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『花に降る雨 雨に降る闇 』
四宮・灯火3041)&影山・軍司郎(1996)

 ────それは、雨の日のことで御座いました。

 暮れ間際よりしとしとと音を立て始めた初夏の慈雨は、まるで銀の絹糸の様にかそけく、またやはらかで。乳白色と鈍色混じり合う曇天より降り来る雫と、それを孕んだ大気とに、名の如く明かり色したわたくしの衣はしっとりと潤み、いっそ暖かささえ感じるような……そんな、天のご機嫌で御座いました。

 わたくしはその日、店より少々雑多な用を申し遣っておりました。
 主人の言葉に見送られ、店を出たのが少し遅めの昼下がり。あちらこちらと用向きを済ませておりますうちに、はや、長いはずの陽も没する刻限。せめて道を失わない明るさのうちに、と帰途につこうとしましたら、先に述べました通りの俄か雨模様。日がな一日のくもり空はただの薄暗がりと、天上の気分を読み誤っておりましたわたくしは……つまり、生憎傘を携えずに店を発って参ったので御座います。
 激しい雷雨、という訳ではなく、ただささやかなるささめ雨。しかも出抜けにはたはたと降ってきましたので、時を置けば再び、ふいと止んでしまうのではないか……という予想も頭を掠ておりました。
 なのでわたくしは、通りすがりの軒先にひと時の宿を借り。天の気紛れが早々と上がってくださるのを、暫く、眺め待つことに致しました。

 頃は水無月。真を申せば、水有月。
 この街も梅雨に入ったと、今朝方店の主人が物憂げに零しておりました。これから、こんな水に満ちた日が多くなるのでありましょう。雨は人の足を億劫にし、然程遅くはない時刻でも斯様に人の影を見かけない……そんな、静かな宵の日々。

 見上げ窺うわたくしの居ります門前、その家のはす向かいに、煌々と光を投じ始めた街灯がひとつ、立っておりました。照らされているのは──あんな所に、社が。
 簡素な石の鳥居が半身だけ光の中にあり、その麓から奥へと連なるは紫陽花の群。狭い、がらんどうな境内でしたので、空間を埋め尽くすが如く咲き乱れるその花は一際印象的にわたくしの目に映りました。鮮やかな藍の青に、紫を一匙混ぜた様な赤、微妙な色合いの浅紫、また露草の色。様々咲き分けられている花の盛り上がりを目に留めて……しかし、けれども、それだけのこと。

 さあさあさあ。夜闇の中白熱灯に照らし出された細雨は、益々もって銀針の様で御座いました。細く鋭く天より射掛けられ、そのくせ地を穿つというよりは、染み込み、また広がって。やがて、辿り着いた土くれとひとつ身になろうとするかのいじらしさ、いっそ切なさを、わたくしは想起致しました。
 然様なこと、人形の身が申し上げるのは僭越でしょうか。いえしかし、わたくしにはわかるので御座います。恋恋て、焦がれて止まない唯一の方を求め、慕い。如何にもしようがなくなる、居ても立ってもいられなくなる……。そんな螺旋を描く様な甘苦を、この、熱を持たぬ身は重々承知しているので御座います。


 ……わたくしの、御方様。
 ……あなた様はいま、いずこに。


 さあさあさあ。思いの外長きに渡り振り続ける雨も、実は、わたくしにとっては障りでも何でもありません。隔たった距離を瞬きの間に飛び越すことの出来るわたくしには、こうして雨宿りをする必要など、さらさら無いので御座います。
 では何の故にそうしないのか。問われれば、わたくしは明朗な答をついと差し出すことでしょう。


 ……目が。
 ……わたくしの、描かれたに過ぎぬ瞳が。
 ……欲するので、御座います。

 ────わたくしの想い人を探して……と。


 たまさか、見逃したら。
 求める人と擦れ違う機会を、逸したら。
 そんな焦燥すらかき立てるほどの危惧が、わたくしを、見知らぬ人家の軒下に足止めするので御座います。今も──雨上がりを待ち続ける今もまた、眼前の小路へと無為に視線を投げ掛けずにはいられません。
 天気のせいか時刻の為か、誰も通らぬ静けさを理解はしているのです。それでも────それでも、砂丘の中の一粒にも似た期待を宇津保の胸に抱くこと、妨げられず。その徒労こそがいつか、想い人に繋がるのだと信じること……止められず。


 ぽたり、ぽたりと。軒より雫の断続的に落ちる音を、暫し聞いて過ごしました。
 わたくしが立っておりますのは恐らくこの家の裏口、しかし閉ざされた門は立派な造り。左右に伸びる板塀の曲がり角など、消失点の向こうの闇に飲み込まれております。ここら一帯が古くからの住宅街であることもありまして、さぞや高名な士の邸宅かと、わたくしは推察致しました。
 ────と、そんな折で御座います。
 キイ、と乾いた音が不意に聞こえ、わたくしは思わず振り返りました。そして若い女性と、双眸をかち合わせました。
 門の横、勝手口が開いたので御座います。身を屈め、潜る姿勢で顔を覗かせたのは、年の頃二十歳かそこらの淑女。儚き霞の様な女性、との印象が咄嗟脳裏に閃きます。
 わたくしは当然驚き、凝っとこちらを見据えてくる彼女に身動きが取れないでおりました。不審に声でもかけられるかと、些か覚悟のようなものを決めも致しました。────が。
 しかし彼女はふいと、まるでわたくしなど見なかったかの様に視線を外すと。わたくしのかたわらを擦り抜け、石段を降り、通りを隔てたあの社の方へとゆっくり、歩んで行かれました。

 ……一体、なにゆえ。

 眉をそばめかけたわたくしの疑問は、けれども、彼女の手に携えられたものを目にして氷解致しました。
 その方は白杖をついていたので御座います。つまり盲目か、良くても弱視。わたくしを“見た”とは誤りで、気配を“みた”だけなのでは、と得心致しました。
 足の運びに迷いが無かったのは、彼女がこの道を通い慣れてらっしゃるためで御座いましょうか。彼女は光の元に辿り着くと、青く咲く紫陽花の根元に膝を折り、抱えていた何やら……大きめのタオルに巻かれたものを、丁寧な仕草で取り出されました。その手により現れたのは、夜目にも鮮やかな金糸雀色。羽根をぐったりと伸べているその姿、此処よりの眺めでも見て取れました。
 ────あれは彼女の、恐らくは鳥籠にて愛されたのだろう小鳥の、最期の姿。
 彼女は花の根元を手で掘り始めました。夜に一層白い指先が汚れるのも構わず、手探りの作業を厭いもせず、ただ黙々と。潰えてしまった小さな命のために、墓穴を掘ってやっている様でした。

 ただ、一心に。
 ただ、そのために。

 ……気付いたら、わたくしはその様子を静かに、見つめていたので御座います。



 全ての作業を終えると、彼女は来た道を戻り、先ほどと同じ足取りで屋敷の中へとお帰りになられました。
 わたくしは数秒、鳥の葬られた紫陽花の青を名残にと目に焼付け、此処より出立する心を決めました。早々に止むとの予想は最早外れ、段々と深まっていく夜の暗さ、そろそろ店に戻らねばなりません。遣らずの雨とは申しますが、何時までもこうしているのは詮無きこと。
 わたくしは薄い水溜りの中に爪先を差し入れました。ぱしゃ、と小さく飛沫が弾けます。肩の紅が雨を受け、湿っていくのを感じます。
 転移の能力を使うことよりも、濡れて帰ることを選んだわたくしは浅はかでしょうか。愚かでしょうか。……しかし、わたくしはわたくしに対して、誠実ではあったと思います。鳥を弔った女性を見て、より一層あの方を求めたくなったのは……名の如く胸に灯がともりましたのは……無理なからぬことだとわたくしは、わたくし自身を理解致しましたので。

 ────そんな、帰路の途中で御座いました。

 幾許かも歩まぬうちに、わたくしは前方に影が在ることに気がつきました。
 夜よりもずっと深い、漆黒に塗り込められた影。ただひたすらに、黒。それが仁王の姿で立ち、それこそ道を塞いでいるかの様にわたくしはふと足を止めました。
 さあさあさあ。相変わらずの雨がわたくしと影とに降りかかります。わたくしはその大きな黒を見上げました。街灯の光がぎりぎり届かぬ場所、まるで、光を避けているかの絶妙な立ち位置。
 わたくしは少し、首を傾いだかもしれません。あまりにも唐突に出会ったもので、やや現実感に乏しい光景として眺めたのかもしれません。しかしわたくしは、斯くも“影”そのものでいらっしゃる方を他には存じませんでしたので、

「……影山、様?」

 そっとお名前を、お呼び致しました。




******************



 窓の外を濡れた景色が流れていきます。行く末から来し方へと、滑らかに、戸惑いも無く。
 わたくしは車中に在りました。運転席には影山様が、わたくしは後部座席の……普段は影山様のお客様を乗せているだろう席に収まっておりました。
 雨夜の邂逅。濡れそぼつわたくしの姿を暫し検分なさった後、影山様は「何処まで」と仰いました。わたくしは一言「店まで」と答え、結果、こうして影山様のご好意に甘えている次第で御座います。
 影山様とは幾たびかの事件でご一緒する機会を得ました、所謂顔見知り、と申しましょうか。御礼を述べましたわたくしに、影山様はこれといったお言葉を返されもせず、ただ、近くに停めてあった一台の車を示したのみで御座いました。黒服の影山様が乗り込むと薄暗い車中はなお一層闇の濃さを増し、それこそ、月明かりさえ皆無の外よりも、昏き。
 衣擦れの音さえ憚られる車内に腰掛けて、わたくしは流れ行く夜の街を眺めておりました。無為に……いえ、求めて。探して。


 繰り返す呼びかけは、一様。

 ……あなた様。

 何処に……何処に。


「誰かを探しているのか」
 不意に尋ねられ、わたくしは視線を前に……ちょうど影山様が映っていらっしゃる、上部の小さな鏡に投げ掛けました。
「はい」
 驚くほどの素早さでわたくしが答えましたのも、無理なからぬことかもしれません。冷えた硝子に頬を押し付けるようにして身体を預け、幾筋か黒髪が窓の雫に張り付いて。そのままの姿勢でいたわたくしに、影山様も前を向かれたまま言葉を重ねられます。
「今夜は雨だ」
「存じて……おります」
「人など、通りもしない」
「……そうで、御座いますね……」
 もしも。……もしも、夜の海を泳いだとしたら、この様な眺め……なのでしょうか。
 人形のわたくしには終ぞ知ることのない景色を、何故かそのとき、思い描いたので御座います。
 黒い海流、もがく腕。足掻けど、求めれど、指先が何かに掛かることすら叶わない。孤独な海の、大洋の、暗い、昏い────。


  あなた様。わたくしの、想う御方。
  わたくしが斯くの如き感慨に捕らわれるのは。
  雨と闇の中でひとりきりだと、痛みにも似て感じますのは。
  すべて、すべて。
  あなた様という“もう一人”が、いらっしゃるからでしょうか。

  真にわたくしが、たったひとりで海を行く、例えば流木であったならば。
  こうしてあなた様を探す瞳を得ることも。
  こうしてあなた様を呼ぶ声を得ることも。
  またこうして、あなた様へ辿り着くための歩みを得ることも。

  ……この、想いを知ることも。

  無かったのではないかと、わたくしは……思うのです。


「……影山様は、」
 ふと口をついた言葉に、鏡の中の影山様は眉すら動かされませんでした。
 わたくしはわたくしで、何故声に出してしまったのかと驚き……躊躇に瞼を、数度瞬きました。
 そろそろ外を流れる街並みが見慣れたものになった折。家たる骨董屋までは間もなくだと、わたくしでも察せられます。
「道が空いている」
 わたくしの思考を先回りなさったのか、影山様が仰いました。はい、と曖昧に頷き、それでも瞳で追いますのは夜の道。刹那閉じた瞼に甦ったのは、先刻目にした金糸雀。想いという籠の中に捕らわれ命を終えられた鳥。それは翼で空を自由に駆けるよりも、ずっと……ずっと……────。

「……影山様」

 再びの呼ばいは、明瞭なもので御座いました。ちら、と鏡の中の眼球が動いた様にも思いました。

「影山様には、想い人は……」
「着いた」

 ギ、と鈍く軋む音が致しました。
 それがブレーキ音だと知ったのは軽い衝撃に身体が押されたからで。窓の外を見れば、つまりは、目的地。未だ灯りが点いているのは、店主が居りますからでしょう。わたくしの帰りを待っているのか、または、ただ徒然を持て余しているだけなのか……。
 有難う御座います、とわたくしは座したまま指先を揃え頭を垂れました。すると影山様は自ら車を降り、傘を広げてわたくしの扉を開いてくださいました。ほんの数歩の距離をその覆いに守られ、軒下に立って振り向いたらば、既に影山様は踵を返したところ。
「お急ぎでしたか?」
「ああ」
「お手を……煩わせました」
「いや」
 構わない、と背中で仰り、運転席の扉を開けた影山様が──そこで、ふと、立ち止まられました。
 黒い背中。闇に降る雨。わたくしの後ろから射す家屋の光が、あの方までは決して届かない。あの方は照らされることを嫌悪していらっしゃるのか……それとも、光のほうがあの方を忌避しているのか……。
「何を、」
 と、影の声が低く響きました。
「先刻、何を、訊きかけた?」
 肩越しに、鼻梁の高さのみが見えました。わたくしは暫し言葉を探し、やがて、
「いえ……影山様には、取るに足りぬことを」
「ならば、いい」

 夜を切り裂く様にして走り去った車体を、わたくしは見送りました。そして再び、あの海を、脳裏に描いておりました。
 影山様は……影山様こそが、あの、流木の姿そのものであるのだと……わたくしはそのときふと、思ったので御座います。




 たった一人きりで夜を行く、

 想いの籠など終世知ることの無い、姿。














******************



 ────それは、またの雨の日のことだった。

 彼女はいつものように不自由な視界を杖で補い、彼女と、数人の使用人しか住んでいない家の勝手口を抜け出した────のを、影山軍司郎は車中から窺っていた。彼女が向かうは程近くの神社。恐らくは彼女が幼少の頃から馴染み、そして今では縋る対象でさえある“彼女の神”の居場所だ。
 彼女の胸には、庭に迷い込んだ仔猫が抱かれていた。猫はまだ死んではいない、ただ深い眠りの淵に沈みこんでいるだけ。そうでなければいけないのだろう────消えてしまった命を埋めても意味は無い、というところか。
 敷地に着いた彼女は歩数で今日の墓穴を決めたらしい。雨に濡れるのにも構わず花の根元に屈みこみ、土を掘り始めた。影山はそっと車を降りる。手には得物を、靴音は雨に紛れるほど微弱に。
 おかあさま、と彼女は呟いたようだった。

「……おかあさま。
 神様は、私から光と、貴女を奪いました。
 私の大事なものを、取り上げました。
 だから私、おかあさまの教えてくれた“神様”に頼んでいるの。
 神様の宝物である命を、たくさん、捧げます。
 だから、私の愛したものを。
 おかあさまを、私の目を、返してください……って」

 闇に沈んだ社を、影山は見上げる。
 彼女は、果たして何処まで知っているのか。ここにまします“神”はとても古く、とても力を持っている。願う者に対価を望み、それが意を満たしたときのみ万能の力を振るう、“神”。
 こんな街の、こんな閑静な家並みの中に在るとは。影山は音に出さず舌打ちした。気付かぬはず、見過ごすはずだ。────この女が、命を埋め始めなければ。

 彼女は知らないのだろう、彼女が埋めた幾つもの身体が花の根の下で腐敗し、どろどろに溶け出し、土を変えて花の色を変えていることを。この社の紫陽花が余りにも色取り取りなのは、全て、彼女の願いに因る。
 細い指先は、やがて仔猫がぎりぎり収まるほどの小さな穴を完成させた。彼女は温かな身体をそこに丸めて押し込み、上から土を被せる。それら全て一心の、真に心の奥底からの祈りと、行為。想いに浸り作業に没頭していた彼女は、なので、気がつかなかった。夜の闇よりもなお暗い影が、いつの間にか背後に立っていたことを。

「…………!」

 サーベルを抜き放つ音に彼女が振り向いた時、その切っ先は既に彼女の心臓を貫いていた。少量の血と共に背から刃が引き抜かれ、その支えを失うや、彼女の身体はぐらり────傾いだ様は、まるで、人形。命を消された人の形は土の上へと倒れ込み、しとしとと降り続ける雨に打たれ、濡れていく。主を失った杖がその傍らに添い寝して、呆と見開かれた宇津保の瞳の表面にそれが、意味も無く、映っていた。
 影は──影山は何の感慨も面に表さず、ただ、少し紅に染まったサーベルを雨に晒して一振りした。見下ろす瞳には哀れみも悔やみも無い、これは彼が己に課した任務。遂行に、一体どんな感情が介在するというのか。────否。無価値。
 影山は今日も漆黒の軍服姿だった。ただひたすらの、身を黒に塗りこめたかのいでたち。『番人』として現れる時には決まってこの姿……そうであることを、あの日の赤い少女は気付いたのだろうか。

 本当ならば、この女を止めるのは今日よりも前にするつもりだったのだ。
 しかしあの雨の日、この社に向かう途中で雨中を歩いて行こうとする紅の着物の少女に出会った。
 そして、彼女を家にまで送り届けた。
 深い理由は無い、ただ、彼女は傘を持っておらず、自分は車を持っていた。それだけのことだ。

 少女は知って見つめていたのか、どうか。この足元に伏す女が、禁忌とされる“神”を奉っていたことを。
 影山は再び社を眺め遣る。まだ“神”が起きてはいないことを気配で確認した。手向けられた命を糧に、徐々に力を蓄えてきていたようだが……それもここまで。今暫くは──いつかその時が来るまでは、眠りについていればいい。
 身を捻り、進路を女の屋敷に定め直す。女の意になる使用人があの家に残っていること、既に調べてある。
 あれらがどれほど“神”を理解しているかは不定だが、放置しておくわけにもいくまい。女が命を埋めていることを熟知しながら従った。女が母親を棺から盗み出すのを手伝い、ここの地中深くに葬ったことをも秘匿している。それだけで、消えるには充分な理由だ。
 境内の泥の上に、歩き出した影山の軍靴がめりこむ。大股の足跡が女の死体から続き、それは街灯の手前で不意に、立ち止まる。


『影山様には、想い人は……』


 少女の声が記憶の底から滲み出た、ような気がした。
 彼女は誰かを探していると言った。必死に窓の外へと目を凝らす姿が、その切実さを如実に物語っていたのを覚えている。

 ────想い?

 慣れぬ言葉を影山は舌の上で転がす。
 眼の前には煌々たる人工の光。影山はそれを凝っと見つめる。


『 影山様 には 、 想い人 は …… ? 』


「…………」
 影山は答えなかった。
 答える言葉を、知らなかった。
 若しくは、遙か彼方の遠い昔に……いや、何でもない。

 ────それこそ、取るに足らない、ことだ。



 やがて足は女の家へと向かいだし、再び痕を刻みだす。
 影の習性か、地に落とされた光を、避けて。


 了


PCシチュエーションノベル(ツイン) -
辻内弥里 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年06月20日

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