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『◇ 重なる巡り ◇ 』
工藤・光太郎6198)&黒羽・陽月(6178)



◇ ◆


   漆黒の闇に映える白は、あまりにも眩かった。
   ひらり、身のこなしは軽やかで・・・
   羽が生えているのではないだろうか?
   そう思わせるほどに優雅に、彼は夜空を舞っていた。

   目を奪われるのは、きっと俺だけじゃないはずだ。
   見る者の視線を集め、虜にする。
   それを才能と言わずして、なんと言うのだろうか・・・?
   凛とした存在感も、いつも自信気な語りも、全ては注目を浴びる。



   それなのに、瞳の輝きが哀しそうなのは何故なのだろうか―――――


◆ ◇


 カランと、軽快な鈴の音が店内に鳴り響き、扉の隙間から外の空気が一気になだれ込んで来る。
 今日は風が強い。
 薄いガラス窓の向こうでは、長い髪の女性が一生懸命髪を押さえて歩いている。
 街路樹の枝が大きく左右に揺れ、鮮やかな緑色をした葉っぱを振り落としては舞い踊っている。
 葉は大きく弧を描きながら地面へと落ち、落ちたそこで白いワンボックスカーに押し潰された。
 「お待たせ〜♪」
 そんな声がすぐ近くで聞こえ、工藤 光太郎は視線を上げた。
 にこにこと微笑むその顔をまじまじと見詰め、向かいの席に腰を下ろすように勧める。
 風に煽られてグシャグシャになってしまったらしい髪を手櫛で整えると、右手を上げてウエイトレスを呼んだ。
 その一挙一動に注目しつつ、工藤はウエイトレスが去るまであえて何も喋らない事にした。
 目の前に置かれた珈琲に口をつけ・・・
 「それじゃぁ、ストロベリーパフェ1つ。」
 そんな無邪気な声に、思わず珈琲を喉に詰まらせそうになる。
 「・・・ストロベリーパフェ・・・?」
 「そ。美味いよ?」
 そんな事を訊いているわけではないのだが・・・。
 工藤は小さく溜息をつくと、真っ直ぐにその瞳を見詰めた。
 「改めて初めまして、かな?俺、黒羽っていうんだ〜♪」
 にっこりと微笑んだ笑顔はまるで少年のようだった。
 彼の名前は黒羽 陽月。
 けれどそちらの名前よりも有名な名前がある事は、工藤も知っている。
 「俺は・・・」
 「工藤 光太郎・・・。知ってるよ。」
 名乗ろうとした言葉を遮った黒羽の前に、ストロベリーパフェが置かれる。
 いかにも甘そうな真っ白な生クリームをスプーンですくい、パクリと口の中に入れる。
 「美味しい〜!」
 幸せそうにそう言って、今度は苺を1つ指でつまむと口の中に放り入れた。
 ・・・彼の名前は黒羽 陽月。でも、それ以上に有名な名前がある。
 怪盗Feathery
 闇夜を駆け抜ける、純白の羽―――
 鮮やか過ぎる白は闇夜によく映え、凛とした存在感は例え人ごみに紛れようとも、決して見間違う事は無い。
 そんな怪盗Feathery
 それなのに・・・今、工藤の目の前に居るのはパフェを幸せそうに食べている1人の少年だ。
 夜を翔るその姿と、現在のこの姿。
 あまりの違いに工藤は目を疑った。
 あの怪盗が、この男・・・?
 何より持っている空気が全然違う。
 「お前、イメージ違ぇ。」
 「え〜、そかな?」
 「全然雰囲気違うじゃねーか。」
 「・・・もしかしたらどっちも俺じゃないかもよ?」
 からかうような口調とは違い、その瞳は冷たかった。
 まるで工藤の反応を見て全てを決めようとするかのように、その瞳は鋭い意思を持っていた。
 「・・・で?俺にその姿で接触してきた理由は?」
 「探偵君にあの姿であって宜しかったと?」
 そう言った瞬間だった。
 黒羽がすっと瞳を細め、先ほどまでのふにゃんと、どこか力の抜けた笑顔とは違う笑顔を見せる。
 凛とした存在感、決して並大抵の人間では出す事の出来ない、鮮やか過ぎる雰囲気。
 「急にあの白を思い起こさせるような空気だすなよ。」
 その言葉に、黒羽の雰囲気がふわりと軽くなる。
 長い銀色のスプーンをパフェの中に突っ込み、生クリームとストロベリーソースのかかった部分をすくい上げる。
 「まーまー。と、このようにこの姿のが都合良いし。情報入手の為なら何でも使う。」
 パクンと口の中に入れ、スプーンをパフェの中に入れるとテーブルに肘をついた。
 胸の前で両手を合わせ、その上に顔を乗せると、不思議な笑顔を浮かべた。
 「それに、信用してんだよ。」
 「・・・信用?」
 「喋らないだろお前は、他の奴にはさ。」
 2人の関係は怪盗と探偵。
 怪盗は探偵から逃れ、探偵は怪盗を追うのが役目。
 決して合わさる事はないと思っていた2人の星の巡りは、芳醇な珈琲の香りが漂うこの喫茶店でカチリと合わさった。
 それにしても、探偵も随分と信用されたものだ。
 怪盗に信用される探偵・・・それはどうなのだろうか?
 考え込みそうになる工藤の耳に聞こえてきたのは、黒羽の無邪気な声だった。
 「二人だけの秘密〜vってワケで情報ちょーだい♪」
 ・・・ちゃっかりしている・・・。


◇ ◆


 珈琲が冷め切った頃に、話は尽きた。
 そのまま帰ろうとする工藤の腕を取ったのは、他でもない黒羽だった。
 近くに公園があるからと言って・・・
 「公園デートじゃん♪」
 そう言ってはしゃぐ君。
 「デート・・・?男二人でか!?」
 「別に、男だろーが女だろーが、どっちでもいーじゃん。」
 無邪気な笑顔はまるで子供のようだった。
 太陽の下で笑う姿が良く似合う・・・・・・。
 噴水の傍まで走って行き、群がる鳩を空へと放つ。
 その姿は、まさしく黒羽 陽月だった。
 夜風を受け、飛ぶ白き鳥。
 凛とした空気、冷涼とした月。
 それと対とも思われるほどに、今日の風は暖かかった。
 風を受けて飛ぶ鳩と、それを見上げる黒羽。
 無邪気な雰囲気、眩しいほどに輝く太陽。
 最初こそ、違和感を感じた。
 夜空に舞う白い鳥は、月光を強く跳ね返す。
 今の彼は陽光を吸収しながら笑む、1人の少年で―――
 それでも、何時の間にか・・・どちらでもいいじゃないかと思う。
 時の流れが変える、想いの変化は極端で・・・。
 それでも、逆らえないのは時の力が強大だから。



 頭の回転が早く、器用で何でも出来るくせに莫迦っぽい所もあって、悩みなんて無い万能な奴だと思ってた。
 だけどいつも何処かで飾っていたのではないか・・・?
 飾っているなんて、決して表に出すような奴でない事は、重々承知だったけれど・・・。
 あくまで、俺達は探偵と怪盗であって、友人でも何でも無かったのだから・・・。
 それでも、誰とも感じる事の出来ない駆け引きのようなあの緊張感。

  ―――楽しかった。

 楽しすぎて、勘違いしてしまいそうだった。
 ・・・まるで、麻薬。
 徐々に侵食されていく心は、後戻りなんて出来なくて・・・。
 望む望まざるとに関わらず、麻薬が感じさせるのは甘い痺れ。
 そう・・・
 ずっと続いて行くのだと思ってた。
 鬼ごっこは、鬼が相手を捕まえなければ終わらない。
 ずっとずっと―――


     いつかも、こんな事があった気がする・・・


 霞む記憶の向こう側、朧気ではあるけれど
 あまりにも淡い記憶ではあるけれど―――――








        ・・・・・・ 今度は間違えない  ―――――














                    ≪ E N D ≫



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雨音響希 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年04月04日

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