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『『何れ訪れる約束の日の為に』 』
蒼柳・凪2303)&虎王丸(1070)&ダラン・ローデス(NPC0464)

「あいつってホント御曹司なんだなー」
 目の前の屋敷を眺めながら、虎王丸が呟いた。
 広大な敷地は、全てを見渡すことさえできない。
 母屋の他に、沢山の倉庫、離れもいくつあるだろうか。
 月の光が降り注ぐ庭園には、色とりどりの花々が咲き誇っており、幻想的な雰囲気を醸し出している。
 門扉は開かれている。煌びやかな装いの男女が、吸い込まれるように屋敷の中へ消えてゆく。
「こりゃ期待できるぞ〜。行くぞ、凪!」
「ちょっと待て、虎王丸!」
 蒼柳凪の制止を聞かず、虎王丸は屋敷へすっ飛んでいく。
 半ば強引に引っ張ってこられたとはいえ、放ってはおけない。凪は虎王丸の後を追うことにする。
 しかし、虎王丸はあっさり警備員に止められてしまう。
 無理もない、虎王丸の格好はいつもと同じ鎧姿だ。
「おまえ、明らかに場違いだよな……」
 凪はともかく、虎王丸の格好はどう見てもこの場に相応しくない。
「関係ねぇって。おい、屋敷のパーティで食べ放題って言われて来たんだ! 俺らがダラン……いや怪盗を成敗した件、聞いてるだろ!」
 不信気に二人を見ていた警備員だが、その言葉を聞くと、納得したようにすんなり二人を通した。
 受付も同じ言葉で通過する。
「メシメシ〜」
 虎王丸の頭は食べ物でいっぱいだった。屋敷内に飾られた数々の豪華な調度品など、一切目に入らない。蹴飛ばしそうな勢いで突き進む。
「よく来たな、我が下僕共!」
 屋敷に入るとすぐ、若い男の声が二人に降り注いた。見上げれば、絨毯が敷き詰められた階段を、ダラン・ローデスが下りてくるところであった。
「あ? 誰が下僕だって? おめーは俺の子分100号だろうが」
 即座に虎王丸が言葉を返す。
「何を言う! お前は俺の下僕101号のくせに!」
「おうおう、そういうおかしなことを言うのは、頭が壊れてるからか? それともこの口が悪いのか?」
 ぎぃぃっとダランの口を左右に引っ張る虎王丸。
「ふぁんはとー! ふぉれはまはほのいへでいひばんえふぁいんふぁー!」
「ぼ、坊ちゃま」
 案内の為に付き添っていた使用人が、虎王丸の行動におろおろとしている。
「大丈夫です。危害を加えたりはしませんから」
 虎王丸とダランのことは、とりあえずほっといて、凪は使用人と共に先に会場へ行くことにする。
 真っ白なテーブルクロスに、単色の椅子。飾られている花々は庭園のものだろうか。
 華やかな部屋で、着飾った男女が和やかに会話を楽しんでいる。
 使用人は凪をテーブルまで案内すると、深く頭を下げた。
「お越しいただき、ありがとうございます。ごゆっくりお楽しみください」
「いえ報酬も貰ったのに、パーティにまで招いていただいてしまい申し訳ないくらいです」
 凪の方も、使用人に頭を下げた。
「気にすることはありません。ダラン坊ちゃんもあなた方が見えられることを、楽しみにしていましたから」
「ダランが……?」
 きつく叱り仕置きをしたというのに。ダランが自分達に会うことを望んでいたという。
 復讐の為?
 そう一瞬思いもしたが、虎王丸と小突き合いながら会場に入ってくるダランを見て、その考えは消し飛んだ。
 2人共、生き生きとしている。

**********

 畏まった挨拶もなく、食事会はスタートした。
 やはり浮いている……。
 凪は虎王丸の姿を見ながら、一人苦笑した。
 パーティは特に何かの記念などではなく、日常的に行なわれている夜会のようだった。
 貴婦人達が優雅に食事を楽しむ中、一人だけ……いや、2人、貪るように食べまくっている少年がいる。
 虎王丸とダランだ。
 虎王丸は普段と同じように、料理を楽しんでいるに過ぎないが、ダランの方がいつかのリベンジとばかりに、勝手に張り合っているのだ。
「これ、うんめーな、何の肉?」
「知らん、いちいち拘ってない。美味しければそれでいい!」
「だなー! うわっ、これも最高だぜっ!」
 二人の周りだけ空気が違う。他の客はこちらには近付くことさえしない。
「おーい凪! これ美味いぜ! おまえも食えよー!」
 虎王丸が骨付き肉に齧り付きながら、皿を凪の前に寄せる。
「水、水水ー! げほっ」
 一気に口に押し込みすぎたせいで、ダランはむせている。
 凪はウエイトレスに水を頼むと、スープをスプーンを入れた。
 料理は確かに美味しかった。
 程よい温かさのスープには、数種類の具が入っており、それだけで腹が満たされそうである。
 ワインで煮たと思われる肉は、とろけるような舌触りであった。
「ふはー、食った食った〜。あれとあれ持ち帰ってもいいかー?」
「持ち帰んなくても、明日も来ればいいじゃん、下僕なんだから」
「そっか、子分のものは俺のものだもんな。よーし休憩後は屋敷探索だ。案内しろよ」
「いや、子分はそっちだろ〜」
 隅のソファーにもたれ、虎王丸とダランは腹をさすっている。
 その様子は幸せそうであった。
 しかし、毎日のように美味しい料理を腹いっぱい食べているというのに、ダランは太ってはいない。普段はこれほど食べないのだろうか。
 そして、こんなに美味しい料理が自宅で食べられるというのに、しょっちゅう白山羊亭に彼が顔を出すのは何故なのだろうと、凪は疑問に思うのであった。

**********

「ここから」
 一つの部屋を指した後、ダランは見えなくなるほど奥まで、ダッシュする。
「ここまで俺の部屋ー!!」
 つまり、この3階の殆どがダランの部屋だというのだ。
「へぇ〜〜〜。でも、こんなに部屋あっても使い道ねぇだろ?」
 虎王丸は一つ一つの部屋を覗いてみる。
「ん? なんだこの部屋。何にもねーじゃん」
 虎王丸の後ろから凪も覗いてみる。
 確かに、何もない部屋だった。スクリーンのような板があるだけだ。
「ここは会議室。仲間と相談をするための部屋なんだぜ」
「仲間がいるのか? どんな繋がりなんだ?」
 パーティ会場でも、凪と虎王丸以外、ダランに近付く同年代の若者はいなかった。
 白山羊亭でも、ダランの仲間と思える人物などいないのだが。
 凪にとっては素朴な疑問であったが、ダランはその言葉に少し動揺を見せた。
「い、いるいる、三万人ほどいるぜ〜。毎日ここは大賑わいさっ」
 ……大袈裟ではあるが、嘘ではないかもしれない。
 だが、それは多分、金で雇った仮初の仲間だろうと、凪は気付いていた。
「うわっ、この部屋見晴らし最高だな! すげーな……俺もいつかはこんな屋敷に住んでみてえなあ」
 虎王丸は悠長にテラスに出、外を眺めている。
 庭園が美しい。顔を上げれば壮大な山々が目に飛び込んでくる。
「んじゃ、この部屋虎王丸に貸してやってもいいぜ。お前、俺の子分だし」
「ほほう、貸してもらってやってもいいぜ。俺の子分よ」
「ふぁにふんはー! おはへはんはこふんしゃねー、へほふはー! ほほにふんへ、おへはまにふはへろー!」
 虎王丸が再びダランの口を左右に引っ張り、ダランは体をばたつかせて抵抗をする。既にいつものパターンだ。
「ここに住んで、俺様に仕えろ……か」
 つまり、遊びに来て欲しいってことなんだろうな。
 素直じゃないな……。
「こら、いい加減にしろ、二人共!」
 凪は小さく吐息をつくと、追いかけっこを始めた二人を止めに入るのだった。

 一通り屋敷を探索した後、応接室で休憩をとることにする。
 聞けばダランは日中部屋にいることはあまりないらしい。彼が利用しているのは殆ど寝室だけで、習い事のない日は元師匠の錬金術師の家に入り浸っているとのことだ。
 出された果物ケーキを瞬く間に、虎王丸とダランは平らげる。
 凪はティーカップを口に運びながら、思いをめぐらす。
 ダランには兄弟はいないようだ。
 彼の生みの母親は彼が幼い頃に、病気で亡くなったと聞いた。
 母親のことを聞くと、ダランは凪にこう言ったのだった。
「俺を産んだかーちゃんのことは覚えてないけど……。でも、かーちゃんなら沢山いる。俺のかーちゃんになりたがって通ってくるヤツが沢山いるんだぜ」
 ダランが僅かに見せた寂しげな顔を、凪は見逃さなかった。
 母ではなくとも、ダランに母親のように接してくる女性が幾人もいるというのだ。
「俺には、仲間も家族も沢山いるんだ! 羨ましいか〜。お前等も本当に下僕にしてやってもいいんだぜ〜」
 ダランは踏ん反り返る。その言葉に虎王丸は瞬時に反応し、ダランに頬をぎゅううっと抓る。
「いたたたたたたっ」
 ――希薄――
 凪の脳裏に浮かんだ言葉が、それだった。
 ダランには、本当の意味での仲間も家族もいない。……そう思えた。
「ダラン、お前友達はいるのか?」
「お、おう、沢山いるぜ!」
 抓られた頬をさすりがながら、凪の問いにダランは答えた。
「いつも友達と何をして遊んでるんだ?」
「あ……それはだな……んー。犬を構ったり?」
「それは友達と遊んでんじゃなくて、犬と遊んでるんだろ。ああ、そうか、犬が友達なのか」
 虎王丸が笑い、ダランはむっとしたように、口を尖らせる。
「てか、友達っていうのが、どこからどこまでなのかわかんねーんだよ。使用人とだって毎日顔あわせてるし、白山羊亭のルディアとだって話するし、お、おまえらだって……」
 最後は消え入りそうな声であったが、凪と虎王丸の耳に確かに入った。
 カップを置いて、凪は少し微笑んで言った。
「ダラン、今度一緒に冒険に行こう」
 凪の突然の言葉に、一瞬ダランは惚けた。
「……な、なんだ、お前、俺に冒険に連れていってほしいのか! しゃーねーな、可愛い子分達の為だっ」
 少し照れたように言うダランの言葉の真意は、もう凪には分かっていた。
「誰がお前なんかに連れてってもらうか。どうしても行きてーっていうんなら連れてってやってもいいぜー。荷物運びに最適だもんなっ!」
 虎王丸は固めた拳をダラン頭にぐりぐり押し付ける。
「いたたたっ、必要なものがあったら、何でも言えよな、俺が用意してやる!」
 ダランには冒険の知識も、役立つ技能も何もなさそうだ。足手まといは確実だ。
「そうだな……」
 少し考えた後、凪がダランに頼んだものは……。

 翌日から、ダランは屋敷の厨房に入り浸るようになった。
「あちっ、お前ら、こんなのよく握れるな〜!」
 一旦手を冷やした後、再びダランは炊きたての御飯に手を伸ばす。
 慎重に御飯を手に乗せて、包み込んでいく。コックに習いながら、何度も何度も練習を重ねる。
 凪がダランに頼んだものは、手作りのおにぎりだった。
 弁当は皆で一品ずつ持ち寄ろうと3人は約束をしたのだった――。


●ライターより
3人を沢山描けてとても幸せでした。
実際冒険に出たら、ダランは役立たずというより、かなり足を引っ張りそうですが、今はそうでも、お二人と付き合っているうちに役立てることを発見していくのかもしれません。
ところで、一品持ち寄るというか……虎王丸さんの場合、現地調達しそうですよね! イノシシとか捕らえそうなイメージです。
この度は、ご依頼ありがとうございました!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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聖獣界ソーン
2006年07月10日

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