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『少年の挑戦、そして。 』
虎王丸1070)&湖泉・遼介(1856)

 ここはエルザード聖都の下町、冒険者の酒場。
 酒場は最近、ひとつのネタで盛り上がっていた。
「いや〜、それにしてもお前見事な負けっぷりだったなあ虎王丸」
 冒険者仲間たちにからかわれるのは少年虎王丸――
 先日。虎王丸は仲間内で噂になっていた辻斬りに勝負を挑み、見事負けてしまった。
 負けたついでに、辻斬りに刀や鎧を奪われ、裸の体中に落書きをされ、滝つぼに落とされた。
「あの滝に落とされて生きてたんだもんな! 大したもんだぜ! にしてもお前の体の落書きいいよな〜バカとかアホとか変態ですとか、お前にぴったり!」
 冒険者仲間は大笑いする。
「ちっくしょう〜〜」
 虎王丸は酒場で地団駄を踏んだりテーブルに突っ伏したりして悔しがっていたが――
 やがて、ばっと顔を上げ、
「よし、再戦だ!」
 と大声をあげた。
「何だ何だ? また負けに行くのか?」
 仲間たちはからかう。
「ふざけんな! とられた鎧を奪い返しに行くんだ!」
 決心。
 そして、冒険者仲間たちに辻斬りの特徴を話しながら聖都を探し始めた。
 酒場でなくとも冒険者仲間は見つかる。街で仲間を見つけるたびに、虎王丸は説明した。
「だからな、青い髪がつんつんしてて、ライオンよりひでえつんつんっぷりで、目がこーんな風につりあがってて口がでかくて」
「それじゃ化けもんだろうがーーー!」
 後ろから後頭部に蹴りを入れられた。
「いてぇ! 誰だ!」
 頭の後ろを押さえながら振り向くと、そこにいたのは青い髪の少年だった。
 湖泉遼介。――前回虎王丸を恥のどん底へとつきおとした、辻斬り張本人である。
 遼介は両手を腰に当てながら、尊大な態度で虎王丸をにらんだ。
「お前、人に特徴教えるにしても私怨入りすぎ。見つかるもんも見つからないだろ」
「うるせえ! お前実際髪つんつんしてるじゃねえか!」
「ライオンよりひでえつんつんっぷりって何だ! 目もつりあがってないし口もでかくない!」
「俺の目から見たらそうなんだ!」
「だからそれはただの私怨だろうがーーー!」
 不毛だった。あまりに不毛な言い争いだった。
「とにかく……出てきたなら――刀と鎧返せ!」
 虎王丸はびしっと指をつきつけた。
 実を言うと――前回あまりにも簡単に負けてしまった記憶があるため、少しだけびびっていた。
 けれど、刀と鎧を取り戻さなければならないし、これ以上仲間たちの笑いものになってはいられない。
「いいか、武具を返せ!」
「ああ、あれが欲しいの?」
 遼介はひょうひょうとした表情で言う。
「そうだ、返せ!」
「やだ」
「ンだとぉ!?」
「あれは俺の戦利品。返せと言われて返すもんかよ」
 遼介はそう言って鼻を鳴らした。
「それなら――再戦だ!」
 虎王丸は遼介をにらみやる。
「また負けたいわけ?」
「ざけんなっ。今度は俺も本気を出す……見てろよ!」
 かくして――
 二人は聖都のはずれへと場所を移動して、再戦することになった。

「あんた、こないだ本気出してなかったわけ?」
 遼介が面白そうに瞳を輝かせる。
 虎王丸は自信満々に胸を張った。
「とーぜんだっ。覚悟しろよ」
 とか言いながら、彼は服を脱ぎだし、褌一丁となった。
 ――体には、まだ前回の遼介のいたずら書き「バカ」「アホ」「俺は変態です」が残っていた。
 これから戦闘をしようというのに裸になった虎王丸に恐れをなして、遼介は数歩後ずさった。
「何考えてやがる」
 虎王丸は遼介の行動を鼻で笑い、そして――
 首にさげていた鎖を、力いっぱい引きちぎった。

 白焔が立ちのぼった。

 遼介が思わず目を閉じかける。
 白焔の中に――
 見えたのは、虎の霊獣人。

『この姿になった俺に……勝てると思うなよ……っ!』
 虎王丸は咆哮をあげた。

 虎王丸の素早さが格段にあがった。前回は速さは遼介のひとりがち勝ちだったというのに、その遼介に勝るとも劣らない速さで攻めてくる。
 武器は素手。拳が飛び、蹴りが飛び、噛み付くようにして迫り、遼介は逃げるのに精一杯となった。
 遼介は――
 楽しく感じ始めた。元々、自分より強い者と戦うのが大好きな少年である。
 ヴィジョン使いである彼はズボンのポケットから聖獣カードを取り出し、
「ティアマット召喚!」
 カードを空中にかざした。
 空間がねじまがった。割れた空間の隙間から、ティアマットが姿を現した。
「こっちも本気で行くぜ……!」
 遼介は剣をちゃきりと持ち直し、地を蹴った。

 虎王丸の攻撃を、ティアマットが受け止める。
 ティアマットが攻撃を受け止めている間に、遼介は素早い斬撃を虎王丸に繰り出した。
 虎王丸はすっと後退した。かと思えば次の瞬間には遼介に迫り、拳が繰り出される。
 遼介の腹に拳が入った。
「へへっ……!」
 遼介は楽しそうに笑った。そして、虎王丸の下から剣を繰り出した。
 しゃっ――
 虎王丸の後退が少し遅れ、虎王丸の毛並みが宙を舞う。
 遼介はその隙に自分から一歩踏み込んだ。
 剣を素早く二度繰り出す連続攻撃――
 虎王丸は、口で剣を受け止めた。
「な……っ!」
 ぎりぎりぎりと思いのほか強い力で剣をつかまれ、抜けずにいる間に、ティアマットがその手に持つ槍で虎王丸を攻撃した。
『………!』
 虎王丸は剣を口から放し跳んで避けた。
 着地と同時に、遼介に再び迫る。遼介の服に噛み付き、遼介のズボンが破れる――
「へへん、よくもやったな!」
 遼介はどこまでも楽しそうに言うと、上から剣を振り下ろす。
 虎王丸は剣が自分に触れる前に、遼介にタックルをしかけた。
「………っ!」
 遼介は思わず剣を止めた。呼吸が止まり、そのまま地面に押し倒されそうになる。
 ティアマットが横から槍を突き出してきた。
『卑怯だぜ!』
 虎王丸が悔しそうに咆哮をあげると、ティアマットの槍を口にくわえ動きを止める。
 倒れそうになっていた遼介はその間に体勢を整え、呼吸を整えると、剣を構え直した。そしてすかさず虎王丸に迫る。
 剣の一撃。
 虎王丸はくわえていたティアマットの槍を引っ張り、その槍で剣を受け止めた。
「やるじゃん!」
 遼介はもう一撃剣撃を繰り出した。虎王丸は槍を口から放し、横へ跳んで避けた。
『てめっ! ひとりでかかってこいよ!』
 虎王丸が叫ぶ。
「だーから言ってるだろ。得意な戦法で戦うのがカシコい戦い方ー」
 遼介は虎王丸の懐に飛び込んだ。
 剣ではなく鞘で、虎王丸のみぞおちを打ち込む。
『………っ』
 虎王丸の霊獣人としての身体能力が、気絶させることはとどめたが、虎王丸は大きく動きを乱した。
 遼介の剣撃が襲う。虎王丸は必死で避ける。
 地面に倒れ伏してしまったところを、遼介の蹴りが飛ぶ。
 遼介に蹴り上げられ、その勢いで虎王丸は立ち上がった。
『てんめ、よくも……!』
 虎王丸が地を蹴る。ティアマットのほうへと。
 そしてティアマットの槍をくわえて強引に遼介のほうへと突き出した。
 遼介は剣でそれを弾く。返す剣の柄で虎王丸の頭を殴った。
 虎王丸が咆哮をあげた。
 ティアマットの槍を放し、ものすごい速さで遼介を襲う。遼介の服が破け、肌に血がにじむ。
 目に見えないほどの攻撃に、しかし遼介はぎりぎりでついていき急所を避けた。自分が素早い動きを得意とするものは、敵の素早い動きを見切れるものだ。
 腹に打ち込まれる虎王丸の拳を鞘で跳ね返す。そして剣の一閃、また一閃。
 虎王丸の毛が宙を舞う。
 血は流さずにすたっと後方に立つ虎王丸に、遼介は再度剣を一閃する。
 しかし、同じくらいの速さで動く虎王丸にはなかなか剣が当たらない。
 虎王丸はかっと白焔をほとばしらせた。
 遼介の服が焼けた。
「あちっ」
 遼介はぱたぱたと服についた火を消した。その隙に再び虎王丸が迫ってくる――
 ティアマットが遼介をかばう。それを飛び越えて。
 その頃には火が消えていた遼介は、降りてくる虎王丸を下から切り上げた。
 虎王丸は――
 空中でひらりと動きを変えて、剣撃を避けた。遼介の頭の上を通り越し、着地する。
 お互いに振り返り、再び対峙した。
「すげーなあんた」
 遼介は心底感心したように言った。「俺、滅多に怪我させられたことないんだぜ」
『だから覚悟しとけと言っただろうがよ!』
 虎王丸は偉そうに胸を張った。そのとき――

 しゃ……りーん

 引きちぎったはずの、虎王丸の首の鎖が――
 元に、戻った。

「ああああああっ!?」
 虎王丸が頭を抱える。
 鎖がある状態では、彼は人間に戻ってしまう――
「あ、戻っちゃったの?」
 遼介は剣を肩に乗せて言った。
「く、くそ、この姿でも負けねえからな!」
 素っ裸で構える虎王丸に、遼介は笑った。
「いいよいいよ。楽しかったから」
 武具返してやるよ――と。
 ティアマットを元に戻し、少年は言う。
 虎王丸は正直、ほっとした。
 遼介は、「ちょっと待ってろよ」とばびゅんとものすごい速さで走っていき、そして帰ってきた。
 腕に、虎王丸の武具を抱えていた。
「ほら、返す」
「ふん、礼なんか言わねえぜ」
「当たり前だろ、戦いで取り返したんだ」
 遼介はどこまでも上機嫌で、「なあ、今度一緒に冒険に行かない?」
 と虎王丸に持ちかけた。
「冗談じゃねえ」
 虎王丸はきっぱりと拒否した。
 ちぇっと遼介がつまらなそうな顔になる。
「気が変わったら一緒に冒険に行こう。じゃ、またな」
 そう言って、遼介は帰っていく――
 虎王丸はその後姿を見送った。消えるまで見送って――
 はっと気がついた。
 両手をわななかせ、顔を真っ赤にして、
「あ、あんの野郎〜〜〜!」

 ――……

「それで、戦闘前に脱いだ服のほうを奪われちまったってわけか?」
 酒場で仲間たちは、やはり大笑いした。
 虎王丸はどんどんと地団駄を踏んだ。
「あの野郎、今度会ったらぶっ殺す!」
 虎王丸は何度も何度も悪態をついて、遼介を呪い殺しそうな勢いで叫んでいた。
 「バカ」「アホ」と落書きされた裸に鎧だけを身につけた姿で――


 ―Fin―
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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聖獣界ソーン
2006年05月16日

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