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『すれ違う 想い 』
黒崎・狼1614

 旧家・黒崎家
 財閥や過去の貴族などとほぼ同じ、由緒正しき家柄。
 
 忌み子が生まれた。

 黒崎・狼(くろさき・らん)がその“忌み子”である。人ならぬモノとして生まれた場合、まず人間は拒否反応を起こす。死を運ぶ力を制御できない事は恐ろしい。それ故に、いろいろなことを教えるはずの両親が拒否した。其れが彼を不幸にしてしまう。家族の絆を失う。其れこそ闇となり、彼の心を蝕む事になるのだが、幸い理解有る祖父のおかげで、悪の道には染まらずに済んだ。

 春。
 黒崎狼は久々に実家に戻る。祖父の計らいだ。祖父は優しく出迎えるのだが、両親はよそよそしい。彼の家は、日本の武家屋敷に似ている。厳かで張りつめた、何ともいやな雰囲気。格式張ったことではなく、全てに拒否されている。その気配が狼を苦しめている。
「お帰りなさいませ、ぼっちゃま」
 と、女中が挨拶するも、彼が怖いようだ。
「ささ、狼。おはいり。後ほど家族で食事をしよう」
「ああ、じいさんありがとう」
 彼の部屋は一応存在する。しかし、祖父と弟だけ、この場所に訪れる。
 部屋は散らかっていた。
「あいつ、勝手に使っていたな?」
 狼が苦笑した。
 寝るだけの部屋なので、簡単に片づければ、済む。
「しかし、何故呼んだ?」
「しばらく顔を見せてないだろう? せめて、家族そろって食事をして“変わった”事を」
「いや、希望が薄い」
「やってみないことにはわからんだろうに」
「……」
 祖父は心配していた。
「御前様、ぼっちゃま。お食事の用意が出来ました」
 と、女中がやってきて伝えた。


 両親は、やはり狼に口をきかない。狼自身が、無意識に親を睨むのだ。そのとげとげしい雰囲気に笑いがあるはずもない。長男を無視し、できの良い弟をほめている。此処までして、扱いが違うのか、と。
「狼、何か話を……」
「……」
 狼は席を立った。
 その動作が、激しかったために、両親は何か化け物を見るような目で、怯えて狼を見る。
「……ふん」
 狼は、一瞥した後、その場を去った。
 両親はなにか命拾いした安堵感をため息に変えて、また何事もなかったようにもう独りの息子を甘やかしている。
 祖父はため息をついた。

「分かってる。分かってる。彼らは、それなりに頑張ったつもりだろう。でもな、俺はあいつらを親とは思えない。しかし、じいさん、俺は、何のために生きて居るんだ?」
 生まれてきたからには、何か意味がある。そして、いろいろなことを学び感じ、大きくなるんだ。
 狼は祖父からそう教えられた。力の使い方も徐々に分かってきた。そして自分と普通の人間が全く異なることとその反応を理解していた。しかし、与えられるはずの想い、親から様々なモノを与えられることなく育った、狼にとって決定的な何かが欠けていた。家族としての認識だ。
 アレは家族ではない。祖父と弟だけだ。
 家を出たときも、憎んでいた、生みの親。全てを放棄した親。恐怖の目で見る。
 其れが何を意味するか。ただ、SOSを出すだけの不良行為とは訳が違ってくる。あのやりきれないいらだちで無秩序に走ることではなく、形になってしまう怒りが狼にはあるのだ。本来なら、憎しみと怒りで、この黒崎家は壊滅的な事になっただろう。しかし耐えられた。祖父のおかげで。祖父が家族の温もりを与えてくれた。かなり曲解されているかもしれないが弟も、自分のことを案じてくれている。
「まったく、ひやりとしたぞ」
 祖父が追ってきた。
「彼らを許してくれ。まだ、なれていないだけだ。な? 時間がかかると言うことは分かるだろう」
「ああ、分かっている。それにもう憎んでもいない。ただ」
「ただ?」
「許せないんだ……。許せ……」
 まだ何か引っかかる。
 狼の目には涙がこぼれていた。
 親から与えられるはずのモノがない。温かみがない。許せない。
 だから、“それ”に、どう接することが出来ようか?
「そうか」
 祖父は黙って、狼を抱きしめた。


 縁側に座って夜空をみる。
 良く幼いときは、祖父と一緒に夜空をみた。
「じいさん。頑張るよ」
 泣いてから、少しは落ち着いたようだ。
「そうか」
「今の居候先や、じいさんが居なければ今の俺はない。それに、こう見えたって、俺は友達がいっぱい居るんだ」
「恋人とかはいるのか?」
 にっこりと微笑む祖父。
「あ、そそれはーあーまだ、だ」
 少しどもってしまう。
 老人は、ほっほっほと笑いながら、狼の頭を撫でた。
「すまん、すまん。色々訊かせてくれないか? 今住んでいる所の生活を」
「ああ、いいよ」


 遠くにいても、こうして案じてくれている。
 本当の親からは、貰ってないけど。
 この人から貰った。
 友達から貰った。
 いろいろなことを。
 優しさを。
 この、温かい気持ちを。
 だからがんばれる。
 黒い翼も、自分の獣も、受け入れて。
 生きていけるんだ。

 ――がんばって前を進もう。


END
PCシチュエーションノベル(シングル) -
滝照直樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年04月06日

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