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『ぼくの見た『CASLL VS 死怨』 』
CASLL・TO3453)&シオン・レ・ハイ(3356)



 彼にとっては高額のギャラが手に入り、有頂天になっていたCASLL・TОは、なにを思ったかシオン・レ・ハイを映画鑑賞に誘った。大事に大事に懐で3万円を温めるCASLLに対し、シオンの現在の全財産はたった136円だ。
 3万円で至福になれるCASLLもまた、普段は140円で生活をしたり、10円で生きのびたりしている男だ。気前よく、シオンの分のチケット代金も払ったし、ポップコーンとコーラを奢りもした。CASLLの人徳を肌で感じ、シオンは感涙にむせんだ。
「本当にどうもすみません……あ、目からしょっぱいヨダレが……」
「いえいえ、一日一善がモットーですから。コンビニのものでよければ、あとでプリンをご馳走しましょう」
「あ、ありがとうございます……!」
「まだ泣くのは早いですよ、シオンさん。さ、行きましょうか」
 ただ立っているだけで子供を泣かせる風貌のCASLLだが、めそめそ泣いているシオンを連れて入った映画館では、現在『ぼくの見たひまわり』を上映していた。ストーリーは割愛するが、鑑賞した人間の9割が感涙のあまり脱水症状を起こすという感動巨編だ。
 時刻は夜8時。CASLLとシオンは、レイトショー料金で『ぼくの見たひまわり』を観た――。


 カララカラカラカララカラ、


 ジジジ ジ、ジジ ジ、ジジジジジ、ブブブ、ぶ、ブウウウウウンンンン――。


 照明が落ちた場内は、奇妙な音に包まれた。シオンの手元にあったキャラメルポップコーンの香りは消え、どこからか――金属が焼けるような音がしてくる。
 ドジャン、と突然の大音響が場内を満たし、スクリーンは光り輝いた。シオンは驚いて飛び上がったが、ポップコーンは一粒もこぼれなかった。
 カラカラカラと、フィルムが回っている。照らし出された銀幕には、首吊り死体が映し出されていた。血みどろで、目玉も舌も飛び出している。自殺したわけではないだろう。誰かが惨たらしくその人を殺め、極めつけに天井から吊るしたのだ。
「ザ・CASLL・TО・SHOオオオオオオWゥゥゥゥゥゥ!!」
 キャッハーッ、と調子外れな叫び声を上げて、銀幕を引き裂き、チェーンソーを手にしたCASLLが現れた。低く唸りながら回転をつづける刃には、血と肉片が絡みついている。会場が悲鳴の渦に呑まれた。シオン・レ・ハイは呆気に取られていたが、ポップコーンは一粒たりとも落とさなかった。
「き、CASLLさん……!?」
「ィヤッハァァァァーッッ、シオン! シオン、シオン・レ・ハイ! ハイ! 今世紀最初のダーティマッドヒーローが、テメェを殺しに来てやったぜ! テメェわ俺様が張った罠にまんまと引っかかってくださった今世紀最大のアホウだぜィ! ギャッハーッ37564ィィイイイイーッッ! CASLLのコワサは世界一ィィィィィィ!!」
 ずどば、と首吊り死体を鮮やかに両断したCASLLは、異様なチェーンソーを振り回しながら客席に特攻してきた。なんだかよくわからないが、シオンは逃げることにした。ポップコーンを大事に大事に抱えながら。
「CASLLさん! これが罠だったなんて! 信じていたのに……すごくいい人だと思っていたのにぃ!」
「ドヒャハァーッッ、そいつはテメェのか・ん・ち・が・いィィィヒーッッ!!」
「ほんぎゃるああああ!!」
 シオンはあえなくバラバラにされた。


 カラララ……ドンタタ……ドン・ドン……カララララ、


 それから108年くらいの歳月が過ぎ去った。
 世界は絶望と死亡に包まれていた。不死身の隻眼殺人鬼CASLL・TОによって、人類の95%が殺害された。ヨーロッパ各国とアメリカが最後の手段として使用した核兵器も、CASLLを滅ぼすには至らなかった。CASLLは死なず、恐るべき核の力によって、さらに多くの命が奪われた。
 かつて東京と呼ばれていた街の地下では、CASLLに怯えながらなんとか生きのびている人々が、細々と暮らしていた。彼らはただ滅びるのを待つばかりになっていた。核がもたらした永遠の冬の寒さや飢餓によって、人間は虫けらのように死に、――運が悪ければ、ゾンビとして蘇った。
 人々はいつ、どこからやってくるかわからないCASLLだけではなく、かつての仲間の成れの果てとも戦わねばならなかった。
 どうして、いつから、世界はこんなことになってしまったのか。
 誰もが何年も太陽の光を見ていない。
 CASLLに対する憎しみと恐怖をつのらせ、人類は息を殺して生きていた。

 太陽の光を見るためでもなく、食料やバッテリーを探すためでもなく、ひとりの男が静かに歩いていた。男は黒づくめであった。黒いブーツ、黒いコート、そして――ずるずると引きずっているのは、漆黒の巨大な剣だ。
 もし彼がその裸体をさらせば、両足の付け根、両腕の半ば、首、胴に、乱雑な縫い目があることがわかるだろう。五体を一度ばらばらにされ、何者かによって無理やり繋ぎ合わせられ、そして蘇った――彼は、シオンと呼ばれるものだった。底知れぬ怨念によって動く死体だ。だから、死怨と書く者もいる。
「きゃす……、CASLL……、殺してやる……、きゃす、CASLLるるる……」
 るるるるう、とシオンはせつないブルースを口ずさんだ。
 ブルースはやがて、湿った呪詛へと移り変わる。そしてまた、ブルースに変わっていく。ルルルル、ブルースはたまに演歌にもなった。
「し、しししシオンさん!!」
 マンホールの下から現れたひとりの眼鏡の青年が、歌ったり愚痴をこぼしたりしているシオンにすがりついた。彼は三下といった。特に取り得のない、哀れな一般市民だ。殺されるためだけに存在しているエキストラだった。
「CASLLさん……、あ、さんなんか必要ないんだった、CASLLですよ、シオンさん、CASLL! 昨日出たんです、でで出たんですCASLLが!」
「どっちにですか?」
「あっちにです!」
「殺するるる」
「ああっ離してくださいぃぃ!!」
 哀れな三下の襟首を掴み、彼をも引きずりながら、シオンはあっちに向かって歩き出していた。騒音のほうへ。悲鳴のほうへ。


 ブブブブウンンン、ブルルルルン、ガラガラ、ブブブウウウンンヌヌヌヌ――。


「ギャアアアアアアアァスッッ!! 獲物えも獲物ののの獲物、ばんごはんだだだッ、ギャハーッあんた死なすゥゥゥゥゥウーッ!!」
「ひぃやああああ、出たああああ!」
「おおお、CASLLさん! じゃなくてCASLLてめェ! ここで会ったが108年目、こちらこそあんた死なすゥゥゥゥゥウーッ!!」
 殺人鬼との出会いはいつも突然に。スプラッターシーンも突然に。シオンは女のように腰を抜かして悲鳴を上げている三下を蹴飛ばし、巨大な禍々しい剣を振りかぶった。CASLLがどこから現れたかなど、考えることではない。殺せばいいのだ。
 CASLLの風貌は凄まじいものだったが、108年前と大差ないような気がしないでもない。毛先が白い赤の髪。眼帯で隠された右目。妙に鋭い犬歯。笑うと耳まで裂けたように見える大口。爛々と光る銀の目。
 そして彼の得物は、ツインチェーンソーだ。刃がふたつもついている。意味がない。そんなチェーンソーでは木が切りにくいではないか。CASLLはそのチェーンソーを伐採に使う気などないのだ。あれは、殺戮のための道具だ。誰が作ったのだろうか。そんなこともどうでもいい。
 CASLLの血塗られた得物と、がつんとぶつかったのは、シオンの禍々しい巨大剣だった。まるで怨念と殺意を具現化したかのような、歪で不吉な大剣だ。いや、銃だ。刃がついているが、確かにその得物には引き金と銃口もついている。
「よくも! よくも私を殺しましたね、CASLL! よくも私をはめてくれましたねッ、信じてたのに! 私はあなたを信じていました、心の底からとても本当に! 理解しません! 理解しません!」
「ケケケケケ! カカカカカ! テメェをぶち殺してあげるので感謝しろよチクショー!! タカリやがってタカリやがってこのクズが! ゴミが! ニートがァ!!」
「ああっひどい、そんなふうに思ってたんですか、CASLLさん! 私のことをそんなふうに思ってたんですが、ひどいです! うえーん! ブッ殺してさしあげるわあああ! ぷりん」
「ひいいいい、やめてやめてやめて、ふたりともやめてぇぇぇーッ! 僕のために争わないでーッ!」
 三下の懇願になど、殺人鬼とゾンビは耳を貸さない。CASLLとシオンは息の合った動作で泣き叫ぶ三下をなんとなく流れでぶっ殺し、大きな得物をどつき合わせて戦いを続行した。
 グサグサゲスゲスグリュグリュザクザクと斬り合うふたりの間には、たまーに地面から這い出してきたゾンビや異形の蟲、通行人が泣きわめきながらやめてくれと割り込んできたが、やっぱりそいつらもみじん切り斬り切りギリギリテケリ・リ。法律なんかくそ食らえ。おれが法律だ。
 ふたりはいい汗を流していた。いや、爽やかな血を流していた。ぶいーんぶいーんぶいーん。片腕でCASLLがチェーンソーを振りかぶる。
「ゲハハハハハ、うぉ、お、おぉれェの勝ちーィィィィィィッッ!!」
 あんれまあ、シオンは左手の指と右腕を失っていた。いつからカポエラで戦っていたのだろう。しかしその足もなんだか軽い。おお! なんたることか、膝から下がないっぽい!
 CASLLのチェーンソーが、シオンの脳天に振り下ろされた。


「ほんぎゃるああああああァァァァあハァァァァァあああ!!」


 隣のシオンの絶叫に、CASLLばかりか、すべての観客が飛び上がった。
 CASLLは左目から、他の観客は両目から、とめどなく溢れ出そうになっている涙をこらえていた、その矢先のことだ。『ぼくの見たひまわり』は、ストーリーこそ割愛するが、今にも感動的なクライマックスを迎えて、エピローグを待つばかりになっていた。
 そして、観客は、自分の涙の封印が解けるのを待っていた。
 しかし、シオン・レ・ハイが、断末魔めいた絶叫とともに、大切にしていたキャラメルポップコーンをばら撒いたのだ!
「こ、殺される! 殺されるううう! 殺人鬼に殺されるー!!」
 シオンは感涙とはちがう意味の涙を流しながら、こけつまろびつ、まだ暗い会場内を突っ走っていった。

『ママ……ママ! ぼくひまわりといっしょにいくよ! ぼくはひとりじゃないんだ!』
『あ、ああ……ああ、わたしの大事な息子! ひまわりと一緒に旅立ちなさい!』
『ママー!』
『わたしの息子―!』

〈THE END〉


 カラカラカラカラカラカラ、


 涙はこぼれず、どこかに行ってしまった。CASLLと観客が我に返ったとき、スクリーンはすでにエンドロールを流していた。とても荘厳で、感動的なテーマを流しながら。
「シ……シオンさーんんんん……」
 レイトショーなのだから、今日の上映はもう終わりだ。気を取り直して次の上映を見直すこともできない。これはレイトショーの罠だ。陰謀かもしれない。
CASLLは散らばったポップコーンの上で、がっくりと首をうなだれた。
 シオン・レ・ハイと『ぼくの見たひまわり』の内容を語り合い、ともに涙を流そうと思っていたのに。シオンはきっと、どこからか寝てしまっていたのだ。ここにもレイトショーの罠があったということだろうか。そして、心地よい音楽が流れる闇の中で、シオンは悪夢を見たらしい。
「ああ……きっと、私の顔が怖かったから、そんな夢を……。ああ……もっと明るい服装で来ればよかった……ああ……CASLL・TОのバカああああ……!」
 おまけにCASLLの足元には、3万円のギャラの仕事場で譲り受けた、特製チェーンソーが置いてあった。
 CASLLはシオン・レ・ハイを責めなかった。




〈了〉

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2006年05月18日

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