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『Sevrnth Heaven 』
ジェームズ・ブラックマン5128)&陸玖・翠(6118)&ナイトホーク(NPC3829)

「さて、今日は朝まで飲みますよ」
 土曜深夜。
 奥にだけほのかに灯りがついている蒼月亭の店内には、店主のナイトホークの他にジェームズ・ブラックマンと陸玖 翠(りく・みどり)がいつもと違った様子で座っていた。
 カウンターではなく、テーブルの上には日本酒や泡盛の瓶、そしてちょっとしたつまみ類が並べられている。
「翠の友人ってクロだったのか…」
 そう言いながらナイトホークが溜息をつく。
 そもそもこの三人で飲もうと言い出したのは翠だった。
 ジェームズが一緒とは明言しなかったが、店に来ていたときに翠が「今度の土曜の営業後に友人と一緒に来ますから、日本種類を用意しておいてください」と言ったのだ。雰囲気が合わないので店には出していないが、自分の住居スペースにある冷蔵庫には日本酒類も多少ある。だが、それを出すことをナイトホークは渋った。
「日本酒類…俺そんなに持ってないんだけど」
「まあまあ、後で新しいのを買ってあげますから」
 その言葉につられて酒を用意していたりしたのだが、翠が「友人」と言って連れてきたのは、自分が一番よく知っているジェームズだったことに、ナイトホークは脱力する。
「…まあいいや。とりあえず『国稀特別純米酒』に、『北の誉純米生原酒 あらばしり かく』と、泡盛の『瑞泉 白龍』用意しといたから。日本酒は両方とも北海道のな」
 よく冷えている酒類の説明をしながら、ナイトホークはテーブル席に座る。いつもはカウンターなのだが、今日は長丁場になりそうなので座りたい。
 それを見てジェームズはナイトホークの隣に座り、翠はナイトホークの前に座った。
「じゃあ、お酒がぬるくならないうちに頂きましょうか。ナイトホークも仕事を忘れて飲むといいですよ」
 そう言いながらジェームズは日本酒用のグラスに酌をした。その様子にナイトホークが不審げな目で二人を見る。
「…何か企んでる?」
 翠は自分のグラスをジェームズに差し出しながらしれっとした表情をしている。
「いえ。なにも」
「ええ、なにも」
 翠の言葉にジェームズが頷き、そして二人の声が揃った。
「なにもないですよ」
「嘘だ、絶対何か企んでる」
 ナイトホークは客商売が長いだけあって勘がいい。実は翠とジェームズは、ここに来る前にこんな話をしていたのだ。

「ジェームズ、ナイトホークが酔った所を見たことがありますか?」
 それはある依頼を一緒にこなした後のことだった。翠とジェームズは時々仕事で顔を合わせることがある。蒼月亭にはお互い別々に顔を出したりしているが、二人で飲んだことはない。そしてその日はたまたま、蒼月亭について話をした後だった
 翠の言葉にジェームズが考え込む。
 ナイトホークとつきあいは長いが、そういえば酔った所を見たことがない。店の中でも客のおごりで飲んだりはしているのだが、仕事をしている緊張感があるからなのか、いつも平然としている。もしかしたらナイトホークの体質的に酔わないのかも知れないが、それはちょっと面白いかも知れない。
「そういえばありませんね。まあ、仕事柄酔いつぶれるまで飲まないというのもあるのでしょうが、私もそこまで腰を据えて飲んだこともないです」
 それを聞いた翠がニヤッと悪戯っぽく笑った。自分はザルだし、ジェームズは多分そんなに酔わないだろう。だが、ナイトホークはどうだろう。翠はそれが見てみたかった。
「ナイトホークの酔った所は見てみたくないですか?」
「…見てみたくないと言えば嘘になりますね」
「じゃあ、来週の土曜深夜に私が誘いをかけておきますから、一緒に飲ませてみましょう。酔わなかったとしても、きっと旨い酒が飲めるでしょうから…」

「おや。では一緒には飲んでくれませんか」
 翠が寂しそうにそう言うと、ナイトホークはシガレットケースから煙草を一本出した。それにジェームズがライターで火を付ける。
「飲むよ。折角好きな酒出してつまみまで作ったのに、ここで寝たら勿体ない」
 煙草をちょっと吸い、ナイトホークは自分の目の前のグラスをクイッとあけた。普段はウイスキーやジンなどの強い酒を飲むことが多いので、これぐらいは朝飯前なのだろう。まあ、これぐらいで酔っているようではバーのマスターはつとまらないのだが。
「日本酒でいいですか?」
「あー、国稀で。本当はもっと辛口の酒が好きなんだけど」
 翠はそれを聞きながら、目の前にある牛のたたきを箸で取る。今日はつまみも和風っぽく、細切り昆布の炒め煮や、ゴーヤチャンプルーなどが並んでいた。
「ナイトホークは甘口の日本酒は嫌いですか?」
「うーん、醸造酒の甘いのがダメだ。ワインとかでもスパークリングだといいんだけど、貴腐ワインとかあんまり飲まない」
 それを聞きながらジェームズも日本酒を飲む。
「確かにこれはスッキリして飲みやすいですね」
 研ぎ澄まされたとでも言うのだろうか、ナイトホークが出してきた日本酒は辛口で飲みやすかった。目の前にあるつまみとの相性もいい。日本酒が好きならすいすいと飲めるかも知れない。
 だが、それを聞いたナイトホークがふっと笑う。
「でもスッキリして飲みやすいってのは、ある意味毒だよ。酔いがいきなり回るから」
 そう言うと、ナイトホークはまたグラスをすいっとあけた。
 酔った所が見てみたくて酒盛りに誘ったはずなのだが、その飲みっぷりの良さにジェームズは心の底で心配する。酔いがいきなり回る…と言った所を見ると、そういう経験があるのかも知れない。だが、それを表に出さずジェームズはナイトホークのグラスに酌をした。
 ナイトホークは煙草を吸いながら二人の方を見る。
「二人ともちゃんと飲んでるか?折角俺のお薦め出してきたんだから、ちゃんと味わえよ。俺ばっか飲んでても仕方ないし」
 そう言って不敵に微笑むナイトホークを見て、翠とジェームズは少し肩をすくめる。
 ああ、いつものナイトホークだ。相手が楽しんでいるかどうかだけではなく、酒の進み具合もちゃんと見ている。こんなナイトホークを酔わせるには一筋縄ではいかなそうだ。
 これは自分もしっかり飲まないと、ナイトホークに飲ませられそうにない。翠は自分のグラスを一気にあける。
「ふぅ、お勧めだけあって美味しいですね。まだ夜は長いですし、腰を据えて飲みましょう。ジェームズはどうです?」
「頂きましょう」

 午前四時を回り始めた頃だろうか、テーブルの上のつまみがほとんどなくなり、ジェームズはその皿をせっせと片づけていた。翠は全く変わらぬ表情で泡盛を飲み、ナイトホークはテーブルの上に肘をつきながら煙草を吸っている。
「あー、やばい。俺酔ってる、絶対酔ってる」
「そんなに酔ってるようには見えませんけどねぇ」
 見た目は全く普通だ。ただ、ちょっと眠そうではある。その時だった。
「…眠い。でもって暑い」
 いきなりナイトホークが蝶ネクタイを外し、ベストを脱いだ。その様子にジェームズは慌ててキッチンからフロアに戻ってくる。
「ナイトホーク、ここで脱ぐ気ですか」
 いくら酔ったからとはいえ、女性の前でいきなり服を脱がれるわけにはいかない。だが、ナイトホークは脱いだベストをジェームズに渡す。
「全部脱ぐなら金取るよ。ベスト脱いで首元開けたいだけ、何か暑い」
 そう言いながらナイトホークはシャツのボタンを胸元まで開けた。翠はそれを見ながら泡盛をグラスにつぎ足す。何というか、ナイトホークはこの三人の中で一番年下のようで、やることがいちいち面白い。
 ジェームズとナイトホークは、ナイトホーク本人が「それなりに長いつきあい」と言うように、仲がいいのだろう。何となく兄弟のような印象にも見えるが、それは口に出さないことにした。
 その代わりに翠は笑いながらナイトホークをからかう。
「お金払ったら、全部脱いでくれるんですか?」
「…言葉のあやだよ。それとも俺の裸見て何か面白いわけ?」
 それにナイトホークがニヤッと笑ったときだった。ジェームズが冷たい水をグラスに注ぎナイトホークの目の前に置く。
「ナイトホーク、セクハラだ」
「あ、悪い。やっぱ俺酔ってるなぁ…頭悪くなってる」
 そう言いながらナイトホークは出された水を半分ぐらい飲み、灰皿の上で短くなっていた煙草を吸った。売り言葉に買い言葉で応酬してしまうのは自分の悪い癖だ。それで何度も痛い目を見ているはずなのに、挑発されるとつい乗ってしまう。ジェームズが上手く止めてくれたからいいようなものの、このまま喋っていたら何をやらかしていたことか…。
 溜息と共に煙を吐くナイトホークを見て、ジェームズも心の底でホッとしていた。確かに今日のナイトホークは酔っているかも知れない。店の中でどんなに飲んでいてもネクタイを外したりはしないのに、今日はベストを脱いでいる。しかも言動も多少怪しい。
「それで最後にした方がいいですよ。酔っていると分かっているうちが華です」
 まだグラスに半分ほど入っている泡盛を見てジェームズがそう言うと、ナイトホークは眠そうな表情をしながら頷いた。
「ああ、そうする…でも残ってる分は残すと酒に失礼だから飲む」
「…吐かないでくださいよ」
「吐いたらもっと失礼だろ」
 翠はそんな二人を見て、遠い昔の親友のことを思い出していた。
 あまりにも昔のことのはずなのに、その思い出はまるで昨日あったかのように新鮮に思い出せる。一緒に酒を酌み交わしたことや、花見をしたこと。そして、どうしても止められなかった別れのこと…。
「…ナイトホークとジェームズは本当によい友ですねぇ。私にも昔、気の許せた友がいたのですけどね。あ奴は既にこの世にいませんが、お互いわからなくなっても酒が飲める相手だとよいなと約束したのですけどね…」
 そう言った瞬間、翠は我に返った。どうやら思っていたことがそのまま口に出ていたらしい。それを取り繕うように自分の頬に手を当てると、指先がほんのり熱い。
「すみません、私も酔ったみたいですね」
 本当は全く酔っていないのだが、長いつきあいの二人を見てつい言葉が出てしまった。ナイトホークが、それに気付いたかのようにふっと笑いながら翠のグラスに泡盛を注ぐ。
「ま、そのうち会えるよ。今はまだその時じゃないだけでさ」
 それを見ながらジェームズは空になった自分のグラスと、ナイトホークのグラスをスッと取り替えた。ナイトホークは何も言わずに水の入ったグラスを手に取る。
「そうですね…運命というものがあるとするのなら、いつか巡り会うように出来てますよ。だから私達も、今こうして一緒に酌み交わしている…違いますか?」
 運命というものがあるとするのなら、いつかまた巡り会える…。
 そうかも知れない。永遠に生きなければならない絶望もあったが、今はこうして同じような時の流れを生きて行けそうな友がいる。
「…よし、カクテル作るか」
 そう言ってナイトホークがすくっと立ち上がりカウンターの中に入っていった。さっきまで眠そうな顔をしていたのに、カウンターの中に入るといつものようにきびきびとシェーカーなどを用意し始め、慣れた手つきでカクテルを作っていく。
「クロ、お願い。『セブンス・ヘブン』」
 そして、カウンターに出されたカクテルをジェームズが翠に差し出した。グレープフルーツとジンの香りがするグラスの中に、カクテルピンが刺さった緑のチェリーが飾られている。
「『セブンス・ヘブン』です。最高位の天使が住むと言われる『第七番目の天国』を模したカクテルですよ」
「第七番目の天国…」
 ここは天国ではないかも知れないけれど、地獄と言うほどひどくもない。翠はセブンス・ヘブンを飲みながらそう思っていた。日本酒も美味しいが、やはりナイトホークが作るカクテルは美味しい。
「あー、やっぱカウンター落ち着く。酔いも醒めるわ。コーヒー入れるけど二人とも飲む?」
 コーヒー豆を用意するナイトホークに、翠とジェームズが顔を見合わせる。酔い潰れた姿は今日は見られそうにないらしい。だが、ナイトホークはカウンターの中で動いているのが一番だ。
「頂きましょう。翠はどうします?」
「私は、セブンス・ヘブンがありますから…」
 夜が白々と明けていくのが窓から見え、蒼月亭の中を明るく染めていく。
 その薄明かりの中にコーヒーの香りが立ち上り、新しい朝が来ようとしていた。

fin

◆登場人物(この物語に登場した人物の一覧)◆
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5128 /ジェームズ・ブラックマン/男性/666歳/交渉人&??
6118/陸玖・翠/女性/23歳/(表)ゲームセンター店員(裏)陰陽師

◆ライター通信◆
いつもありがとうございます、水月小織です。
『ナイトホークが潰れる所を見てみたい』と言うことでしたが、飲むと眠くなってしまうというあまり面白くない感じでしたので、お酒を飲みながら所々でちょっと酔った感じ…になってしまいました。ジェームズさんが止めなかったら脱いでたのでしょうか…謎です。
タイトルはカクテルの名前『セブンス・ヘブン』から取りました。ある意味東京も一種の天国なのかも知れません。
お気に召さない場合はリテイクなどご遠慮なく言ってくださいませ。
また、機会がありましたらよろしくお願いします。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
水月小織 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年07月14日

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