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『もしも‥‥絶対無いだろう対決:瀬名雫編 』
鷲見条・都由3107)&瀬名・雫(NPCA003)

 カタカタとキーボードを叩く音がするここは、とあるインターネットカフェ。
 画面を睨みつけるようにパソコンを操っていた少女は、さして面白くもない投稿ばかりだった事に落胆しながら電源を落とす。
「あ〜あ、今日は全然ダメっぽい。何か面白い、ううん面白いだけじゃなくって、こう、燃え上がるようなあつーい事ないかなぁっ!?」
 瀬名雫。
 女子学生らしい服装に身を包んだ少女はあくまで独白のつもりだったが、その独り言を聞いていた者がいた。
「瀬名‥‥雫さん、でしょうか〜?」
 はえ? と真ん丸い瞳が見返すそこには、髪をひっつめた眼鏡の女。おっとりとしたそのしゃべり口調に、敵意はなかった──が。
「面白くて、燃え上がるようなあつーい事、しましょうか〜?」
 にっこり。
 笑ったその女‥‥鷲見条都由が手で示したのは。
「──メンコ??」
 そう、昔懐かしメンコであった。

『いやぁ、突然の展開になりましたね!』
 怪しげな怪奇現象の情報収集に余念のない雫は今、自分を巻き込んだ謎の女を前に挙動不審になっていた。が、手にはしっかりメンコを握っている。
 その二人を囲うのは、退けられたパソコンと机と椅子達。偶然そこに居合わせた客が突然始まったメンコ対決にも動じず協力した結果である。
「ちょ、あたしメンコなんてっ」
『レディースアンドジェントルメン! 瀬名雫嬢VS鷲見条都由女史のメンコ対決三本勝負、お情け無用のリングへようこそ!!』
 無情にも無視される雫。インターネットカフェが何をどうして特設会場になったかも謎だが、それ以上に先ほどまで受付にいた男がマイクを握っているのは何故だろう。
「あああたしメンコなんてやった事なっ」
『赤コーナー‥‥瀬名雫ぅぅっ!!』
 うおおおおおーっ。
「へっ? ぅええええええっ??」
 黙ってパソコン画面を見ていた筈の客が、表情筋を豊かに動かし歓声を上げた。
「雫ちゃーん、負けるなーっ」
「頑張れ雫ーっ! 購買のおばちゃんをやっつけろーっ♪」
 ノリノリの観客の言葉の中に理解範囲外の言葉があった。
 ──購買の‥‥おばちゃん?
 ちら、と見た目の前の女性は母親よりも歳若いくらいだろうか。自分がこの突然のメンコ対決にエントリーされてるのも場違いだが、にっこりにこにこ微笑むこの人も必死にメンコを打ちつけるのも想像し難い。
 ──それよりナゼにあたしがメンコ勝負〜!?
『青コーナー‥‥鷲見条都由ぉおっ!!』
 うおおおおおーっっっ!!!!!
 常にないカフェ内騒音に目を細め、完全に場に呑まれている少女を見る。
「お互い、全力を尽くしましょう〜〜〜」
「だから、何であたしなのぉぉおおおっっ!!???」
 今、雫を無視して熱き戦いが始まる。


■ ROUND1 ■

『先攻はどちらが行いますか?』
「そうですねぇ〜‥‥私がお願いした事ですから〜。雫ちゃん、どうぞ〜」
 ──だから。あんた一体誰なのさ。
 雫は年齢的にも馴染みのない札を手に取り、都由と自分の間に出来た塊を見る。知識では確か自分の札を叩きつけ、裏返せばOKの筈である。
『では、雫選手、どうぞっ!』
「とりゃっ」
 ぺちっ。
 何だか間抜けな音が、した。
「あ、あれ?」
『ああ〜‥‥、雫選手、残念ながら一枚も返せなかったようですねぇ〜』
「力がちょっと足りなかったようですね〜」
 メンコ初心者、第一投を見守った都由が、ほのぼのと解説する。
 ルールではメンコを多く返せた方が勝ち。しかも成功しなかった場合は順番を譲る事になるので、雫は一枚もゲット出来ないまま、都由の順番となる。
「おっかしいな〜、確かネットでこうするって書いてた気がするんだけど」
 得意のネットサーフィンでゲットした情報は、あくまで間違っていない。ただ力加減とメンコ遊びの本質を知らないだけである。
 ──でもまぁ、都由さんが失敗した時にまた頑張ればいいし。
 と、雫は思った。目の前の今日初めて会った神聖都学園の購買勤務のおばちゃんである。しゃべり方といい仕草といい、のんびりほのぼのとしていて春の日差しのようだ。力もそうなさそう‥‥と、雫は侮ってしまった。
「では、雫さん。今度は私の番ですね〜」
 すぅ、と札を持った手が天高く掲げられる。──そして。
 バッシィーーーンッ!!
 観客が、静かになった。
『‥‥え?』
「‥‥へ?」
 呆ける解説者と雫。す、と腕を下ろした都由は、眼鏡のズレを直すように蔓に手をかけた。
「お粗末さまです〜」
 ほのほのほの。
 先ほどの激しさに反し、見事なまでの変貌振りであった。
「‥‥う、うそっ」
 打ち込んだメンコ一枚に対し、裏返った雫の札は。
『きっ、きっ、決まったァーーーッ!! 都由選手、見事なまでの打ち込みで、三枚、一度に返しましたァアーーーッ!!!』
 ──そんな、バカな。
 呆然とする雫に順番が回ってくる事はなく、札は次々に返された。


■ ROUND2 ■

「ぜーったい! 負けないもん!!」
 2ラウンド目。笑顔と違い、素晴らしいキレとスピードで振り被る都由の黄金の腕に、雫は興奮状態に陥った。
「あらあら」
「次は絶対、都由さんに順番回らないように私が勝つんだからっ!」
 1ラウンド目。自分に経験がなかったいえど、都由の独壇場っぷりに雫の何かがキレた。そう、友達も呆れ返る、面白そうな事件を見つけ暴走するあの雫である。
『おおーっとぉ、雫選手都由選手に挑戦状ー! 落ち着きを見せるメンコの達人、都由選手に雫選手は勝てるのかァーっ!?』
 1ラウンド目で露見した雫の未熟っぷりに、都由はハンデのつもりか後攻を申し出た。雫は頬を膨らませたが、そうでもなければ勝負にならない事を理解しているため、敢えてその条件を呑んだ。
「後悔させてやるんだから‥‥!」
『では雫選手、第一投をどうぞ──!』
「せいやあッ!!!」
 1ラウンド目とは比べ物にならない程の力を込める。パシィィンン、と甲高い音が鳴り響いた。観客が湧く。
 ‥‥パタ。
「や‥‥ったぁー☆」
 傍にあった一枚が、風に煽られたように翻った。
「やった、やった♪ みんな見てくれてたーっ?」
 イエーッ☆
 大きなVサインを出した雫が観客と手を取り合って喜んでいる。無力ではない事を証明した雫選手に、解説者もエキサイトしていく。
『雫選手! 雫選手やりましたァアアアー! 見て下さい、一投目とは比べ物にならない程の鋭さ! 見事一枚を返しました!』
「ふっふっふー。まだまだこれからだもんねっ。都由さん、今度こそは負けないんだからっ☆」
「うふふ、雫ちゃん飲み込み早いですね〜」
 都由の余裕は崩れない。連続3投を決めても、その笑顔は揺るがなかった。
「あっ‥‥ちゃあ、失敗しちゃった」
 歳相応の幼さを残した悔しげな顔が可愛らしい。都由はにっこり微笑むと、何枚か翻された山に狙いを決め、腕を振り上げた。
 バ‥‥チィィィンン!!!!!
 ぱた、ぱた、ぱた。
「‥‥え?」
 雫が外からの風でも入ったのか、と窓を見た。閉まっている。
『都由選手、凄い大技ー!! 一気に三枚を返しましたー!!!』
「う、う、嘘ぉぉおっ」
 都由、伊達に流しのメンコ勝負師はやってない。


■ ROUND3 ■

「ぜったい、ぜったい、あたしが勝つんだからぁぁぁー!!」
 ムキーッ! と頭から湯気を出すのは、1ラウンド目のやる気のなさと打って変わった雫。興奮のあまり目は潤み、唇を舐めて艶を出し、子犬のように毛を逆立てて戦闘態勢に入っていた。
 自分にもメンコが出来る、という自信を与えたからか。都由はにっこりと微笑んでそれを受け止めた。
「もう絶対、順番は譲らないんだから‥‥」
 三本勝負、と言うからにはもう雫の負けは決まっている。しかし熱気の篭ったこのカフェで3ラウンド目はまるで双方が得点した後の二戦目のように緊張が走っていた。
「今度もあたしが先攻でいいの?」
「はい〜。長引けば長引くほど、面白いですから〜」
 ──かっちーん。
 他意はないだろう台詞に、雫が燃えた。
『で、では3ラウンド目、雫選手の先攻です──!』
 合図と共に、雫が勢いよく腕を引く。そして渾身の力を込めて‥‥叩きつける!
 ばしーっ! ‥‥ぱたっ、ぱたっ。
「やったあ!」
 二枚返し。3ラウンド目にして二枚返しを覚えた雫に、都由が笑顔の奥で目を細める。
 ──雫ちゃん、なかなか筋がいいかもしれないですねぇ〜‥‥これは、私も危ないかもです〜。
 何よりセンスがいい。1投目にはなかった札選びが2投目からは完全に活かされている。1枚だけでも確実に返しやすそうな札を選ぶ──雫の目を見ると、一枚返す毎に目がキラキラと輝いていた。
「順番を譲ると絶対に負ける‥‥なら、確実に一枚一枚取ってくんだから!」
 思考が口から漏れてるのは幼いとしか言いようがないが、どこか胸の内で雫の成長を喜ぶ自分がいた。
『さっ、三投目、よ、四投目成功です──!』
 どんどん着実に返されていくメンコを見守りつつも、都由の笑顔は揺るがない。ひょっとしたらひょっとして‥‥数ヶ月後には自分と張れる雫を想像して。
『すっ、凄い残り五枚、四枚、三枚──!!』
 解説者の興奮した声を聞きながら、都由はニッコリとイキイキとメンコを返し続ける雫を見つめていた。


『勝負あったァーッ!!!』
 意外にもメンコセンスのあった雫が3ラウンド目を制し、解説者が試合の終わりを告げた。
 試合は三本勝負、であってあくまで雫が落としたのは3ラウンド目のみなのだが、雫の目覚しい成長振りにカフェ内の誰もが雫の負けだとは言わなかった。もちろん、敵の都由でさえも。
「都由さん、都由さん、あたし今全部一人で返しちゃったよーっ」
「ふふっ、雫ちゃんは本当にメンコが上手ですね」
 飛び跳ねていた雫がメンコを見せびらかすように持って来ると、その頭を撫で撫でしてやった。えへへーと嬉しそうに目を閉じる。
 ──本当に‥‥私の一撃必殺技、『在庫一掃スペシャルサンクスデー』も雫さんにいつか破られるかもしれませんねぇ〜。
 歓声に包まれるカフェの中、都由は未だ微笑みを見せたまま雫の頭を撫で続けるのであった‥‥胸に再戦出来る日を確信して。


→Go to Next Fight!
PCシチュエーションノベル(シングル) -
べるがー クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年07月03日

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