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『『さっきまで隣に』 』
メラリーザ・クライツ3271)&朝霧・乱蔵(3272)

 何処に行こうと決めていたわけではない。
 ただ、とても天気が良くて。
 とても、気持ちがよかったから。
 二人、一緒に歩いていた。

 陽射しは暑いほどなのに、時折ベルファ通りを吹き抜ける風は、思いのほか冷たかった。
 “北風さんが、雪山に帰ろうとしているんだ”と、メラリーザ・クライツは目を閉じながら思っていた。
 メラリーザの隣には、黒いコートを羽織った不機嫌そうな男性の姿がある。
 ……あれ?
 さっきまで隣にいたはずだ。
 メラリーザが振り返ると、その不機嫌そうな表情の彼は、メラリーザの斜め後ろをつまらなそうに歩いていた。
 どうしたの? と言おうとしたメラリーザの頬を、再び冷たい風が吹き抜ける。
 そっか。
 立ち止まって、彼、朝霧・乱蔵が自分の隣に来るのを待つ。
 風除けになってくれたんだね。
 彼は何も言わない。
 いつもの不機嫌そうな表情で歩いているだけ。
 メラリーザも何も言わず、彼の隣を歩いた。……柔らかな笑みを浮かべながら。

「乱蔵さん、あれ可愛いですー」
 ぱたぱたとメラリーザがショーウィンドウに走り寄る。
 メラリーザが目に止めたのは、可愛らしいクッション。
 スマートで、それでいてボリュームがあり、色は優しいホワイト。銀と赤の糸で月と花の刺繍が施されている。
「メラリーザに似ているな」
 突き放すような、ぶっきらぼうな口調だった。
 彼を知らない人なら、少し傷ついたかもしれない。
 だけれど、メラリーザは彼を知っているから。
 その言葉を素直に受け取り、喜んだ。
 そう、そのクッションはまるでメラリーザのようだった。
 まるで彼女の肌のような色。銀の月は彼女の髪のよう。赤い花は彼女の穏やかな瞳のようだ。
「綺麗だな。抱いて寝るのに最適だ」
「そうですね。ぎゅっと抱きしめたいですよね!」
 メラリーザは呟きのような乱蔵の言葉に素直に答えた。
 言葉の真意には気づかず。
 つまり、クッションを自分と例えているとは思いもせず、純粋に答えたのだった。
「お店の中、見てきていいですか?」
 目を輝かせ言うメラリーザに、自分にしか分からないほどの小さな吐息をつき、乱蔵は「いっておいで」と言った。

 雑貨屋の中は宝物でいっぱいだった。
 メラリーザは目を輝かせながら、店内を見て回る。
「みてみて、さっきのクッション!」
 後から入ってきた乱蔵の手をぐいぐい引っ張っぱったかと思えば、ぱっと話して自分だけの世界に入っていく。
 メラリーザが目に留めたのは、先ほどのクッションのミニミニ版。
 掌よりも小さいクッションの形をしたキーホルダーだった。
「クッションの役目は果たさないけれど、とっても可愛いです」
 目の前には、クッションの役目も果たせる可愛らしい存在がいるのだが、乱蔵はそんなことを言うこともなく、キーホルダーも一瞥しただけであった。
「ああ、ちょうどこのくらいの鏡が欲しかったんですー。それから、こんなポーチもっ」
 メラリーザは店内を回りながら、いくつもの商品を抱えていく。
「ゴミ箱はさすがに持ってかえれないなぁ。うーん」
 前が見えないほどに雑貨を抱え込んだメラリーザに、すっと買い物籠が差し出される。
 何を言うわけでもなく、無表情で乱蔵が差し出していた。
「えへへっ、ありがとっ☆」
 お礼を言って、メラリーザは雑貨をカゴに入れていく。
 雑貨が沢山詰め込まれたカゴは、乱蔵が持った。
 ごめんね、重いでしょ? というメラリーザの言葉に、特に乱蔵は反応を示さない。
 でも、何も言わなくてもわかっている。
 もっとゆっくり買物楽しんでいいよという徴だと。

 両手一杯荷物を抱えて、二人は雑貨屋を出た。
 本当はこんなに買物をする予定ではなかったけれど、あまりに可愛らしい品物の数々に、メラリーザは衝動を抑えることができなかった。
 乱蔵もまた、メラリーザがあまりに楽しそうだったので、止めることはしなかった。
 荷物を抱えているので、手を繋ぐことができない。
 通りを歩いていて、ふと、本屋に目を留めた乱蔵は、窓に映る自分を見て足を止める。
 隣を歩いているはずのメラリーザの姿がない。
 振り向けば、花屋前で足を止め、花に見入っているメラリーザの姿が見えた。
 何も言わずに近付いて、彼女が満足するのを待つ。
 風が吹いた途端、自分に重なっている影に気づきメラリーザは我に返る。
「あっ、ごめんね、行こっか」
 目の前には不機嫌そうな顔。
 でも、怒っているわけではないのは分かっている。
 また一緒に歩き出す。

 夜の帳が下りると、気温が一気に下がる。
 この時期の夜はまだ寒い。
 荷物を預かり所に預けて、二人は有名な黒山羊亭を訪れた。
 乱蔵は一番端の席を選び、メラリーザはそれに従った。
 ちょうど、踊り子の舞が終わった直後らしく、店内は陽気な雰囲気に包まれていた。
 二人でメニューを見る。
 乱蔵は僅か数秒で決めて、メラリーザの方へメニューを向けてやる。
 メラリーザはメニューを捲ったりひっくり返したりしながら悩み、結局乱蔵と同じものに決めた。
 食事が届くまでは、今日買ったものについて話をした。
 といっても、メラリーザが一方的に話しているようなものだった。
 乱蔵はメラリーザの話を、頷きながら聞いている。
 その様子はやっぱり不機嫌そうだけれど、きちんと話を聞いてくれていることが、メラリーザにはよくわかった。
「辛っ」
 運ばれてきた料理の炒め物は、メラリーザにはちょっと辛かった。
 乱蔵はメラリーザから取り上げて、自分の揚げ物と交換する。
「ありがと〜、乱ちゃん」
 甘えた風に言って、メラリーザはちょっと強いお酒を注文した。
 今日はもう少し酔ってみたかった。
 素敵な買物が出来たこと、素敵な時間を過ごせたこと。
 そして、今ここで、二人で過ごしている今を、もっともっと楽しむために。
 食事を終え、デザートを注文する。
 その頃には、二人共お酒の力で普段より大らかになっていた。
 ……もっとも、乱蔵が不機嫌そうであることは変わらなかったが。
「メラコ」
 ほろ酔いになったメラリーザに、乱蔵が語りかけた。
 いつもより、優しい声だった。
「なあに、乱ちゃん」
 乱蔵はポケットから取り出したものを、メラリーザに渡した。
 それはあのクッション――。
 小さなクッションのついた、キーホルダーだ。
 いつの間に買ったのだろうか。
 そういえば、彼の胸ポケットから、ちょっとだけ鎖が覗いている。
 きっと、彼は2つ買ったんだ。
 自分の胸に一つ。そして、もう一つは相応しい人物に。
「……ありがと、乱ちゃん」
 クッションをきゅっと両手で抱きしめて、メラリーザは今日一番の笑顔を乱蔵に向けた。
 乱蔵の顔は変わらない。
 だけれど、少しだけ顔が赤いように見える。
 お酒で上気しているだけなのだろうけれど。
 今は、私の所為だと……。
 私がいるから、だって思っていいかな?

 乱ちゃん、大好き――。

 何処に行こうと決めていなくても。
 天気が悪かったとしても。
 気分が優れなくても。
 二人、一緒に歩きたい。

end


●ライターより
初めまして、川岸満里亜です。発注ありがとうございました。
孤高で、いつも一人遠くを見ていそうな乱蔵さんと、子猫のように可愛いメラコさん。今後どのような物語を作っていくのか、とても楽しみです。
また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2006年04月26日

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