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『汰壱少年の決意 』
玄葉・汰壱6334)&碧摩・蓮(NPCA009)

 玄葉汰壱(くろば・たいち)、七歳。
 見た目はごく普通の小学生だが、幼いながらも陰陽五行の力を武器に付加して戦う『陰陽侍』と称される戦士である。
 物心つきし頃からの厳しい修行の賜物、彼自身の潜在能力もあり、弱冠七歳にして陰陽侍と名乗ることを汰壱は許されている。
 陰陽侍は個人個人でもそれなりの戦闘能力の持ち主だが、陰陽になぞらえた相手がいればその力を最大限に発揮できる。玄葉家をはじめとする陰陽侍の家系では、男は十八歳、女は十六歳になったら対となる相方(男の陰陽侍は「陰」と成す女性、女の陰陽侍は「陽」と成す男性)を探し始めるという独自のしきたりがある。
 せっかちで面食い、おませな性格の汰壱にはそれまで我慢は出来ない。
 それ故、この歳で「未来の俺の嫁さん」と自称している女性を嫁さんレーダー(というが、本人の直感)を駆使今から探し始めているのである。当然、そのことを両親は知っているが、子供の他愛もない行為と見ているため一切手出し口出しをしない。師匠である祖父だけは別であるが。

 いつものように身支度を整え、幼稚園入園の頃に入門した剣道道場に向かう前、祖父に部屋に来るようにと言われた。

 嫁探しをする前に己を鍛え、強さに磨きをかけよ。でないと、相方の女性に見限られるぞ。

 そう注意されたが、七歳の汰壱にはどういうことか理解できなかった。唯一解ったのは、未来の嫁さんとなる相方に嫌われるかもしれないということだけだった。
 そのことばかり考えているということもあり、その日の稽古は散々な結果であった。同じ年頃の子には滅多に負けないのだが、隙を見せまくっていたせいもあって惨敗状態に終わった。
「じいちゃんの奴…あそこまで言うことないじゃないか。今から嫁さん探して何が悪いってんだよ」
 口では愚痴っているが、汰壱は落ち込んでいた。
 じいちゃんになんか負けないぞ! という決意を固めた汰壱は大声をあげてそう言う。道場にいた周りの門下生達はクスリと笑っていた。

 帰り道でもこれからも探し続けると決めたまでは良いが、それから先が全く思いつかなかった。どうすれば良いんだろうと考えながら歩いている時、誰かにぶつかった。
「…ってぇ」
 痛んだ鼻を押さえながら、汰壱はぶつかった相手を見た。
 チャイナドレスに身を包んだ、ちょっときつめ美貌のお姉さん。少々気が強そう。汰壱が抱いた碧摩蓮の第一印象である。
「どこ見て歩いているんだい、坊や。気をつけな」
「ごめんなさい」
 ペコリと頭を下げて謝る。
「これからはちゃんと前を見て、他人にぶつからないようにするんだよ」
 そう言って頭を撫でる蓮に、胸が一瞬ときめいた汰壱。その時、レーダーが反応した。
 この人が俺の嫁さんかも、と直感した汰壱は、蓮の後をつけた。

 後をつけ、辿り着いたところはアンティークショップ・レンの前だった。
 店内を見ると、蓮はカウンターの前に突っ立っていた。
「よし、中に入るぞ」
 というものの、中は曰くつきな商品でいっぱいであるため、子供の汰壱には入りづらいものがある。
 嫁さんのためならたとえ火の中、水の中の心意気で、そぉっとであるが店内に入った。
「さっきの坊やじゃないか。あたしに何か用かい?」
 欠伸を押し殺しながら、ぶっきらぼうに蓮が言う。
 蓮に用があって来たと唐突に言うわけにはいかなかったので、悩み事があると話を持ちかけた。

「そういうことねぇ。たしかに、祖父さんの言うとおりは早過ぎるかも。あんた、まだ結婚もできない子供なんだからさ」
 蓮が言うのも尤もなことだが、汰壱は納得できない。
「嫁さん探すくらいいいじゃないか」
「今から嫁さんに会ってどうするんだい?」
「どうって…」
 嫁さんに会って何をするのか。そこまでは深く考えていない。ただ単に自分と気が合いそうな子にナンパしているだけかもしれないとさえ今思える。
「お姉ちゃんはじいちゃんの「強くなれ」ってのに納得できる?」
 顎に指を添え「嫁さんに会う前に強くなってないとね」と返答する。
 強くならなければいけない、ということは汰壱本人が一番わかっているはずだが、大人相手でも自分はやっていけるという自惚れがある。
「お姉ちゃんも俺を子供だと思って甘く見ているんだ。こう見えても、俺は大人相手に修行をしてきたんだ!」
 汰壱の自惚れを直させないといけない。
 そう思った蓮は、店の奥から姿見を取り出し、汰壱の前にでん、と置いた。
「こいつに気を込めるんだ、坊や」
「坊やって言うな!」
「言われたとうりにしな。あたしにとっちゃ、あんたはまだ尻の青い坊やだよ。強さを証明してくれない限りね」
「強さの証明?」
 今からそれを見せてもらうよ、と蓮はカウンターに置いてあった香炉を手にする。そこから煙がたなびき、良い香りが漂う。

「こ、ここは…」
 辺りをキョロキョロしていると、背後から「俺と勝負だ!」という威勢の良い少年の声が聞こえる。
 後ろを振り向くと、そこには…もう一人の汰壱がいた。
「この鏡は『幻影の鏡』と言ってね、自分自身の分身を作り出すもんなんだよ。さっき、気を込めただろ? それはあんた自身を作り出すためだ」
「もう一人の俺と勝負しろってことか。面白いじゃん!」
 偽の汰壱が手にしているのは竹刀だったので、汰壱も竹刀で勝負することにした。
 二人が勝負する場所は、香の幻が生み出した道場内だった。
「では、始め!」
 蓮の試合開始を告げる声と同時に二人は竹刀を中段に構えると一歩一歩近づき、互いから一本を奪おうとしていた。
 汰壱は滅多に見せることのない真剣な表情で偽者を倒そうとしているが、それは向こうも同じこと。
 隙を見ては胴や小手を狙っている。子供ならではの身軽さ、素早さを活かした巧みな足捌きで左右、背後に回り込もうとする。
「そこだぁ!」
 一歩踏み込んで面を狙う作戦だったが、咄嗟にそれに気づいた偽者も同じ作戦に出た。鏡で作られた分身故、同じ行動に出るのだろう。偽者は竹刀で咄嗟に防御する。
 何度も攻撃を仕掛けようとするが、すぐに受け止められれてしまう。静まり返った会場には、竹刀がぶつかる音しか聞こえない。

 鏡だから真似すんのかよ…なら、これでどうだ!

 汰壱は素早く偽者に近づくと悪戯っぽく笑い、偽者の竹刀を叩き払い、その隙に胴打ちした。偽者も同じ行動をしようとしたが、汰壱のほうがほんの少し早かったようだ。
「一本! 勝負有り!」
 審判役の蓮が右手を掲げ、汰壱の勝利宣言をする。

 気がつくと、二人はアンティークショップ・レンの店内にいた。
「けっこう苦戦していたようだね」
 香炉を手にしたまま、蓮がクスリと笑う。
「自分自身に苦戦するなんて…。自分の手の内はちょっと読めるけど、これが他の人だったら負けてたかも…」
「さっきの強気はどこへやら。でも、なかなか面白い勝負だったよ。えと…」
「俺の名前は玄葉汰壱だ!」
 と力強く自己紹介する。
「汰壱、辛勝ではあったものの、あんたは自分自身に勝ったんだ。今度は楽勝できるように強くなりな。そのためには」
「もっと修行しなきゃ、だろ?」
「そうだ」
 蓮に相談したことで気分がすっきりしたので、汰壱は家に帰ることにした。
「ありがと、お姉ちゃん。また来るからー!」

 未来の嫁さんのためにも強くなるぞ! と更なる決意を固めた汰壱であった。

<終>

PCシチュエーションノベル(シングル) -
氷邑 凍矢 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年07月18日

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