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『降る櫻の下 』
小坂・佑紀5884



 気が付くと、そこには一本の櫻の木。
 ふわふわとした感覚。
 これは夢の中なのかもしれない。
 櫻の木しかそこでは感じられない。
 そんな場所に、小坂佑紀は迷い込んだ。
 ふっと落ちてくる桜の花びらを掌に乗せる。
 それは淡いピンクというよりも白。
 そんな花びらを落とす木の下では、座り込んでぷかぷかと煙管から紫煙を浮かべる者がいる。
 長い青い髪をばさばさとさせ、そして濃い紫の着物を纏っている。
 と、佑紀の視線に気が付いてか、その人物はこちらを向いた。
 額には、立派な二本の角。
 にやりと不敵な表情だ、敵意は感じられない。
「どうやって迷い込んだのか……まぁ、いい、それは問題ではないな。こっちに来い、突っ立っておってもしょうがないだろう。ここは人間など来ない場所にある鬼の里……のさらに離れた場所なんだが……お前は幻なのかもしれないな」
 穏やかに笑うその人物は、手招きをしてくる。
 そしてそのまま言葉を続ける。
「暇ならば少し付き合え。いいだろう?」
 佑紀はその人物の穏やかさに少し、安心する。
「ああ、まだ名乗っていなかったな。私は……大角と呼ばれているからそう呼ぶと良い」
「こんにちは、大角さん。ここは鬼の里なのね? ふぅん……」
 あたりを見回しながら佑紀はゆっくりと歩を進める。
 櫻の花弁が舞い散るそこは幻想的だ。
 そして大角の傍へと佑紀は立つ。
「あたしは小坂佑紀、よろしくね」
「佑紀、だな。良い名前だ。立っていないで隣に座るといい」
 たすたすと大角は根元を叩く。
 佑紀はそうね、と一度笑いそこへ腰を下ろした。
「わぁ……ここから見上げるとまた櫻、とっても綺麗」
「そうだな、この櫻の木は私の末っ子が植えたものだ。こんなに立派に育つとは思っていなかったんだがな」
「へぇ……櫻の話も聞きたいけど、せっかく出会えたんだから大角さんのことも聞きたいな。あ、でも色々聞かれるのは嫌だろうから答えたくないことは答えなくてもいいわ」
「私のことをか?」
「ええ、聞いてばかりじゃ失礼だろうからあたしにも聞きたいことがあったら聞いて?」
 どうかな、と少し首をかしげて佑紀は言う。大角は構わないぞ、とそれに笑顔で答えた。
「それじゃあ……さっき末っ子って言ってたからお父さん、なのよね?」
「ああ」
「お子さん何人いるの?」
「子は……息子が八人、娘が六人だな」
 指折り数えつつの答えに佑紀はいっぱいいるのねと笑う。
「佑紀は……子ではないな、兄弟はいるのか?」
 その問いに、佑紀は曖昧に笑う。
「いるわ……あんまり好きじゃないけど……兄が一人」
「好きではないか、まぁ……そういう時期もあるんだろう」
「ずっと好きじゃないままよ」
 ちょっとつん、とした声色で佑紀は答える。それを面白そうに大角は見て笑った。
「何がおかしいの?」
「いや、なんでもない」
「もう……じゃあ次ね。いつも何してるの?」
 いつもしていることか、と大角は呟いて少し考え込む。
 考え込むほど日々色々としているのかな、と佑紀は思いながらその答えを待った。
「毎日煙管を吸っている。あとはこの櫻の元へ一度は来ているな。それから……里を見回ったり……妻子と話をしたり……そういう佑紀は何をしているんだ?」
「あたし? あたしは学校に行ったり、遊んだりかな。変わった事なんてあんまりしてないわ」
「お互い普通が一番のようだ。毎日変わらないのが一番良い」
「そうね、だからこそ時々変わったことがあると楽しいのね。今日だってそうだわ」
 今日、ここへ迷い込んだこと。
 それは佑紀にとってちょっと変わった日常となった。
 心が躍るような感覚。
「確かに、少し変わったことがあると嬉しいものだ。里から出て行った者が顔を見せに来たり、来客があったり」
「ふふ、じゃあ今日は大角さんにとって嬉しい日ね。あたしっていう来客があったんだから」
「そうだな、その通りだ。人の話を聞くのは楽しいものだ、自分のことを話すのも、楽しい」
 そう言ってぷかりと紫煙を吐く。それは立ち上がり、やがて消えていく。
「あ、この櫻は末っ子さんが植えたのよね、末っ子さんの名前はなんていうの?」
「ん、末っ子か? 末っ子は南々夜という」
「え、南々夜さん…? 南と々と夜の南々夜さん?」
「そうだが、なんだ知り合いか?」
 少し驚いた、と大角は笑う。その表情は今までで一番柔らかく優しい。
 とても大事に思っているんだな、と佑紀は思った。
「ええ、この前一緒にイタズラしたり、ちっちゃくなって一緒に遊んだりしたの」
「はは、イタズラにちっちゃく……ちっちゃくとはなんだ?」
「お子様になっちゃったの、不慮の事故で。あ、もういつもの姿に戻ってるわよ」
 安心して、と佑紀は付け足す。大角はもう少し話を聞かせてくれ、と嬉しそうだ。
 もちろんいいわよ、と佑紀は何から話そうと考える。
 と、目の前に白い花弁が落ちてくる。
 風がざぁっと枝葉を揺らし、落としてきたのだ。
「ああ、この櫻も聞きたがっているようだな」
 そう言って、笑う大角に佑紀もつられる。
 ざわざわと櫻の木がなく音
 はらはらひらひら。
 舞う櫻の花弁の元、佑紀は色々と話をする。
 大角の末っ子との出会いのこと、そして彼が子供に戻ってその時にしたことなど。
 大角はそれを嬉しそうに聞きながら相槌を打つ。
 佑紀は大角にとって末っ子が大切な人であることを感じながら、自分も楽しみながら、時間を過ごしていた。
 ずっとずっと、続いていけばいいと思うような和やかな時間は、まだもう少し続く。



<END> 




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 小坂・佑紀さま

 いつもお世話になっております、ありがとうございますー!
 南々夜父、大角とお話いかがでしたでしょうか?まったりした雰囲気を出せていればと思います。穏やかに櫻の花びら降る下で楽しんでいただければ幸いです。
 ではではまたお会いできれば嬉しく思います!
PCゲームノベル・櫻ノ夢 -
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東京怪談
2006年05月09日

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