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『そして、彼女たちは出逢った 』
アリス・ルシファール6047)&榊船・亜真知(1593)
●ただいま任務遂行中
 東京近郊の某所――山手に近い場所にそれはあった。地元の者は夢の跡、あるいはバブルの跡とでも呼んでいただろうか。巨大なテーマパークになるはずだった場所である。
 過去形なのはもちろん今は閉鎖されているからである。それというのも開発途中に資金繰りが悪化して運営主体が倒産したからだった。
 閉鎖後、テーマパークはそのまま放置され廃棄状態となっている。中心部に出来るはずだったメインのアトラクション施設(屋内外を出入りするジェットコースターだったらしい)も、当然未完成のままだ。解体しろという意見もあるが、それもまた金がかかる話。何もせず現状維持している方が安くつくというのだから不思議だ。ゆえに手付かずのまま、現在に至るようである。
 そんな場所であるのだから近付く者も普段滅多に居ないのだが――この日ばかりは違っていた。何やら忙しく動き回っている者たちが、テーマパーク跡周辺で見受けられたのだ。
 どうやら、ある1人の少女が先頭に立って指揮しているようである。
「テーマパーク内に異常がないか、最終確認をお願いします」
 自分より明らかに年上の者たちに対して指示を出す金髪ツインテールの少女。彼女の名はアリス・ルシファール、神聖都学園中等部の留学生だ。
 しかし……それは仮の姿。アリスの本来の姿は、時空管理維持局特殊執務官なのだ。今この場に居るのも、時空管理維持局の任務を果たすためだ。時空管理維持局の目的は、平行時空世界の世界間の秩序維持である。周辺時空に悪影響を及ぼす危険性のある災害などの事態が発生した時に、時空管理維持局に動くこととなる訳だ。
 今回のアリスの任務は、その超常現象系災害対処の現場指揮であった。実はこのテーマパーク跡、年月の経過とともに心霊テーマパーク化していたのだ。簡単に言えば入場ゲートから先は雑魚霊から大怨霊クラスまでが徘徊する混沌の場、それも放置された中心部の霊的バランスが最悪という状態。時空管理維持局もこのまま放っておけない、という結論に達したのである。
 手順はこうだ。まずこのテーマパーク一帯を、局員たちによる広域の封鎖隔離結界で閉じた。これは被害の拡大を抑えるためだが、人払いも兼ねていた。そのため、地元の者は現在ここで何が行われているか知ることはないだろう。それから最終確認が終わり次第、サーヴァント全騎展開の広域浄化陣を用いるということになっていた。
(確認が終わればすぐかな?)
 報告を待ちながら、アリスはそんなことを思っていた。大規模に任務が進行しているが、これは主としてテーマパーク跡が巨大なためだ。内容自体は比較的簡単な部類なのである。武装局員チームも待機しているが、霊たちが積極的に打って出るということもなかったため、現場にぴりぴりとした空気はそれほど感じられなかった。
 ところが――そんな空気を一変させる出来事が発生してしまった。
「大変です!」
 最終確認のためテーマパーク内に足を踏み入れた局員の1人から、慌ただしく連絡が入ってきた。
「中心部に……レールの最頂部に一般人が取り残されている模様です! 画像を転送します!」
 報告とともに、現場の画像がアリスの元へ転送されてきた。確かにジェットコースターの屋外レールの先端付近に、誰か横たわっているようである。
「女の子……?」
 画像に目を凝らすアリス。映っている姿が小さくて、はっきりと顔も確認出来ない。
「拡大しました!」
 今度はかなり寄った画像が送られてきた。それを見たアリスは、はっと息を飲んだ。
「し、雫先輩!?」
 そう、レールに横たわっていたのは神聖都学園での先輩にあたる瀬名雫だったのだ――。

●出逢い
(どうして雫先輩がここに?)
 アリスは頭をフル回転させ、雫がここに居る理由を見付け出そうとした。そして思い出す、雫が少し前にこう言っていたことに。
「春休みだから、ちょっと遠出して心霊スポット巡りしようかなって考えてるんだよ」
 けれども、まさかよりにもよって今日ここに来るとは!
「……結界を展開する前に忍び込んだのかも、雫先輩」
 行動派な雫のことである、アリスや局員たちの知らぬ間に入り込んだ可能性は非常に高い。ともあれ、このまま雫を放置しておく訳にはいかない。
「武装チーム、一般人の救出へ至急向かってください」
 武装局員チームに指示を出すアリス。さっそく武装局員チームは中心部へ向かって駆け出してゆく。
 その姿を見届けてから、アリスはふうと溜息を吐いた。あとは雫が救出されるのを待つだけなのだが……何かがアリスの中で引っかかった。
(……そういえば、どうやってあんな所に?)
 雫は何故、レールの先端に居たのか。自分の意志で行った、とはいくら雫が行動派とはいえ考えにくい話だ。そんなことをアリスが考えていると、武装局員チームから連絡が入った。
「こちら武装チーム! 施設そばまで辿り着いたが、対象に近付くことが出来ない!」
「どうして!」
 問いかけというよりも、アリスの言葉は驚きのそれだった。
「霊たちが結集して、我々の行く手を阻んでいる! 個別に排除を試みているが追い付かない! 応援を求む!!」
 切羽詰まった声、明らかに武装局員チームが押されているようである。この報告でアリスは理解した。何故雫があんな場所で横たわっていたのかを。
(雫先輩が霊に利用されてる……)
 積極的に打って出ることがなくとも、怨霊などは黙って浄化されるはずもないのだ。そこで入り込んでいた雫に目を付け、利用することによって浄化を妨害しようとしているに違いない。
「……どうしよう……」
 悩むアリス。応援要請もあることから、雫を救出するためには追加で人員を投入しなければならない。けれども現在動けるのは、バックアップのために残した武装局員チームの2人と、アリス自身だけ。
 もちろんアリスが動けばいいのかもしれない。だが、アリスには広域浄化陣の発動という重要な任務がある。サーヴァント全騎による発動のため、誰か他の者に任せるということも難しい。なので迂闊に動けないのである。
(……どうすれば……)
 苦渋の表情に包まれるアリス。どんな結果になろうとも、自分が判断しなければならないのだ。
 このまま時間だけが虚しく経過するかと思われたその時、アリスに声をかける者が居た。
「お困りのようですね」
 穏やかで優しい声だった。ゆっくりと声のした方へ振り向くアリス。
「あっ……!」
 アリスはそこに居た少女の姿を目の当たりにし、思わず言葉を失ってしまった。神聖都学園高等部の有名人である先輩、榊船亜真知が目の前に立っていたのだから……。
「差し支えなければご助力いたします」
 と言い、にっこり微笑む亜真知。格好はアリスが知る普段の制服姿とは違う。星杖:イグドラシルを手に戦闘モード『戦女神』状態でたたずんでいたのだ。
「……先輩がどうしてここへ」
 喉の奥から言葉を絞り出し、アリスが亜真知へ尋ねた。
「遠くで事態を感知して駆け付けました」
 とだけ、静かに答える亜真知。
「…………」
 アリスはしばし無言で亜真知を見つめていたが、おもむろにその手を握り締めた。
「協力をお願い出来ますか」
 まっすぐに亜真知の瞳を見つめるアリス。執務官判断の協力要請、しかしわらをもつかむという理由からではない。亜真知が最上位の魔導師級以上の実力を有すると気付いたからである。
 繰り返しになるが、この一帯は広域の封鎖隔離結界によって閉じられている。そこでの出来事を亜真知は遠方で感知し、なおかつ駆け付けたのだ。それなりの実力を有しているとアリスが気付くのも当然のことだった。
「ええ、わたくしでよろしいのでしたら」
 亜真知はアリスの申し出を快く引き受けた。
「それではさっそくですが……」
 そう言ってアリスが雫の場所を告げようとすると、亜真知がすっと人差し指をアリスの唇に当てて微笑んだ。
「分かっております」
 事態を感知出来るくらいなのだ、何をすべきかは心得ている。亜真知は武装局員チームの残り2人とともに、すぐさま現場へ向かった――。

●救出作戦
 さて先に雫救出へ向かい、霊たちに抵抗され近付くのもままならなかった武装局員チームだが、亜真知が現れたことによって攻勢に転ずることが出来た。
「イグドラシル、分かっていますね」
 亜真知の呼びかけに、星杖:イグドラシルは女性声の正統英語で何事か答えると、武装局員チームの前に立ちはだかっていた巨大な怨霊に向かって砲撃を繰り出した。巨大な光球が光の帯と化し目標へ放たれる、いわゆるバスターモードだ。
 その怨霊が排除されると、武装局員チームは先へ進むことが可能となった。どうやらこの怨霊に一番手こずらされていた模様。
 それから亜真知は、雫の元へ向かう武装局員チームに迫りくる霊たちに対し、後方から複数弾体を制御する射撃系浄化魔法を使用した。目的は霊の殲滅ではなく、雫の救出である。救出を試みる武装局員チームが足止めされないことが重要なのであった。
 やがてアリスの所へ待望の報告が入った。
「こちら武装チーム、一般人救出に成功す! ただちに現場より離脱する!」
「了解です。離脱確認次第、広域浄化陣を発動します」
 アリスは言葉を返すと、広域浄化陣の発動準備に取りかかった。サーヴァント全騎を展開させ、いつでも発動出来る状態へもってゆくのだ。
 そして――。
「離脱しました!」
「広域浄化陣発動……浄化!!」
 離脱報告があるや否や、アリスは広域浄化陣を発動させて一気に浄化を試みた。

●世界はまた何事もなく
 1時間ほどが経った。テーマパーク跡の入場ゲート前に、アリスと亜真知、それからまだ目覚めぬ雫の姿はあった。
「う、う〜ん……」
 もぞもぞと身体を動かし、雫がゆっくりと両目を開く。と、心配そうに自分を覗き込んでいるアリスと亜真知の顔が視界にあった。
「雫先輩! 気が付いたんですね?」
「ご気分はいかがですか?」
 口々に雫へ尋ねるアリスと亜真知。雫はといえばきょとんとした表情を浮かべている。
「あれ? 2人がどうしてここに居るの? 確か中を探索してると、急に目の前が真っ暗になって……あれえ?」
 記憶の糸を辿ろうとする雫。目の前が真っ暗になった時には、霊に何やらされていたのだろう。
「各々に心霊スポットということでここを訪れていたのですが……倒れていた雫様を発見したため、こちらへ運んできたんですよ。お話を伺っていますと、貧血だったのでしょうか」
 亜真知がそう雫へ説明する。
「うーん、今朝早く起きてここに来たからかな? 昨日も寝たの遅かったし……」
 思い当たる節もあるからか、雫も何となく納得したようである。
「気を付けてくださいね、雫先輩」
 アリスが雫を窘める。このままどうやら貧血で倒れてしまったことにするつもりのようだ。
「うん、ごめんね、2人とも」
 雫は苦笑すると、後ろを振り返った。入場ゲートの向こうには、ひっそり静まり返ったテーマパーク跡が何事もなくそこにあった。戦闘の痕跡すらもなく。
 後日、アリスは上司と2人がかりで亜真知を説得し、現地採用の嘱託魔導師第1号になってもらうのだが……これはまた別の話。とにもかくにも、アリスと亜真知は今回の事件によって出逢ったのであった。

【了】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
高原恵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年04月17日

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