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『櫻ノ夢【幻想華】 』
風祭・真1891


 薄暗い宵闇に、淡く白い花弁がまるで雪明かりのようにあたりをぼんやりと照らす。
「……此処は夢の交叉点」
 全ての夢が交わる場所。古より、花弁の数だけ夢を重ね続けてきた櫻の古木の枝に腰掛けた巫女がふと視線を落とす。
「だから……そう、だから異なる夢同士が呼び合い交わることもある……」
 彼女はそれを傍観する。数々の夢を引き寄せる櫻の樹と共に、極まれに起こるそれを垣間見てきた……
「今宵集う夢は如何なる夢か……」
 何処の誰の如何様な夢か……
「願わくばそれが良き夢ででありますように……」
 それが巫女の願い……櫻の想い……

 ざぁっ

 風が走り、櫻の花弁がつむじ風に舞った。


 白い花弁はまるで雪の様で……舞い散る様を、ただただ見ていた。
 淡くほんのりと薄紅を帯びたそれは、音もなく降り積もっていた。闇は彼女の眠る檻に通じていた。
「あぁ…………」
 吐息のような溜息がもれる。
 忌々しい制約は感じない。
 自由だ……そうこれは、常闇の中に咲く櫻がもたらしたひと時の夢。現実と虚構の狭間。頬を撫でる風に感じる開放感に、まどろみの闇の中で彼女は目を細めた。
「……あれは………?」
 降り積もる櫻の花弁のベールが風に切れたとき、櫻に抱かれるように闇を揺蕩う意識の片隅が、古木に寄り添うように佇んでいる人影に目を留める。
「……面白い……」
 珍しいこともあるものだ……くつくつくつと笑みを漏らし宵闇に沈んでいた意識がゆらりと起き上がった。
 ゆっくりと開かれた瞼の下から現れたのは血に濡れた様に赤い瞳。
 風祭・真……否、禍都比売神は目を覚ました。

「ふふふふ………どうしたんだい、封護?」
 私を探していたんじゃないのかい? 白い花弁を纏う様にふわりと人影の前に降り立った。
「お前の自慢の尻尾はどうしたんだい?」
 くすくすと笑いながら歩みよると、相手が目を見張る気配がした。
「何故……貴女が……貴女が此処に……?」
 動揺を隠すことなく愕然と、人の姿をとった眷属が呟く。天護・疾風と名乗るそれは、言葉にできないほど思いを込めた、狂おしい眼差しを封じるべき女神に向けた。
「彼の女神の奥底に封じられているはずの私が、お前に語りかけるのは不満かい? 封護」
 にぃっと深く刻んだ笑みはどこか妖艶で、禍々しい気配をあたりに放っていた。
「櫻は神の花。その花が見る夢は神の夢だとは思わないかい?」
 『サ』とは穀物をすべる神の名で、『クラ』は神のよりしろの『座』するべき場所。
 サクラは佐倉に転じ……神の鎮座する、御倉となる。
 古の時より、櫻は神そのものであった。
「……夢は眠りの中にあるもの。だから眠る私もこうやって動ける――――そう、これは泡沫の夢さ」
 ほんのひと時の奇跡とも言える邂逅。
「おっと……私を消そうとしても無駄だよ、封護。嘘だと思うならやってごらん」
 今は禍都比売神を宿した真が誘うように、疾風の頬に触れる。
「私は……貴女を屠らなければならない……!」
 『禍』を前にして、知らぬ振りをすることはできなかい。
 疾風はその手を振り払い、己の迷いを断ち切るように、鍔の無い片刃の長刀でなぎ払った。
 がすっ……思ったよりも軽い音がして、ごろりと腹部で両断された女神の体が地に転がる。

 ざぁっ……

 辺りに漂うのは濃厚な血臭ではなく、あわく夜に溶け込みそうな櫻の香。血が流れるはずの傷跡から櫻の花弁が湧き出るように零れ落ち、風がその全てを闇に飛ばした。

「あははははは…………無駄だよ、封護」
 ふふふふ………くくくく……あははは………。
 けたたましい笑い声が闇の中に響く………これは櫻の見る夢……だから……。
「何度でも現れてやるよ」
 そう何度でも。櫻の見る夢が続く限り……私は自由だ。
「これは夢なのですか? それでは私は貴女を手にかけずに済むのか……」
「さてどうなんだろうね?」
 混乱した様子の疾風の前に女神が再び姿を現す。
 彼女を屠ることが疾風の使命、だがそれが夢であるならば…………
 それを守る義務は果たして……あるのだろうか………?
「私には『疾風』という名があります。貴女に………いえ、享楽の女神に頂いた名が……」
「ふふ……封護と呼ばれるのが嫌なのかい?」
 少しだけ拗ねたような疾風に『禍』の女神がからかうように眉を上げた。
「あぁ、そういえばそんなこともあった……ふふ…封護と呼ばれるのが嫌かい?」
「確かに私は封護ですが、疾風でもあるのです……それが偽りだとは、夢だとは思いたくありません……」
 きっぱりと疾風は女神を見返した。
「けれどお前は封護。私の監視者だ……『真』の眷属であるお前は偽り……」
 それもまた夢なのかもしれない。
 どれが現実で、何処までが夢なのか……それすらも曖昧で……
「精々頑張るんだね…己の使命を……目覚めた時は――櫻が世界を染めるより赤くしてやるよ」
 私が目覚めたときに……この櫻の花弁を全て鮮血よりも赤い色で染め抜いてやるよ。
 今度は現実の世界で……再び見えることを楽しみにしている。
 疾風の耳に唇が触れるか触れないかの距離で囁き、積もった花弁を巻き上げ再び吹きぬけた風が収まったとき、女神の姿は消えていた。
 そう、其処に彼女がいたことすら夢であったかのように………
「……私は……できることならば……貴女に会うことのない未来を望みます……」
 彼の女神達と幾年月も見送った櫻を、これからも見送って行きたいのですから……
 疾風の祈りの様な呟きは、物言わぬ櫻の古木のみが聞いていた。



「……本来交わることのない人格が出会う……それは櫻の夢の悪戯なのかもしれません……」
 それでも、『禍』の神と呼ばれる女神とその監視者の邂逅は確かな物として櫻は記憶の花弁を積もらせる。
「其れもまた一興……出会うはずのない二人の夢も……」
 これも眠らせてしまいましょう……そう呟くと、櫻に宿る女神は静かに微笑み。
 淡く光を放つ、櫻の花弁を大切そうに胸元に捺し抱く。
「櫻の見る夢は、幻と現の併せ鏡なのかもしれません……」
 ふわりと舞い上がり古木に身を寄せると、まるで彼女の存在すらも泡沫の夢であったかのように夜の闇に紛れて消えた。



【 Fin 】



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【参加ゲーム / 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【聖獣界ソーン / 2181 / 天護・疾風 / 男性 / 27歳(実年齢999歳) / 封護】

【東京怪談 SECOND REVOLUTION / 1891 / 風祭・真 / 女性 / 987歳 / 特捜本部司令室付秘書/古神】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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風祭・真様

最初のご挨拶……ということで、始めましてと言わせてくださいませ。
個人的に折角のイベント! ゲームの枠を飛び越えてカップリングが書ける!!
とわくわくしながら書かせていただきました。
今回はご発注本当にありがとうございました。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。

イメージと違う!というようなことが御座いましたら、次回のご参考にさせて頂きますので遠慮なくお申し付けくださいませ。
PCゲームノベル・櫻ノ夢 -
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東京怪談
2006年05月16日

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