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『危険な告白? 』
ケヴィン・フレッチャー0486
 ホワイトデー。
 それは、バレンタインで告られた殿方が、意を決して返礼を行う日である。
 結果どうなるかは、人それぞれだが、いわゆる『本命』の場合、それなりにムードのある、ロマンチックな演出を心がけるのが、世の常と言うものだ。むろん、雑誌の特集や広告も、来るべき日に備え、それなりの場所を用意している。
 だが、ここにそんな世間の風潮に、真っ向から逆らおうと言う御仁がいた。
「えぇい。どいつもこいつも、キラキラした場所ばっかり並べやがって! カップルなんざ、相方がいれば、どこだって幸せだろう!」
 ばり、と雑誌を引きちぎるその男。今朝、通勤電車に乗る際、いちゃついてたカップルに邪魔されたとかで、さらに機嫌が悪い。
「よし。この俺様が、カップルに場所なんざ関係ないって事を、証明してやる!」
 男は、雑誌に記事を投稿するライターだった。そして、数日後、ある場所に、数組の男女が派遣されたのだった。

 どう言う経緯かはさておき、南米の奥地から、崩れかけた雑居ビルへとご招待されていた。
「うりゃっ」
 階段から這い上がってきた、なんだかわからないうにょうにょとした葉緑素の塊を、自前のソニックブームで切り刻むケヴィン。
「ケヴィン、そっち終わりましたか?」
 振り向けば、同居人のユウが、持っていた拳銃の弾を入れ替えている。かきこきと金属音が階段に響いた。
「ああ。あらかた片付いた。そっちは?」
「一応鎮圧済みです」
 彼の相手は、血まみれのまま足が半透明になっている、いわゆる幽霊の類だ。とは言え、人間型には違いないので、人体工学を応用した戦い方は出来る。幸い、手持ちの武器も一応通じるようだ。
 だが、彼らにはそんな事よりも、大事な事があった。
「なぁ。ユウ」
 どんよりした空気が、どこからともなく流れてくるビルの踊り場で、ぼそりとそう呟くケヴィン。
「なんです?」
 まるで、仕事の手を休めて、休憩しているような口調で、そう返してくるユウ。まったく気に留めていない様子の彼に、多少どころか確実な苛立ちを募らせながら、ケヴィンは務めてクールさを装い、こう尋ねた。
「俺達は、なんでこんな所にいるんだ?」
「仕事ですから」
 予想通り、至極あっけらかんとした返答。
「そーじゃなくてっ! 俺らは何でホワイトデーに、こーんな裏寂れた雑居ビルで、2人っきりなんだよっ」
 とたん、思いっきり反論してしまうケヴィン。この辺りがユウに突っ込まれる原因だったりはするのだが、頭に血の上った状態では、まったく気付かない。
「だから言ったでしょう? 仕事だって。それに、いつもいるセフィロトよりは、かなりマシでしょうが」
「そりゃそうだけどよぉ‥‥」
 ユウに言いくるめられて、口ごもるケヴィン。確かに、普段出入りしている、ロストテクノロジーの固まりめいたタワーよりは、確実にマシなんだが。得体の知れないモンスターが出てても。
 だが、ケヴィンにはもう1つ気になる事があった。
「まだ何か?」
「そのぶっそうな格好はなんなんだよ」
 ユウの衣装を指摘するケヴィン。と、ユウは自信の装束を見回し、首を傾げてみせる。
「何かおかしいですか?」
「おかしいわいっ!」
 即答する彼。見ればユウの手には、べっとりと血に塗れ、白衣にも服にも、眼鏡にも、返り血が付着している。おまけに手にはどう見ても凶器。しかも、それさえも真紅に染まっている。
「いつもの格好に、ちょーっとオプションがついているだけですし」
「アホか! 変なオプションつけてくんなよ!」
 しかも、色は新鮮そのもの。ホラー映画なノリの全身図にも関わらず、平然とした様子のユウに、ケヴィンはそう言い返す。
「いつもと変わらないんですけどねぇ」
「あからさまに怪しい格好だろうが。一体どこで人様にいえない事をしてきた! この似非医者がー!」
 それでも、顔色を変えない彼に、ケヴィンは勢い余って詰め寄っていた。
「‥‥言っていいんですか?」
「え」
 眼鏡の奥で、きらんと輝くユウの目。思わず固まってしまうケヴィンに、彼はこう囁く。
「さっき、ちょっと分断されたでしょう? その時に‥‥」
 つい数時間前。ビルに入ってからここにたどり着くまでに、現れた正体不明の化け物達。それを相手にしている最中、彼は何かやらかしてきたらしい。
「もしかしてさっきの‥‥」
「そう言う事です。それでですね‥‥」
 くすりと笑って、その詳細を話そうとするユウ。その口ぶりからして、かなり物騒で危険なシナリオが繰り広げられる事は、目に見えている。
「わーわーわー!! 言うな喋るな。つーか、勘弁して下さい!」
「聞いてきたのはケヴィンでしょうに」
 慌てて口を塞いでくる彼に、つまらなそうにそう言うユウ。このままだと、自分の事は無視して、ぺらぺらと録音でもしかねない。やむなくケヴィンは、ユウの両肩に手を乗せ、がっくりと頭を垂れた。
「頼むから、この場の雰囲気を、これ以上殺伐とさせてくれるな。俺の心の平穏に悪いッ」
 そのまま土下座でもしそうな勢いの訴え。だが、それを見たユウはと言うと。
「聞けない頼みですね」
「え‥‥!?」
 やおら、彼の腕をつかみ、力いっぱい引き寄せる。
(うわっ)
 声こそ出さないものの、体術に長けたユウには、抗いようがない。背中を壁に押さえつけられ、身動き1つ出来なくなってしまうケヴィン。
「ケヴィン」
「な、何‥‥を‥‥」
 耳元で名前を囁かれ、頭の中は真っ白に。悲鳴が喉まで出かかる中、ユウはこう続けた。
「今日はホワイトデー‥‥。何の為に、ここまで来たか‥‥。いくらあなたでも分かるでしょう?」
「ちょ‥‥ユウ‥‥?」
 何をするつもりだーーーーー!? と、表情の強張るケヴィン。と、彼はその顎から喉に賭けてを撫ぜ、文字通りの猫なで声を出す。
「せっかくです。色々はっきりさせておきましょうか‥‥」
 今度は体が押し付けられた。密着した体の上を、ユウの手がゆっくりと移動していく。
(ひ、ひよぇぇぇぇぇ!?)
 何とか逃れようとするものの、中国武術に長けたユウは、ソレを許してはくれないようだ。もがけばもがくほど、その力を利用され、逆に床へとへたり込まされてしまう。
「ま、マジかよ‥‥」
 ひくつく表情。と、ユウはそんな彼を見下すかのように、こう言った。
「無論です。俺が、患者の面倒は最後まで見る性格なのは、知ってますよね?」
「う、うん‥‥」
 こくんと頷くケヴィン。そのせいで、トラブルに巻き込まれる事も多いが。
「あなたもその1人‥‥。まだ手入れの必要な身体なんですよ‥‥」
「いや俺健康体だし!」
 いつも着ている皮のつなぎのジッパーが下げられ、中のシャツが露出してしまうケヴィン。怪我どころか、風邪も引いちゃいないにも関わらず、ユウはその抗議を聞くつもりはなさそうだ。
「じゃあチェックしてあげます。ちょっとした健康診断ですよ」
「って、どこ触ってやがるーーーーー!」
 シャツをめくり上げられて、流石に暴れるものの、彼はあっさりと「触診です」と言い切っていた。
「聴診器も当ててないのに、何言ってやがる! きゃーーー。そこは駄目だってーーーー!」
 思いっきり胸をさらけ出されて、まるでどこぞのエロ漫画の如く、いやーーんと胸を押さえようとするケヴィン。その姿を見て、ユウはくすくすと笑いながら、こう言った。
「言いたい事、ありますよね?」
 言わないと‥‥もっと酷い目にあわせちゃいますよ? と、そう言いたげな彼。その表情に、ケヴィンは観念したようにため息をつく。
「じ、実は‥‥」
「何? 聞こえませんよ」
 小さな声で、告白しようとする彼に、ユウは意地悪くそう言った。覚悟を決めた彼は、すうっと息を吸い込むと、普段より少し大きめの声で、思い切ってこう宣言する。
「ご、ごめんなさいっ。ユウのお気に入りマグカップ、割ったのは泥棒じゃなくて俺です!」
「は?」
 目の丸くなるユウ。
「あ、あと。その時にテーブルの上にあった1週間待ちのカフェオレ、飲んじゃったのも俺!」
「ケヴィン‥‥」
 いや、そういう事を言わせたいんじゃないんですが‥‥と、そう思っているユウの心境なんぞ、ケヴィンは知る由もない。「正直に白状したから、許してーーーー」と、床に額をこすりつけている。
(人の気も知らないで‥‥)
 少々腹の立ったユウの脳裏に、そんな感情が沸き起こる。なので、口を付いた言葉は、やっぱりいじめっ子のもの。
「いいえ、許しません。そこまで言われたら、ますます苛めたくなっちゃいますねぇ」
 土下座するケヴィンの顎を指先で上げ、まるで罪人をオモチャにするが如き口調で、耳元に息を吹きかけるユウ。
(どうする俺! このままだと、ユウの思いのまま、実験台にさせられる!!)
 この時点でもなお、ケヴィンくんは怪しげな人体実験の餌食になると勘違い中。いや、ユウの格好を見れば、そんな勘違いをされても、仕方がないものなのだが。
「さー、脱いでもらいましょうか」
「嫌だぁぁぁぁ!! どうせ解剖されるなら、ベッドの上がいいぃぃぃぃ!!!」
 こんな冷たい、しかも雰囲気ゼロの雑居ビルだなんてーー! と喚き倒すケヴィン。しかし、ユウは全くお構いなしで、彼の上着を外してしまった。すでにシャツもどこかへ放り投げられている。
「覚悟は決まりましたか?」
 くくく‥‥と笑うユウ。ケヴィンの手が、やんわりと床に縫い止められ、いよいよお腹の下あたりに、手が伸びる。
(いや、待てよ‥‥)
 そこで、彼ははたと思い当たる。何をするんだかわからないが、実験台なら、持っている凶器は、置く筈だ。自分の知っているこの闇医者は、それでも器具のぞんざいな扱いだけは、絶対にしない。
「どうやら、観念したようですね」
 動きの止まったケヴィンに、ユウは楽しそうにそう言った。そして、持っていた拳銃を、白衣のポケットに収め、首筋に噛り付くようにして、のしかかってくる‥‥。
「してたまるかぁっ」
「うわっ」
 それこそが、ケヴィンが狙っていたチャンスだった。無防備に近い状態になったユウの手首を掴み、PKフォース併用で、彼を反対側へと投げ飛ばしてしまう。
「残念でした! てめぇに解剖されるくらいだったら、俺は1人で帰るッ!」
 服を着なおして、ずかずかと大股で階下へと進もうとするケヴィン。やっぱり勘違いしている。そう思ったユウは、投げ飛ばされた衝撃でずり落ちた眼鏡を直しながら、じゃきりと拳銃の音を響かせた。
「ほほぅ。イイ度胸ですね。なら、ターゲットをあなたに変更してあげましょう」
 いや、良く見れば、持っているのはリボルバー銃ではなく、機関銃である。どっから出したと言うツッコミは、双方頭からふっ飛んでいるので、この際聞かないで上げよう。
「冗談じゃねぇ! 捕まえられるモンなら、捕まえて見やがれ!!」
「あなたより、武器の扱いは得意なんですよ!!」
 かくして始まる雑居ビル丸ごと一丁使っての追いかけっこ。銃はもちろん、ソニックブームもばしばしと飛び交って行く。
「ふんっ。こっちだってサバイバル技能は長けてンだよ! ビル全部使ってかくれんぼなんて、楽しそうじゃねぇか」
「絶対に見つけてあげます!! 今日こそ生贄になってもらうんですからッ!!」
 2人とも、頭に血が上っているので、すでに捕まえる事しかないようだ。「やれるモンならやってみろ!」だの、「言いましたね! 後悔させて上げます!」だのと、挑戦的なセリフも、物理兵器の雨に混じって、横行している。
 んで。
「さー、とうとう追い詰めましたよ?」
「ふ、まだ勝機はある‥‥」
 彼らが再び対峙したのは、最上階の一歩手前、どこかのベランダでの事だった。どんよりと曇った空の下、今にも飛びかからん雰囲気で、睨み合うユウとケヴィン。これがどこぞのゲームだったら『FIGHT!』とか言う電子文字が躍っていそうな状況だ。
 ところが。

 みし。

 足元から響く、嫌な音。
「「みし?」」
 不安にかられ、思わず顔を見合わせるケヴィンとユウ。
「何か言った?」
「いや‥‥。何も‥‥」
 さっきまでのいがみ合いはどこへやら、首を横に振る彼ら。だが、直後、それは気のせいではなかった事が、証明される。

 みしみしみしみしっ!

 盛大な音と共に、ベランダに走る亀裂。しかも、その位置は、彼らと廃ビルの間。
「「ま、まさか‥‥」」
 喧嘩していた事など、すっかり忘れて、手に手を取ってその亀裂を見つめる2人。

 どがしゃぁぁぁぁん!!

 予感的中で、ベランダは亀裂から大きく砕け、彼らを乗せたまま、遥か階下へとまっしぐら。
「うわぁぁぁ! ベランダの底が抜けたーーーー!」
「誰ですか、武器持ち込んだのはーーーー!」
「あんただあんたーーーー!」
 お互いに責任をなすりつけたまま、すぐ下にぱっくりと口をあけた、巨大な排水溝へと叩き込まれてしまうケヴィンとユウ。
「どうしてこうなるんだ!」
「知りませんよ! それよりもここを脱出するほうが先です!」
 こうして、うやむやのままに、文字通り流されてしまう2人。
 なお、この後地底遺跡にたどり着き、シロワニモンスターに襲われて大変だったそうだが、またそれは別の話である。
 教訓:時と場合を考えよう。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【0486/ケヴィン・フレッチャー/男性/20/何でも屋】
【0487/リュイ・ユウ/男性/28歳/似非医者(命名ケヴィン)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 完全に告白するわけではないので、ホワイトデーのラブラブな雰囲気と言うよりは、セットコントのノリで書きました。別の意味で生贄だしね☆ あと、雑居ビルなのに、なんだかモンスターが出てるのは、キャラ設定使わないのは勿体無いよなぁと思った故。
 お気に召していただければ幸いです。
ホワイトデー・恋人達の物語2006 -
姫野里美 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2006年03月14日

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