『■朧月夜の誓約■ 』

鈴城・珠々奈（6372）＆山崎・健二（3519）

　人の出会いも関係も　本当に唐突で───

◇

（こっちにはまだ来たことなかったっけ）
　真夜中、月の光が踊る中。
　昼間も人影の少ない荒れ果てた公園の近くに、少女の影は降り立った。
　時折くん、と鼻をひくつかせる子ウサギにも似た仕草は、外見と反してどこか熟された大人の女性のようで。
　実際、自分で自分の時を止めてしまった彼女───鈴城珠々奈は充分にその「不思議さ」を利用して職業にも使っていた。
　職業───そう、賞金稼ぎに。
　霧が少し出ている、朧月夜には賞金首も顔を出す。
　だから珠々奈も、軽やかな足取りで猫のように「自慢の鼻」を頼りに探すのだ───獲物を。

「ん」

　ひく、と形の良い可愛らしい鼻が僅かに動いた。軽く指で触りながら、ぺろりと唇を舐める。
「銃探知───銃知覚のこの鼻は誤魔化せないよ」
　砂糖菓子のような、とまでは純粋でない小悪魔的な何か不思議な魅力を持っている珠々奈の口から、そんなぶっきらぼうな言葉が慣れたように滑り出る。
　青く長い髪の毛を躍らせ、やや小走り気味に銃を感じる場所───すぐそこの公園の中に入る。

「助けてくれ！」

　男の悲鳴が聞こえた。
　しかし近所は開発地域で住居もなく、その悲鳴に興味を示して窓から顔を出す寝起きの住人もいない。
　ただ、珠々奈だけが見ていた───誰かスタイルの良い長身の美しい男が、今しも対峙している中年男の喉元に銃を突きつけているのを。
　美しい男は、黒い瞳を微動だにさせず言い放った。冷たい、言い方だった。
「無駄だ……賞金首。お前には死神が見える」
　ひ、と「賞金首」は再度悲鳴を上げかけ、
　銃声と共に絶命した。

　しにがみ───？

　死神が見えるから、なんだっていうの。賞金首って言ってたわね、あたしの獲物をとったあいつ───何者？

　珠々奈がそう思考すること一瞬。
　またたきをした間に、美しい男の姿は消えていた。
「！？」
「子供が、こんな所に何の用だ」
　見失ったと思ったら、背後に回りこまれていたのだ。咄嗟に珠々奈も愛銃デザートイーグルを引き抜く。
　朧月夜の中、突きつけられる銃と銃。
　そして、
　戦闘は始まった。

◇

　わざとなのか、否か。
　殆ど同時に発射された銃弾は、男の意図の通りに「ぶつかりあった」気がした。
　偶然と思えば偶然にすぎない。
　けれどあの思考の一瞬の間、２８年伊達に生きていない珠々奈には男の正体が分かっていた───だから、ひやりと背筋が少しだけ凍りついた。
（そう、こいつは───死んだはずの『ＡＳＳＡＳＳＩＮＡＴＩＯＮ　ＤＯＬＬ』と呼ばれた暗殺者……そして、）
「今では賞金首だね、お前」
　言った珠々奈に、男は形の良い眉をわずかにひそめる。その間も攻撃はやまない。銃は使わず、体術だ。珠々奈も応戦したが、半ば以上の予想でかなわないと分かっていた。
　結果、

　ぐきり

　派手な音がして、珠々奈は悲鳴を噛み締めた。
「く……ぅ……ッ」
　関節を外されたのだ。
　殺されるこの瞬間に笑みを浮かべる自分が、何故か可笑しかった。
　ことばあそびのように、尋ねる。
「あたしも殺すの？」
　すると珠々奈を片手で抱きかかえるように支えていた男は、じっとその青い瞳を見つめてかぶりを振った。
「……いや、死神は見えない……消え失せろ」
　ぱっと手が離され、地面に落ちる珠々奈。
　偉そうに言われて、こんな醜態を晒されて───黙っている珠々奈ではなかった。
　かぁっと頭に血が昇り、口を突いて出た言葉は。
「消え失せたほうがいいのはお前のほうじゃないの！？　『ＡＳＳＡＳＩＮＡＴＩＯＮ　ＤＯＬＬ』！！」
　ぴく、と男の片眉が上がる。

　───何しろ死んだことになってるんだもんね！

　その言葉で、決定的となった。
　男は打って変わったように気圧され、困っているようだった。その姿を見て、珠々奈は閃いた。
「ね……生きている事が知られたくないでしょ？」
　こんなカマかけに引っかかるものか、とも心のどこかで思っていた。けれど、男は思っていた以上に世間知らずだった。沈黙は肯定なり。黙って目を伏せた男に、珠々奈は畳み掛ける。
「ふふ……そのこと黙っているかわりにあたしの相棒になってくれない？」
「相棒？」
　男の低音声が困ったように跳ね返ってくるのを心地よく思いながら、珠々奈は両手を腰に当てる。
　霧は薄れることなく、けれど互いの容姿が充分に分かるほどには晴れていた。
「そ。相棒。あたし、賞金稼ぎなの」
「───、」
　男は何かを言おうとして、諦めたようだ。持っていたままの銃をしまい、地面に落ちていたままの珠々奈の愛銃を拾い上げ、渡す。受け取った時、本当に「その男か」と自分の知識を疑いたくなるほど間抜けな質問が降ってきた。
「一つ、確認していいか？　……給料は出るのだろうな？」
　デザートイーグルを、自由のきくほうの手でしまいながら珠々奈は喉の奥で笑った。堪えきれず、月夜に響き渡るほど心底おかしそうに笑う。
　一頻りそうして笑い涙を拭って、珠々奈は言った。
「お前の働き次第ね。と───名前を教えてくれない？　コードネームで呼ばれると『つらい』でしょ？」
　ささやかな嫌味は、関節を外された報復には足りないくらいだ。く、と男は霧の中、黒髪を靡かせて名乗った。
「健二……山崎健二だ」
「よろしく、健二」
　珠々奈は、男───健二に向けて手を差し出した。暫し何の意図か迷い、思いついて健二はその手を握る。
　こうして、朧月夜の荒れ果てた公園で。
　霧の中、二人の誓約はかわされた。

◇

　その後の二人の「活躍」は、知る人のみぞ知る、ことになる。



《ＥＮＤ》
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こんにちは、ご発注有難うございます。今回、「朧月夜の誓約」を書かせていただきました、ライターの東圭真喜愛と申します。戦闘シーンを盛り込みたかったのですが、お二人の戦闘方法が互いに対峙した時どのようなものなのか、下手に書くと今後にも影響すると思いまして自粛致しました。
「ここはもっとこう」「こんなことはしない」などありましたら、遠慮なく仰ってくださいませ。今後またご縁がありました時の参考にさせて頂きますので♪

ともあれ、ライターとしてはとても楽しんで書かせて頂きました。本当に有難うございます。
お客様にも少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
これからも魂を込めて書いていこうと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>
それでは☆

【執筆者：東圭真喜愛】
2006/04/29 Makito Touko

PCシチュエーションノベル（ツイン）

東圭真喜愛

東京怪談

2006年05月01日