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『『千紫万紅 ― 紫陽花の物語 ―』 』
涼原・水鈴3203)&十六夜(NPC2980)


 しとしとと降る雨は梅雨の雨。
 6月の花嫁さんはジューンブライド、とても幸せそう。
 だから綺麗なのかな?
 いつか着たい真っ白なウエディングドレス。
 運命の人が男の人でも女の人でも、私はかわいいウエディングドレスを着てあなたとバージンロードの先で会いたいな。
 そこから一緒に歩くの。
 いつか見たあなたが本当に運命の人なら良いのに。
 出逢える予感は強く強く私の心をこんなにも縛って、切なくも恋しくさせる。
 会いたくって、逢えなくって。
 逢えなくって、会いたくって。
 ねえ、それはあなたも一緒ですか、運命の人よ?
 こんなにも恋しい私の想い、あなたも感じてくれている?
 感じてくれていたら、
 それは嬉しくって、幸せで。
 そしてだから伝えたい。
 笑顔という花をあなたのためにだけ咲かせて。


「私もあなたに逢いたかったよ」


 言葉に出来ないこの想い。
 だから私はあなたに抱きつく事で伝えよう。
 ぎゅっと、ぎゅっと、抱きしめるその腕の力で、伝わる温もりで。
 大好きだよ―――


 それは愛よりも清らかで、純粋で、尊い想い。
 

 ただ伝えたいだけ。
 壊そうとも、縛りたいとも、独り占めしたいとも想わない。
 ただ大好きな人に、こんなにも私はあなたが大好きなんだよ、って、そう伝えたいだけ。


 大好きな人がそれを知ってくれていたら、それはとても嬉しいから。
 それは幸せだから。


 そう。私はこんなにもまだ見ぬ出逢えぬあなたが大好きで、
 恋しくって、
 早く会いたくって、
 ただそれだけで。
 今はただそれだけで。
 だから私は、私があなたが大好きだよ、こんなにも大好きだよ、だいだいだいだいだい大好きだよ、
 って、そう伝えたいの。
 私が運命の人であるあなたにそう願うように。
 私はあなたに大好きだよ、って私と同じくらいの想いを込めて言われたら、それは世界の誰よりも幸せで、そして世界中で一番の幸せで嬉しい存在理由を持つ事になるから。
 大好きなあなたが私を大好き、
 ―――それだけで私は私がここに今ある存在の理由を見出せるから。
 そしてそれはあなたも一緒。
 そうだよね。
 そうだよね。
 そうだよね。
 運命のあなた。


 大好きだよ。



 早く会いたいよ。




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 いつも歩き回っている場所で一番綺麗に紫陽花が咲き誇っている場所。
 私は大きく息を吸って、それから我慢できずに微笑むの。
 だって浮かんだ素敵なアイデア。
 早くそれを実行したくって。
「十六夜ちゃん、あーそーぼぅ」
 ふに?
 返事が無い。
 ただの紫陽花のようだ。
 なら、こっち。
「十六夜ちゃん、あーそーぼぅ」
 うぬ。
 やっぱり返事が無い。
 じゃあ、こっちかな?
 3度目の正直。
「いざ」
「2度ある事は3度ある。って、想わないの? やめなさいよ!」
 雨の降る音はしとしと。
 それは私が持つ傘の内側は青空の絵が描かれているお気に入りの傘をしっとりと叩くのだけど、でもどこかその音が変わる。
 ふん。
 私の目の前でその人は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「十六夜ちゃん、おはよう♪ あれ、ひょっとして低気圧?」
「………それ言うなら低血圧でしょう」
「あ、そうだ。私ったら失敗♪ 失敗♪」
 えへっ。こつん、と軽く握った手で頭を叩いて、舌を出して見せたら、十六夜ちゃんはアヒル口になった。
 面白い。結構十六夜ちゃん、表情が豊か。
 だったらねー、
「雨だね、十六夜ちゃん。せっかく会えたのに、残念。だったら、お空叩いたら、晴れるかな?」
 かな?
 …………。
「えっーと、晴れると腫れる、を………」
「す・る・な」
 わーん、十六夜ちゃんがワニ目で睨んだー。
 私はしゅんとしたフリ。
 そしたらまた十六夜ちゃんは大きな不機嫌そうなため息。
 いつもはパラソルをくるくると回しているのに、そのため息を吐く十六夜ちゃんは傘を差していなかった。
 白い肌を雫が伝う。
 それはまるで本当に紫陽花の花が雨に濡れているみたいで綺麗。
「やっぱりお花さんだから雨が好きなの? だったら梅雨も好き?」
「はー。ほんと、いったいあなた、何をしに来たのよ? 雨は好きよ。人間の匂いは消えるし、人間が立てるノイズも消えるから。なのにあなたは雨でも元気なのね。こんな朝早くから人の所に来て」
「え!? ここに住んでるの、十六夜ちゃん!!!」
「って、あなた、あたしがここに住んでると想ったから来たんでしょう?」
「ううん。ここの紫陽花はすごく綺麗に咲いているから、紫陽花繋がりで十六夜ちゃんに繋いでくれるかな? って、それで」
 私はにっこりと笑う。
 だけど十六夜ちゃんはなんだかまたアヒル口になった。
「人間ってよくやらないで後悔するよりもやって後悔した方が良い、って言うけど、それは嘘ね。少なくともあたしは後悔しているわ。なんだかあなたが馬鹿みたいに何でも無い紫陽花に話しかけているのに仏心を出してあげたのを」
「うん。私は知ってるよ。十六夜ちゃんが優しいって事。ねえねえ、知ってる、十六夜ちゃん。紫陽花の花ってね、そんな心変わりのお花じゃないんだよ? なんとかっていう昔の外国人のおじさんがね、おたくさ、っていう名前をつけて大好きな女の人に贈った花が紫陽花なんだよ。それってさ、どんな色に変わってもあなたが好きですって意味じゃないのかなぁ。だからそんな素敵なお花のあだ名がある十六夜ちゃんは移り気な娘なんじゃなくって、優しくって、純粋な娘なんだよ」
 私は背伸びして十六夜ちゃんに言う。
 だってそれは伝えたい事。
 十六夜ちゃんは私の運命の人じゃないけど、でも大切な娘。
 お友達になりたいと想う娘。
 だから私がそれを伝えるのに充分で、伝えたいと想うの。
 十六夜ちゃんは雨に濡れた髪をさぁっと雨が降る空間に舞わせてそっぽを向いた。
 照れてる?
「る?」
「うるさいわよ」
 やっぱり照れてる。
 そうだよね。十六夜ちゃんの髪は青色。青色の紫陽花は忍耐強い愛だもんね。
 だからやっぱり十六夜ちゃんは純粋。
「さてと、じゃあ、行こうか、十六夜ちゃん」
 私はしっかりと十六夜ちゃんの右手を掴む。
 拉致完了。
「行くって、どこによ?」
「あれ? だって十六夜ちゃんが言ったんだよ? さっき。私に何しに来たの? って。だから、しに来た事言うね。おたくさ、食べに行こう♪」
「紫陽花ならそこら中にあるわよ」
「そこ、笑うところ?」
 って言ったら、十六夜ちゃんがすごく嫌そうな顔をした。
「冗談だよ。おたくさ、っていうのは紫陽花のような形をしたお菓子。近所の御茶屋さんでね、お茶受けとして出してくれるの。そこはすごい良いお店なんだよ。マスターさんもママさんもすごくすごく良い人なの。お茶屋さんの奥が喫茶ルームになっててね、実際に行った方が早いよ。行こう♪ 全部紫陽花繋がり」
 掴んだ右手をぶんぶんと振り回して、
 左手の傘を十六夜ちゃんに差しかける。
「やれやれね。食べ物で釣られると想われてるなんて。あたしはあんな虫とは違うわよ」
 そう言われながらも手を引かれてついてくる十六夜ちゃん。
 私はくすくすと笑ってしまう。
 雨がしとしとと降る中で。
 これで十六夜ちゃんも一緒に笑ってくれればいいのに、と想うのは贅沢かな?
「なにがよ?」
「なーんでもだよ。十六夜ちゃん」
 しとしとと雨が降る。
 私たちはその雨が降る中を歩いていく。
 仲良く手を繋いで。
 繋いだ手、私たちはもうお友達だよね。
 移ってくる温もり。
 移る温もり。
 繋いだ手、
 それがお友達の証拠。



 美味しいお茶におたくさ。
 さくっとした食感と甘い味、それに味わい深いお茶が最高にあって、もう本当に幸せ。
 十六夜ちゃんも黙っておたくさを食べて、お茶を飲んでくれて、これって気に入ってくれたんだよね。
 えへへへへ。
 嬉しいな。
 やっぱり私が美味しいと感じるものを十六夜ちゃんにも美味しいって感じてもらいたいから。
 お店を二人一緒に出ると、そしたら、
「じゃあ、さようなら」
 って、十六夜ちゃんが私が行こうとしていた方とは反対方向に歩き出して、私は後ろに手を引っ張られたようになって、
「って、どこに行くの、十六夜ちゃん?」
「だってあなたがあたしを呼びに来た用事はもうこれで済んだでしょう。だからお別れ。はい、さようなら」
「って、ダメだよ。まだ用事は済んで無いんだから。一緒に素敵な紫陽花のお話探しに行こう?」
 って言ったらやっぱり十六夜ちゃんはアヒル口。ワニ目。
「素敵なお話ありませんかー? って訊いて、はい、あります、って言われるようなほどこの世界は美しいものばかりじゃないわよ。世界は醜いんだから」
「でも皆、優しいよ?」
「賭けてもいいわ。いつか絶対にあなた、騙される」
「だけど十六夜ちゃんは助けてくれるよね」
 だから安心。
「さあ、探しにいってみよぉー」
「はぁー」



 雨がしとしと降る中を歩いていくと、青の紫陽花の前で立っている紫陽花の精さんを見つけた。
 私が居たよ、って見たら、十六夜ちゃんはアヒル口になっていた。
 あとは素敵なお話かどうか、だよね?
 私はやる気の無い十六夜ちゃんの手を引いて紫陽花の精さんの方に走っていった。
「こんにちは、紫陽花の精さん。何をやっているの?」
「待っているのよ」
「待っている?」
 紫陽花の精さんはそうよ、と頷いて、
 そして説明してくれた。
 前の雨の日に戯れで人の姿を取って表で遊んでいたら雨が降り出して、
 それで人間の男の人に傘を借りたんだって。
 その傘を返したくって、ここで待っているんだって。
 ほら、あったよ、素敵な話。
 私が十六夜ちゃんを見ると、十六夜ちゃんはふんと鼻を鳴らした。



 その次の日、十六夜ちゃんを誘って、また紫陽花の精さんの所に行ったら、だけどそこには居なかった。
 それからまた次の日、雨が降っている中、行ったら、そこには紫陽花の精さんが居た。
「いらっしゃい。今日も来たのね。二日連続で会えて嬉しいわ」
 あれ?
 私は十六夜ちゃんを見た。
 そしたら十六夜ちゃんは肩を竦めた。
 どうやら私が想った事は正しいみたい。
 多分この紫陽花の精さんは雨の日にしか人の姿が取れないんだ。
 じゃあ、
「えっと、紫陽花の精さん、その人に傘を借りたのは何時?」
 紫陽花の精さんは一ヶ月前と言った。
 だけど雨の日にしか姿が取れなくって、それで紫陽花の花が咲いている時にしかそういう事が出来ないとしたら、
 それは………
「紫陽花の精さん、傘を貸してくれたその人に会いたい?」
 紫陽花の精さんはとても綺麗な顔で微笑んだ。
 ああ、どうすればいいんだろう?
「待ちぼうけしかないんじゃない?」
「十六夜ちゃん………」
「そんな事を言ってもしょうがない」
 紫陽花の花。
 花言葉は辛抱強い愛情。
 本当にどうすればいいんだろう?
 待ち続ける紫陽花の精さん。だけど、人間さんにはあまりにも時間が経ちすぎちゃっている。
「あなたがそんな顔をしてもしょうがないでしょう?」
「だけど哀しいよ。私も会いたい人に逢えないからわかるもん」
「馬鹿ね」
 十六夜ちゃんはため息を吐くと、言った。
「だから現実なんか嫌い」
 ―――あたしは移り気な娘。
 故に人はあたしを紫陽花の君と呼ぶ。
「あたしは物語を創る」
 そこはifの世界。
 その作り物の世界で、紫陽花の精さんは会いたい人と逢って、綺麗に微笑んで、傘を渡して、想いを告げて、消えた。
 泣いている私に、十六夜ちゃんは冷たく笑いながら、「嘘も方便。嘘が人を救う事もあるのよ。いえ、それがほとんど。だからあたしは現実が大嫌い」
 そしてその日からあたしは十六夜ちゃんとはあの公園で出会えていない。



【ending】


 私はそれからずっとあの傘を持って、枯れた紫陽花さんを背にしながら待っていた。
 紫陽花の精さんが傘を渡したかった人を。
 あのね、そしたらね、
「綺麗な歌だね。歌を歌っていたのはお嬢ちゃんかい? おや、その傘は去年ここでかわいらしいお嬢さんに貸してあげた私の傘」
 っていう嬉しい事があったんだよ、十六夜ちゃん。
 やっぱり私はね、こうやって世界は綺麗な感情や綺麗な物で溢れていると想うの。
 想うの、十六夜ちゃん。
 だから十六夜ちゃんもその優しい気持ち、忘れないでね。
「私たちは友達だから、十六夜ちゃん」



 →closed


 紫陽花(全般)の花言葉:ほら吹き・移り気・あなたは冷たい・元気な女性・高慢・無情・辛抱強い愛情
 紫陽花(青)の花言葉:忍耐強い愛
 所縁の日 6月3日 6月29日


 ++ライターより++


 こんにちは、涼原水鈴さま。
 いつもありがとうございます。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
 今回はご依頼、ありがとうございました。


 今回は紫陽花の君こと十六夜とのシチュという事で、水鈴さんと十六夜との関係を書かせていただきました。
 前回のノベルでの出会いと触れ合いによっての感触として紫陽花の精と出会うまでの二人の触れ合いを、
 それで紫陽花の精との出会い以降は、十六夜の水鈴さんを想うが故の感情と苛立ちが出ているような感じです。

 水鈴さんの純粋さと優しさ、かわいらしさ、天真爛漫なそんな彼女の描写を書けて凄く楽しかったです。
 そしてものすごい明るさと、優しさで接して、鳴かぬなら鳴かしてみせようホトトギスを地で行く感じは本当に楽しくって、書いてて面白かったです。
 何よりもラストの奇跡は水鈴さんの優しさがあったからこそ起こった奇跡ですものね。
 その奇跡や、水鈴さんの最後の純粋な想いの結晶のような台詞、それが本当に水鈴さんだからこそ書けた物で、
 それを書けた事がすごく嬉しかったです。
 少しでもPLさまにお気に召していただけていましたら幸いです。



 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 ご依頼、本当にありがとうございました。
 失礼します。
 
PCシチュエーションノベル(シングル) -
草摩一護 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年06月26日

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