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『Closing ―your eyes― 』
羽角・悠宇3525



「これどうぞー」
 配られたチラシには、配達屋の宣伝がでかでかと記載されている。
 だがそのチラシ、何か付録のようなものがついていた。
 配っていた金髪の少女はにっこり微笑む。
「桜茶ですぅ。ちょっといわくのあるものですけど、きっと素敵な夢をみれると思います〜」
 桜の葉を使ったお茶のようだ。それほど怪しい感じもないし、素直に貰っておくことにする。
 去り際に少女が声をかけてきた。
「寝る前に飲むと、きっと効果倍増ですよ〜! あと、うちのチラシ捨てないでくださいね〜! そんでもって、よければ今度配達品とかあったらウチを使ってくださ〜い!」

***

 大学に進学した羽角悠宇は、現在は帰宅途中だった。
 緩やかな大学内の道を歩く。
 忙しくなってきた彼女とはまめに連絡をとっているが、自分は彼女ほど忙しくはない。
 それに、年をとって思ったのは将来のことだ。
 漠然としたものだった未来を……悠宇は少しずつ真剣に考えるようになった。
(とは言ってもなぁ……。俺に何が向いてるかなんて、あんまりわかんねーっていうか)
 後頭部を掻いていると携帯が小さく鳴る。この着信音は電話だ。
「はい、もしもし?」
<やあ>
「ぶっ! か、欠月!?」
 悠宇は足をつんのめらせる。転びそうになるがなんとかバランスをとって歩き続けた。
「なんだよ?」
<お? なにその言い方。せっかくかけてあげたのに>
「いきなり過ぎるんだよ、おまえは!」
<仕方ないでしょ〜? ボクはお仕事で忙しいんだから>
 欠月は相変わらず退魔士として過ごしている。各地を移動して様々な妖魔を退治し、怪現象を解決しているのだ。
 たまに東京に来るとこうして電話をくれるのだが……。
<キミが恋しそうにしてるからわざわざ電話してるんだよ? ありがたく思いなよ>
 なんて偉そうな言い方だ。
 まあそれが欠月らしいといえば、それまでなのだが。
 それでも。
 出会った頃に比べれば随分変わったように思う。東京に寄れば必ず顔をみせてくれるようになったのだから。
<そういえばキミ、まだあの奇特な彼女と交際続いてるの?>
「ほっとけ! 続いてて悪いのかよ!」
<よく飽きないなあ〜>
 呆れたような、それでいて感心したような欠月の声に悠宇はこめかみが引きつる。
<あはは! そんな怖い顔しないの>
 くすくす笑う彼の言葉に悠宇は「へ?」と思い、それから気づいた。
 大学の校門に背を預け、悠宇のほうを見ている青年がいる。
 髪型も少し変わり、身長も少し伸び……そして色男と称してもいいくらいの男。全身が黒づくめだが……それがまた似合っており、違和感を感じさせない。
「か、欠月っ!」
 彼の黒のコートが風に揺れる。欠月は薄く笑って、驚く悠宇に手を振った。
 悠宇は携帯の通話を切り、苦笑する。
「なんでわざわざ電話してくるんだよ。俺を待ってたんだろ?」
「暇だったからね。そうでなければ、こんなメンドーなことしないよ」
 そういえば欠月は携帯電話を持っていない。どうやって電話してきたのだろう?
 不思議そうにしている悠宇に気づき、欠月は小さく笑う。
「企業秘密だよ」
「またおまえはそうやって……。電話番号教えてくれないと連絡できないって言ってるだろっ!?」
「別に連絡してきたって意味ないよ。実家にはほとんどいないんだから」
「おまえ仕事しすぎなんだよ。たまにはゆっくりしたらどうだ?」
 呆れたように肩をすくめる悠宇。
 だが欠月は門から背を離し、コートのポケットに両手を突っ込んだ。
「いいじゃない。世のため人のためってやつだよ。世の中に貢献してるんだから、とやかく言わないで欲しいな」
「そりゃそうなんだけどよ……」
「でもま、たまにはのんびりと休養とってるよ」
 にこっと笑顔で言う欠月に、へぇ、と悠宇は洩らす。
「ちゃんと休みくらいとってるんだなあ」
「まあ。もう二十代だからね。十代のような無理ができないもんだよ」
「またおまえ……そういうオッサンみたいなこと言うなよ」
「だからたま〜に休んで温泉に行ったりするね。あとはプールとか」
「…………」
 なんだか想像できないのだが。
 悠宇の白い目に欠月はムッとする。
「なにその目」
「いや……プールって、おまえそんなとこ行かないだろ?」
「行くよ。目の保養をしに」
「……は?」
「若い女の子を見て、やる気を補充するの」
「なにが若いだ!」
「それにボクはこの顔だから、黙ってても相手が寄ってくるからねえ。ふふふ」
 笑う欠月に悠宇は嘆息した。
 本当に変わっていない。いや、前よりひどくなっている気がする。
「俺の彼女に会ってヤラシイ目とかしたら殺すぞ」
「そんなことしないって。でもキミよりいい男だから、彼女がボクになびいても知らないけどね」
「なっ! なんでおまえそういうこと……!」
「人間の心なんて簡単に揺れ動くもんだよ。キミより女の子にモテるもの、ボクは」
 これだ。出会った頃は仕事仕事で悠宇に構いもしなかったが、いざこうやって暇な時に喋ればこうなる。
「そりゃそうだけど……外見だけだろ、モテるのは!」
「バカだなあ。ボクはこんなナリでキミより強いんだよ?」
「うぐ」
 そうなのだ。欠月はこの外見で凄腕の退魔士。悠宇が殴りかかってもサラっと避けるどころか、簡単に反撃してくるだろう。
 一度も欠月とケンカなどしたことないが……実際のところ、彼と戦っても悠宇は勝てる気が全くしない。
「世の女性はイケメンと、腕っ節のいい男に惚れるものさ」
「頭脳はないのか?」
「ははっ。それは吸収した知識の差だからねえ」
 肩をすくめる欠月に悠宇は嫌な気分になる。いつからこいつはこんなに自慢屋になったのだろうか?
 はー、と息を吐き出す悠宇であった。
「……ほんと、久々に会うとおまえの生命エネルギーの強さに俺の生命力が吸い取られていく感じがするな……」
「キミのほうがボクより若いのに、なんだよその言い草は」
「一個しか違わないだろっ!」
「それでもその差は大きい。若いんだから色々やってみればいいのに」
「……色々?」
 将来への不安がある悠宇はふいに真面目になって尋ねる。
 欠月は悠宇が高校で勉強をしている頃から退魔の仕事をしているのだ。そしてこの先もその仕事を続けていくだろうことは、見ていればわかる。
「俺って……どういう仕事が向いてるかな」
「おや? どうしたの急に」
「いや……ちょっと」
 ためらうように視線を伏せると欠月が目を細めた。
「仕事でも斡旋して欲しいのかな? コネというのも仕事をするうえでは大切なものだよ?」
「……おまえの仕事ってどんなの?」
「ボクを手伝いたいなら、まずキミの彼女に会う頻度は減るね。それと、ほとんど囮役だな。後は雑用。術についても一通り憶えてもらうから大変だよ?」
「う……。ほんとハードだよな……」
「フツーにサラリーマンしてるほうが楽だとは思うけどね。体力勝負なところもあるし、一歩間違えば即、お陀仏だもの」
「…………サラリーマンねえ……」
「ああでも、キミはその手の仕事は似合わないね。ピザ屋でバイトでもすれば?」
「就職じゃないのかよ!」
「キミは専門職向きだからね。まあ色々と模索してみるんだね。ボクのような裏稼業はおすすめできない」
 欠月に訊いた自分がバカだった。
(そうだよな。欠月なら『自分で考えなよ』って言いそうなもんなのに……)



「で、どうしてボクと出かけるといつもこういうところなのかな」
 不満そうに言う欠月。横には悠宇がいる。
 彼らが居るのは東京タワー。
「だって、こういうベタな観光場所、彼女と来れないだろ?」
「ボクとは来れるっていうわけ?」
「東京見物できていいじゃないか」
「バカにしないで欲しいなぁ……地理がわからないと退魔の仕事はできないでしょ〜?」
 フフフと低く笑う欠月に悠宇はビクッとした。欠月の言うことはもっともだ。退魔士をしていると、どうしても様々な場所に行かなければならなくなる。地理も把握していなければ戦いに不利になることだってあるのだ。
「で、でもさ……知ってても行かないだろ? 皇居とか」
「あのさぁ……東京をウロウロしてた三年前のこと、忘れたわけじゃないよねえ?」
「…………」
 そうだった。
 悠宇は慌てて誤魔化す。
「で、でもでも! 少しずつ変わっていくからさ、色々。土産物だっていつも同じってわけじゃないし!」
 土産物を一つ手に取り、欠月に押し付ける。欠月はそれを見てふふっ、と笑った。
「キミはそんなにボクを怒らせたいわけ?」
「か、かわいいじゃないかそれ」
 妙な、としか言いようのない土産物を見遣り……欠月は綺麗な笑顔を悠宇に向ける。
「三年経っても、キミは進歩しないねえ」
「あ、あの……欠月、声が低いんだけど……」
「すいませーん! このお土産くださーい!」
 大声で店員にそう言う欠月。悠宇はぎょっとしてしまう。まさか買うとは思わなかった。
「プレゼント用にしてください。女の子にあげるものなので、可愛くね」
 女性店員にウィンクする欠月を見て悠宇は呆れる。いつからこいつはこんなに女タラシになったのか……。
 慌てて頷く女性店員を悩殺した欠月は店に入って色々と物色する。
(……なんだ。なんだかんだ言っててやっぱ買うんじゃないか)
 苦笑する悠宇だったが、数分後……その顔色が悪くなるとは知りもしなかった。

 悠宇に土産物がどっさり入った紙袋を、欠月が押し付ける。
 悠宇は怪訝そうにした。
「あげるよ。キミがボクに押し付けたキャラクターもののグッズ一式。どう? 嬉しい?」
「! な、なんだとっ!?」
「やあ、そんなに嬉しそうにしてくれるなんてボクは感激だよ。ふふふ」
「ばっ……! なんてことすんだ! 勿体無いだろ、金が!」
「べつに〜? お店に貢献したんだからいいことだと思うけど?」
 くっくっ、と喉を鳴らす欠月の嫌味ったらしい笑いに悠宇は真っ青になった。
「ちなみにさっきキミが押し付けたお土産……キミの大事な大事な奇特な彼女に送ってもらったから」
「なにーっ!?」
「大丈夫。差出人のところにはキミの名前を書いておいたからね」
「なんてことすんだよ!」
「あはは。今から取り返しに行ってもムダだよ。発送荷物の回収時間はさっきだからね。とっくに発送されてるから」
 諦めな。
 悪魔の笑みで言う欠月の前で、悠宇は膝をつく。身体から力が抜けてしまったのだ。
「お、おまえ……」
「懲りないキミが悪いと思うけど? だいたいキミはそのキャラクターが好きなんじゃないの? ボクにおすすめするくらいなんだから」
 恨めしそうに欠月を見上げる悠宇。欠月はニヤっとした笑みを浮かべたままだ。
 知り合った当初はこんな風になるなんて思いもしなかった。今もまだ、欠月との関係は続いている。きっとそう……まだまだ続くに違いないだろう。
(くそ〜……次こそは勝つ!)
 なんてことを思っている悠宇だったが、次に欠月に会うのを密かな楽しみにしているとは……口が裂けても言えないのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3525/羽角・悠宇(はすみ・ゆう)/男/16/高校生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、羽角様。ライターのともやいずみです。
 三年後の未来の夢とさせていただきました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
PCゲームノベル・櫻ノ夢 -
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東京怪談
2006年05月01日

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