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『門出の時 』
和泉・大和5123)&御崎・綾香(5124)


 熱気は高まっている。
 ステージには、どこからか試合の噂を聞き付けてきた同級生まで集まっていた。
 まぁ、ステージとは言ってもテレビが入っているような大きな試合ではなく、新人戦のようなものであるため、そう多くの人々が集っているわけではない。
 しかしそれでもこれはデビュー戦。
 控え室でアップしている和泉 大和は、緊張を解そうと、普段行っている基礎トレーニングを行っていた。

「大和、そんなに飛ばすと試合に響くと思うぞ」
「いえ。何だかこれぐらいしてないと落ち着かなくって‥‥」
「お前の相手はレスラー歴三年の先輩だぜ?病み上がりで勝てる相手じゃないっての。気楽にいけよ」

 控え室でアップをしている大和にかけられる先輩達からの言葉。
 確かに、怪我から復帰しているとはいえ、レスラー歴数ヶ月の大和で勝てる相手ではない。別に大和とて勝てると思っているわけではないが、デビュー戦だ。緊張するぐらいの方がちょうど良いだろう。

「和泉さん。もうそろそろ出番です。こちらへ」
「良し!さぁ出番だ。行ってこい!」
「はい!」

 身体から流れる汗を軽く拭いながら立ち上がった大和は、先輩達を別れて選手用の入り口へと案内される。
 ステージへと控え室はそう離れていないのか、大和が控え室から出た途端、客席から響いてくる歓声が耳を打った。

(‥‥‥大丈夫か?この足で)

 試合前だからか、いらない事を考えてしまう。
 いくら病院側からOKを出されているとはいえ、怪我によって不自由を強いられてきた数年間の不安を拭いきれるはずもない。
 また痛まないか?先輩の攻撃に耐えられるか?飛びワザは使えるのか?
 プロレスを始めて日が浅いのもあるのだろうが、大和には本格的な試合経験はない。
 練習の時も病院に通うために途中で抜ける事はままあったし、大体病院通いが終わったのは一ヶ月前だ。怪我がぶり返す可能性は、十分にある。

「ではこちらです。どうぞ」
「はい。ありがとうございます」

 考え事をしている間にステージ入り口へと到着する。
 案内してくれた運営委員にお礼を言ってから、大和は大きく深呼吸をし、動悸を少しでも落ち着けてから口を開く。

「‥‥‥‥良し。大丈夫‥‥‥」

 自分に言い聞かせ、ステージへの扉を開け放つ。
 ‥‥‥熱気は、高まっていた。





 ステージの上には、既に先輩が上っていた。
 ジムで練習をしている時には頻繁に付き合ってくれていた先輩ではあるが、本試合という事もあるのか、大和を見るなり拳をパンパンと叩き合わせてやる気満々だと言う事を示してくる。

「よぉ大和。初戦だが、緊張してないか?」
「は、はい。大丈夫です」
「よろしい。つまり手加減の欠片も必要ないってことだな」

 ステージに上った大和に声をかけてきた先輩の言葉にピクッと頬を引きつらせた大和であったが、本当に手加減の欠片もしてくれそうにないその様子を見て、大和は苦笑しながら距離を取った。
 まだ試合が始まるまでには少しだけ時間がある。出来れば、始まる前には見つけておきたい所なのだが‥‥‥

「大和ーー!頑張れーー」
「倒せーーー!」
「行け!相撲の力を見せてやれ!!」
「お、あいつ等‥‥」

 どこからとも無く響いてくる歓声に、大和はぐるりと会場内を見渡して声の主達を眺めてみた。
 元相撲部だった大和の応援に来てくれたのだろう。大和が長く所属していた相撲部の連中が、こぞって大和に向けて激励の歓声を上げていた。
 ‥‥‥そしてその集団の手前‥‥リングに最も近い場所であるリングサイドに、大和の婚約者である御崎 綾香が座っており、大和が自分に気が付いた事に気が付くと、苦笑しながらリングの横に待機しているジムリーダーをチョンチョンと指差した。
 ジムリーダーに視線を向けると、ニヤリと笑って親指を立ててきた。

(リーダー‥‥さっき、“病み上がりで勝てる相手じゃない”って言ってましたよね?)

 わざわざ特等席に人の婚約者を呼ぶ辺り、からかっているのかも知れない。または発破を掛けてくれているのか‥‥

「こうなったら、勝つしかないな」

 周りに聞こえない声で呟き、自分の頬をパァンと叩いて気合いを入れる。
 試合前に綾香の顔を見る事が出来たからか、先程の悩みなど頭の中から吹き飛んでいた。

『では!お待たせしました!間もなく試合を開始します!』

 実況が盛り上げる。審判が大和と対戦相手の先輩に声をかけ、二人を向き合わせた。

「行くぞ大和。そう簡単にやられてくれるなよ」
「はい。よろしくお願いします!先輩」
「む」

 大和の気配に只ならぬものを感じ取ったのか、先輩は表情を変えて大和へと向き直る。
 それは練習の時には見せた事のない真剣な表情だ。実力ではまだまだ大和は自分には届かないと解っていながらも、しかしあまり油断が過ぎると返り討ちになりかねないと判断したらしい。
 審判が試合開始を宣言した途端、それこそ飛び掛かってきそうだ。

(俺に出来る事と言ったら、大したことはないからな。‥‥‥やっぱりここは一つ‥‥)

 大和は今までの練習で自分が出来るようになった事を思い出す。
 先輩には勝てない。だが、一番先輩を困らせる事が出来る戦い方と言ったら‥‥‥‥
 カーン!
 ゴングが鳴り響いた。







「大和、そんなに落ち込むなよ。勝てないッて言っただろ?」
「それに俺達は楽しませて貰ったぜ?何か異種格闘技戦みたいでよ」
「そうそう!何だかんだで、客には喜んで貰えたんだから良いじゃないか!」

 試合後の控え室に戻った大和は、口々に先輩達から声をかけられていた。
 試合相手の先輩にボロボロにされた大和には答える気力はなかったが、しかし辛うじて苦笑だけで返事をする。それだけで大体の事は伝わったのか、先輩達は顔を見合わせ、ニッと笑いながら大和の肩を叩き、軽く労いの言葉をかけるだけで控え室から出て行った。

(結局、まともに戦えたのは最初だけか‥‥)

 それを見届けた大和は、控え室で熱気を覚ましてから私服に着替え、試合の行われていた体育館を後にした。
 大和の試合が最後だったため、現在体育館内は片付けが行われている。
 外に出た後、大和は振り返り、自分の闘い方を思い起こしていた。

「まさかな‥‥‥まだ“こっち”の方が強いのか」

 苦笑しながら、身体に叩き込んだ相撲戦法を思い出す。
 ‥‥‥そう、相撲戦法だ。
 大和はプロレスの試合であるにも関わらず、身体に染み込んだ相撲の感覚で戦った‥‥‥つまり、プロレス相手に相撲の戦法で挑んだのだ。
 ルールは全く違うが、真っ向からの叩き合いならば負けていない。試合が始まるなり相手に突進し、それこそ本当にリング外にまで落としてやろうという勢いで突っ込んでいたのだが‥‥
 残念ながらプロレスラーの強みはその力ではなく、攻撃を受け続ける事によって得られるタフさなのだ。まだ相撲からプロレスの身体に作り替え切れていない大和は、馬力はともかくタフさで負けたのだった。

(まぁ、良いか。別にもう闘えないって訳じゃないんだからな)

 今までは闘いたくても闘えなかった身体だった。
 しかし今ではそうではない。怪我をした右肘と両膝も完治し、鍛え直せばまだまだこれから‥‥‥そう、いくらでも試合に出られるんだから。
 それに、例え負けたとしても、自分には‥‥‥

「お帰り、大和。デビュー戦、おめでとう!」

 扉を開けた途端に声をかけられ、大和は思わず小さな笑みを浮かべていた。
 つい一年前までは自分しか居なかった家に、出迎えてくれる人がいる。

「ただいま」

 たったそれだけの事だというのに、不思議と大和は、自分の気が緩んでいくのを感じていた‥‥‥






 家の食卓には、慎ましくも豪勢な食事が並んでいた。
 デビューの祝いとして用意された食事と、疲れているであろう大和の身体を気遣っての軽いメニュー。カー助の分もキッチリと用意され、当の本人は食べ疲れたのか、今では自分の寝床に潜って丸まっている。

「やれやれ。今日は騒がしかったな」
「お疲れ様。これでやっと、大和もプロの一員だな」

 食事を終えてドッと疲れが出て来たのか、大和はそうぼやきながら食卓の席で身体を休めている。後片付けをしながら答えてきた綾香は、言葉を続けてきた。

「それにしてもすまないな。相撲部のみんなからは、大和のデビュー戦には呼んでくれと頼まれていたから‥‥‥」
「ああ。構わない。むしろ、見て貰えて良かった。‥‥負けたけど、あれで良いんだ」

 一流のレスラーを目指すには当然の心構えであろう。
 もちろん負けないに超した事はないのだが、大和も綾香もまだまだ自分の夢への道はあまりに長い。
 その自分の新たなデビュー戦を過去の相棒達に見て貰う事によって、大和はようやく自分の過去の道を吹っ切った。
 恐らく、これからは相撲の闘い方もしなくなるだろう。だが、それで良い。

「これでもう吹っ切れた。俺はもう相撲取りじゃない。レスラーだって‥‥な」
「‥‥大和」
「安心しろ。後悔も未練もないから。只、そのうち“懐かしい”って思うようになるんだなぁって、思っただけだ」

 感慨深げに息を付いていると、洗い物を終えてきたであろう綾香が、後ろからソッと大和の身体に腕を回してきた。

「大丈夫だ。前に進んでいくのは一人じゃないから‥‥」

 私も行くから、と。
 大和は顔だけを綾香に向け、綾香の顔に手をそわせた。

「綾香の道場開きの時には、俺も見学させて貰うからな」
「ああ。頼む」

 二人は笑みを浮かべながら、新たな門出に静かに祝杯を挙げていた。






 時間が流れていく。
 静かに、しかし確実に。
 離れる事もなく、恐らくはこれからも。
 なぜなら、二人の夢は―――











★★参加PC★★
5123 和泉・大和 (いずみ・やまと)
5124 御崎・綾香 (みさき・あやか)


★★ライター通信★★
 毎度ご発注ありがとうございます。メビオス零です。
 またまた時間が経ってしまってすいません。陽気です。恐らく陽気の所為なんです!!w
 今回は大和のデビュー戦ですが、ボッロボロに負けてます。まぁ、所詮なんてそんなもんなんでしょうが‥‥‥うう。次までにはプロレスの事を勉強しておきます。
 綾香の出番が少々少なめです。やっぱり家に帰ってからしか出番が無く‥‥大和ばかり。もう少し濃くした方が良かったかな?ちょっと反省気味。
 毎月発注してくれるとの事ですが、無理のない程度でならどうぞ。極々稀にシナリオも出してますので、よろしければどうぞ。変なのばかりですが(^_^;)
 ご依頼と、そして読んで下さって、誠にありがとうございました。次の発注をお待ちしながら、その間も頑張って修練しておきます。
(・_・)(._.)
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2006年05月23日

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