかなくって、
 俺に置いていかれる事も、
 俺を置いていく事も、
 悲しんで怖れているメラコに俺がしてあげられる事は一つしかなくって、
 だから俺は、俺をメラコに、



「メラコ。俺をメラコにあげる。契約しよう」
 タオルケットの下からぎゅっと細くってか細い腕が、だけど力強く俺を抱きしめてくれて、
 だから俺はああ、もうこの腕があるから、俺は独りになる事は無いんだ、と俺自身もどこかで安心した。
 壊れ物の硝子細工を抱きしめるように俺もメラコを抱きしめた。



 +++


「メラコ。俺をメラコにあげる。契約しよう」
 その言葉が嬉しかった。
 ただ嬉しくって、
 涙を流した。
 大声で嬉しくって泣いた。
 本当に幸せだったから。
 欲しかったものがあった。
 心の奥底から愛する事が出来る人。
 その人に愛してもらえて、大切にしてもらえる自分。
 その両方を手に出来た事への歓び。
 死が怖かった。
 乱ちゃんを置いていく事も、
 乱ちゃんに置いていかれるのも、
 本当に凄く怖かった。
 明日を怖がって、今日をおろそかにしたら、そしたら今日の乱ちゃんにすら嫌われてしまう。
 ―――うん、それをわかっていた。
 だけどどうしようもできなかった。
 知ってしまっているから、乱ちゃんの温もりを。
 二人で居る時間の優しさを。
 だから、置いていく事も、置いていかれる事も、
 嫌だったの。
 ただ、乱蔵さんを愛しているから。
 だから言いたかった。
 私にあなたをください、って。
 あなたを、
 あなたの心を、
 あなたの未来を、
 私にください、って。
 私には何も出来ないかもしれないけど、
 だけど私も私を乱ちゃんにあげるから、
 この身体を乱ちゃんにあげる。
 気に入ってくれると嬉しい。
 私の心は乱ちゃんでいっぱい。
 だけどもっともっと私の心を乱ちゃんにあげる。
 私の未来を乱ちゃんにあげる。
 何でもしてあげる。
 乱ちゃんに。
 何にでもなってあげる。
 乱ちゃんのためなら。
 それぐらい私はこの恋に命をかけている。
 あなたが大好きで、
 そして運命を感じているの。
 あなたは私が一生添い遂げる人だって。
 だから死が二人を別つのが怖かった。
 ずっと二人一緒に並んで歩いていきたかったから。
 独りぼっちになるのも、
 独りぼっちにしちゃうのも嫌だったの。
 泣いちゃうのも、
 泣かせちゃうのも、
 嫌ぁ。
 だからごめんね、ありがとう。
 だから私は朝霧乱蔵さん、あなたをもらいます。



 +++


 後悔は別にしてはいなかった。
 メラリーザ、メラコに契約を申し込んだ事には。
 だけど果たして俺がメラコの契約者となって良いのか? という不安や迷いはあった。
 俺は俺しかメラコにあげる物が無いから、だからメラコにそう言ったけど、だけどそれでメラコが救われるかというと、本当はそれで俺が決定的にメラコを不幸にしたような気がした。
 俺よりも優れた魔術師が居るかもしれない。
 そいつと契約した方が………
 いや、そもそも契約なんかして力を弱めていいのか?
 だってメラコは契約したらエレメンタリスの力が弱まってしまう。
 それはメラコにとって契約のデメリットでしかない。
 本当はもっと別の方法があったんじゃないのか?
 なのにそれを早まって―――
 本当は俺の方こそがメラコと一緒に居たくって、メラコを独占したかったんだ。
 夕暮れ時の家の庭。枯れた二つの花を前に俺は黄昏る。
 いっその事、俺の心よ、死んでしまえ。



 +++


 家の箪笥を調べる。
 上から下まで。
 服や下着、ハンカチ、その他のごちゃごちゃとした物全部取り出して、ひっくり返して。
「みょぉ〜」
 無いよ〜。
 おかしいな………。
 確かここの箪笥にしまっておいたと思うんだけど。
 我が家に伝わる桜貝のイヤリング。
 口から零れるのはため息ばかり。
 部屋の惨状を見て、憂鬱が倍に膨らむ。
 私はベッドに倒れこんで、枕に顔を埋めた。
「みょぉー」
 机の上の紙袋。
 その中に入っているものは友達から借りたベール。
 Something Borrowerd(サムシングボロー)
 すでに幸せな結婚生活を送っている人から借りた物を身につける事で、その幸せをお裾分けしてもらえるように、って。
 それから、
 Something Blue(サムシングブルー)
 蒼いガーター。
 少し色気があって、お洒落で可愛いの。
 あくまでさりげなくっていうのがこれのポイント♪
 それから、
 Something New(サムシングニュー)
 新しい靴。
 乱ちゃんと歩む二人の新しい人生が幸せになりますように、って。
 だから後は、
「Something Old(サムシングオールド)、何か古い物だけなんだけどな………。みょぉ〜」
 何か古い物、我が家に伝わる、私が誰か好きな人ができたら、その人と結婚する事になったら、式で使いなさいって、貰った桜貝のイヤリングだけ。
 なのにそのイヤリングが見つからない。
「どうしたんだろう、私? どこにしまったのかなー」
 両手と両足をばたばたとさせる。クロールみたいに。
 疲れた…。
 休憩。
 みょぉ〜。
 とても大切な物なんだから、失くす事なんてありえないはずなのに。
「みょぉ〜」
 枕に埋めていた顔を動かして、写真盾の中の乱ちゃんを見る。
 私の大切な人。
 大切な、人………
「みょぉー」
 そうだ!
 バネ仕掛けの玩具のように私はベッドから飛び起きる。
 桜貝のイヤリングはとても大切。
 だからとても大切繋がりで、それを乱ちゃんに預かってもらっていたんだった。
 桜貝のイヤリングは乱ちゃんの家!!!



「乱蔵さん!!!」
 バぁン、ドアを開けたら乱ちゃんは驚いたような顔をして私を見た。
「なんだ、メラコ。そんなに急いで?」
「あ、うん、あのね、乱ちゃん。あ、ああの、サムシングフォー、けほけほけほ」
 あんまり急いで走ってきたので私の喉はカラカラ。
 咳き込む私に乱ちゃんは落ち着け、って冷たい水が入ったグラスを手渡してくれた。
 私はそれを飲んで深呼吸。
 乱ちゃんはため息を吐いて、だけど優しい顔で私の髪をくしゃっとしてくれる。
「どうした、メラコ? またおまえ、俺がどこかへ居なくなるかも、と思ったのか?」
「ううん。違う。違うの。えっとね、桜貝のイヤリング。桜貝のイヤリングを探していたの!」
 私が両手をぶんぶん振りながら言うと、乱ちゃんは大きく肩を竦めて納得いった、というような顔をした。
 箪笥の引き出しから小さな小箱を取り出して、
 その小箱を私に渡してくれる。
 なんだかかわいらしい小箱。
 乱ちゃんの顔も何だかくすくすと笑っている。
 私も何だかわからなくって、それで何だかドキドキしながら小箱の蓋を開けてそしたらその小箱が鳴り出して、私はそれがオルゴールだと知って、
 そのオルゴールには桜貝のイヤリングが入っていた。私は邪魔にならないように小瓶に入れて渡したはずなのに。
「乱ちゃん、これは?」
「トロイメライっていう曲のオルゴール。メラコにぴったしのような気がして前に買ってきた。だってメラコ、その桜貝のイヤリング、味気の無い硝子の小瓶で渡すんだからな。だから、大切な物に相応しい入れ物を用意してやりたくなった」
「みょぉ〜。ありがとう、乱ちゃん」
「どういたしまして」
 トロイメライ、いい曲だね。
 その優しいメロディーに耳を澄ませながら乱蔵さんの胸におでこをくっつけると、乱蔵さんは優しく受け入れてくれた。
 それから少しだけ乱蔵さんの心臓のリズムが早くなったのがおでこに伝わった。
「なあ、メラコ。サムシングフォーって」
「あ、待って、乱ちゃん、言っちゃダメ」
 私は慌てて顔を上げようとして、
 そしたら私の頭と乱ちゃんの顎とがぶつかって、
「みょぉ〜」
「痛てぇ」
 お互いに頭と顎とを押さえてしばらく悶絶。
 それから二人で顔を見合わせて笑いあう。
 乱ちゃんが何かを言おうとして、
 私は唇の前で右手の人差し指一本立てる。
「それは、言わないの」
 だってそれは男の子にはナイショ。
 でも、
「この桜貝はね、私が誰か好きな人と一生のうちで5本の指に入るとても嬉しい日に身に付けなさい、ってもらったの。だから、ね」
 にこりと笑う。
 乱ちゃんに大好きだよ、って最大級に込めて。
 そしたら乱ちゃんは私の頭の後ろに大きな右手を回して、
 左手は私の背中に添えて、
 ぎゅっと抱きしめてくれて、
 私の髪が乱ちゃんに触れるのがわかって、
 それが乱ちゃんの唇だったから少し嫉妬。
 だけど良いの。
 抱きしめてもらった事が嬉しいから。
 幸せだから。
 だから私は乱蔵さんに最大級の想いを込めて、言葉を紡ぐ。
 乱蔵さんへの想いを込めて、
 真摯に、
 敬意を表して、
 私なりに静謐な声で、
 言葉を紡ぐ。
「あのね、乱ちゃん。私はね、乱ちゃんじゃなきゃダメなの。乱ちゃんは私じゃなくっても幸せになれるけど、でも私は乱ちゃんじゃなきゃ幸せになれないの。乱ちゃん、そんな乱ちゃんに私は出逢ってしまったの。だから乱ちゃん、責任取ってください」
 それから上目遣いで乱ちゃんを見ると、乱ちゃんは優しく微笑んでくれていて、私の頭をくしゃっと撫でてくれた。
「メラコは本当に馬鹿だなー」
「あ、乱ちゃん、ひどい」
 ぷぅーっと頬を膨らませる。
 だけど上手く膨らませられなくって、だから私は尖らせた唇から空気を吐いて、くすくすと笑って、
 想いの全部をそれだけで表現できる言葉を口にする。
「乱ちゃん、大好き」
 乱ちゃんは小さく息を吸い込んで、それからこくりと頷いた。
 私は続けて言う。
「もう絶対に私は乱ちゃんから離れないから覚悟してね。もうやっぱり止め、とかって言い出したって遅いんだからね、乱蔵さん」
 こつんと乱ちゃんのおでこが私のおでこに当てられる。
「俺が言い出した事だ」
「うん」
「絶対に責任は取る。エレメンタリス、メラリーザ・クライツ。契約者として俺がおまえを守るから」
 おでことおでこをあわせたまま乱ちゃんが言う。
 優しく乱ちゃんの吐息が私の顔をくすぐる。
 その感触に私の理性は溶けて、だから私の理性が溶けた心は砂糖菓子のように甘い感情に素直に言葉を紡ぐ。
「契約者、としてだけ?」
 そしたら乱ちゃんの顔が真っ赤になって、
 私はそれが面白くってくすくすと笑ってしまって、
 乱ちゃんはその笑い声を止めるように、さっきの答えを口にしてくれるように優しい衣擦れの音を立てて私を抱きしめてくれて、そしてキスをしてくれた。



 +++


 そこは神殿。
 厳かな空気はふんだんに魔法の粒子を含んでいて、
 かつて無いほどに魔力が充実していくのがわかった。
「乱蔵さん、ここのどこで契約をするの?」
「それも試練の一つ」
「え?」
「そういう試練を乗り越えた者たちだけに契約が許されるんだ」
「みょぉ〜。それは大変だぁー」
 そういうメラコの言い方はちっともその大変さをわかっていないようで、それが何だか妙な肩の力を抜いてくれた。
 だから俺は、メラコを選んだのかもしれない。
「行こう、メラコ」
「はい」
 薄暗い神殿。
 メラコはネズミや虫がいたら嫌だよぉ〜と怖れてはいたけど、
 俺はその心配はしてはいなかった。
 神殿の空気は清浄で、澄み切っていた。
 そんな神聖な場所にはそんな汚れた物は居られない。
 ただ、だからこそ招かざる客も排除されると言う事だ。
 ここは古の昔からいくつもの儀式が行われてきた場所であるが、ただしそれに失敗した者たちはその倍以上に居たのだとか。
 果たして神殿はしかし妙な細工がある訳でも、
 神殿を守るガーゴイルなどが居る訳でも無かった。
 それどころか俺たちはすぐに神殿の最奥まで辿り着いてしまった。
「みょぉ〜。隠し扉?」
 メラコは辺りの壁を構わず叩いているがしかしそれで何かが見つかるとは思わない。よもやここまで着て変な壁を叩いたら侵入者排除のトラップが始動すると言う事も無いだろうけど、止めるべきだろうか?
 ここは儀式場だ。ならばそれに相応しい仕掛けがあるはず。
 俺は魔力を上げてみる。
 気をつけないとここは魔法の粒子が濃いからそれに引っ張られてしまう。
 だからそうならない程度に魔力をコントロールして、
「あ、乱蔵さん、そのまま!」
 メラコの声に俺は彼女の視線の先に自分の視線も重ねる。
 そこには祭壇に文字が書き込まれていて、そしてなるほど、その文字は、騙し絵だった。
 文字の立ち並ぶ姿は門の様に見えるのだ。
「この門が開けばきっと行けるよ」
「ああ。でかしたぞ、メラコ」
「みょぉー♪」
 でも危うい。
 少しでも魔力のリズムを落とせば、門は閉まるし、逆にこの周りの魔法の粒子に引きずられれば俺は暴走してしまう。
 しかも適当に発揮した魔力からこちらのレベルを即座に計算してきて、それに合わせてきたところを見るとこの仕掛けは随分と性格が良い。
 にやりと笑わずにはいられない。
 ここで扉が開く前に止めればメラコとの契約はもう永遠に出来ない。
 だからやるしかない。
「みょぉー。乱蔵さん、大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫。メラコがせっかく見つけてくれたんだ。だから俺も頑張らないと」
 そう言うと、
 そしたらメラコが頬を膨らませて、
 魔力を放出し続ける俺の右手を両手で握ってくれて、
 それで俺の中にメラコの魔力を充填してくれる。
「私は乱蔵さんのように上手く魔力をコントロールできないけど、でも乱蔵さんにこうやって私のをあげるのはできるから。だから独りだけで頑張らないで。頑張り過ぎないで」
 俺は小さく息を吸い込む。
 そうだった。
 これからはもう俺独りだけじゃなくって、二人で歩いていくんだった。
「ああ。悪い。メラコ」
 俺がメラコに微笑むと、
 魔力の放出で苦しいはずなのにメラコもいつもの表情で笑ってくれた。
「みょぉー」


 かくして神殿の扉は、開く―――。



 +++


 門をくぐるとそこには道。
 よく見知った道。
 私の家から乱ちゃんの家へ行く道。
「俺の前にはメラコの家へ行く道がある」
「え? それってどういう、事?」
「わからない。だけどお互いに大切な物への場所に繋がる道があるのなら、そこへ行っても間違いないんじゃないか?」
「うん」
 それから私たちは二人で道を行く。
 私は乱ちゃんの家へと行く道を歩きながら同時に乱ちゃんが歩く道を思って、そして乱ちゃんの歩き方を見ているとそれは乱ちゃんもで、
 私たちは私たちの道を歩きながら同時に相手の歩く道の事も考えて、
 そしてそれはこの道だけではなくって、これからの二人歩く道も同じなはずで、
 歩き慣れたその道を歩きながら私は改めて人と一緒に歩く事の思いやりの大切さを知って、そしてそれを忘れない、と誓った。
 私に自分をくれた乱蔵さんのために。



 そして私たちはそこに着くと同時に顔を見合わせあった。
 そこには花。
 一面に世界中の花が咲き乱れていて、
 そしてたくさんのソーンの聖獣たちも居て、
 咲き乱れる花が、
 聖獣たちが、
 私たちを祝福してくれていて、
 それが本当に感慨深かった。
 私はその想いの中、手に持っていたバスケットから花で作った冠を取り出した。
 私の王子様に差し上げる花の冠を。
「乱蔵さん」
 乱蔵さんは優雅に一礼をして、
 そして私の前で忠実な騎士が姫にそうするように片膝をついてくれて、私はその頭に花の冠を乗せる。
「今より朝霧乱蔵、あなたは私の契約者です」
 立ち上がってまた、優雅に一礼。
「拝命いたします。我がエレメンタリス、メラリーザ・クライツ」
 そして今度は私が朝霧乱蔵のエレメンタリスとして清楚にスカートの裾をわずかにあげて、一礼する。
 契約者の顔を見る。
「メラリーザ・クライツ。汝を我がエレメンタリスとして我は契約する」
 乱蔵さんの契約の儀式。
 口付けが額にあてられる。
 唇が触れた額がとても熱くって、そしてその温もりがゆっくりと全身に行き渡ると共にその額の熱も消えた。
 契約の完了。
 その瞬間に聖獣たちが歌を歌いだし、
 乱ちゃんを見ると、乱ちゃんはにこりと笑いながら一礼して、手を差し出してくれる。
 だから私もスカートの裾をわずかにあげて一礼。
 二人でワルツを踊った。



【ending】


 契約は完了した。
 その契約によって俺のエレメンタリスとなったメラコの力はわずかにだが弱まり、
 その代わりに俺の魔力は高くなった。
 純然たる魔法の攻撃力、防御力は高まり、
 さらには水の属性たるメラリーザを得たせいかそれを守るために炎への耐久性も格段と高くなっていた。
 メラコは自分がエレメンタリスとして弱くなってしまった事にしかし別段ショックを受けてはいない。それよりも俺と契約できた事、それによって寿命が一緒になった事が嬉しいそうで、
 そして俺はそんなメラコを守るための力が増した事が、得られた事が嬉しくって、
 だからこの契約をした事には、後悔は無かった。
 契約のデメリットとしては、寿命が重なると言う事で、もしも俺が命に関わる怪我を負い、それによって命を失くせばメラコも死なせてしまう事もあるし、
 それに、
「メラコ、また」
 俺は見えてしまったメラコの見ている光景に眉間に軽く握った拳を当てる。
 どうやら契約によってお互いが繋がった事でメラコの感情が高ぶった時にだけ、その光景が見えるようで、
 だから、メラコがドジをする度に頭の中に割り込んでくる光景に俺は軽い頭痛と、そしてなんだか自分がメラコの日常を覗き見しているような罪悪感を感じるのだった。
 まあ、だけど今はその事は脇に置いておいて、早くメラコの所に駆けつけてやらねばと思う。俺のお気に入りの硝子の大皿を割って、へこんでいるし、その硝子の破片で大事な俺のメラコが怪我をしてしまわないように。


 →closed


 ++ライターより++


 こんにちは、メラリーザ・クライツさま。
 こんにちは、朝霧・乱蔵さま。
 いつもありがとうございます。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
 ご依頼、ありがとうございます。


 今回もまた、いつも可愛らしくって一生懸命で乱蔵さまが大好きなメラリーザさま、
 カッコよくって、やはりものすごくメラリーザさまを思っている乱蔵さまを書けて嬉しかったです。^^
 いかがでしたでしょうか?
 お気に召していただけていますと幸いです。^^



 メラリーザさま。
 ご依頼、ありがとうございます。^^
 乱蔵さんが大好き、という可愛らしくって、健気な一生懸命の想い、それをメラコさんらしい可愛らしい感じで書けた事も、
 そして儀式に関して、「あのね、乱ちゃん〜責任取ってください」、のシーンを訥々と、だけど真摯な声で言っているシーンを書くのも、他の感じとは少し調子の違う感じで書けて、楽しかったです。
 各所に込められたメラリーザさんの乱蔵さんへの想い、本当に素敵な女の子ですよね。^^
 もちろん、実は要所要所で乱蔵さんを支えているメラリーザさんのしっかりとした感じも素敵だと思います。
 こういうのは本当に女の子の特性ですよね。
 男の子よりも女の子は精神性も感性も高いからこそ、いざという時は強いですから。^^ だからノベルにメラリーザさんのそういう事が感じられるシーンを書きこむ事も二人の関係を書く上ですごく大切な事かな、と思います。
 それでメラリーザさんの心の奥深さ、強さ、感性を表現できますし、
 それで乱蔵さんの心も書き表せますから。
 二人支えあい、想いをつぎ足しあう関係も。^^
 それがまた楽しかったりします。^^
 本当にご依頼、ありがとうございました。


 乱蔵さま。
 ご依頼、ありがとうございます。^^
 儀式に関して揺れ動くシーンは本当にメラコさんの事を愛おしく思っていて、だけどだからこそ迷ってしまうそんな切ない感じを目指しました。
 だけどその迷う思いこそが二人で一緒に居る事の答えなんだよ、動機なんだよ、という事をわからせてくれるメラコさんの想いを聴くシーンは本当に書きながら乱蔵さんは幸せ者だね。だからこそ安心して二人で一緒に居られるね、と乱蔵さんに良かったね、幸せになるんだよ、と祝福する想いで一杯になってしまいました。
 本当に乱蔵さんは幸せ者ですよね。
 突然頭の中に割り込んでくるメラコさんの失敗シーンに落ち込む乱蔵さんの姿はなんだかでもちょっとかわいらしいなー、とも思ってしまいます。^^
 ちなみにこのデメリットが判明したのは儀式をした夜、体重計で予想外の数字が出てしまって、メラリーザさんがみょぉ〜と泣いている時です。その数字が感情の高ぶりのせいで見えてしまって、乱蔵さんが男の子の意見と女の子が持つ理想の違いにしどろもどろしながらもメラコさんを慰めようとしたら、みょぉ〜と真っ赤な顔で恥ずかしがるメラコさんに枕をぶつけられた、っていう裏設定があったりします。^^
 本当にご依頼、ありがとうございました。



 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 ご依頼、本当にありがとうございました。
 失礼します。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
草摩一護 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2006年08月07日

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