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『月夜の葡萄園 』
工藤・光太郎6198



◇★◇


 石畳の上に水を撒き、両脇に植えられている花々を見詰め、枯れてしまった葉を取り除く。
 綺麗に咲いた花の香りは甘く優しくて・・・笹貝 メグル(ささがい・めぐる)はうっとりと目を瞑りながら花の香りを楽しんだ。
 ザァっと、風が1陣吹き、メグルの淡い銀色の髪を撫ぜる。
 腰まで伸びた髪は、大きな弧を描いて風に踊り―――
 「メーグルー!!!」
 そんな爽やかな昼下がり、メグルの名前を呼ぶ間の抜けた声。
 メグルの脳裏に実の兄である、鷺染 詠二(さぎそめ・えいじ)の顔が浮かぶ。
 「お兄さん、何ですか〜?」
 「ちょっと。」
 なんだろうか・・・。小首を傾げながらも、メグルは立ち上がると屋敷の中へと入って行った。
 廊下を抜け、突き当りの部屋に入る。
 「何か困った事でも・・・」
 「メグルさぁ、葡萄園の小父様覚えてるか?」
 「・・・えぇ。覚えてますよ。綺麗な葡萄園の中に建っている小さな丸太小屋に住んでいる・・・」
 「その小父様がさ、今度レストランを開くそうなんだ。あの丸太小屋を改装して。」
 「そうなんですか?良いじゃないですか。葡萄園の奥には、確か小さな噴水なんかもありましたよね。花畑とか・・・」
 「そうそう。んで、ホワイトデーにってチケット貰ったんだよ。」
 詠二がそう言って、淡いピンク色の紙をペラリとメグルに差し出した。
 「特別御招待券・・・料理もタダなんですか・・・?」
 「あぁ。そうみたいだ。前に俺らに世話になったからってくれたんだけど・・・」
 「ホワイトデーは、予定が入ってますね、確か。」
 メグルはそう言うと、小さく溜息をついた。
 何でも屋をやっている詠二とメグルには、基本的に休みは無い。特に行事の時は・・・・・。
 「お断りするのも、アレですし・・・どうするんです?お兄さん?」
 「んー・・・しょうがないから、誰かにあげよう。」
 詠二はそう言うと、よいしょと勢いをつけて立ち上がった。
 「あげるって言ったって、誰にあげるんです・・・?」
 「さぁ。ま・・・誰か適当に声でもかけるよ。」
 「適当ってお兄さん・・・!!」
 「折角のホワイトデー、素敵な場所での夕食・・・最高じゃん!」
 詠二はそう言うと、ソファーの上からポンと飛び下り、パタパタと部屋を後にした。
 「最高じゃんって・・・!お兄さんっ!!いきなりそんなの手渡されても、迷惑じゃ・・・って、もういないんですよね・・・」
 はぁぁぁっと、盛大な溜息をつくと、メグルは天井を仰いだ。
 こうも無鉄砲な兄を持つと、とても苦労する・・・・・・・。


◆☆◆


 どこか儚い雰囲気を感じ、工藤 光太郎はふと足を止めた。
 窓の外に見える町並みは今日も無機質で・・・感情を一切排除した景色の上、空は頼りなかった。
 この数ヶ月、どこか世界がおかしかった。
 別に、普段と変わらない日常、普段と変わらない風景―――それでも、工藤の心の中では確実に何かが欠如していた。
 それが何であるのか、それがいつ無くなってしまったのか、工藤は分からなかったけれども・・・。
 変わり映えのしない窓の外。
 ふっと視線を落とした後で、工藤は歩き始めた。
 床が乾いた音を立て、磨かれた床には薄っすらと影が落ちる。
 歩くたびに揺れる影を見詰めながら進んでいた時だった。不意にポケットに入れた携帯が振動し出し―――
 ポケットから出してみれば、そこには馴染みの名前が浮かんでいた。
 「はい?」
 『よ、工藤。元気か〜?』
 「俺は元気だけど、お前は大丈夫なのか?」
 『へ?何で?』
 零れた言葉に対して、相手が不思議そうな声を返す。
 ・・・そう言えば、どうして「大丈夫なのか?」なんて訊いたのだろうか。あいつは・・・黒羽 陽葵は、いつだって元気で、明るくて・・・大丈夫か?なんて訊いて労わらなくてはならない相手ではなかったはずだ。
 「や・・・何でもない。それで?何だよ?」
 『工藤さ、14日って何か予定ある?』
 「ホワイトデー?別に無いけど?」
 『んじゃぁさ、俺と一緒に過ごさねー?』
 「は?」
 突然の言葉に、工藤の思考がいったん止まる。
 そんな戸惑いを察したのか、黒羽が『町歩いてたらレストランのチケット貰ってさ、招待券?なんでも、全部タダらしいから、暇なら一緒にどうかなって思っただけで、別に・・・』と話し始め・・・ふっと、思わず笑みを溢す。
 「あぁ。良いよ、行っても。・・・暇だし。」
 工藤のそんな言葉に、黒羽が『詳細はメールで送るから』とだけ言って電話を切り・・・
 ふっと見上げたそこ、窓の外でひらひらと、桜の花弁が舞った気がした。


◇★◇


 窓の外で輝く星は、どこか淡くて・・・滲む月があまりにも潤んでいて、まるで泣いているようだと思った。
 隣に座る、黒羽の視線が窓の外から工藤の方へと向けられる。
 その視線を感じながら、工藤はあえて黒羽の方を向かなかった。
 いつもなら煩いくらいに喋りまくるのに・・・今日は、この沈黙がどこか切ない。
 どうして今日に限って、こんなにも大人しいのだろうか?どうして・・・月が泣きそうな、今日に限って・・・。
 駅で呼んだタクシーは、軽快なスピードで葡萄園へと向かっていた。
 無口な運転手は2人の会話の無さに耐えかねたのか、それとも、どこかしっとりとした影を含んだ2人の雰囲気に耐えかねたのか、ラジオのボリュームをゆっくりと上げた。
 聞き覚えのある繊細な旋律。
 “今週のヒットチャート1位は・・・『 Winter Sky 』で『 Moon Kanon 』”
 良く響く低い声が紡ぎ出した言葉は、最近流行りの3人組のバンド。
 ヴォーカルの少女の人並みはずれた音域の広さと、透き通るような繊細な歌声が評判だった。

 
  揺れる月 隠す雲
  思いを馳せて 遠く 遠く
  空の向こうに君はいるから

  傍にいる事がアタリマエで
  それが普通の事で
  普通なんて容易く折れてしまう事
  気付かなかったあの頃
  失くして始めて気付くなんて言葉
  大嫌いだったはずなのに・・・・・・


 最近テレビでもラジオでもよくかかっている曲なので、工藤は聞き覚えがあった。
 学校の放送でも流れるほどに有名で・・・昨日までならこの歌詞に何も思わなかったのに・・・。
 少女の透明すぎる歌声も、繊細すぎる旋律も、全て・・・心に深く突き刺さる。
 「綺麗だな。」
 それは、2つの意味を含んでいた。
 窓の外に煌く星と月の淡い光と、少女の歌声。
 最も、工藤の心の中では前者よりも後者の方が強さの度合いが大きかったけれども。
 「何が?」
 黒羽が首を傾げ、思わず自分も首を傾げる。
 「星とか・・・?」
 「とか?って訊かれても、綺麗だなって言ったのは工藤の方じゃん。」
 そう言って、黒羽が笑い出し―――――
 その笑顔はいつもと変わらない。
 先ほどまでの、どこか影を纏った暗い雰囲気が消し飛ぶ。
 まるで水を得た魚のように、黒羽が喋り出す・・・鳥が、空へと飛び立つかのように・・・自由に、活き活きと・・・。


 フロントに映る、葡萄園の入り口である木のアーチ。
 車が滑るようにアーチをくぐり、中に入れば葡萄の木ばかり。
 花のついたもの、実の生っているもの、葉だけのもの・・・
 「葡萄って、秋に生るんじゃないのか?」
 窓の外の風景を見ながら、工藤は思わず呟いた。
 風に揺れる木々は、どこか幻想的な雰囲気さえ感じる。これだけ大量の葡萄の木も珍しいが・・・。
 「・・・そんなの、どーでもいーじゃん。」
 ポツリと黒羽が呟き、声の方を向けば悪戯っぽい笑顔をした黒羽がいたって軽い口調で言葉を続ける。
 「綺麗だし、それでいーんじゃね?」
 そう言って、そっと目を瞑った。
 ・・・寂しそうな横顔・・・
 どうしてそんな顔をするのか、喉まででかかった言葉を飲み込む。
 心に感じる、微かな違和感。それに触れてしまえば、きっと―――
 きっと・・・
 だからこそ、ソレには触れない。
 違和感なんてないと思い込む。
 目の前に居る黒羽は確かにそこに座っていて、確かに呼吸をしていて、確かに・・・微笑んでいるのだから・・・。
 車が音も無く丸太小屋の前へと到着する。
 何時の間にか開けていた窓の外の景色を前に、工藤は慎重に扉を押し開けた。
 外に出た瞬間、風に乗って甘い香りがやって来た。
 ザァっと、木々を揺らす音が響く。遠くから・・・近くから・・・この小屋を中心に、周囲にある全てのものを揺らす音がする。
 空を見上げれば、相変わらず泣きそうな月と微かな星の輝き。
 どうやら雲がかかっているらしく、時折消える星々の光がどこか儚げで。
 ―――星の儚い輝きを寂しいと思ってしまうのは、きっと・・・この甘くも切ない葡萄の香りのせいだろう。


◆☆◆


 「この間校長が持ってた時計、200万もすんの!お前、知ってるか〜!?あんなんさぁ、どんだけ貯金あったら買えんだっつの!校長だぜ〜?しかも、うちの。副業でもやってんのかねー。」
 「副業?」
 「ほら、ボディーガードとか、マフィアとか・・・」
 「あの身体では無理だろ。」
 「まぁねー。身体と言えば、隣のクラスの・・・」
 次から次へと続く話。
 話題も豊富で面白いが・・・ずっと続く、黒羽のマシンガントーク。
 ・・・きっと、俺以外の奴じゃ手に負えない・・・。
 だからこそ、黒羽の話を最後まで聞いて、きちんと理解してやれるのは俺だけなのだろう。
 楽しそうに話す黒羽を見ていると、こちらまで楽しい気分になってくる。
 これは、俺だけじゃなく他の奴でもそうだろう。
 黒羽には、人を楽しませる不思議な力がある気がする・・・。
 最も、その種の能力がなければ黒羽の周囲にあんなに人は集まらないけれども・・・。
 食事の間中、ずっと続く話。・・・食事が終わっても、続く・・・話。
 ふっと、黒羽の視線が窓の外へと注がれる。
 「なぁ、あそこまで行ってみねぇ?」
 黒羽の言葉に、視線を窓の外へと滑らせる。
 窓の外、月に照らされた小高い丘。その上には、空へと伸びる1本の木があった。
 桜の木だろうか?薄ピンク色の点が枝の先についており、月光を浴びて妖しく揺れている。
 「桜の木か?」
 「そーそ、花見だよ。」
 「それにしても・・・桜なんて・・・」
 考え込んでしまう。
 今の時期に咲くなんて、あまりにも早すぎるんじゃないか?
 満開と言うわけではなさそうだが、それにしたって・・・
 「だぁからぁ、いーじゃん。細かい事は。」
 そう言うと、黒羽は歩き出した。
 その背を追うように席を立ち、歩き出す。
 外に出ればあまりにも淡い月光の光。それに照らし出される丸太小屋の中からは、強すぎる蛍光灯の光が漏れ出している。
 闇夜に浮かぶ月は、きっと闇がなければ輝けない。
 あまりにも淡い光は、昼間では生きていけない・・・。
 ――― 生きていけない ―――
 ふっと視線を上げれば、黒羽の背中が見える。
 どこか頼りなさ気に揺れる背中・・・・・こんなだったか?
 よく騒いでて、話も上手く、エンターティナーだから男女問わず人気があって・・・肩だって、こんな風に壊れそうじゃなかっただろ。
 いつもと変わらないのに、笑顔を浮かべる君が今にも消えてしまいそうに思えて仕方がない。
 ・・・腕の中に簡単に納まってしまうような、そんな奴でもなかったよな?
 そっと目を閉じる。
 今にも儚く消えてしまいそうな黒羽が、この1回の瞬きで元に戻れば良いと。
 目を開ければ、いつもと同じように・・・力強い存在感を発して・・・?
 ふわりと香る、甘い香りにふと目を開ける。
 何時の間にか桜の木の下についていたらしく、巨大な幹がすぐ目の前に立ち塞がっていた。
 風に乗って運ばれてくる、葡萄の香りと桜の香りが混じり合う。
 甘い・・・けれど、どこか寂しい・・・。きっと、別れに香りがついているとしたならば、こんな香りなのだろう。
 桜と言えば春。春といえば、出会いの前に別れが来るのが常だから・・・・・・・・。
 目の前にいる黒羽の姿は、相変わらず淡いまま、儚い月光に照らされて、今にも溶けてしまいそう―――。
 「やー、早いね・・・。まぁ、まだ満開には程遠いけど。」
 「そうだな。」
 「またいつか・・・見よう?一緒に、さ。」
 そう言って微笑む黒羽。
 どこかおかしいその笑顔に、戸惑いを感じる。
 けれどそれは、心の中だけ。決して表に出る事はない戸惑い・・・。
 じっと黒羽を見詰める。
 見詰める事で、引き止められれば良いと―――
 「今度は満開のヤツ!こうやってまた、この緋色を見上げて・・・な?」
 必死にそう言う黒羽に、ふわり・・・微笑む。
 感じる、確実に迫り来る『何か』
 それがなんなのか、分からないけれども・・・。
 どうしてだろう。この約束は、永遠に守られない気がしてならなかった。
 黒羽と一緒に、こうして桜の木を見上げるなんて、今日で最後な気がしてならなかった。
 そんな事を思っては駄目なのに・・・。そんな事を思ってしまったら、きっと・・・ソウなってしまうから・・・。
 見詰める先で、黒羽がふわりと微笑んだ。
 その笑顔があまりにも儚くて―――――


    ・・・淡く儚く、今にも消えそうな・・・


 「今から嘘を吐くよ。」
 「・・・黒羽?」
 「好きだよ。」

 乱舞する、桜の花弁。
 満開には程遠いのにも関わらず、舞い落ちる花弁は大量だった。
 風に揺れる花弁で霞む、黒羽。

 「嘘だよ。」

 今までずっと、考えないようにしていた。
 でも裏を返せば・・・それが・・・本来あるべき姿だから・・・・・・・・。

 「俺は、いつも“また”としか言わなかっただろ?だから、今度こそ伝えなきゃと思ってさ。」
 「黒羽?」

 優しい微笑み。
 最後だと・・・最後だからと、言っているかのような瞳。
 きっと、約束は守られない。
 なぜなら・・・黒羽は・・・もう・・・・・・・・・



         「サヨナラ」



◇★◇


 儚く消える存在は、桜の花弁に乗って。
 一瞬の突風が、桜の雨を乱舞させる。
 狂っているかのような薄ピンクのカーテンに瞳を閉じ・・・開いた時には、誰の姿もなかった。

  「黒羽・・・!?」

 呼んでも声は聞こえてこない。
 耳を澄ませても、その息遣いを感じる事は出来ない。
 存在すらも、月光に淡く溶け消え―――
   存在感の大きい君だから、気付かなかった。
   むしろ俺の中ではその存在は大きくなるばかり・・・・・・。

     『こーたろは俺の光だった』

   舌足らずなあの独特の言い方で、君は笑って・・・笑って・・・?
   なぁ、いつものようにあの憎たらしい笑顔を見せてくれ。
 ―――思い出の中で微笑む黒羽の顔は、あまりにも穏やかで、優しくて・・・
   何今更聞き分けのいい子演じてる?
   いつもみたいに馬鹿笑いして見せろよ。
 ―――記憶の中の笑顔はあまりにも儚くて・・・
   儚げってのには縁遠い奴だっただろ?

 思えば、いつもの笑顔が何だか空気に溶けていってしまいそうなものだったと、今更・・・。



      今更・・・・・・・・・・




    ――――― 全ては夢の中に居るような、淡すぎる邂逅 ―――――



              ≪ E N D ≫



 ━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
 ━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  6198/工藤 光太郎/男性/17歳/高校生


  5784/黒羽 陽葵 /男性/17歳/高校生


 ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
 ━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 まずは・・・大変お待たせしてしまい、まことに申し訳ありませんでしたっ!
 この度は『月夜の葡萄園』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、続きましてのご参加まことに有難う御座います。(ペコリ)
 光太郎様の雰囲気を壊さずに描けていれば良いのですが・・・。
 プレイングが苗字表記でしたので、ノベルも苗字で表記させていただきましたが、大丈夫でしたでしょうか?
 ふわふわとした幻想的な雰囲気を描けていればと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
ホワイトデー・恋人達の物語2006 -
雨音響希 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年03月16日

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