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『【小春の遺跡発掘レポート】双子刀 』
藤河・小春1691
●降って沸いた災難
 藤河小春は、格闘技好きな考古学部の大学生である。まぁ、実はドラゴンだったり、家庭環境がちょっと複雑だったりもするが、それ以外は、綺麗な物が好きな概ね普通っぽい女の子だ。
 そんな彼女が、学業の課題として命じられたのは、とある発掘現場での、レポート報告だった。しかも、費用は自腹。
「でも、しょうがないじゃない。それに、行けばなんか珍しいもの見られるかもしれませんよ?」
「まぁ、見物料払うんだから、それなりに楽しまないとね」
 しかし、行かなければ単位は貰えないので、彼女は同級生達をそう言ってなだめ、一緒に現場へと赴く事になった。だが、そこで待ち受けていたのは、壮大な浪漫ではなく、違う事件だった。
「なんだか、騒々しいですねぇ」
 黄色いテープで囲われた現場では、教授とその助手、そして作業員達が、数人集まっていた。何か妙なものが発見されたらしいので、同級生に誘われるままに、発掘された品々の保管されている場所へと赴く小春。
「勝手に入って良いのかなぁ‥‥」
「許可証あるもん」
 多少の後ろめたさはあったものの、好奇心には勝てず、彼女は言われるままに、部屋へと入ってしまう。一応、学校から見学許可証は貰っているので、関係者だと言い張る事は出来るのだが。
「うわ、やっぱり生は違うね〜」
 考古学部の学生らしく、迫力ある出土品の数々に、感心しきりの彼女達。だが、小春にはもう1つ気になる事があった。
「でも、今日は奈良・平安期の発掘ですよね。どうしてこんな‥‥」
 武器、防具、調度品、装飾品。おおよその分類に分けられ、整理されたそれは、いずれも状態の良すぎるものばかりだ。不釣合いとも思える品々を眺めていた彼女は、その1つの前で、立ち止まる。
 それは、一振りの日本刀だった。博物館で見るタイプの、古い太刀ではなく、良くあるゲームやアニメに出てくるような、凝った装飾の施された刀である。
「これ‥‥」
 竜の化身である彼女にとって、刀に魔力が宿っている事を見抜くなど、造作もない事。暁色の彩色が施された鞘に収められたそれは、どこか近づき難い雰囲気を纏っていた。
(オーパーツ‥‥なのかな‥‥。やっぱり)
 担当教授も、それらしき事を言っていた。人の歴史には、それだけでは計り知れないものを内包している。この刀も、そんな闇歴史に登場した品物の1つなのだろう。

 ヴィ‥‥ン‥‥。

 小春が見つめた瞬間、その刀身からゆらりとした生命力が立ち上る。
「え?」
 怪訝そうな表情を浮かべる小春。直後、その刀から、彼女にしか見えないオーラが立ち上り、一瞬人化した様に、彼女には見えた。
「きゃあっ」
 竜の化身である彼女にとって、オーラ如きは何でもないのだが、それでもいきなり反応が出れば、驚きはする。思わず後ずさってしまいすっ転ぶ小春。
「大丈夫? 小春ちゃん」
「ふみゅ〜。びっくりしたぁ」
 同級生に気遣われ、目を瞬かせる彼女。と、その騒ぎを聞きつけたのか、助手がすっ飛んできた。
「こらぁっ! 何してる!」
「やばっ。バレた!?」
 出入り口なんて、一箇所しかない。まさか突き飛ばして逃げるわけにも行かず、一同揃ってお説教タイムへ突入してしまう。
「ごめんなさいですぅ」
「まったく。これだから学生は‥‥って、ここにあった日本刀どこいった?」
 ぶつぶつとこぼすその助手さん。と、彼は机の上に並べていた出土品が、姿を消している事に気付いた。
「え?」
「あ、ない!」
 見れば、確かに数分前までそこにあった筈の刀が、綺麗さっぱりなくなっている。
「だから管理は徹底しとけって、先輩にも言っといたのに〜。センセ、大変だよ! あの刀、なくなってる!」
 慌てて教授へ報告に行く助手。
「ど、どうしよう」
「私達のせい‥‥なのかなぁ」
 同級生達と顔を見合わせる小春。彼女が、自分の無実を証明する為に、探偵ごっこに走るのは、極自然な成り行きと言う奴だろう。

●相方の行き先
 同級生は、まず聞き込みから始める事にしたらしい。同じ様に、話を聞く事にした小春だったが、その対象は他の学生達とは、少し違っていた。
「どう見ても、人間の仕業ではないですよねぇ‥‥」
 彼女が向かったのは、先ほどの出土品保管室である。きちんと教授に許可は取った為、今度は咎められる心配はない。
「ちょっとくらいなら、お父様も怒らないかしら」
 誰も居ないその部屋‥‥もっともプレハブではあるのだが‥‥で、小春はそう呟いた。あまり褒められた行為ではないかも‥‥と思いつつ、ある出土品の前に立った。
「これなんか、答えてくれそうかな」
 それは、武人の埴輪だった。よく、博物館や資料誌なんかに掲載されている、鎧と太刀をつけた壮年の剣士だ。

『龍の気配宿りし刀よ。銀竜が姫の名において問う。応えよ、属性神!』

 ヴぃぃん‥‥

 手をかざして、己の内側におさえている竜の力を解放する。と、あの時と同じ様に、埴輪からオーラが立ち上り、その剣士は、土の塊から生身の姿へと、時を遡る。
『ふぁぁぁぁぁ』
 久方ぶりの目覚めなのだろう。大あくびをするその剣士に、小春はにっこりと笑顔を向けた。
「おはようございます、おじさま。あの、お時間よろしいですか?」
 こくびをかしげた仕草に、剣士が古風な口調で「誰じゃ、おまいは」と問うと、彼女はこう続ける。
「小春と申します。銀龍の末に属する者です。ちょっとお尋ねしたい事がありまして」
 事情を話す彼女。そんな小春をしげしげと見ていた剣士さんは、しばし考え込んではいたが、やがてこう言った。
「ふむ。見た所、人外のようじゃな。んで、何を聞きたいんじゃ?」
「はい。おじさまと同じ部屋に居た、刀の方を探しているのですけど‥‥」
 小春から経緯を聞いたその剣士は、さもあらんと言った表情を浮かべた。髭を撫ぜながら、彼が言うには、こうである。
「ああ、巫女殿か。あれは‥‥おそらく相方を探しに言ったのじゃろう」
「巫女?」
 そう言えば、一瞬見えた刀の化身は、神社等々で見かける赤い袴を身に付けていたような気がする。多少、装飾が変わっていたが、あれは確かに巫女だ。
「うむ。あの刀はな‥‥」
 由来を話す剣士。曰く、あの剣は暁姫と言って。遠い昔、悪鬼羅刹と戦いし双子刀の片割れだそうである。持ち主が亡くなった折、守護剣士‥‥と言う名の埴輪と共に葬られ、今まで永い眠りについていたそうだ。
「なるほど‥‥。それで、その相方さんを探しに行ったのですね‥‥」
「仲良かったからのぅ‥‥」
 発掘で目を様下は良いもの、仲良しの剣がいなかった為、心配したらしい。自分も思い当たる節のある小春は、納得した表情を見せる。
「わかりました。ありがとうございます。それと、また少しうるさくなるかもしれませんが、勘弁して下さいね」
 深々と頭を下げる彼女。剣士曰く、「わし位の歳になると、たいていの事には驚かんから、安心するが良い」だそうなので、暫くは大人しくなるだろう。
「さて。双子刀がここから発掘されたものなら、行き先は決まっていますねぇ‥‥」
 剣士を元の埴輪へと戻した小春は、そう呟いて、大学へと戻るのだった。

●たとえ、命なくとも
 小春が向かったのは、大学に併設されている研究棟だ。そこには、全国各地で見付かった、様々な出土品が保管されている。今回の出土品も、ここへ送られるはずだった。
「えぇと、この辺りですね‥‥」
 保管庫の位置を確かめる小春。基本的には、教授の許可が必要な場所だが、案内板にはきっちりと記されている。
「また不法侵入ですけど、今日は不可抗力です。ね? 銀ちゃん」
 念の為、愛刀を持ってきた小春、両腕で抱えるようにしたそれに、そう囁いた。
「やっぱり鍵がかかってますねぇ。しょうがない。えぇい!」
 龍の化身な彼女、各武術に通じたスーパーガールだったりするので、重たい剣を持っていても、閉ざされた塀なんぞ、訳もなく飛び越えてみせる。
『しくしく‥‥。えーん、ここどこだよーー』
 夜の大学構内に、人気はほとんどない。あったとしても、各種ラボか、もしくは部室ばかりだ。それらの部屋をすり抜け、保管庫の入り口へとやってくると、小春の耳に、まだ少年らしき鳴き声が聞こえる。
「ああ、いたいた。まだ人化はしていないようですから、ちょっとお手伝いしましょうか。こんばんわ」
 鍵のかかっていない扉をくぐり、声を頼りに、剣の元へ向かう。いわゆる小太刀の姿をしたそれは、はっと気付いたように、小春へと意識を向ける。
『誰っ?』
「小春と申します。もう泣かないでもいいですよ。今から、相方さんに会わせてあげますから」
 にっこりと笑顔でそう言う彼女。人ではない自分の声が聞こえると思った刀は、その気配から、小春が龍の化身だと悟る。
『龍の御姫様‥‥?』
「えぇと、そう言う事になるかな」
 まだ、未熟者ですけど。と、続ける彼女。と、小太刀はそんな小春に、『ここから出して‥‥』と訴える。
「はいはい。連れてってあげますから、大人しくしていてくださいね」
 こくんと頷いて、その刀を手に取り、バックの中へ収める彼女。そして、元来た道と同じ様に、研究棟の表通りへと出る。
 と、その時だった。
「貴様、どこへ行く‥‥」
 ゆらり、と現れる一人の女性。
「あ、こんばんわ。って言うか、お久しぶりです」
 それが、発掘現場から逃げ出した刀だと気付いた小春は、ぺこりと頭を下げてご挨拶。
「この間の女だな。私の相方をどこへやった」
「えぇと、ここに居ますけど‥‥」
 剣呑な表情で自分を睨みつけてくる女性に、彼女はバックに納めていた対の小太刀を見せる。と、女性の表情がさらに険しくなった。
「浚うつもりか。眠っている間に、人はずいぶんと心を無くしたものだ‥‥な!」
「うひゃぁぁぁぁっ」
 一閃。白い刃が踊る。慌てて避けたその足元には、深い亀裂が走っていた。
「我が一撃を避けるとは‥‥。貴様、人外か!」
「はい。銀龍の末に属する者で、小春と申します」
 戦う気なんぞ、欠片もない小春、そう言って小太刀に見せたときと同じ様に、笑顔を向ける。
「龍の末姫が、刀を私せんとは、不届き至極! 食らえ!」
 女性がそう言ったとたん、周囲に電気のスパークに似た光が走った。それを防ぐ為、小春は本来の姿に戻ろうかと躊躇う。だが、その刹那。
「何?」
 ぱりぃんっとガラスの砕けるような音がして、そのスパークが弾き返される。
『ちょっと待ってよ。この人は何もしてないよー』
「お前‥‥」
 やったのは、小太刀のようだ。驚く表情を見せる女性に、小春はこう告げる。
「私は、あなた方を会わせようとしただけですの。探す手間が省けましたわ」
「ふむ‥‥」
 自身のレプリカらしき剣を、鞘に収める女性。そこへ、小春はこう説得する。
「教授には、後で同じ場所に保管していただくようにお願いしておきます。あなた方が、指定した場所におられないと、困る方がいらっしゃいますの。お願いできませんか?」
 何度もレポートを書いてきた身だ。それに、不可思議なものに対する感想の書き方も心得ている。レポートで、それを訴える事は、充分に可能だ。
「‥‥仕方がないな。だが、約束を違えた際には‥‥」
「銀龍の刃にかけて、お約束いたしますわ」
 愛刀を抱えて、確約する小春。と、その女性は「ふん。ならば、さっさと連れて行け!」と吐き捨てるように言って、本来の刀へと戻った。
「ふふ。一件落着したし、めでたしめでたしですね」
 それを拾い上げ、満足そうに言う小春。彼女が刀を持って、発掘現場の担当教授に、一緒に保管して欲しいと頼んだのは、言うまでもない。

【ライターより】
 龍の化身さんだそうですが、それよりは、ちょっと魔法っぽいものが使える普通の女の子、なノリで書きました。各種武器に通じているお嬢さんだそうなので、きっと武器に関する造詣も深いんだろうなぁと言う、イメージ優先です(笑)。
 まぁ、お気に召していただければ幸いです。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
姫野里美 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年03月16日

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