▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『月夜の葡萄園 』
猫宮・いゆ(w3d611)



◇★◇


 石畳の上に水を撒き、両脇に植えられている花々を見詰め、枯れてしまった葉を取り除く。
 綺麗に咲いた花の香りは甘く優しくて・・・笹貝 メグル(ささがい・めぐる)はうっとりと目を瞑りながら花の香りを楽しんだ。
 ザァっと、風が1陣吹き、メグルの淡い銀色の髪を撫ぜる。
 腰まで伸びた髪は、大きな弧を描いて風に踊り―――
 「メーグルー!!!」
 そんな爽やかな昼下がり、メグルの名前を呼ぶ間の抜けた声。
 メグルの脳裏に実の兄である、鷺染 詠二(さぎそめ・えいじ)の顔が浮かぶ。
 「お兄さん、何ですか〜?」
 「ちょっと。」
 なんだろうか・・・。小首を傾げながらも、メグルは立ち上がると屋敷の中へと入って行った。
 廊下を抜け、突き当りの部屋に入る。
 「何か困った事でも・・・」
 「メグルさぁ、葡萄園の小父様覚えてるか?」
 「・・・えぇ。覚えてますよ。綺麗な葡萄園の中に建っている小さな丸太小屋に住んでいる・・・」
 「その小父様がさ、今度レストランを開くそうなんだ。あの丸太小屋を改装して。」
 「そうなんですか?良いじゃないですか。葡萄園の奥には、確か小さな噴水なんかもありましたよね。花畑とか・・・」
 「そうそう。んで、ホワイトデーにってチケット貰ったんだよ。」
 詠二がそう言って、淡いピンク色の紙をペラリとメグルに差し出した。
 「特別御招待券・・・料理もタダなんですか・・・?」
 「あぁ。そうみたいだ。前に俺らに世話になったからってくれたんだけど・・・」
 「ホワイトデーは、予定が入ってますね、確か。」
 メグルはそう言うと、小さく溜息をついた。
 何でも屋をやっている詠二とメグルには、基本的に休みは無い。特に行事の時は・・・・・。
 「お断りするのも、アレですし・・・どうするんです?お兄さん?」
 「んー・・・しょうがないから、誰かにあげよう。」
 詠二はそう言うと、よいしょと勢いをつけて立ち上がった。
 「あげるって言ったって、誰にあげるんです・・・?」
 「さぁ。ま・・・誰か適当に声でもかけるよ。」
 「適当ってお兄さん・・・!!」
 「折角のホワイトデー、素敵な場所での夕食・・・最高じゃん!」
 詠二はそう言うと、ソファーの上からポンと飛び下り、パタパタと部屋を後にした。
 「最高じゃんって・・・!お兄さんっ!!いきなりそんなの手渡されても、迷惑じゃ・・・って、もういないんですよね・・・」
 はぁぁぁっと、盛大な溜息をつくと、メグルは天井を仰いだ。
 こうも無鉄砲な兄を持つと、とても苦労する・・・・・・・。


◆☆◆


 ざわめく街を、手を繋いで歩く。
 大きな掌から伝わる熱は、心地良い。猫宮 いゆがそっと思った時、急にキュっと繋いだ手に力が込められた。
 何かあったのだろうか?眉根を寄せながら、隣を歩く三日月を見上げ・・・視線が合う。けれど、別にその瞳は何かを訴えかけていると言うわけではなかった。何かの気まぐれに、力を入れたのだろうか・・・?
 しばらく見詰めていた後で、いゆは気を取り直すと先ほどまで続いていた会話を再開させた。
 「それで、三日月ちゃん。今晩のおかずは何にするのにゃ?」
 「せやなぁ・・・」
 そう言ったきり、三日月は口を閉ざしてしまった。
 どうやら今晩のおかずを何にしようか考えているらしい。・・・とは言え、どうせお鍋とかその手の類のものに違いない。安くてそれなりに量も取れる野菜を沢山入れた鍋・・・。別に、それでも十分美味しいのだが・・・たまにはお腹一杯お肉を食べたりしたい。
 食べ盛りのいゆには、かなり深刻な願いだった。
 段々と春めいて来たショーウインドー。
 マネキンが着る服も、軽く華やかなものなりつつある。
 つい先日までは首に真っ黒なふわふわのファーをつけていたマネキンが、今日は花柄の白いワンピースを着て颯爽と立っていた。心なしかその立ち姿がキマって見える気がして・・・いゆはジっとマネキンを見詰めた。
 今はまだ裸の街路樹だが、きっともう直ぐで葉をつけるのだろう。
 夏に向けて走り出した街に、冷たい風が吹く。
 冬の名残を感じさせる風に思わず目を瞑った。
 日差しはもう春の訪れを予感させているのに、風はまだこんなにも冷たいなんて・・・。
 と、急に三日月がいゆの手を引いて歩き始めた。その歩幅は、大きい。こちらが小走りにならないと追いつけないほどだ。
 「お久しぶりだね、三日月さん。」
 そんな声に顔を上げると、目の前には1人の少年が立っていた。
 カッコ良い部類に入るであろう外見と、何故だか惹き込まれる、紫色の妖しい瞳。
 にっこりと微笑んだ顔は、思わず見とれてしまうほどだった。
 「こちらこそ、えらいお久しぶりで・・・」
 そう言って三日月が頭を下げる。
 「三日月ちゃんのお友達なのにゃ?」
 「えーっと・・・」
 いゆの質問を受けて、少年が困ったように口篭り、すかさず三日月がフォローを入れる。
 「去年、バレンタインノ日にえらいお世話になった人なんや。鷺染 詠二さん言うて・・・」
 「お世話なんて大層な事はしてないけど・・・」
 そう言って詠二は苦笑すると、しゃがみ込んでいゆと視線を同じくした。
 「初めまして、鷺染 詠二って言います。えーっと・・・」
 「猫宮 いゆと申しますにゃ。その節はうちの逢魔がお世話になりましたにゃ。」
 ペコリと頭を下げると、詠二が優しく頭を撫ぜてくれた。
 「随分と丁寧な子だね。」
 「いや、生意気な子でして・・・」
 照れ笑いを浮かべながらそう言う三日月。
 “生意気”のフレーズに、なにか文句を言おうかと思っていたのだが・・・そんな気はそがれてしまった。
 不意に詠二が「そうだ・・・」と小さい声を上げると、ポケットから淡いピンク色の紙を2枚取り出して三日月の前に差し出した。
 「これは・・・?」
 「いつだったか、何でも屋のお仕事でお手伝いをさせていただいた男性が、今度レストランを開くことになって、14日の日に特別に招待していただいたんだけど、如何せん何でも屋の仕事は行事の日が一番の稼ぎ時で・・・。」
 ようは、仕事が入っているので行けないと言う事だ。
 「14日って、ホワイトデーの日にゃ?」
 レストランの言葉に、いゆがすかさず詠二に質問を投げかける。
 「そうだね。それで、もし何も予定がないのでしたら代わりに行って頂けませんか?」
 レストラン・・・外食・・・美味しい食事・・・お腹一杯・・・。
 いゆの心をときめかせるフレーズが沢山脳内に浮かんではキラキラと七色に光り輝く。
 期待の入り混じった顔で三日月を見上げると・・・・・・・・
 「けど、お世話になった上に今回もこんな・・・申し訳なくて、行かれません。」
 そう言って券を詠二に返す。
 あまりの行動に、いゆは思わず声を上げた。
 「三日月ちゃん!くれるとゆーものはありがたく貰うものだにゃ。」
 「そうは言うても・・・」
 渋る三日月に、いゆは思いの丈をぶちまけた。
 「たまには豪勢に外食したいのにゃっ!」
 これはいゆの切なる願いだった。ブチブチとごねるいゆを見て、詠二が吹き出し・・・クスクスと、控え目に笑いながらも先ほどの券を三日月に手渡した。
 「俺は行けないし、そうは言っても折角のお誘いを断るわけには行かないし・・・本当、困ってるんだ。」
 「でも・・・」
 「お願いします。俺達の代わりに行って頂けませんか?」
 酷く真剣な瞳でそう言う詠二。しばらく三日月も迷っていたようだったが、決心したように詠二の瞳を見詰めた。
 「それでは、有り難く受け取らせていただきます。」
 そう言って、深々と頭を下げ、いゆもつられて深々と頭を下げた。
 そんなにしてもらうような事ではないから、本当にこっちも困っていたからと言って、詠二が困ったように微笑み、最後に「貰っていただいて有難う御座いました」と言って丁寧に頭を下げた後で人込みの中へと紛れて行ってしまった。
 「随分と礼儀正しい人だにゃ。」
 券を貰ってお礼を言わなくてはならないのはこっちの方なのに・・・そんな意味も込めて言うと、三日月が「そうやな」とどこかボウっとした様子で頷いた・・・。


◇★◇


 淡い月光に照らされた葡萄園は、なんとも言えず幻想的で・・・思わず「わぁ」と小さな声を上げて細い道をスキップ交じりに歩き始めた。三日月に「転ばないように気をつけてな」と声をかけられ、ただコクンと大きく頷いた。
 夜の風は冷たく、陽の光のないそこでは随分と寒く感じた。
 太陽ならまだしも、月ではあまりに寒々しくて・・・淡すぎる光は地上に降り注いでも、周囲を仄かに染め上げるだけだ。
 葡萄の香りが全身に絡みつき、目を閉じれば甘い香りが更に強く感じられる。
 葉のついた木、花のついた木、実の生っている木・・・・・・
 それにしても、今の時期に葡萄なんて生るのだろうか?それ以前に、成長の過程を刻一刻と映しながら進む木々はあまりにも不自然な時間の流れを感じてならなかった。
 けれど、いゆにとってはさほど大きな問題ではなかった。
 不自然で不思議でも、綺麗・・・。
 「綺麗なのにゃ・・・」
 そう呟いて、クルクルと回る。
 「ほら、転ぶぞ。」
 三日月がそう言って右手を差し出し・・・いゆは、その手にしがみ付いた。
 手を繋いで進む、葡萄園は不思議で幻想的な雰囲気だった。
 甘い葡萄の香りの合間には、どこからともなく花の香りがふわりと風に乗って来る。
 時折葡萄の木々の下から小動物が現れてはどこかへと走り去った。
 その度にいゆは小さく声を上げた―――――
 ここの雰囲気は、全ての“不思議”を優しく包み、許しているかのようで・・・“常識”や“普通”を考えるのは不自然な気がした。
 空を見上げる。
 無数に散りばめられた月と、輪郭の滲む月。
 真っ白な月は、泣いているようで・・・ふっと見上げる先で、三日月と視線が合った。
 ジっと見詰められ、キョトンとしながら首を傾げ・・・何でもないと返される。
 ・・・思えば先ほどから三日月の視線はいゆの足元に注がれている気がする。
 それを考えると、いゆは先ほどから空しか見ていない・・・。
 自分よりも身長の高い三日月と会話をする時、目を見て話す。そのためには、視線を通常よりも上に向けなくてはならない。
 そう言えば、足元なんてあんまり見ていないにゃ・・・・・・。
 ふっと、視線を足元へと移す。
 道端に咲く花は、小さくも可憐だ。きっと雑草なのだろうが・・・つける花は、綺麗だった。
 ・・・たまにはこうして足元に気を配ってみるのも良いかも知れない・・・。
 そう思いながら視線を上げると、目の前にポツンと1軒の丸太小屋が現れた。繋いだ手をフグイグイと引っ張り、注意をこちらに向けさせると前方を指差した。
 「三日月ちゃん、きっとあれがレストランにゃ。」
 道の終わりに建つ小さな丸太小屋は、まるで御伽噺の中から飛び出して来たかのように可愛らしい造りだった。
 扉に下がったランプは繊細な作りで、細工が綺麗に施されている。
 「綺麗なお店〜♪きっとご飯も美味しいにゃ、やっぱり招待券もらって正解にゃ。」
 にっこりと微笑み、予想以上に素敵な丸太小屋に、湧き上がる喜びを隠せない。
 立ち止まったままの三日月を振り返り
 「三日月ちゃん!早く中に入るにゃ。」
 そう言って急かすと「あぁ。」と小さな声を上げて三日月がこちらに歩いてきた。
 そして、いゆの手を取り・・・ゆっくりと、扉を押し開けた―――――


◆☆◆


 レースのカーテンから微かに入ってくる月光は、店内の蛍光灯の光に負けて、あまりにも弱々しく輝いている。
 真っ白なテーブルクロスは木の机を覆い隠しており、テーブルにつくなり三日月がいゆに溢さないで食べるようにと注意を促した。
 「分かってるにゃ。三日月ちゃんは心配性なのにゃ。」
 もう、ポロポロ溢して食べるような歳ではないと必死に主張するいゆ。それに対して三日月が苦笑を向ける。
 プーっと頬を膨らませて・・・・・・。
 心の中では、父親のように慕っている三日月。それでも、口を伝って出てくる言葉はどれもこれも生意気なものばかり。
 それでも・・・いゆは三日月の事が大好きだった。
 これほどまでに長い時間を一緒に居られるのは、久しぶりな気がしてならない。
 夜遅くまで働いている三日月。それは、いゆのためでもあって・・・。
 分かってはいるけれど、今更どうやってお礼を言ったら良いのかもわからない。
 ・・・いつか、言える日が来るのだろうか・・・。
 きっと、もっと大きくなったなら、素直に気持ちを伝える事が出来るかも知れない・・・。
 窓の外、揺れる葡萄園の木々。
 風が強いのだろうか・・・?木々は大きく波打っているように見える。
 レースのカーテンでよく見えない外の風景。
 いゆは席を立つと、そっとレースのカーテンを引き、両脇に垂れている紐でカーテンを縛った。
 クリアに見える外の風景に、いゆは満足だった。
 椅子に座り、窓の外をじっと見詰める。
 時折鳥が右から左に飛んで行き、直ぐ近くまでウサギが跳んで来たりする。
 なんだかよく分からない虫が窓にはりつき、暫くの沈黙の後に何処かへと飛んで行ってしまう。
 刻一刻と変化する窓の外。それはいゆにとって、新しい発見の連続だった。
 夢中になって外を見ていると、トンとテーブルの脇に誰かが立ち、コトンと目の前に美味しそうなステーキの乗ったお皿を置いた。そして、その隣には黒としか形容できない色をした液体の入ったグラスを置く。
 これは何なのだろうか?
 不思議に思ったいゆは、グラスを指しながら首を傾け、隣に立つ初老の男性に質問をした。
 「これは何なのにゃ?」
 「ぶどうジュースで御座います。」
 穏やかな口調でそう答え、更には柔らかい笑顔を向けられて・・・いゆは思わず視線を落とした。
 「それでは、ごゆっくりお寛ぎください。」
 深々と頭を下げた後で男性が戻って行ってしまい、それを横目で見ながら両手を合わせて「いただきます」と言ってフォークとナイフを両手に持った。
 するとすかさず三日月が「・・・右がナイフで左がフォークや。」と言っていゆに注意の言葉をかける。
 「でも三日月ちゃん、それだと食べ難いのにゃ。」
 「右にナイフを持ってないと、切り辛いやろ?」
 確かに、三日月の言う事も最もなのだが・・・・・。
 「・・・全部切ってから食べるのにゃ。」
 そう言って右手にナイフ、左手にフォークを持ち、一心不乱にステーキを切ってかかる。
 食べやすい大きさに切り分け、ナイフをナプキンの上に置くと、右手にフォークを持ちステーキを突き刺した。
 パクリと1口。
 ジューシーで美味しい・・・。
 こんなに柔らかくて美味しいお肉は久しぶりだ・・・。
 そう思いながら一心不乱に食べるいゆに、不意に三日月が声をかけた。
 「最近、学校はどうなんや?」
 「・・・学校・・・??んー・・・勉強の方は、大丈夫にゃ。」
 「友達は?」
 「最近仲良くなった子がいるにゃ。とっても可愛い子で・・・そうだにゃ。今学校で、女の子向けのアーケードカードゲームが流行ってて、やってみたいにゃ。」
 「女の子向けのアーケードカードゲーム・・・?」
 眉根を寄せる三日月。
 ・・・そう言えば、この話は始めてするかも知れない。
 普段、忙しい三日月とはあまりゆっくり話をしたりしない。話を出来る時間が限られているため、必要な事から話しだす。そのため、こう言う話は後回しにされてしまうのだ。
 この際だから、そう言う何でもない話でも聞いて欲しい・・・・・・。
 「そうなのにゃ。遊び方は・・・・・・」
 また明日からは、昨日と同じ。今度はいつ、こうしてゆっくり話が出来るかはわからない。
 今日は“特別な日”だから・・・・・・。
 窓の外には月光に照らされた葡萄園。
 目の前には美味しい食事。
 久しぶりに流れる、ゆっくりと落ち着いた時間。
 あれこれと話しながらも夢中で食べるいゆ。視線を上げれば、優しい顔をした三日月と目が合った・・・・・。


 食事も終わり、いゆの話も粗方尽きた。
 話したかった事は全て話せ、なんだか心地良い満足感がある。
 お腹も心も満足したいゆは「お腹いっぱいにゃ。」と言うとにっこりと微笑んだ。
 「それは良かった。」
 三日月がそう言って、テーブルの上に置いてあった紙を取ると、いゆの口元を拭った。
 どうやら何かついていたらしい。あまりにも一生懸命食べていたので、気がつかなかったけれども・・・。
 三日月が視線を壁にかけられた時計に向けた後で、いゆに一言声をかけると立ち上がった。いゆもそれに続いて立ち上がる。
 「もう帰るのにゃ?」
 「せやな・・・でも、ちょっと散歩してから帰るか。」
 三日月の提案に、いゆは大きく頷いた。
 腹ごなしの散歩は、きっと楽しいだろうそう思っていると「もうお帰りですか?」と、先ほど料理をテーブルまで運んで来てくれた初老の男性が声をかけてきた。
 きっと彼がここのオーナーなのだろう。三日月が男性に向き直り、深々と頭を下げた。
 「本日は有難う御座いました。」
 「いえ、料理のお味は大丈夫でしたか?」
 「えぇ・・・」
 「とっても美味しかったのにゃ!」
 右手を天井に突き上げながら、いゆがそう言った。
 「そうですか・・・それは良かった・・・。」
 目尻に皺を沢山作りながら、オーナーがそう言っていゆの頭を撫ぜる・・・。
 「あの、もし宜しければ周囲を散歩しても大丈夫でしょうか?」
 「えぇ。どうぞどうぞ。足元には気をつけてくださいね?」
 オーナーの快諾を受けて、三日月といゆは外を散歩してから帰る事にした。
 「本日は、どうも有難う御座いました。」
 「本当に本当に、とっても美味しかったのにゃ!有難う御座いましたなのにゃ!」
 再度頭を下げた三日月の後に続けとばかりに、いゆはそう言うとペコリと頭を下げた。
 本当に美味しかったから、心からお礼を込めて・・・・・・。
 「これはこれは、随分と出来たお子さんで・・・」
 感心したようにそう言って、三日月に向かっていゆを褒め・・・見上げた先で、三日月が照れたような顔をしていた。
 凄く嬉しそうな表情に、いゆまで嬉しくなってしまう・・・。
 数度言葉を交わした後に、三日月といゆはレストランを後にした。
 蛍光灯の光から一変、外の月明かりはあまりにも淡かった。
 それでも、どこか優しい光に、2人は月を見ながら歩いた。


◇★◇


 しばらく散歩がてら歩いていると、丘の上に1本の桜の木が立っているのが見えた。
 早咲きだろうか・・・?けれど、それにしたって桜の木は満開で・・・ピンク色に染まる枝は、春めかしかった。
 「凄い・・・綺麗なのにゃ・・・。」
 あまりにも綺麗な桜に心動かされたいゆが、そう呟くと、桜の木に向かって走り出した。
 狂い咲きと言うに相応しいくらい色付いた桜の木。
 それを下から見上げれば、月と桜が1セットで視界に入ってくる。
 狂い咲く夜桜は、月光に照らされて恐ろしいくらい幻想的で・・・鮮明に心の中に残る。
 「これから毎年、一緒にこの時期に来ような。」
 三日月が見上げていた視線をいゆに落とした。
 風が吹き、乱舞する・・・ピンク色の雨。
 「・・・いゆが嫁に行くまでずっと、約束や。」
 しゃがみ込み、小指をいゆに向かって突き出す三日月。
 「三日月ちゃんの稼ぎじゃ何回来られるか判んないけど、また来たいなら付き合ってあげるにゃ。おとーさんの頼みなら仕方ないのにゃ。」
 そう言うと、三日月の小指に自身の小指を絡めた。
 まるで祝福するかのような、花弁のシャワー。
 この時が、ずっと続けば良いと・・・また来年も、来られる様にと・・・願わずにはいられない。
 「・・・今度はおかーさんも来られると良いのにゃ。」
 思わず呟いた一言に、三日月が驚いたような顔をして・・・それでも、コクリと頷いた。
 「そうやな・・・。」
 狂い咲く夜桜の下での約束は、きっと守られる。
 再びこの地に足を踏み入れる時、今日と言う日が鮮明に思い出されれば良い・・・・・・・・。


  続く、未来に思いを馳せる。
 

     きっと1人じゃないから――――――



              ≪ E N D ≫



 ━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
 ━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 【ウェブID / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】


  w3d611maoh/猫宮 いゆ/女性/11歳/直感の白


  w3d611ouma/三日月  /男性/29歳/レプリカント


 ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
 ━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 まずは・・・大変お待たせしてしまい、まことに申し訳ありませんでしたっ!
 この度は『月夜の葡萄園』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、初めましてのご参加まことに有難う御座います。(ペコリ)
 いゆ様の雰囲気を壊さないように描けていれば良いのですが・・・。
 カッコ良い逢魔様とのご参加、有難う御座いました。
 お2人の優しい雰囲気をノベル内に生かせていればと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。

ホワイトデー・恋人達の物語2006 -
雨音響希 クリエイターズルームへ
神魔創世記 アクスディアEXceed
2006年03月16日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.