▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『Closing ―your eyes― 』
梧・北斗5698



「これどうぞー」
 配られたチラシには、配達屋の宣伝がでかでかと記載されている。
 だがそのチラシ、何か付録のようなものがついていた。
 配っていた金髪の少女はにっこり微笑む。
「桜茶ですぅ。ちょっといわくのあるものですけど、きっと素敵な夢をみれると思います〜」
 桜の葉を使ったお茶のようだ。それほど怪しい感じもないし、素直に貰っておくことにする。
 去り際に少女が声をかけてきた。
「寝る前に飲むと、きっと効果倍増ですよ〜! あと、うちのチラシ捨てないでくださいね〜! そんでもって、よければ今度配達品とかあったらウチを使ってくださ〜い!」

***

 梧北斗は髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱した。
「あー、もう駄目。わかんねー!」
 課題のレポートから目を離し、立ち上がる。
 自分の力ではもう限界だ。助けを求めよう。
 自分の部屋を出て、北斗は別の部屋に向かう。
「欠月ぃ〜」
 ドアの前で情けない声を出すと、すぐさまドアが開いた。どうせ北斗の気配を感じて待ち構えていたのだろう。
 開いた途端、北斗は両手を合わせて拝むような「お願い」ポーズをした。
「宿題教えて!」
「…………」
 そ、と北斗は顔をあげる。
 目の前で腕組みしている青年は、呆れたような顔をしていた。
 彼の名前は遠逆欠月。北斗と出会ったのは三年ほど前。あの頃の面影は残しているが欠月は当時の「可愛い」顔立ちではなく、美青年という言葉の似合う男になっていた。
 三年前より身長が少し伸びているし、髪型も少し違う。性格はまったく変わっていないけれど。
「この間も教えたじゃない。自分でやらないと意味ないって何度言わせるの」
「わかるところまではやったけど、どうしても詰まって……」
 苦笑する北斗の前で欠月は嘆息する。
「な! 頼むよ!」
「と言われてもねぇ」
 北斗としても欠月に断られると困るのだ。なにせ単位がかかっているのだから。
「ダメか?」
「駄目じゃないけど……。ボクはキミと学科が違うはずなんだけど?」
 北斗と欠月は同じ大学に通ってはいるが、学科が違う。それなのに、詰まると北斗はまず最初に欠月のところにやって来るのだ。
「頼むよ! 欠月のお願い、なんか聞くから!」
「……………………」
 また欠月が嘆息する。
 彼は渋々というように頷いた。
「わかった。どこがわからないわけ?」
「! 教えてくれるのか!?」
「教えない限りはそこから動かないんじゃないの?」
「うへへ。サンキュー!」
 嬉しそうに言う北斗を見て彼は呆れたような目をするものの、微笑む。
「教えてあげるから早く持ってきなよ。それともボクが行ったほうがいいならそうするけど」
「いや、俺が持ってくる!」
「あっそう。じゃあ早くしてよね」
「ありがとな、欠月!」
「代価はきっちりいただくよ」
「わかってるって!」
 元気よく言って北斗は自分の部屋に急いで戻る。
 部屋に戻るや荷物をまとめ始めた。必要な資料、筆記用具。それから講義のノート。がさがさと集めて手近なところにあった鞄に無理やり詰めると、すぐさま立ち上がる。
 鍵をかけて出てくると欠月の部屋に一直線だ。
 ドアは開けっ放しになっていたので北斗はすぐさま入る。北斗のことを考えて開けたままにしてくれていたのだ。
 後ろ手にドアを閉めると欠月が奥から声をかけてきた。
「適当に座っておいてよ」
「ああ」
 この部屋に来るのもかなり多い。腹が減ったとやってくることもあるのだが……欠月は基本的に最低限のことしかできないヤツなので料理は期待できなかった。
 手先が器用そうに見えるのに、料理に関してはどうしても下手だ。いや、上手くはできるのだろうが……問題は味である。
 欠月は大抵が惣菜ものを買ってきて食べているので北斗が哀れになったほどだ。三年前もこういう生活をしていたと知っていれば、何かしてやったのに。
 二人は同じ大学に通うため、近くのマンションを借りていた。親からの仕送りと、バイトで生活している北斗と違って欠月は貯金で生活している。
 実際のところ、欠月が遠逆家から支払われていた金額は不明だ。教えてくれないのだ、彼は。
 無論、欠月は大学に行くだけではない。北斗がバイトをしている最中は彼も仕事中。
 三年前よりは随分と仕事量は減っているものの、彼の退魔士としての活動は現在も継続中だ。
 北斗は腰をおろし、テーブルの上に荷物を置くとすぐにひろげた。
 ノートパソコンを見ていた欠月はイスをくるりと回してこちらを見る。
「ちょっとこっちの用を済ませるからそのまま待ってて」
「気にするなよ。俺が教えてもらうんだし」
「とか言いながら冷蔵庫を物色しようとしてるくせに」
 大当たりであった。腰をあげかけた北斗が苦笑する。
 そのまま立ち上がって台所に向かう。相変わらず、なにもない。冷蔵庫の中も飲料水と、リンゴが三つだけ。
(なんだこれ……生活してるヤツの冷蔵庫とは思えないな……)
「おまえさあ……少しはもっと買っておけよ」
「ボクは自分に必要なものしか買ってない」
「そうじゃなくてさぁ……その日その日の生活じゃなくて……」
「ボクは前からずっとこうして生活してる」
 じっとインターネットの画面を凝視しつつ、欠月は北斗の声に応える。
 北斗は呆れた。
「いつか身体壊すぞ」
「残念だけど、肉体の状態は健康を維持してる。健康とは言い難いだろうけども、キミよりは頑丈にできてるから問題はないよ」
「……結局、健康じゃないのか?」
「生活に支障はないからね。癌とかにもなってないし、病気は患ってない。そういう意味では『健康』だね」
「違う意味では?」
「栄養にも気は一応遣ってるけども、まあ、きっと血液とかドロドロだろうね」
「…………」
 確かに生活するのには支障はないようだ。
 北斗は欠月のそばに来る。
「なに見てんだ?」
「んー……まあ色々と」
「うわっ、英語じゃねーか! 読めるのか?」
「喋れないけど、読めるよ」
 なんだそれはと北斗は欠月を見遣った。彼は北斗のほうを向かない。
 邪魔をするのも悪いと思って北斗はテーブルの横に腰をおろす。
 三年前からすれば、まさかこんな生活をするなんて思いもしなかった。
 出会った頃のことを思い出して北斗は微妙な表情を浮かべる。
 そういえば……あまりいい印象ではなかった。
(あれから……まあ、仲良くなったんだろうけど…………不思議なもんだよなぁ)
 ぼんやりと思い出す。本当に色んなことがあった。
 今はもう、どれもいい思い出……に、なっている……? と、思う。

 欠月に丁寧に教えて……。
「おまえもっと優しく教えてくれよ!」
 泣きそうな顔で言う北斗の前で、欠月はコーヒーを飲みながら目を細める。
「嫌なら部屋に帰れば?」
「意地悪なこと言うなよ!」
「贅沢言ってるキミが悪いと思うけど」
 嘆息する欠月は時計を見遣った。
「今日はお仕事なんだけどなぁ」
「えっ!? そ、そんなこと言われても……」
「早く済ませて」
 にっこりと微笑む欠月。
 うぐ、と北斗は俯く。
「それともボクを手伝う?」
「ええ……?」
 不審そうな……いや、不安そうな顔で欠月を見る北斗であった。それもそうだろう。北斗より運動神経のいい欠月と行動するとどうなるか……。
「うそうそ。早くしてね」
「あ、ああ」
 頷く北斗は頭を掻きながら作業に戻る。欠月が教えてくれたことを思い出しつつ、うーんうーんと唸った。



 数日後。
 暗い夜道を歩く北斗はちらちらと周囲を見遣る。
「お、おい……どこなんだよここは……?」
 墓地だ。墓地が見える。
 山奥にある墓地になぜ来なければならないのか……。
<欠月さん、来てくださったんですね>
 冷やりとした空気と共に、そんな声が響いた。
 青白い顔の娘が目の前に姿を現す。幽霊だ。
「やあ。こんばんわ」
「お、おい……欠月?」
「お望み通りに素敵な男の子を用意しましたよ」
「……は?」
 北斗の声を無視して喋る欠月と、彼の言葉を聞いて疑問符を浮かべる北斗。
「お、おい欠月? なんなんだよ?」
「代価を払ってもらおうと思って」
「いや、それはいいんだけど……」
「この可哀想な人がね、どうしても成仏する前に男の子と色々やってみたいんだって」
「……なに?」
「で、ボクはタイプじゃないって言われたから、キミを呼んだの」
「…………俺はなにするんだ?」
「女の子とすることだよ」
「は?」
 眉をひそめる。
 北斗は欠月を引っ張り、少し幽霊から離れてこそこそ話す。
「女の子ととすることってなにすりゃいいんだよ?」
「ハア?」
「なんだその顔! し、仕方ないだろっ」
「…………」
 かあ、と顔を赤らめる北斗であった。
 欠月はにたり、と笑う。
「せっかくだから、色々とさせてもらったら?」
「ばっ! なに言ってんだ! 相手は幽霊だぞっ」
「生身がいいの? 贅沢なこと言うんだねえ。というか、生身があるほうが大変だと思うけど。女に免疫ないでしょ、キミは」
「おまえ俺で遊んでるだろ!」
「まあまあ落ち着いて。とにかくあの子の積もる話を聞いてあげるだけでいいから」
「…………話しを聞けばいいのか?」
「で、彼氏のフリをしてあげて」
「……………………」

 幽霊少女の恨みつらみ。
 それを横に座って聞いていた北斗は、欠月の姿がないことに気づく。
(あいつ〜……)
 腹立たしい気持ちになるが、横の少女を見遣った。
 着物姿の彼女は姿がぼんやりしているので見え難い。美人なのかどうなのか、わからないのだ。
<私は一度でいいから恋がしてみたかったんです……。あなたのような素敵な殿方に会えて、嬉しいですわ>
 鈴のような声に北斗は「はぁ」と言葉を濁す。なにせ女の子に対して免疫があまりない。どうすればいいのかよくわからなかった。
 友達としてなら、と考えるが……そうもいかないだろう。
 それから二時間か三時間くらい延々と話しをされて、北斗はすっかり疲れていた。
「は〜い、じゃあそろそろいいですか?」
 ひょこっと目の前に出てきた欠月は少女にそう言う。彼女は満足そうに頷いた。
<ありがとう欠月さん。ありがとう、北斗くん>
「いえいえ」
 疲労していたが、なんとか笑顔を浮かべる北斗。
 彼女は欠月の手によって天へと昇っていった。それは幻想的で……とても綺麗だ。

 山道をのろのろ帰る北斗は「割に合わない」と思っていた。
「どうだった?」
「どうって……疲れた」
「まあ……いい経験だとは思うけど」
 笑いを堪える欠月が気になって北斗は尋ねる。
「なんでさっきからニヤついてんだよ」
「いや……本当の女の子を用意すれば良かったかなとちょっと思って」
「…………は?」
「あの子は男だから」
 衝撃の告白。
 北斗は一瞬で脱力して地面に座り込んだ。
「いいレッスンだったと思うけど」
「…………」
 つまり。
 自分は『彼』を『彼女』と思って接していたわけだ。
 恥ずかしさと悲しさに項垂れる北斗の手を欠月が握り締める。
「ほら立って。今日は日曜だからゆっくり寝れるでしょ?」
「うるせー!」
 怒声をあげたが、それは力ない囁きになってしまった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 なんだかいつも様子が変わりない感じになってしまいましたが、楽しく書かせていただきました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
PCゲームノベル・櫻ノ夢 -
ともやいずみ クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年05月08日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.