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『悪魔のダンス 』
ジェームズ・ブラックマン5128)&ナイトホーク(NPC3829)

「………」
 日曜日は蒼月亭の定休日だ。店の入り口には中からレースのカーテンが掛けられ、看板は「Closed」になっている。
 午前十時。ジェームズ・ブラックマンは店の裏手にあるドアチャイムを押し、店主のナイトホークが出てくるのを待った。ナイトホークが店の地下を住居にしていることや、定休日にもほとんど出かけるようなことはない事をジェームズは知っている。
「またか…」
 寝ているわけではないだろう。大体こういう時はどこに行っているかを、ジェームズはよく知っている。ナイトホークの縄張りといえば、店からさほど離れていない所なのだ。
 仕方がない。ジェームズは心当たりの場所に足を向けた。
 確実にナイトホークはそこにいるだろう。

「…『カニみそラーメン』と『激辛スープカレーラーメン』のどっちにするかな」
 一方その頃ナイトホークは、コンビニのカップ麺売り場二つの商品を手に取り、真剣な顔でそれらを見比べていた。その二つはどうやら新製品らしく、初めて見たばかりの商品だ。
 店にいる時は見た目や栄養バランスも考えた料理を作るのだが、休みの日には出来るだけ仕事をしたくない。そうなると自動的にコンビニに足が向く。そして、あまり人には言えないがこういうジャンクフードもナイトホークは結構好きだ。見つかると色々言われそうではあるが…。
「カレーも食いたいけど、カニ気になるよな、カニ」
 そんな時だった。
「…何をしている?」
「うわ!」
 一番見つかりたくない者に見つかってしまった…ナイトホークは買い食いを見つかった子供のようにそーっと振り返る。そこにはいつもの黒スーツを着たジェームズが立っていた。普段と違うのは、眼鏡をかけていることぐらいだろうか…。
「おはようございまーす…奇遇ですね、こんな所で会うなんて」
「おはよう。気持ち悪いから、その妙な敬語はやめろ」
「気持ち悪い言われた…」
 ナイトホークはぶつぶつと呟きながらそっとカップ麺を隠してみた。だがジェームズは、そっと横から覗き込む。
「そこに隠している物は何だ?また朝から妙な物を食べるつもりか?」
 自分でちゃんとした料理を作った方が絶対美味しいはずなのに、どうしてこういう物を食べたがるのか、ジェームズはそれが分からなかった。よく見ればカゴの中には他にも『タピオカミルクコーヒー』とか『ハチミツトースト味スナック』とか『ジンギスカンキャラメル』とか訳の分からないものが入っている。
 ナイトホークは憮然としながら二つのカップラーメンをジェームズに見せた。
「クロだったらどっち食べたい?」
「どっちも却下だ」
 しかも普通のカップ麺ならともかく、ナイトホークが選ぶのは大抵妙な物だ。だいたいカップ麺のコストでカニが使われるとは思えないし、カレーとラーメンを一緒に食べる必要があるのか…ジェームズはその二つを取り、棚に戻し始める。
「自分で作ればいいだろう」
 ジェームズがそう言うと、ナイトホークはカゴを持ちカップ麺の棚から離れ始めた。そして今度はパンが置いてある棚に行く。
「だって休みの日にまで仕事したくないんだよ…あ、この『ちくわパン』って食ってみたくない?練り物とパンのハーモニー」
 ……ダメだ。
 完全に自分で食事を作る気がないらしい。ジェームズはちくわパンを取り上げ、さっきと同じように棚に戻し、溜息をつきながらこう言った。
「朝食ぐらい変な物を食べるな。仕方がない、私が作ってやる…」
「えっ?本当?」
「カゴを貸せ。一緒に買い物してやろう」
 ナイトホークが下げていたカゴを取り、ジェームズは自分の手に持っていた限定復刻版の『チョコ卵』をそのカゴの中に放り込む。それはチョコの中に入ったカプセルの中に、おもちゃやフィギュアなどが入っている物で、ジェームズはそのコンプリートに最近熱心だ。
 それを見てナイトホークが呟く。
「自分だって変なもの買ってるくせに…」
「何か言ったか?」
「ううん、何にも」

 蒼月亭のカウンターで、ナイトホークはだらだらしながらジェームズが料理を作るのを待っていた。店の中に音楽はかかっておらず、お互いの話す声が良く聞こえる。
「クロが眼鏡って珍しいな。貸してー」
 長いつきあいだが、ジェームズが眼鏡をかけている所をあまり見たことがない。ジェームズは料理をしながらその声に顔を出す。
「貸すのはいいが壊すなよ」
 それを聞きナイトホークが悪戯っぽく笑う。
 ジェームズは夜目も利くし、目は悪くないはずだ。伊達眼鏡だということは分かっているが、何だか余計なことを言いたくなる。
「クロ…もしかして老眼?」
「伊達眼鏡だ」
 できたてのチーズオムレツに人参とタマネギのサラダ、トーストを持って出てきたジェームズが、少し乱暴に皿を置いた。オムレツはふわっと湯気を立て、美味しそうなバターと卵の香りを漂わせている。
「いただきまーす。あ、買ってきたコーヒー飲もう」
 ナイトホークはそう言ってから、先ほどコンビニで買った『タピオカミルクコーヒー』を一口飲み、微妙な表情をした。
「どうした、夜鷹」
 その微妙な表情を見ながら、ジェームズは勝手にコーヒーの入っている冷蔵庫を開け、コーヒーミルに豆を入れる。カウンターの中に何があるかは大体分かるし、ナイトホークも何も口出しはしない。
「騙された…これタピオカじゃない。材料見たら『こんにゃく粉』って書いてある…タピオカの味全然しない。つか、粒こんにゃくだ…」
 差し出されたそれを見ると、確かに原材料名の所に『こんにゃく粉』と書いてある。おそらくタピオカをそのまま入れると時間の経過でふやけてしまうからなのだろうが、コーヒー飲料にその原材料名はインパクトがありすぎる。
「一口飲んで、粉にんゃくとコーヒーの不協和音を共有してみない?」
 トーストをかじりながらそう言うナイトホークに、ジェームズはそれを突き返した。
「私は『老眼』らしいから、今のは見えなかった」
「うわ、ひどい。どうせチョコ卵のチョコを俺に押しつけて、おまけも俺の部屋に置いてくくせに」
「ええ『老眼』なので」
 どうやらさっきのことを根に持っているらしい。
 話題を変えた方が良さそうだ…ナイトホークは黙って朝食を食べることにした。オムレツが冷めてしまっては勿体ない。それはナイフを入れるとまだ半熟の部分がとろりとしていて暖かいチーズが糸を引く。
「旨い、誰かが作ったメシって格別の旨さだよなー」
 そう言って満面の笑みを浮かべるナイトホークに、ジェームズはコーヒーを入れながらふっと微笑む。自分が作った物を美味しいと言われるのは悪くない。
 それに料理を作るのは結構好きなのだ。機会がさほどないので、どうしても限られた時になってしまうのだが、たまにはこういうのもいいだろう。
「そういえば、クロは腹減ってないの?」
「ああ、私は朝食を取ってきたからな…そう言えば『鳥が、羽ばたいた』ぞ。カラスに会った」
 話に繋がりがなさすぎるあげく、ついでにされるにはあまりに深刻な内容に、ナイトホークは飲んでいたタピオカミルクコーヒーを吹き出しそうになった。それをこらえたせいで思わず咳き込み、ジェームズが目を丸くする。
「ゲホ…そういうことは、ついでに言うな…ゴホゴホ」
 『鳥が、羽ばたいた』とは、ナイトホークがいた研究所関連の話をする時の符丁で、お互いにしか通じない暗号のようなものだ。だが、それを言ったジェームズはさほど深刻そうでもなさそうに、コーヒーを入れている。
 ナイトホークは大きく深呼吸をして顔を上げた。
「で、カラスってあのカラスか?」
 研究所にいた鳥の名前。
 鳥に関しては前にもジェームズから話を聞いたが、こうも短期間の間に聞くと何か裏があるような気がしてならない。コーヒーの香りが立ち上る中、湯気の向こうでジェームズが笑う。
「いやカラス違いだ。だからそんなに驚かれると困る」
「…そういうことは、先に説明してくれない?」
 ストローでコーヒーを飲みながらナイトホークが大きく息を吐いた。昔の話とはいえまだ生々しい記憶なのか、それとも何か思う所があるのかは分からないが、頬杖をつきながらサラダを口に入れる。
「あー、驚いた。とりあえず飯全部食おう。クロってオムレツ作るの上手いよな」
「そうか?」
「うん、ずっと店やってる俺が言うんだから上手いんだって。今の仕事に飽きたら、店で雇ってやるよ」
 今の仕事…と言ってからナイトホークがふふっと笑った。
 退屈しのぎに今は交渉人などという仕事をやっているが、それもいつ飽きるか分からない。刺激のない生活だと退屈に殺される。永遠にも近い程の長い時間を過ごすのなら、ある程度の危険やリスクが欲しくなる。
 ジェームズは入れ立てのコーヒーをナイトホークに差し出しながら、同じように微笑んだ。
「夜鷹こそ店をやることに飽きたら、私が仕事を紹介してやろう」

 客のいない店は広く感じる。
 いつもかかっている音楽がなくて、外から入ってくる音だけが耳に響く。今日は夏休みの日曜日で、やけに子供の声が聞こえてくる。
 ナイトホークはカウンターに座りながらコーヒーを飲み新聞を眺めたりしていた。そして不意に何かを思い出したように顔を上げる。
「そう言えばクロ、最近もててるんだって?」
 藪から棒に何を言い出すのか。
 皿を片づけながらジェームズがくすくす笑う。どこかで話を聞いたりでもしたのか、それとも見かけたりしたのか。お互いの人間関係にはほとんど口出しをしないのに、何か気になることでもあるのかも知れない。
 それは自分も同じ事なのだが…。
「…そんな夜鷹こそ、どうなんだ?」
 ジェームズに返された言葉を聞き、ナイトホークはシャツの胸ポケットからシガレットケースを出した。そこから煙草を一本出して手先で弄ぶ。
「俺?仕事柄誤解されちゃうみたいだけど、清いもんっすよ」
「そうか?色々噂は聞くが」
 噂…と言われ、ナイトホークが苦笑する。色々と飲みに行ったり、客と仲良くなったりもするのだが、生憎色っぽい話は、今のところ全くと言っていいほどない。
「本当にモテモテだったら、休みに一人でカップラーメン選んでないって。飯作ってもらったりして、いちゃこいてる。それよりクロはどうなのよ?」
 煙草をくわえたナイトホークに、ジェームズはスーツの胸ポケットからライターを出して火を付けた。それを言えばお互い様だ。そもそも、もてている人間が日曜の朝っぱらから定休日の蒼月亭に来るはずがないのだ。
 ここに来れば退屈しのぎになる。
 それは開店時でも定休日でも変わらない。長い付き合いのはずなのに、まだ時々お互いの行動が読めない。今の話題だって「お互いの仕事柄、人間関係に深く突っ込まない」という暗黙の了解があるにもかかわらず、自分が気になればそれを易々と破ってくる。
 気が短ければ怒る所なのだろうが、そこまで心が狭くはない。こういう腹の探り合いもまた楽しい。
 パチン…とライターの蓋を閉め、ジェームズは不敵に笑う。
「もてている奴が、わざわざお前の朝食を作ると思うか?」
 左手で煙草を吸いながらナイトホークは一瞬言葉を止め、煙と一緒に溜息を吐いた。
 全くジェームズの言う通りだ。朝食を取ったのなら、そのままデートなどに行くのに丁度いいような天気なのに、何故か定休日のここに来ている。しかもここにいなかったのを知って、わざわざコンビニに探しに来るぐらいなのだ。
「確かにモテモテの人が、わざわざ野郎の飯作りに来ないね」
「別に私はお前の朝食を作りに来たわけではなくて、変な物を食べようとしてるから止めただけだ」
 するとナイトホークの目の前に、小皿に乗せられたチョコが出された。おそらくさっき買ったチョコの部分なのだろう。ジェームズはカウンターの中でカプセルを開け、得意満面に赤い首輪をしたハスキー犬のフィギュアを見せつける。
「見ろ、夜鷹。シークレットの白ハスキーだ。これでこのシリーズは全部揃ったな」
「…変な物って、この甘いチョコは変なものじゃないんですか?」
「それは差し入れだ」
「………」
 ナイトホークは煙草を置き、そのチョコを指でつまんで食べ始めた。
 そもそもジェームズは甘い物を積極的に食べるわけでもないのに、どうしてこういう妙な物を買うのか。しかもそれをコンプリートした所で持って帰るわけでなく、全部ここに置いていったりするのだ。おかげでナイトホークの住居スペースの一角には、ジェームズが買い集めた食玩スペースがある。
 何となく解せないものを感じながら、甘いチョコをコーヒーで流し込んでいると、眺めていた新聞記事に目が留まる。
「クロたん、ちょっとよろしいですか?」
「『たん』付けはやめろ」
 新聞に載っていたのは、今日開催される花火大会の宣伝だった。そういえば店で花火などをして遊んだが、まだ今年は大きな花火を見ていない。ナイトホークはチョコをかじりながらその記事を指さす。
「このあいだの浴衣クリーニング上がってきたけど、クロ今夜暇?」
「暇だったらどうする?」
「俺、定休日ぐらいしか花火大会見に行けないから、良かったら一緒に花火大会でも見にいかれませんかね?」
 それを聞き、ジェームズはナイトホークの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「花火を見に行きたいのか?」
「いや、暇じゃなかったら一人で行ってナンパしてくる。浴衣仕立てたのに、着る機会あんまりないし」
 最後のチョコのかけらを口に放り込み、ナイトホークはカップの底に残っていたコーヒーを飲み干した。どうしても自分は、ジェームズの手のひらで踊らされているような気がする。結局朝食にしてもチョコにしても、ジェームズが思うとおりになっていて、しかもそれを強く否定できない。
「ふむ、一緒に行ったらナンパの邪魔になりませんかね」
「………」
 勝ち負けで言うなら完全に負けだ。ナイトホークは灰皿に置いていた煙草の灰を落としながら、左手で頬杖をつく。
「はい、ごめんなさい。ナンパ嘘です。一人で行くのも寂しいんで、暇だったらクロも一緒に行きませんか…つか、一緒に行こうぜ」
「そうだな、今日は何の予定もないから花火を見に行くのもいいな」
 全く、本当に退屈させない奴だ。
 憮然と顔を逸らせるナイトホークを見ながら、ジェームズは二杯目のコーヒーを入れるためにまた豆を挽き始めた。

fin

◆ライター通信◆
ありがとうございます、水月小織です。
日常ノベルということで、定休日の自堕落なナイトホークが出てきました。いつもはカウンターで背筋を伸ばしてますが、定休日はだらだらとしてます。
いつも書かせていただいて思っていた「手のひらの上で踊らされている」感を出したくて、タイトルを「悪魔のダンス」にさせていただきました。チョコは何かいつも食べさせられていそうです。
リテイクなどがありましたら遠慮なく言ってくださいませ。
また機会があればよろしくお願いいたします。 
PCシチュエーションノベル(シングル) -
水月小織 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年08月02日

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