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『〜それは暑い日に〜 』
御崎・綾香5124)&和泉・大和(5123)


 コォ〜〜‥‥‥
 クーラーが涼しい空気を店内に充満させ、それは小さな風となって髪を撫でてくる。
 店外の炎天下を回想して時間を潰していた和泉 大和は、撫でつけられた髪をガリガリと掻きながら、チラリと視線を上げてみた。

「‥‥‥‥‥」

 目に映るのは、人、人、人‥‥
 当然だ。今居る店は、結構大きい。それに季節が季節なだけあって、お客の入りは上々。別に本来は大和に関係のない事ではあるのだが、今ではそのお客の入りが恨めしい。
 店内を少しだけ見渡していたが、周りからの視線を受けて立つ程の度胸もなく、大和は視線を足下に戻そうとして‥‥‥

「あ‥‥」
「え‥‥」

 偶然、大和が動かした視線が、ちょうどこちらを見ていた女の子(小学生ぐらいに見えた)と交差し、お互いに動きが硬直する。

「「‥‥‥‥‥」」

 別に二人は知り合いではない。しかし、どういう訳か‥‥‥二人は数秒間、硬直する。

「えっと‥‥‥ご、ごめんなさい!」
「え、あ!」

 女の子は突然顔を真っ赤にすると、手にしていたワンピース水着で体を隠しながらトタトタと走り去ってしまう。
 しばしの間呆然‥‥‥‥しかし今度は数十秒後、再び時は動き出す。



「やぁねぇ。小学生を睨み付けていたわよ」
「違うわよ。あれは品定めしてただけ。多分あの間に、頭の中であの子は‥‥」
「まぁ、怖いわねぇ‥‥“ロ”なのかしら?」
「でも、あの男の子は、入ってくる時は女の子と一緒だったわよ?」
「それはフェイクよ。オーラで解るわ」



 ヒソヒソと周りで様々な声が囁かれる。てかオーラの解るあんた、一体何者だ。
 正直走って逃げ出したいが、その場から動く事の出来ない事情もあるため、グッと堪えて待合いの椅子に座り込み、頭を抱えて視線を落とす。

(ううっ‥‥‥‥早く出てきてくれ、綾香)

 待合い椅子の隣に設置されている試着室をチラリと見てから、周りに気付かれないうちに視線を戻す。
 さすがに店内を見渡すのならばまだ良いのだが、試着室を凝視していては本当に警察に突き出されかねない。
 実際、周囲の客からは奇異の目で見られ、中には敵意すら持って睨んでくる者達まで居る。
 唯一、楽しそうに、そして気の毒そうに見てくる店員だけが大和の味方だった。

(たまにいるのか‥‥‥‥やっぱりあれか。カップルだと、来る人も多いのか)

 とすると、希にこうして、水着選びに付き合わされて冷や冷やものの数時間を過ごした者が居るのだろうか?居るのだとしたら、是非とも目立たないで過ごす方法をお教え願いたいものである。
 水着選び‥‥‥‥そう、現在大和が待機している店は、水着の専門‥‥‥しかも女性水着を専門に扱っているという、商店街屈指の聖地である。
 何故そんな場所に大和が居るのかは、当然初夏を迎え、夏に向けての準備を始めているからだ。
 学生時代とは違って夏休みなどはないのだが、それでも二人で旅行に行くか、遊びに行くだけの余裕はある。ならばそれに備えて、予め水着を買っておこう‥‥‥と言う話になったのだ。
 さすがに女性水着専門店に入る事には多少躊躇があったのだが、綾香が下見をした時に気に入った水着があったとの事で、こうして大和も迷い込んでいる。
 ちなみに聖地だと言っているのは、男子では完全に開き直った奴か変態野郎のどちらかだ。何せ女性水着以外は置いていないという徹底ぶりから、店員やお客は全てが女性。男用の水着など一着たりとも置いていないのだから、店内に男が入れば否応なく目立ってしまう。
 もっとも、入ってくる男は大抵カップルであり、恋人が試着室に入っている間に怪しい目で見られないように‥‥

(‥‥‥‥‥待て、もしかしてこの待合い椅子、恋人(待ちぼうけをくらう奴)専用の椅子なのか?)

 ようやく大和がその事実に気付き始めた時、シャッ、と試着室のカーテンが開け放たれた。
 着替え終わった御崎 綾香は、試着室から顔だけを出し、キョロキョロと大和を探し始めている。

「大和?さっきから話し掛けても返事がないが、ちゃんと居るのか?」

 大和が頭を抱えている間に話し掛けてきていたのだろう。残念ながら大和は綾香の言葉を聞いている程の余裕もなかったのだが、幸い、大和の『早く出てきてくれ』という願いは叶えられた。
 これこそ天の助け。綾香が着ている水着を褒めて、早々に決めてしまおうと顔を上げると――――



 そこには、紺色のスクール水着を着ている綾香が居た。



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥!?」

 大和の脳内に混乱が訪れる。
 何故スクール水着!?それなら学校支給のが残っているんじゃないか!?何故こんな場所で着てるのか!?またあの祖母の入れ知恵か!?
 さまざまな思考があっという間に駆け抜けていく。その間に、綾香は自分の水着姿を見て呆然としている大和をみてから、薄く赤面し、残念そうに下を向いた。

「その‥‥大和。やはり似合わないか?お前の友人から、好みを聞いてきたのだが‥‥‥」
(あいつかぁーーーーーーーーーー!!)

 学生時代、共に数々の戦場を駆け抜けた相撲部部長の爽やかなスマイルを脳内に思い浮かべてボコボコにぶちのめしながら、大和は心の中で叫んでいた。
 これが本番、または高校時代の出来事だったのならばまだ親指を立てていたのかも知れないが、現在の状況でこの水着はやばい。綾香のスタイル+マニアックな水着+周囲からの氷点下の視線+水着の胸元に書いてある『食べ頃♪』の状況は冗談抜きで危険である。
 綾香のスタイルと相まって、非常にきわどい。いろんな意味で。

「綾香!あいつの言っている事は出鱈目(でたらめ)だ。冷静になれ、俺がこんな水着が好きだと思ったか?」
「‥‥‥‥‥‥嫌いか?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥苦手、と言うことにしておいてくれ」

 前半は焦りのままに早口で、しかし後半は苦虫を噛み潰したように静かに、目を背けながらそう言った。
 綾香はその様子を見ていたのか、それとも周りの冷たい視線(向かう先は大和)に気が付いたのか、慌てて試着室のカーテンを見に巻いた。

「そ、そうか。大和が苦手ならば仕方がないな。うん。では、次の水着に着替えるとしよう」
「頼む。そうしてくれ」

 シャッ、とカーテンが閉じられる。
 今の水着は少々勿体ない気もしたのだが、デートだからと言ってもここは近所の商店街。まだ対面の方が優先された結果であった。
 そもそも、ここで選んだ水着で海やプールに出かけるのだ。それを考えると、絶対に他の男達には見せたくない姿である。
 それを見れただけでも、密かに相撲部元部長に感謝するだけの価値はあるだろう。

(命も惜しいしな。‥‥‥‥いや、やっぱり別のところに移動した方が良いのか?)

 視線は冷たく、ついに先程までが冬だとすれば、今では氷点下にまで達し始める。



「見ました奥さん。自分の恋人に『すくーるみずぎ』ですって」
「あのゼッケンを見ました?」
「『食べ頃♪』ッて書いてありましたわよね。やっぱりあのまま襲うつもりだったのでしょうか?」
「否定は仕切れないわね。やっぱり、ここは警察を呼んでおいた方が‥‥」
「お客様。何かお気に召しましたでしょうか?」



 ヒソヒソ声は、既に隠されてもいない。
 ついに危険区域にまで達し始めていたその会話は、先程からこちらの事を気の毒そうに見ていた(しかし口元は笑ってた)店員によって阻まれ、何とか水着で食い止められた。

(助かった。ありがとう)
(気にしないで。こっちも楽しませて貰ってるから)

 店員と視線だけで会話する。名も知らないこの場限りの協力者であったが、大和にとってはまさに天の助けとなっていた。
 ‥‥‥‥‥‥まぁ、店員が何を楽しんでいたのかまでは知りたくはなかったが。

(綾香、次こそは‥‥次こそはまともな物で出てきてくれ)

 神に祈るようにして両手を合わせながら、大和はジリジリと時間が過ぎるのを待ち続けた。
 時間にしてみればほんの数分間だったのだが、あちこちから視線を受けて精神的に参り始めている大和にとって、それこそ一時間程にまで感じさせた。

「大和。まだ居るな?着替え終わったから、出るぞ」
「お、ようやく着替え終わっ‥‥‥」

 再び顔を上げると、そこには着替え終わった綾香が居て‥‥‥

「大和。どうしたんだ?もしかして‥‥‥また変か?」
「変と言うより‥‥‥‥今度は誰の入れ知恵だ?」
「お祖母様が、『どうせならば大和君が喜びそうな物を』と言って、こういう物が良いんじゃないかと‥‥‥」

 恥ずかしそうにそう言う綾香に対し、大和は心の中で綾香の祖母に礼を言う。
 綾香が着てきた水着は、真っ白なビキニ水着だった。
 一見したら普通の水着だ。さして珍しい物ではないし、海かプールにでも行けば、十分何人かは見かけるだろう。
 しかし綾香が着込んでいたその水着は、少々‥‥‥‥一般的な企画から見ると、サイズが変わっていた。
 上も下も、どちらも他のビキニ物に比べると、一回り以上に布が少なくなっている。綾香の抜群すぎる健康妖艶なスタイルと水着の露出度は店の女性達の中でも抜きんでていて、今まで大和の事を訝しげに不審者を見る目で見続けていた女性達ですら、その姿に見入り、赤面していた。
 もちろん大和は、その数倍のダメージを受けていた。幸い、ひもビキニではなかったために致死には至っていない。

「その‥‥‥‥大和?」
「‥‥‥‥は!」

 まじまじと綾香の姿を凝視してしまっていた大和は、ハッとなって我に返った。
 思わず見取れていたのだが、それは罪にはなるまい。何しろ店内にいた者全ての視線は、間違いなく綾香に向かって注がれていたのだから‥‥‥

「似合ってる。すごく綺麗だ」
「そうか。よかった。大和を驚かせようかと思っていたのだが、褒めて貰えるのは嬉しい」

 本当に褒めて貰えた事が嬉しいのだろう。綾香は赤面したままで微笑を浮かべ、それから照れ臭そうに試着室の中へと隠れていった。

「なら、これで良いか?試着室の中に持ってきたのは、これとスクール水着の二つだけなんだが‥‥」

 スクール水着とビキニ水着の二択か‥‥‥‥迷う必要すらなかった。

「それで良い。スクール水着よりも、ずっと綺麗で似合ってるからな」

 大和が試着室の前でそう言うと、試着室の中からガタガタッと、何やらぶつかる音がする。どうやら、水着を脱ごうとしてバランスを崩したらしい。
 ゴソゴソと慌ただしい着替えの音が聞こえてきたが、大和は努めて聞こえないフリをした。でなくば、恐らく綾香の着替えシーンを想像し、周りから氷点下を越えて絶対零度の視線が突き刺さっていただろう。

「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ。それより、私は支払いをしてくるから、もう少し待っててくれ」

 赤い顔をしたまま出てきた綾香は、試着室に持っていった水着の数着を棚に戻し、レジカウンターへと持っていく。その背中を見送りながら、大和はようやく一息付けたとばかりに待合い椅子へと座り、軽く息を吐いて気を抜いた。
 周りで睨んでいた女性達も綾香が出てきた事で興を削がれたのか、まるでショーが終わったとばかりに買い物へと戻っている。
 あまりの扱いに少々ムッとするが、それよりもホッとした気分の方が勝っていたため、睨み返すような事もせずに店内の様子を眺め回した。

「あ‥」
「あれ‥‥?」

 そうして見回し‥‥‥一人の少女と目があった。
 顔には見覚えがある。綾香を待っている間に目があった、小学生の少女である。大和に合ってから時間を潰してからやってきたらしく、手にしている水着は大和と合った時に持っていたワンピースの物だ。
 大和の注意が逸れたのを見計らったのか、それとも試着室から出て行った綾香を見て安心したのかは解らない。しかし理由はどうあれ‥‥‥‥大和と少女は、目があったままでジッと固まってしまった。
 別に大和にとってはやましい気持ちなど微塵もなかったのだが、タイミングが悪かった。
 何せ大和は‥‥‥試着室に入っていく所を、ジッと見続けているのだ(思わず目があって固まってしまっただけなのだが)。目を反らすタイミングを逃してしまったため、どうにも身動きが取れなくなる。
 気まずい沈黙が流れる‥‥‥‥

「あ‥‥ごめん」
「――――!!」

 大和が謝ると同時に、女の子は綾香に負けないぐらいに顔を真っ赤に染め、バタバタと試着室の中へと駆け込んだ。それから試着室の中でジッとしているのか、物音一つ聞こえてこない。
 別におかしい事は言っていないはずなのだが、どこからか罪悪感が込み上げてくる。
 先程までこちらに冷たい視線を向けていた女性達には見られていなかったようだが‥‥‥‥‥‥

「‥‥‥‥‥大和。今の女の子に何をした?」

 しっかりと、まるでお約束のように、会計を済ませてきた綾香に見られていた。

「!? し、してない!断じてなにも!!」
「嘘だ。じゃなかったら何であんな赤い顔をする!」

 弁解の言葉を一蹴する。綾香がここまで大和の言葉を否定するのも珍しいが、大和はそこに思い至る程の余裕はない。
 このままでは、大和は恋人とのデート中に小学生少女をナンパした変態野郎に成り下がってしまう!!
 この場ですぐに誤解を解きたい所だが、言い合っているうちにあちこちから集まり始めている野次馬のお客達の視線が痛い。まして小学生の事までも聞かれてしまうと本気で警察を呼ばれかねないと判断し、大和は綾香の手を取った。

「分からんが、たぶん恥ずかしかったんじゃないか?」
「‥‥恥ずかしがるような事を!!」
「誤解だ。とりあえず説明するから、こっち来てくれ!」

 詰め寄ろうとする綾香を引っ張りながら、店の外まで誘導する。
 綾香自身も怒りながら周りの事を気にしていたのか、決して大和を店内に引き留めることなく、声のトーンも落としながら、抵抗することなく店の外まで出ていった。
 興味津々で集まり始めていた店内の女性達は、小さく舌打ちしながらその後ろ姿を見送っていた‥‥‥








 夕焼けの商店街を、二人の体は滑り抜ける。
 晩ご飯の買い物に出てきた主婦や、学校帰りの学生達の波などものともしない。子供の頃からこの商店街で過ごしてきた二人にとって、この程度の波で足を止めるような事はなかった。
 ‥‥当然、人混みの中だからと言って、会話の方も途切れる事はない。

「本当になにもしてないし、言った通りだぞ」
「‥‥‥‥‥‥」
「綾香?」

 店を出てからすぐに誤解を解こうと説明を始めた。
 と言っても、言える事は実に簡潔‥‥‥詳細に説明した所で、その内容は非常に少ない。
 何しろ単純に目があって、相手がそれを恥ずかしがった‥‥‥‥ただそれだけだ。
 それ以上は言いようがないだろう。
 だが綾香は納得したのか信じていないのか、時折こちらを振り返っては目を合わせ、慌てて前へと視線を戻している。
 その様子を眺め続けて、ようやくその仕草の意味を思い出した。

(そう言えば、前にもこんな事があったな)

 今まで、綾香と喧嘩をした事は少ない。
 しかし数少なく喧嘩した時(そして綾香に陽があった時)、綾香は決まって同じような行動をしていた。
 ‥‥‥‥‥‥ただ単に、照れ臭いだけなのだ。
 今まで失敗する事が少なかったため、正面から謝る事が出来ないでいる。
 まして今回嫉妬したのは小学生。さすがの綾香もバツが悪いらしい。

(まぁ、綾香がぶっきらぼうなのは、今に始まった事じゃないけどな)

 こういう時の対処法は分かっている。
 大和は歩調を少しだけ速め、綾香に気付かれないうちにソッと隣に並び、綾香の頭の上に手を置いた。

「や、大和?」

 頭を優しく撫で始めた大和に顔を向ける。顔が赤くなっていたのは夕日の所為か、それともまだ店での影響を残しているのか‥‥‥
 恐らくはどちらでもない理由だろうが、あえて追求せず、大和は綾香の頭を撫でていた。

「綾香、その水着、帰ったら着てみてくれないか?今度はじっくり見たいからな」
「‥‥‥‥‥‥バカ」

 顔を真っ赤にして小さく呟く綾香の声に、大和は不思議と安心感を覚えていた。
 頭を撫でていた手を下ろし、静かに綾香の肩に手を回す。綾香は特に抵抗するような事もなく、店で買った水着の入っている紙袋をギュッと抱きしめ、大和に寄り添うようにして歩き続けた‥‥‥‥












★★参加PC★★
5123 和泉・大和 (いずみ・やまと)
5124 御崎・綾香 (みさき・あやか)


★★ライター通信★★

 幸せそうで羨ましいなこの野郎!!
 ‥‥‥‥ぁ、カメラ回ってましたか。どうも毎度こんにちは。メビオス零です。
 さて、今回はどうでしたでしょうか?自分としては大和君をもっともっと苛めようかと思ったのですが‥‥‥‥いえ、本音じゃありませんよ?大和君にロリコン疑惑をふっかけて慌ただしくしただけです。良くある事ですよね。
 さて‥‥‥次があれば夏ですか。夏休みネタではなくとも、海ですか。プールですか。まさか二人で旅行かぁ!お父さんは許しませ(ボキャッ!)
 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
 ‥‥‥‥
 はい、落ち着きました。最近色々あって、テンションが変になってきています。体力も落ちてきてるし‥‥‥夏には倒れるかな?
 まぁ、そんな状態でも頑張っていきますので、どうか、よろしくお願いします。
 今回のご発注、誠にありがとうございました。これからもどうか、よろしくお願いします。(・_・)(._.)


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東京怪談
2006年06月28日

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