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『Closing ―your eyes― 』
物部・真言4441



「これどうぞー」
 配られたチラシには、配達屋の宣伝がでかでかと記載されている。
 だがそのチラシ、何か付録のようなものがついていた。
 配っていた金髪の少女はにっこり微笑む。
「桜茶ですぅ。ちょっといわくのあるものですけど、きっと素敵な夢をみれると思います〜」
 桜の葉を使ったお茶のようだ。それほど怪しい感じもないし、素直に貰っておくことにする。
 去り際に少女が声をかけてきた。
「寝る前に飲むと、きっと効果倍増ですよ〜! あと、うちのチラシ捨てないでくださいね〜! そんでもって、よければ今度配達品とかあったらウチを使ってくださ〜い!」

***

「桜のお茶……?」
 チラシに付いている茶葉の入っている袋を外す。
 桜餅と合うかもしれない。
 物部真言は小さく苦笑した。
「ま、まぁ……曰くがあるっていうのに引っかかるが……な」

**

 遠逆日無子と出会ってから十年の歳月が流れた――。
 真言は実家を継ぎ、神主となっていた。もう三十代だというのに、いまだ独身。親からは頻繁に結婚しろとうるさく言われていた。
 表側は普通に暮らしてはいるが、実のところ今でもお祓いや草間興信所の手伝いなどもしている。
 はあ、と真言は嘆息した。
 境内の掃除をしていた真言は竹箒によりかかる。
 考えていたのは神出鬼没の女・遠逆日無子についてだ。
 彼女は携帯電話を所持していないため、連絡がとれない状態にある。たまにひょっこり連絡を寄越した時に会う約束をするのだが。
(明日か……)
 次に会うのは明日だ。
 前に会ったのが半年以上前なのでどうなっているか少し不安だった。
 まあでも……。
 真言は苦笑する。
 とても楽しみなわけだが。



 飲みにいかないか、と誘ったらすぐに断られた。酒は飲まないようにしているそうだ。
 というわけで。
「どうして待ち合わせがラーメン屋台なんだ……?」
 不思議そうにする真言は目的の場所に来る。
 レトロな感じを出すラーメンの屋台ののれんをくぐり、店主に軽く笑いかけた。
「こんばんは」
「…………」
 ぎろ、と睨まれてしまい、真言は口を噤む。
「あの……えっと……」
 どうしよう。注文したほうがいいのだろうか?
「やー、遅くなっちゃった」
 明るくそう言って隣に腰掛けたのは二十代後半……の、はずの女性だ。
 真言はそちらを見る。
 赤茶の髪の女は店主にウィンクをした。
「おっちゃん、ラーメン二つね! あと、こっちの人はお酒飲みたいそーだから、よろしく!」
「…………あいよ」
 無愛想な店主は短くそう言うや、ラーメンを作り始める。
 女は真言のほうを向く。
「やっ」
 軽く挨拶する彼女は、十年前と同じように朗らかだ。
「ああ……変わってないな、遠逆は」
「あのさ、あたしはまだ27だよ? そんなに変わってたまるもんか」
 微笑しながら言っている日無子を、真言は目を細めて見つめる。
 変わっていないのはその性格だ。外見は、根本は変わっていないが随分違う。
 セミロングの髪。美しい顔立ち。それに、身長も少し伸びている。年相応の色気まで出ているので、男の目からすれば「いい女」として認識されるだろう。
 大人の女、というわけではないが、若々しい生命力に溢れた仕種やその肢体は誰が見てもハッとするものだ。
 カジュアルな衣服の彼女は、花より団子、という感じに少し見える。外見にこだわらないのは、本当に変わっていない。
 彼女と出会った時は、その不思議な空気に呑まれたものだ。なにせ大正時代の女学生のような格好だったのだから仕方ない。
「でも真言さんばっかりに来させて悪いね。あたし、一度も真言さんとこ遊びに行かないもん」
「べつに気にするな。忙しいんだろ?」
「お。わかってんじゃん。さすが三十男は言うことが違うね。大人の男だね」
 からかうように言う日無子は、出てきたラーメンを早速すする。色気など皆無の光景だ。
 日無子は十年前と変わらず退魔士として活躍している。最近は海外の任務が多いそうだ。
(一番驚いたのは、チベットまで行ったことだな)
 会った時にチベット土産をもらって、初めてその時に知ったのだ、真言は。
 このままでは彼女は宇宙までバケモノ退治に行ってしまうかもしれない。それはそれで、想像すると面白いが。
 日無子の仕事のことを考慮している真言だったが、実際のところ日無子は自分から会いに来ると言ったことは一度もない。
(眼中にないんだろうな……)
 ちょっぴり寂しい気持ちになる。
 親から散々「相手はいないのか」「見合いをいつまで断るつもりだ」などと言われている身としては……やはり少しは気にしてしまう。
「おじさん、やっぱここのラーメン最高だね! 東京来たら、やっぱコレ食べなきゃ!」
 明るく笑って言う日無子に、店主は無言だ。少しは反応すればいいのにと真言は思う。
 真言も自分のラーメンに箸をつける。日無子の言う通りに美味しい。
「……旦那は元気か?」
 日無子にそう尋ねると彼女は首を傾げた。
「さあね。元気なんじゃないの?」
「……可哀想な旦那だな」
「だってどこだろうと仕事についてくるんだよ〜? プチ超えて、完全なストーキングだよあれは」
「それだけ日無子が大事だってことだ」
 苦笑する真言は、日無子の左の指にあるシンプルな結婚指輪に視線を遣る。
 真言が彼女を見守るのは……彼女が結婚しているということもあるが、まあ家族みたいなものと思っているからだ。
 異性として全く意識しない、というのは無理な話だ。家族のように思っていても、やはり彼女は他人だ。
「危ない仕事だろ、日無子のは」
「昔はそれほど過保護でもなかったんだけどね。やたらと家を留守にするからさすがに心配してるよ」
「それは自業自得だろ」
「だってあたしのほうが稼ぎがいいもん。あたしがガンガン働かないと」
 肩をすくめる日無子に、真言はハハ、と軽く笑う。
 真言は日無子の夫に会ったことが何度かある。結婚式にも行ったが、真面目そうな青年だった。
 というか……。
(日無子に振り回されそうなタイプだったんだよな……)
 同情したのである、実は。押しに弱そうだと思ってしまったのは内緒だ。
 彼女に好意を寄せる男はだいたいが、きっと彼女に振り回されるだろう。真言とて、そうだ。
「俺が旦那の立場でも、そうすると思うぞ?」
「ええ? 真言さんでもついてくるの?」
「留守がちな妻が浮気でもしてるのかと心配になる」
「そんなことしないよ。そんな暇ないし、なんというか……」
 日無子はうーんと唸る。
「旦那は別格なんだよね」
「別格?」
 不思議そうにする真言。
「うん。例えばさあ、通行人とか見ず知らずの人を『ジャガイモ』とするでしょ?」
「なんだ……その例えは」
「でね、真言さんはさ、『魚』なわけ」
「はあ?」
「で、旦那は『肉』なの。ヒレ……フィレ? まあ、そのへんかな」
 どういう例えなんだそれは……。
 呆れる真言は出された日本酒に口をつける。こちらも美味い。
「俺がなんで魚なんだ?」
「野菜よりランクが上ってこと」
「……ちなみにどの魚だ?」
「んー……じゃあ、ホタテ」
「魚じゃないだろ、それは」
「ヒラメ?」
「……微妙だ」
 まあでもジャガイモよりはかなりマシなほうだろう。
「あたしの中では肉のすぐ下かな」
「日無子って……肉が好きだったか?」
「ええ? ふつうかな。そうじゃなくて、一般的なイメージってこと」
 値段が高い順番、ということだ。なるほど。
「まあ旦那以外はどうでもいいってことか」
「異性として見るならね」
 しかし十年前も思ったが、彼女は不思議だ。
 あっさり、さっぱりしている性格。あまり執着もしない。結婚式の招待状がきた時は真言も仰天したのだ。
 日無子が興味を持った人物がいるなんて、と。
「仲良くやってるのか?」
「仲良いんじゃない?」
 これだ。日無子は断定はしない。第三者の目から見ての感想、という言い方をする。
「日無子はどうなんだ? 仲良いと思うか?」
「結婚する前とたいして変わってないからなんともね……」
 それはそれでどうなんだろうか……。
 本当に彼女の夫に同情してしまう。
「それよりさ、真言さんのほうはどうなの?」
「え? 俺か?」
「あたしにばっか話しをさせてるじゃん。そっちはどう?」
「どうって……まあ、いつもと同じだな」
「なにそれ〜」
 眉をひそめる日無子。
 真言はしばし考えて、話題もないので見合いをすすめられていることを口にした。
「やはり三十過ぎだからだろうが……やたらと見合いしろとか、結婚しろと言われてな」
「べつに独身でもいいと思うけどな。真言さんはダンディで渋い中年になりそう」
「……変な想像をするのはやめてくれ」
 げんなりする真言は懐かしいような気分になる。
 十年だ。それだけの歳月が二人の間には流れた。自分も、彼女も、たくさん変わった。
 けれどもこうしてまた話している。それが不思議で、嬉しい。
「日無子と出会った頃は、まさかこういう話を将来するなんてこと、思わなかったな」
「そーだね。真言さんてばバイトばっかしてたでしょ?」
「ははっ。そうだな……。そういえばバイト三昧だった」
「そんな生活だから女の子と縁がないんだよ。嘆かわしい」
「でも、日無子みたいな美人には会えた」
「おお。言うようになってる。昔は避けてた単語だったのに」
 感心する日無子の頭を軽く小突いた。
「当たり前だ。俺はもう34だぞ?」
 茶化すためならば、これくらいは言える。
 日無子はラーメンを完食した。つゆまで残していない。この細身の体のどこにあれだけの量が入ったのか不思議だ。
「ごちそーさま! 美味しかった」
「…………」
 無言でぺこ、と頭をさげる店主。
 くるりと日無子は真言のほうを見た。
「もしかして結婚できないのってあたしのせいじゃないよね?」
「は?」
「あたしって美人だから、どうしても比較しちゃったりして」
「…………」
 呆れた顔をする真言もラーメンを完食する。
 見合い写真を見ても日無子ほどの美人は確かにいない。そこは否定できない。
「そうじゃない。ピンとこないだけだ」
「意外にロマンチストだね。赤い糸なんて人間の視覚でとらえられないってのに」
「結婚するなら慎重になる」
「そういうもんかなぁ」
 よくわかっていない日無子に真言は大きな溜息をついた。
 好きだ、というだけで結婚するのは簡単だ。だが現実はそうじゃない。些細なことで別れることもあるだろう。
 実家のこともあるので、真言はかなり慎重だ。
 だが想像できない。自分が結婚する……妻ができる、というのが。
(さっぱり想像できない……)
 ありうるのだろうか、そんな未来が。
「まあ飲みなって。愚痴くらいは付き合ってあげるよ。お酌くらいはしてやろうじゃん」
「ああ。そうだな……」
 日無子にコップを差し出す。
 注がれる酒を見て真言は苦笑した。
 満月の浮かぶ暗い空。だがこの屋台の灯りだけでも今の真言には眩しい。
 だがこんな夜は――――嫌いじゃない。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【4441/物部・真言(ものべ・まこと)/男/24/フリーアルバイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、物部様。ライターのともやいずみです。
 十年後……ということで、色々と変化があるように書かせていただきました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
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東京怪談
2006年05月08日

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