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『Dream of Pale pink 〜EDO〜 』
梧・北斗5698



「『櫻夢丸』?」
 薄紅の桜の花びらが入った瓶を見て、金髪サンタ娘・ステラは首を傾げる。
 彼女の目の前には知り合いが。
「そう。珍しいものなんだ。ステラにあげる」
「ええ〜! ありがとうございますぅ。いつもいつも〜」
「いやいや。いい体験できると思うから、配達のついでに配っておいでよ」
「はい〜! 了解デス!」
 にっこり微笑むステラはふと気になって尋ねた。彼女の友人はいつもいつも珍しいものをくれるが、それが騒動の元になることも多い。
「えと、サクムガンでしたっけ……これ、どういう効果があるんですかぁ? 花びらにしか見えませんけど」
「ああそうか。教えておかなきゃね。
 それは花びらだけど、夢をみている人にしか効果が出ないんだよ」
「ええ〜? なんですそれ〜?」
「いや……眠っている人にしか効果がない、の間違いだな。ほら、夢の中ってのはけっこう奇想天外なことが多いじゃないか」
「はぁ……まあ確かに。人間は特にそうですよねぇ」
「それは夢の世界へ行ける魔法の花びらってこと。ま、経験してみなきゃわからないからなあ」
「な、なんだか全然わかりません〜」
 眉間に皺を寄せるステラに友人は笑う。
「夜の配達の途中でもいいから、風に乗せてその花びらを吹いてみるのはどう? 櫻夢丸は自動的に夢の世界へ連れて行ける人を見つけるからね」

 そんな言葉を信じて、夜中……ステラは空に浮かぶソリの上からふぅっと、掌の上の花びら数枚に向けて息を吹きかける。
 ひらひらと舞う花びらは、唐突に軌道を変えて様々な方向に落下していった。

***

 はあ、と溜息をつきながら歩くのは貧乏剣客・草薙秋水。
 腰のさげた刀を質に入れてしまおうかどうしようか、目下悩み中。
(でもな……質に入れると負けた気がするんだよな……)
 嘆息しつつ歩いていると、転んだ少年を発見する。
「大丈夫か?」
 助け起こす。
 白い袴姿の少年・菊坂静はにっこりと微笑んだ。
「ありがとうございますー」
「いや。気をつけて」
 静は元気よく走っていくと、誰か知り合いを見つけたらしく相手の腕にべったりくっついていた。
 秋水としてはそれどころではない。
 仕事を探さなければ。
 うろうろと歩き回っていた彼は、迷子を見つけて今度はその子供と一緒にうろうろしてしまう。
(なんで俺……こんなことしてるんだ……?)
 時々疑問になる。こんな金にもならないようなこと……。
「あ、すみません……このへんに」
 尋ねた相手は僧だ。笠で顔は見えないが、ぼろぼろの衣服からして修行僧、だろう。
「こういう長屋を探しているんですけど」
「…………」
 相手はちら、と秋水を見るとす、と指差した。
「俺もそちらに用があるので、ご一緒してよろしいか?」
 淡々とした声に、秋水は怪訝そうにしながら頷く。変な坊主だ。髪の毛はあるみたいだが。
 三人で目的の場所まで来る。僧は別のところに用があるようで軽く頭をさげてから去っていった。
 無事に子供を送り届けた報酬は……菓子だ。
 がっくり。
 肩をおとしてよろめく彼の腹部からは空腹を訴える音が響いた。
(仕方ない……)
 秋水が向かったのは団子屋だ。甘いものが苦手な秋水がなぜそんなところに向かうのかというと。
「月乃〜、菓子の差し入れだー」
 情けない声を出す秋水のほうへ、店の奥から看板娘が出てくる。
「うわあっ、ありがとうございます」
 にっこり微笑む月乃の笑顔に秋水はぽーっと赤くなって見惚れた。ハッとして咳をする。
「それで……あの、その代わりに……」
「いいですよ。ご飯ですね」
 秋水の手を引っ張る月乃。彼女と一緒に店の奥へいき、食事をご馳走になる。これが秋水の日課だ。
(……完全なヒモだな、これは)
 もしゃもしゃとご飯を食べつつ、秋水は菓子を食べる月乃の幸せそうな顔を見て頬を染める。
(くっ……相変わらず可愛いなあ、こいつ)
 そんなことを考えていると月乃が秋水のほうを見て首を傾げた。
「どうしました?」
「えっ!? あ、いや、なんでもっ」
 慌ててがつがつと食べ出す。質素な食事だが、それでも月乃の手作り。
(しあわせ……)
 じーんと感動していると、裏口がガラッと開いた。ごほっ、と秋水がむせる。
「あ、お父さん。おかえりなさい」
 入ってきた男のほうを秋水はぎこちなく振り向く。
「……あ、あの……お邪魔してます」
 細目の……しかも老人に足を突っ込みかけた男はす、と瞼を開けた。
「おめ〜……まぁたメシせびりに来たのか?」
「…………」
 青ざめる秋水はすぐさま立ち上がる。
「お父さん! そんな言い方しなくてもっ」
「おめーは黙ってろ!
 秋水、そんなんじゃいつまでたっても月乃はやれねぇぞ!」
「ハイっ!」
 ぴしっ! と背筋を伸ばす秋水。
 月乃は真っ赤になってしまう。
「な、なに言ってるんですか!?」
「月乃を嫁に欲しいんだったらシャキっと仕事探してこいっ!」
「は、はい!」
「ちょ、ちょっと二人とも私を無視して話を進めないでくださいよ〜」
 照れているため、喜んでいいのか怒っていいのかわからないようだ。月乃は父親に話し掛けた。
「あ、そ、それより、薬はちゃんともらえた? 神崎先生のところ、いつも患者が多いから」
「患畜もな。今日はお仕事はお休みだったんでな、少し遠出して別の先生のとこに行ってきた」
 月乃はピンときたらしく、ああ、と納得する。
「若い先生……梧先生がいるところですね」



「…………」
 なんで今日に限ってこんなに人が……。
 いつもは来ない、少し遠い場所に住んでいる人までいる。
 医師の卵である梧北斗は不思議そうにした。
「先生、どうしたんですかね今日は?」
 こそこそと世話になっている医師に話すと、彼は笑う。
「神崎さんが今日はやってないらしいな」
「え?」
 それは珍しい。神崎医師は人間だけではなく動物や植物まで診るので有名な若い女性だが、休業など初めてだ。
 ガラ、と戸を開けて入ってきた人物を見て北斗は微笑む。
「いらっしゃい、欠月君」
「どーも」
 入ってきた、いかにもな遊び人の少年。名は欠月。
 その彼の腕にべったりくっついているのは静だ。その光景に北斗は呆れた。
「静君……欠月君にべったりくっついて何してるんです? 神社の手伝いはどうしました?」
「だってこうでもしないと欠月さんてすぐにフラっといなくなっちゃうんだもん。家のおつかいは終わったから今は自由時間なの」
 にこにこしている静の言葉に欠月は苦笑する。
 だが北斗も同意していた。
「確かに……欠月君はふらっとここに立ち寄りますけど、気付けば姿がなくなってますからねえ」
「でしょ? でも町中をプラプラしてるんだよね?」
「プータローのフリをしてますけど、ほんと怪しいですよね。欠月君、キミは一体なにをしてる人なんですか?」
「それ僕も知りたい!」
 せがむように欠月をじっと見つめる静。欠月は二人に凝視されて汗を流す。
「なにって……見ての通りの、遊び人の欠月さんだけど」
「嘘! 遊び人がこんないい着物きてるわけないよ!」
「そうそう! 観念して白状しなさいっ」
 詰め寄られてしまい、欠月は慌てて話題を変える。
「あれ〜? なんでこんなに今日ここ多いの? こんなに繁盛してたっけ?」
「知ってます。今日は神崎先生がお休みなんですよね?」
 北斗が言うより先に、静が口を開く。
 欠月は「へえ」と呟いた。
「珍しいねえ。そういえば、いつも重たい薬箱を持って走ってるのに、その姿を見かけなかったなぁ」
「なにかあったんですかねえ」
 首を傾げる欠月と、そっくりの動作をしている静。
 その様子に北斗は「ぶっ」と吹き出してしまう。
(や、やばい……可笑しすぎますよ……!)
 なんで同じ仕種なんだろうか。
 口を手でおさえて無理に笑いを堪えている北斗は俯く。
「……なんで笑ってんだろう、北斗センセーは」
「おなかでも痛いのかもしれませんよ?」
「あー……確かにおなか痛そうね、センセー」
 意地悪に言う欠月の言葉に北斗はぶふっ、と更に吹き出してしまう。



 噂の「神崎先生」はというと……。
 彼女は家に居た。
 質素な家ではあったが、彼女はここに居ることはほとんどない。いつも薬箱を抱えて町中を走り回っているのだ。
 変わり者の医者ということで有名な彼女だが、腕は確かだ。それであちこちに呼び出されるのである。
 だが、順調とは言いがたいこともあった。
 神崎美桜のことを良く思わない者も居たのだ。因縁をつけられたこともある。それくらいならいい。
 一度、無人の家に呼ばれてのこのこ行ったことがあったのだ。そこに居た男たちに家に無理やり引っ張り込まれた美桜は、初めて自分が危険にさらされていることに気付いた。
 だがその危機を救ってくれた人物がいたのだ。
「少し苦いかもしれませんが」
 照れ臭そうにする美桜の目の前の人物は笠をとり、正座をしたまま無言でいる。
 世間で言う、破戒僧。彼はそうだ。
 出された薬を彼は平然と飲み込む。そして頭をさげた。
「感謝する。先生」
「そっ、そんな! いいんです! 気にしないで!」
 慌てて両手をぶんぶん振る様子は、おそらく町の者も一度として見たことがないだろう。
「今度はどちらへ行かれるんです?」
「……北のほうへ」
「そうですか……」
 しょんぼりしてしまう美桜。
 一定の場所に留まらない彼は――和彦は、たまにここに寄ってくれる。
「で、では薬を用意しておきますので持っていってください」
「いつも申し訳ない」
「そ、そんなこと……」
 再び照れてしまう美桜は彼に好意を抱いている。誰が見ても一目瞭然だ。
 彼の診察をするために今日の仕事は休んだ。いつものように出かける準備をしていた時に、彼が訪ねて来たものだから本当に驚いてしまったのだ。
「先生、仕事を邪魔してしまっただろうか?」
「いいんです! たまにはお休みの日があってもいいと思います!」
 にっこりと、元気よく言う美桜に……彼は小さく微笑む。その表情に美桜はどきっ、と胸を鳴らした。
「無理しなくていい。気になる患者がいるんじゃないのか?」
「う……。あの、実は桜の木を……その」
 美桜の薬箱を持ち上げて、彼は背負う。
「どうせ今日はこちらに泊まる。時間はあるから、その患者のところへ行こう」
「……っ」
 彼の発言に真っ赤になりつつ美桜は慌てて立ち上がった。
(とっ、と、泊まっ……)
 ぐるぐると頭の中を回るその言葉に美桜は照れてしまう。



「あ、神崎先生だ」
 団子屋に向かう三人組の一人、静がそう呟く。
 錫杖を持って歩く僧の横をちょこちょこ歩いているのは間違いなく美桜だ。
「今日はお休みじゃなかったんですかねえ」
 北斗は呟きつつ、歩いていく二人を目で追った。
 静はやはり自分の手を欠月の腕に絡ませている。
 目的地に着いた三人は早速腰掛けた。
「ここの看板娘は美人だから目が潤うよね」
「また欠月君は……そんなことばかり言って、何人の女の子を泣かせたんですか?」
 白い目の北斗に静も同意して頷く。
 店の奥から「いらっしゃいませー」と出てきたのは、娘ではなく。
「……何してるんですか……草薙さん……」
 震える声でそう呟く北斗。
「て、手伝いだ、手伝い!」
 その言葉に三人が一斉に爆笑した。げらげらと笑う彼らの前で秋水は落ち込む。
 親父さんに「店をちったぁ手伝え」と言われたから仕方なくしているというのに。
「秋水さんはお婿さん修行中なんです。そんなに笑ってたら不味い団子を食べさせますよ!」
 腰に両手を当てて言う月乃の言葉でも、三人の笑いを止められなかった――。

 桜の木の下で美桜と和彦は振り向く。
 町がとてもよく見えた。この高い場所から。
 はらはらと舞う桜の花びらは、風に乗って舞い上がる――――。

**

 起き上がった北斗は無言で額に手を遣る。
「いや……つか、アレは誰だ……? 俺?」
 んなバカな。
 見習いの医者で……? 口調も違って……?
 つーか。
(めちゃくちゃ恥ずかしい……)



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【5566/菊坂・静(きっさか・しずか)/男/15/高校生・「気狂い屋」】
【3576/草薙・秋水(くさなぎ・しゅうすい)/男/22/壊し屋】
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】
【0413/神崎・美桜(かんざき・みお)/女/17/高校生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 大人しい感じが出ていればいいなと思いますが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
PCゲームノベル・櫻ノ夢 -
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東京怪談
2006年05月09日

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