──── 物好き。
カウンターに肘を突いた店主・碧摩蓮は煙管の煙を吐き出しながらそう言った。商品を購ったばかりの客人に対してはあんまりな態度、重ねて物言い、しかし言われた当人──セレスティ・カーニンガムはくすりと笑って。
「ご同好の最たる方、貴女が今更何を仰います」
「好事家やってる年月が及ばないねえ」
「ふむ、ご尤も」
口許に手を遣る優雅な所作、そして頷く。
本日彼が、この不可思議さに値段をつける店で手に入れたのは、古めかしい一冊の本だった。その題名、『To the world such as these mysteriously reached』。──── “これ等不可思議極まる世界に”。
一見して、まるで児戯の様な表題を、と思った。そしてぺらりぺらり、虫食いのある頁を幾らか繰って興味が湧いた。何分、永い悠久を気侭に生き大概のことは実行可能な地位と財力とを両手に持つ彼である、少しでも心傾けば、その麗しき指先が惹かれれば、何処へなりとも爪先を向けてみること吝かではない。
「どうだい、それはアンタの暇を潰してくれそうかい?」
店主はカツン、煙管を灰皿に叩きつけて訊いた。
本を胸に抱いた佳人は、やんわりと目を細めた。
「そうですね、有意義な時間を過ごせると……期待していますよ」