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『降る櫻の下 』
菊坂・静5566



 気が付くと、そこには一本の櫻の木。
 ふわふわとした感覚。
 これは夢の中なのかもしれない。
 櫻の木しかそこでは感じられない。
 そんな場所に、菊坂静は迷い込んだ。
 ふっと落ちてくる桜の花びらを掌に乗せる。
 それは淡いピンクというよりも白。
 そんな花びらを落とす木の下では、座り込んでぷかぷかと煙管から紫煙を浮かべる者がいる。
 長い青い髪をばさばさとさせ、そして濃い紫の着物を纏っている。
 と、静の視線に気が付いてか、その人物はこちらを向いた。
 額には、立派な二本の角。
 にやりと不敵な表情だ、敵意は感じられない。
「どうやって迷い込んだのか……まぁ、いい、それは問題ではないな。こっちに来い、突っ立っておってもしょうがないだろう。ここは人間など来ない場所にある鬼の里……のさらに離れた場所なんだが……お前は幻なのかもしれないな」
 穏やかに笑うその人物は、手招きをしてくる。
 そしてそのまま言葉を続ける。
「暇ならば少し付き合え。いいだろう?」
 敵意は感じない。この人は大丈夫、と静は感じる。
 そしてその人物の穏やかさに少し、安心する。
「ああ、まだ名乗っていなかったな。私は……大角と呼ばれているからそう呼ぶと良い」
「こんにちは、大角さん、僕は静って言います」
 ゆっくりと静は歩を進める。
 大角の青い髪は、南々夜を思い起こさせる。
「ここは……鬼の里……ですか?」
 はらはらと落ちる櫻の花弁。
 その光景は美しい。
 ふと、静の表情に微笑。
「綺麗な所ですね、東京じゃあこんな立派な櫻はみれませんから」
「そうなのか? 立派だといわれてこの櫻も嬉しいだろう」
 その言葉に呼応するようにさわさわと枝が鳴る。
「大角さんはどうしてここに? 僕はいつの間にか来ちゃった、なんですけど」
「ん、私はここに来るのが日課なんだ、この木を植えた末っ子の代わりにな。立っていると疲れないか? ここに座れ座れ」
 大角は傍らをたすたすと叩き静に勧める。特に断る理由も無く、静はそこに腰を下ろした。
 そして少し遠慮がちに大角のを見る。
 どうした、と視線が帰ってくる。
「えっと……大角さん、ご兄弟はいますか?」
「なんでだ?」
「あっ、気を悪くしたらごめんなさい、その……僕が知ってる人で似ている人がいいるからつい……」
 ぺこりと頭を下げ、静は言う。
 大角は穏やかに、静を見ていた。
「そうか、私に似てる者がいるのか……どんな者なんだ?」
「凄く強い人なんです、けど少し変わってて僕の事、しぃ君って呼ぶんです。そんな風に呼ばれた事無かったから……驚愕したけど嬉しかったですね」
 静は苦笑する。そしてその頬は薄っすらと赤い。
 知らずに照れているようだった。
「面白そうなヤツだなぁ、静はその者のことが好きなんだな」
「えっ……はい。あっ、何だが自分のことばかり言ってすいません」
「気にすることは無い、話を聞いているのは楽しいからな」
 穏やかに大角は言い、ぷかりと紫煙を吐く。
 そして、櫻を見上げた。
「では私が次は話そう。この櫻、小さな苗の時に植えたのは私の末っ子なのだが……私はそんな苗は育たないと言ったんだ。けれどもこの木は立派に育った。毎日世話をしていた甲斐があったんだろうな」
「恩を返してるみたいですね」
「そうだな、末っ子は……里から出て行くときに私にこの木をよろしくと出て行ったんだ。だから、毎日ここへ来ている」
「大角さんは……その末っ子さんが大事なんですね」
 そうだな、と少し照れつつ彼は答える。
「末っ子さんに会ってみたいです」
「私も私に似ている者に会ってみたいな」
 さわさわと、櫻の花びらが頭上から降ってくる。
 それを二人で、同じタイミングで見上げた。
 しばらく、会話も何も無くただただ、降ってくる櫻の白い花弁を眺めるだけの時間が続く。
 と、その状況を、穏やかな状況を先に破ったのは大角だった。
「そうだ、静の言う者の名はなんと言うのだ?」
「え?」
「もし会ったとしても、名を知らないのではわからないだろう?」
「あ、そうですね、南々夜さんと言います」
 静は名前を口にする。
 すると、大角は片手で顔を半分覆い、声を押し殺しながら笑った。
 もちろん、どうしてなのかわからず静は戸惑う。
「ど、どうしたんですか? もしかしてもうお知り合いとか……」
「知り合うも何も……それが私の末っ子だ」
「南々夜さんの……お父さん、なんですか?」
 ああ、と面白そうに大角は笑う。
 こんな偶然があるものなんだな、と。
「この櫻、南々夜が植えたんだ。もしかしたらお前を呼んだのはこの櫻かもしれんな」
「そうなんですか……ということは末っ子なんですね、南々夜さん」
「うちで一番わがままに育った子だ、すまないな。だけれども……ちゃんと友達がいると知れて私は嬉しい」
 にこりと、柔らかく。
 瞳を細めて大角は静に微笑む。
 静はその言葉と笑みに照れつつ言葉を紡ぐ。
「僕も、なんだか嬉しいです」
「うん、気が済むまでここで櫻を堪能していくといい。そのついでに、今の南々夜がどんなものか話してもらえないかな」
「はい、それはもちろん。僕も……小さいときの話とかちょっと知りたいです」
「いいぞ、色々と話そう」
 はらはらひらひら。
 緩やかな弧を何度も描きながら櫻の白い花弁は落ちていく。
 それを見ながら、眺めながら楽しみながら、静は過ごす。
 自分が体験した事、楽しい事、大角の末っ子と共有した時間の事。
 そして自分の知らない、大角の末っ子の事。
 新しい発見も、やっぱりそうなのかと思うこともあって、静は笑みを絶やすことは無い。
 ずっとずっと、続いていけばいいと思うような和やかな時間は、まだもう少し続く。



<END> 




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 菊坂・静さま

 いつもお世話になっております、ありがとうございますー!
 南々夜父、大角と遊んで(ぇ)頂きました。ここで大角とであったこともいずれそのうちどこかでちょろりと表せればなーと勝手に思っております!(何
 ではではまたお会いできれば嬉しく思います!
PCゲームノベル・櫻ノ夢 -
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東京怪談
2006年05月09日

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