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『■ケーキショップ赦桜(しゃら)【あい魅せ桜】■ 』
羽角・悠宇3525

 東京のどこか───アンティークショップ・レンにほど近い場所に、そのケーキショップはあるのだという。
 不思議なことに、初めて訪れて気に入り、もう一度行こうとしても二度とは辿り着けぬという……不思議なケーキショップだ。
 毎日のように催し物があり、子供達にも大の人気だという。
 今は、樹齢何百年という桜の木がイベントホールのような場所にどのような経緯でか植えられており、ケーキも桜に因んだものでたくさんだと聞いた。
 けれど、それは夢かうつつか。

 ───満開を咲き誇っていた桜の木が、とある恋人同士の別れを哀しんで、どうにもできないのだと自信をなくし、精霊が閉じこもってしまってぴたりと咲かなくなってしまった。
 精霊を慰める、この店名物の「ひとつ」である店長が宥めても、どうにもきかないのだと。
<あいがなければさけぬ>
 女のような美しい容姿をした男の桜の精霊は、ただただそう泣くばかり。

 そんな夢を見た。
 そしてその夢を見た者は、
 ───ほどなくして、そのケーキショップに赴くことになる。



■みずいろ桜■

 こぽこぽ……

 音がするのはなんだろう。

 こぽこぽこぽ……

 水槽の音?<イイエ>あぶくの音?<チカイ>そう、これは───
 珈琲を入れる音。
<あたり>
 誰かが、そうぼんやりと頭の中につぶやく。
 日和は、まだ夢の中。
 悠宇は、まだ夢の中。

 二人が自然に目を覚ました時、確かに珈琲の味が口の中いっぱいに心地よく広がっていて───。



 明日学校に行くまで逢えないなんて、けっこうつらい。
 初瀬日和くらいの年頃だと、彼女がどんなにおっとりとしていてのんびりしていても、そこは恋心。いつでも好きな人に逢っていたい気持ちは同じなのだ。
 今日は学校の用事があるからと、彼のほうも残念そうに「会えない」ことを日和に伝えていた。
 こんなときは、彼のことを思うたびに胸にずしんと石を呑みこんだ感じになる。

 わん、わん!

 一方、日和の手に持った手綱の先の愛犬バドはと言えば、舞い散る桜の花びらを追いかけてははしゃいでいて、日和をずんずん引っ張っていく。
 いつもならば少しは嗜める日和だが、今日は少し沈んだ気持ちで行くに任せた。
 バドは、とあるケーキショップの前でぱたぱたと尻尾を振っている。
「わあ、素敵なお店……」
 店の扉の硝子窓から、中を覗いてみる。
 物凄く大きな桜の樹が、何故か時を逆行したかのように蕾となってはいたが───しっかりとした土に植わっている。
「あ!」
 こういうところってペット禁止よね、と自制しようとしていた矢先、バドははしゃいだように、少しだけ開いていた扉を大きな体躯で押しやるようにして中に入っていく。
「待って、バド」
 慌てて自分も店内に入る。

 こぽこぽ……

 ベルのかわりに、不思議な音が耳元で、した気がした。



「あーあ……」
 羽角悠宇は、やっては悪いと知りながら人影がいないのを確かめて、地面に落ちている石つぶてを蹴飛ばした。
 ころころころ、とかなり遠くまで石つぶては転がっていく。
「なんでこんな時に限ってあっという間に用事が終わるんだよ、まったく」
 悠宇はこの日、彼女と会う約束をしていた。だが、用事が入ってしまってかなわなかった───それなのに、その用事はといえばいともあっさりと終わってしまい、悠宇は限りなく膨大な一日の大半を一人で過ごすことになったのだ。
 そんな石つぶての先を見やっていた悠宇は、ふと見慣れないケーキショップを見つけた。
「……夢で見たケーキショップと同じだ……店内に花がある」
(こういうところ、あいつ好きそうだな……)
 何故桜の花が咲いていないのか不思議だったが、彼はとりあえず入ってみることにした。
 彼女とこれたら最高だっただろうに。

 しゃららぁん

 ベルを鳴らして店内に入る。貸切のように、誰もいなかった。
 サンタのような風貌のどこかで見たような店長が、にこやかに出迎える。
「『今日は』あなた方を桜が呼んだようですね」
「え……?」
 意味深なことを言った店長の視線の先を見る。
 ベルが鳴って、そこには確かに悠宇の彼女が立っていた。



 どうぞと店長に出された珈琲と見事に凝った美味しそうなケーキ一切れずつを目の前に置かれ、悠宇は日和と視線を合わせて、ふっと微笑んだ。
「今日は俺達の貸切みたいだし、サービスだってさ。お言葉に甘えようよ」
「でも……」
 いいのかしら、と桜の樹のほうを気にする日和。
 そういえば、と悠宇は珈琲を飲みながら疑問を口にする。
「どうしてあの桜の樹のすぐ脇に、あんなに綺麗な池まであるんですか?」
 池。
 底がないように感じられるほど緑色に見えるほど、澄んだ池。
 どこか不思議な気がして、ともすれば近寄りがたく感じる。
 店長は「謎が解けたら、教えてさしあげますよ」と意味深な微笑みを浮かべるだけ。
 謎───?
「桜が咲かないわけ、ですか?」
 日和が尋ねる。
 そういえば悠宇も、そんな夢を見た。
 尋ねる日和に何か違和を感じて、悠宇はかぶりを振る。
(なんだろう、今の感じ)
「この桜はね、」
 店長がこぽこぽと珈琲を絶えず淹れながらゆったりと説明する。
「恋人達が目の前で別れると哀しむんです。『哀』のかわりに『愛』をみせてと───『試す』んです。困った桜の精です」
 ちっとも困った表情でも口ぶりでもなく、穏やかに店長。
「どうしたの? 悠宇」
 尋ねられて、逆に悠宇は「え?」と驚いた。今、自分は何かおかしなことをしていただろうか?
 別段ぼうっとしていたわけでもない。
 不思議そうに自分を見つめている日和を、見返してみる。
 きょとんとしたような真っ黒な瞳に、長い黒髪。見ただけで、いつも、初めての恋のように胸が高鳴る悠宇の───ただひとりのひと。
 でも、何故か───ときめかない。
 そのことに敏感に気付いて、どうしたのと聞いたのだろうか、日和は。
「どうしたのって、」
 何がだ?
 そう聞こうとした悠宇は、日和の愛犬バドが、桜の樹のそばの池をくんくん鳴きながら覗いていることに気がついた。いつも日和にくっついているバド。困らせているバド。俺を見るといつも脚にじゃれついてくるバド───。
「っ!」
 気がつけば、本能に任せて席を立っていた。
「悠宇!」
 日和の声が追ってくる。驚いたというよりは、咎める感じだ。それで確信した。
「粋なことやってくれるじゃんか、桜の精さんとやらは」
 悠宇のカンに間違いが、なければ───。
 悠宇は思い切って、池に向かって飛び込んだ。



 池の中は、どこまでも続くように思えた。
 時折、様々な恋人達がみずいろの泡の形で悠宇のそばを通り過ぎてゆく。
 不思議とどこまで沈んでも呼吸が苦しくなることはなく、悠宇は底の底まで辿り着いた。

 ─── 一匹の、真っ白な美しい小さな魚が円を描くように戸惑ったように泳いでいる。

 そっとその魚を手ですくうようにして、抱きしめた。
「ごめんな。俺、桜の精に試されて、偽者の日和と大事な一日、過ごすところだった。
 もう『見つけた』から─── 一緒にデートしよう、『日和』」
 そう、それは。
 日和の純粋な心をそのまま体現したかのような真っ白な色の魚。それは日和。本物の、日和。
 『試験』は二人が夢の中で珈琲を飲んだ時から始まっていた。
 日和は魚にされ、悠宇がその魚を日和と信じて、「用意された日和」に騙されず得体の知れない池に迷わず飛び込めるかどうか。

 ぱぁ……───

 ひらひらと、桜の花びらが池の中に舞い降りてくる。きっと、桜が咲いたのだろう。
 二人の「愛」で再び満開になった桜が、池の中にまで降って来ている。
 その花びらに祝福されるように、
 白い魚は悠宇の腕の中で───きょとんとしたような「本物の日和」に戻った。
 悠宇は、笑った。
「お帰り、───日和」
 そうして抱きしめると、二人は再び店内に戻っていた。



 それからはゆっくりと。
 偽者の日和も掻き消えて、本当に二人きりになった悠宇と日和は、店長が置いていった桜の花びらの香り袋を手に持ちながら───とりとめのない話をした。
「でも、嬉しいな……学校では会えるけど、なかなかゆっくり話せなかったりするし……このところレッスンで忙しかったりしたし……こうやってバドのしでかした悪さとか、気になってる映画のこととか、近頃出会った厳しい先生のこととか……こうして桜のケーキと珈琲を囲んでゆっくり流れる時間を楽しむのって、すごく贅沢だなって思うもの」
 今の今まで魚にされていたのに、日和はなんの嫌味もなしにほんのりと純粋に微笑んでいる。
 そんな彼女が愛おしくて、本当に愛おしくて。
 悠宇はつい、笑ってしまうのだ。
 ああ、この胸のくすぐったさは一生忘れないでいたい。
 そんな彼の足には、いつもどおりにバドがじゃれついている。
「悠宇? 何笑ってるの?」
「ん? いや……」
 悠宇は一頻り笑い終えると、バドの頭を撫でてやりながら、言った。
「日和が幸せそうな顔をしていろんなことを喋っているのを見るのは、俺も幸せな気分になれるなって……実感したよ」
「そ……うかな?」
 頬を赤らめて、日和は珈琲を飲む。
 もう二人の珈琲には、「悪戯」は入っていない。
「そうだよ。ころころ表情は変わるし、喜んでみたり膨れてみたり、学校での真面目な様子とは違う日和を独り占めしてる気になる。日和と二人でいると、俺はいつもそうだよ」
「私、そんなにころころ表情変わるかな?」
 自覚のない天然少女に、悠宇は微笑みかける。
「ああ。できればいつも、バドが俺の背中からじゃれかかってくれないでもらえたら言うことはないんだがな」
「バドなりの、愛情表現だから」
 くすっと日和は笑う。
 そうだな、と悠宇も返す。
 何よりも、今日はバドのおかげで「日和を見つけられた」ようなものなんだ。
 今日くらいは、バドと───そして、改めてお互いの愛情を再認識させてくれた桜の精に感謝しよう。
 そう思う悠宇に、日和は尋ねてくる。
 いつもどおり、少し微笑んで、小首をかしげて。
「こんなゆったりした時間でも───悠宇は、楽しんでくれている……?」
 悠宇は香り袋を掌でぽん、と放って笑顔の前でそれを受け取った。
「当たり前だろ、日和がいれば俺はどこにいたって幸せだ」

 桜吹雪が舞い始めたのは、
 二人の顔の距離が狭まったから。
 甘い甘い空間は、そうして池の水色ではない、幸せの桜色に染められた。

<あいを魅せてくれた───>

 ふわとそんな声もした気がしたが、既に二人の世界に入っている彼らの頭に届いたかどうか。
 香り袋はその日の思い出として、後日までも二人の手元に残されている。




《完》
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/16歳/女性/高校生
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/16歳/男性/高校生

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)

さて今回ですが、悠宇さん日和さん二人作品ということで書かせて頂きました。
少し思いついたこともあり、池も登場させ、全体的に悠宇さん主眼の作品となりましたが、如何でしたでしょうか。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は少しでもそれを入れる事が出来て、とても感謝しております。
たまにはこんなまったりとしたノベルもいいなと実感しつつ。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2006/05/08 Makito Touko
PCゲームノベル・櫻ノ夢 -
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東京怪談
2006年05月09日

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