▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『『砂の上の戦い』 』
芹沢 神楽3294



【AM 4:09】

 天気・良好、風向きは南、地平線の彼方がかすかに明るくなり始めている。
 芹沢・神楽(せりざわ・かぐら)は腕時計に目を落とした。もうまもなく、太陽が姿を見せる頃である。地平線から太陽が昇り光がこの砂漠に満ち始めたら、すぐに行動を開始しなければならない。
「そろそろだ。準備はいいな?!」
 神楽は、今自分が立っているキャタピラ式の戦闘車両の中にいる、訓練生の仲間に声をかけた。
「いつでも出発出来る!」
 仲間の一人が返事をすると同時に、神楽は戦車の中へと入った。夜が明ける。戦いが始まるのだ。
「気を抜くな、油断は全ての災いを招くと思え!」
 神楽がそう声をあげ、戦車はゆっくりと動き始めた。
 軍国主義のこの世界に命を授かった神楽は、生まれもっての軍人であると言えるかもしれない。将軍の家に生まれ、まだ幼い少女ながらも、すでに一人前の軍人になる為の訓練を繰り返し行っている。
 神楽のまわりにいる、訓練生の大人達は言う。なぜ、お前のような子供、しかも女が軍人など目指すのかと。
 確かに、神楽は町にいればそこいらの子供とさほど変わりはない。10歳そこそこの幼い少女が軍人であるなど、想像しろという方が無理があるかもしれないしかしひとたび戦場へ入れば、神楽のその幼い顔つきがとたんに大の男と同じ、激しさと冷静さを持った軍人そのものへと変化をしていくのである。
 神楽は今、訓練生の仲間2人と重ガトリングガンを搭載した戦車に乗り、戦闘の訓練に来ていた。訓練とはいえども、任務はきちんと出されており、神楽達はこの砂漠に住む砂魚を狩らねばならなかった。
「砂塵に注意してくれ。砂が戦車の隙間で詰まると厄介だからな」
 砂漠など、この世界には至る所にある。いや、ほとんどが砂漠で覆われていると言った方が正しいかもしれない。
 軍国世界【神威】とは、砂漠ばかりの厳しい環境の国であった。この世界に生きる人間の半数以上が軍人であり、神楽もその軍人の一人であることには違いない。今は訓練生であるから、いくら神楽が武将の家の出であるとは言っても、軍人としての権限はまったくない。
 しかし、すでに神楽は自分の目指す道を見定めているのであった。軍人として、もっと高いところを目指すのだと。
「まだレーダーにかからないな」
 訓練生の仲間の一人である男が言った。男は戦車を操作しながら、すぐ横にあるレーダーで、砂漠にある物体の確認をしている。
「このあたりには、いないのかしらね」
 重火器類の武器を握りつつ、訓練生の仲間である女が呟いた。
「さあ、どうだろうか。やつらは群れをなしている。相手にするのは面倒だな」
 男が小さく息をついた。
「しかし、出てきたらやるしかあるまい」
 男のあとに続けて、神楽が答えた。
「牙流だろうが砂魚だろうが、とにかく任務を遂行しなければ」
 神楽がそう言うと、訓練生の仲間達は小さく頷いて見せるのであった。

【AM 6:15】

 夜明けから2時間ほどの時間が流れた。すっかり日は昇り、あたりは明るくなったが、砂魚等の砂漠の生物はいまだに姿を見せない。しかし、この広い海のような砂漠のどこかに潜んでいる事はわかっていた。
「神楽、この地域はどうも反応がないな。別のところへ行ってみないか?」
 訓練生の男が、神楽にそう提案をする。
「そうだな。無駄に動き回っている程の燃料はないしな。では、西方向へ進んでみよう。そのあたりでは、砂魚の生息が数多く確認されたと、前回ここで訓練を行ったチームが記録に残している」
 神楽達の乗った戦車は、砂漠の西を目指して進み出した。
 途中、何度か砂漠の生き物がレーダーに映し出されたが、それは神楽達が捜し求めている生き物ではなかった。

【AM 11:48】

 どれぐらいの間、砂漠を走り続けただろう。砂で出来た大海原を、神楽達を乗せた戦車は走り続けた。
「レーダーには何か映っているか?」
 前方の様子を確認しつつ、神楽が呟いた。
「いや、何もないな。しかし、もう砂魚の生息エリアに入っている」
 仲間の男が、そう答えた時であった。
「きたぞ!やつらだ!」
 レーダーに、9つの点が映し出され、それらがかなりのスピードでこちらへ近づいてくるのがわかった。
「この動き、間違いないわね」
 女の方は、すでに重火器を携えていた。
 戦車は、そのレーダーに映し出された生き物に、ある程度距離をとりながら近づいていった。
 基本的にはこの戦車で応戦をするのだが、それでも足りない場合は、神楽達が外へ出て戦うことになっていた。
「訓練生として学んだ事をやれば、何て事はないはずだ!」
 神楽はそう叫んで、軽火器を手に取った。重い武器は苦手であり、戦車を操作するのが得意ではない神楽は、軽火器で戦うのが一番自分に向いていると思っていた。
 次第に影はレーダーの中心部に近づいてきた。今回ターゲットにした砂魚は、牙龍と呼ばれる生き物であった。
 訓練学校で、神楽は写真を見た事はあるが、実際に見るのは初めてであった。巨大な蛇の姿をした彼らの顎の力は鋼を容易く砕き、砂の圧力に耐える鱗は銃弾を簡単に弾くのだという。しかも、それが9匹もいるのである。彼らを狩るのは、そう容易いことではないだろう。ヘタをすれば、この戦車も神楽の生身の体も、その強靭な顎で噛み砕かれてしまうかもしれない。
「いくぜ!」
 牙龍達が砂から姿を現したと同時に、男は戦車に搭載されている重ガトリングガンを連射した。戦車の中で、銃が発射される音が連続して響き、その弾は一番先頭にいた牙龍の体に当たった。重々しい声が響き渡り、最初の一匹があっけなく砂の上に倒れる。
「よし、逃げるぞ!」
 残りは8体であるが、仲間を倒された牙流が、神楽達を集団で取り囲んで攻撃を仕掛けてくるのは目に見えていた。だから、神楽達は群れとある程度の距離を必ずとっていなければならないのだ。
「神楽、牙龍の最大時速はいくつだっけか?」
「48kmだ。昨日復習したばかりだろう?」
「悪いな、俺、数字覚えるのは苦手でよ!」
 神楽の言葉を聞き、男はスピードをわざと下げ、戦車を時速48kmで走らせ続けた。牙龍と同じスピードで走り、距離間を保ちながら攻撃を仕掛けるつもりなのだ。
 さらに戦車が火を噴き、牙龍の体を貫いた。
「当たったぜ!」
 戦車を操作しながら、砲撃で牙龍を倒した事を、男は喜んでいる。男の操作技術もあるが、この重ガトリングガンの威力もかなりのものと考えていいだろう。何しろ普通の銃弾ならば弾いてしまう様な牙龍の体を、貫通させてしまうのだから。

【PM 1:11】

 逃げながら砲撃をするという攻撃態勢を取ってから、1時間異常すぎた時であった。狩猟すべき牙龍があと2匹、というところまで来た時、残りの個体が砂の中にもぐったまま、出てこなくなってしまったのであった。
「おかしい、どういうことだ。砂の中に上がってこないとは」
「死んでしまったんじゃないかしら?」
 女が神楽に言ったが、神楽は首を横に振って見せた。
「違うな。ほら、レーダーにはちゃんと映っている。まるで動いていないけどな。おそらく、砂の中に隠れてしまったのだろう」
「しかし、これだと戦車ではどうにも出来ないぜ?」
「ああ、そうだな」
 神楽がそう答えた時点で、自分が取るべき行動はわかっていたのだ。
「こうなれば、直接退治しよう」
「やっぱりね、神楽。あんたなら、そうすると思っていたわよ」
 神楽は女と顔を見合わせ、小さく笑みを浮かべて見せた。



 神楽は女と一緒に戦車の外へと出た。とは言え、砂の上に直接立つのは自殺行為だということはわかっていたから、戦車で近くの岩場まで移動し、二人はその岩場の上へと立った。男はそばで戦車を控え、いつでも攻撃できる態勢を整えてくれていた。
「牙龍を地上に出てこさせるんだ。そうでなきゃ話は、始まらない」
「でも、どうやって?」
 女の問いかけに、神楽は持っていた手袋に石を入れて、それを砂の上へと投げた。2つの手袋が砂の上へと落ちた時、その真下から牙龍の鋭い牙が現れ、石の入った手袋を丸呑みした。
「そうか、生き物が砂の上に降りたと思わせたのね!」
 女の言葉に、神楽は頷いて見せた。
「いまだ、一気に畳み掛けるぞ!」
 神楽の軽火器と、仲間の女の重火器が同時に日を吹いた。戦車の砲撃よりは劣るのだろうが、その代わり小回りの利いた攻撃を仕掛けることが出来る。
 神楽は、わざと音を出して牙龍を出来るだけそばまで近寄らせ、その鱗の隙間を狙ってコルトの引き金を抜いた。けたたましい声が響き渡り、牙龍の鱗が剥がれ落ちる。
 神楽は武器を戦闘用ナイフに持ち替え、飛び掛ってくる牙龍の鱗を切り捨てていった。その鱗がなくなったところで、女がライフルの銃を撃ち込んだ。表面は硬い鱗に包まれていても、中身までは強靭ではない。牙龍の体が岩の上で崩れ落ち、内蔵が飛び散り生臭い臭いが漂っていた。
「あと1匹いるはずよね?」
 女が首を見回した時、戦車の砲撃の音が響き渡った。
「あ!あいつ、何をしてるんだ!?」
 振り返った神楽の瞳に、戦車が牙龍により噛み砕かれようとしている光景が映った。戦車は砲撃を繰り返しているが、牙龍を近距離まで近づかせてしまった為、かえって砲撃が射程距離から外れてしまっていた。
 しかし、不思議なのはなぜここまで牙龍を近づかせてしまったかである。
「どうして、あんな事に!」
「まさか、居眠りしていたわけでもあるまい。おそらくは、戦車が動かなかったのだろう。長時間、この砂漠を走っていたわけだしな」
 神楽は、それでも冷静さを失わなかった。仲間が今、怪物に襲われようとしている、という時のはずなのに。
 どんな時でも冷静いる、それが神楽達軍人には欠かすことが出来ない事なのであるからだ。
「神楽!」
 しかし、女の方は冷静さを失っていた。額に汗をかき、ただ一点、戦車の方をじっと見つめている。
「助けにいかなきゃ!」
「無茶言うな。距離がある。私達が中身の体で砂の上に降り立ったら危険だぞ。わかっているだろう、他に砂魚がいたらどうするつもりだ」
 それでも、女は感情を捨て切ることができなかったのだろう。砂の上に降り立ち、戦車の方へと走っていった。ライフルを肩に抱えたままの姿で。そして、牙龍に向けてライフルを発射した。
「駄目か」
 女の弾が牙龍の体に当たるよりも前に、牙龍が女の体を食らう方が早かった。悲鳴すらも聞えないほど、あっけなく終わってしまった。
 神楽はその光景から目を背けた。自分が軍人であるとは言え、さすがに仲間が犠牲になるところは見たくはなかったのだ。自分は殺戮マシーンなどでは、ないのだから。
 視線を戻すと、もはやスクラップのようになった戦車だけが残されていた。そばの地面には、赤い染みが広がっている。
「しかし、任務は最後までやらなければならないな。私、一人であっても」
 牙龍が、最後の獲物である神楽を狙って、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
 神楽は息を細く吐き、コルトを構えた。正確に、まっすぐに。決して外してはならない。命を落とした仲間の為にも、自分がやらねばならない。それが、軍人としての神楽の使命なのだから。

【PM 5:47】

「神楽、ご苦労であった。最後まであきらめず、砂魚の群れを狩った事は、大変な評価であるぞ」
 任務を終えて、訓練場のある都市へ戻った神楽は、上官から激励の言葉をもらった。
 神楽は最後までやりとげたのだ。9匹目の牙龍は、神楽がそれまでと同じように鱗の間を狙い撃ったところ、運が良い事に牙龍の心臓を貫き、一気に倒す事が出来たのであった。
 上官に褒められるのは、軍人としては光栄な事のはずであった。それでも心が素直に晴れないのは、どうしてだろうか。
 それでも、神楽はさらに上を目指さなければならない。自分は感情的になってはいけないのだ。例え、仲間が犠牲になったとしても。
 それが、芹沢・神楽の宿命であるのだから。(終)



◆ライター通信◇

 はじめまして。発注ありがとうございました。WRの朝霧と申します。
 今回のような軍国もののシナリオは初めてでしたので、これで良いかな?と少々心配になっております。神楽さん達が使っている武器は、現代の武器をモデルにして描いて見ました。
 神楽さんの気持ちも、ところどころに入れてみたのですが、それっぽくなっているといいなあ、と思っています。
 それでは、どうもありがとうございました!
PCシチュエーションノベル(シングル) -
朝霧 青海 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2006年05月25日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.