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『【memory――あの刻ふたりは‥‥<memory5―帰還―>】 』
モラヴィ1940)&パフティ・リーフ(1552)

「モラヴィ、地図を見せて」
 少女の声と共に、コンソールパネルのモニターに地図が映し出された。赤く点滅を繰り返す光点から、グリーンのラインが伸びてゆく。同時に若干太いブルーのラインが点線で伸び、先の方でグリーンラインと交差した。それぞれのラインの横に速度等の様々な情報が羅列される。
 頬杖を突いたうつ伏せの少女――パフティ・リーフ――は、後頭部から延びた2本の触手を軽やかに揺らしながら、モニターの情報に黒い瞳を走らせ、微笑みを浮かべた。
「母船の予測航路が外れていなければ合流できそうね」
<本当か!? やっと戻れるんだな!?>
 狭いコックピットに響き渡ったのは、ドリファンド(自律行動型慣性制御飛行武装バイク)の発した悪ガキっぽい少年――モラヴィ――の声だ。『彼』の中に乗っているパフティがサラリと茶髪のセミロングを揺らす。
「モラヴィの計算と予測が外れていなければね」
<な、なんだとー! 旅の途中で修理したのはパフティじゃないか!?>
 モラヴィが声を荒げた。少女は煩そうにコンソールパネルから端整な風貌を逸らし、怪訝な表情を浮かべて口を尖らせる。
「なによ、偶然にも異世界文明を多く取り込んだ町を見つけて、マップナビゲーションを修理してあげたのに、そんな言い方はないでしょ」
<だったら俺の計算じゃなくて組み込んだユニットって言えよ!>
「それってなぁに? モラヴィは組み込まれたシステムも制御できないってことぉ?」
 ジトリとした眼差しを流し、片眉を跳ね上げて見せるパフティ。
<‥‥‥‥そ、そんなことはないぞ‥‥それより、どうして俺が墜落しちゃったか、そろそろ話してくれよ〜>
 ――勝った!
 話を切り換えたモラヴィに、少女は不敵な笑みを浮かべた。ドリファンドといえ、精神年齢は小学校高学年程度。18歳のパフティが負ける訳がない。‥‥尤も、言い負かして優越感を覚える方も微妙だが‥‥。
「そうね‥‥それはね‥‥」

●残る疑問と墜落
「モラヴィ、移動よ!」
 モラヴィとパフティは、潜入したアセシナート王城から脱出した。
 電磁波屈曲フィールドで不可視となった超小型ドリファンドは、白み始めた領内上空を飛行してゆく。潜入時と同様に、視認されなければ追撃を受ける事はない。王城地下での拷問と最上階からのダイブにより、満身創痍の少女は苦しげに眉を戦慄かせつつも、安堵の色を浮かべる。
「ハァ、ハァ、何とか、逃げられそうね‥‥!!」
 不意にパフティの背中で二本の触覚がビクンと跳ねた。少女は例え様のない不安に瞳を見開く。
「‥‥なに? この感覚‥‥殺気? ‥‥後ろ!?」
 後方を振り向くと、王城の影から『何か』が浮かび上がった。キャノピー越しに瞳を凝らすパフティ。刹那、上空に浮かぶ黒い大きな靄から赤い魔方陣のようなモノが模られると、中心に光の粒子を集束させてゆく。少女は直感的に危険を察した。
「モラヴィ! 高度を下げて!」
<え? どうしたんだよ?>
 早くッ!! 切迫した声をもう一度響かせた次の瞬間、モラヴィの側面を放出された巨大なエネルギー波が掠めた。白に近い肌色の装甲に覆われた丸みを帯びたフォルムが放たれた光に照り返し、黒煙を吹き上げグラリと揺れる。
「きゃあぁぁッ!!」
 激しい振動がコックピットを襲い、警告音が鳴り響く中、少女の柔らかそうな身体に、赤い点滅が照り返す。モニターには『機体中破』を示す文字が映り、少年の声は聞こえない。
「‥‥モラヴィ!? 自律行動ユニットが壊れたの? きゃうッ!」
 再び過ぎる巨大なエネルギー波にコックピットが揺れる。直撃を受ければ約2mの機体など一瞬で木端微塵に吹き飛ばされそうだ。続いて、急激な落下感がパフティを襲った。キャノピー越しに映る視界が、地面へ向けて急速に迫る。
「慣性制御ユニットも壊れているの!? このままじゃ‥‥モラヴィってば!」
 少女はシステムを手動に切り換え、二本の操縦桿を握ると、奥歯を噛み締めて引いた。機体は立ち直る気配を見せず、尚も地面へ落下を続けてゆく。次の瞬間、墜落した地表から大きな爆炎が噴き上がった――――。

●墜落と激突
 一面に映るは、地表スレスレを滑空して、高速で通り過ぎてゆく緑に染まった木々の合間だ。罅の入った視界が小刻みに揺れる中、幾つもの枝を折りながら、木の葉を舞い散らせて緑のトンネルを潜り抜けてゆく。今尚コックピットの、けたたましい警告音は鳴り止まず、パフティは瞳を研ぎ澄ませながら木に衝突しないよう、必死に操縦桿を捌いていた。
「どうやら爆発で誤魔化せたみたいね。後は、逃げ切るのみッ!」
 ――墜落と共に爆発したのはカモフラージュだった。
 咄嗟の思いつきでモラヴィ後部小型トランクから手榴弾を投下、爆発させて墜落を偽装したのだ。仮にダミーの爆発に気付いたとしても、森の中へ逃げ込めば、容易に捉えられる確率は低い。このまま無事にエルザード領内に飛び込めば、追撃も出来ない筈だ。
「!! 森を、抜ける!」
 木の葉を舞い散らせながら黒煙を棚引かせるモラヴィは森から飛び出した。高度を低空に維持したまま、草原を疾走してゆく。見覚えのある景色が映り、エルザード領内に逃げ込めた事を確信し、少女はうつ伏せの状態のまま、しなやかな足に力を入れた。足の裏がブレーキペダルを踏み込む。刹那、ピクンと背中で二本の触覚が跳ね上がり、端整な風貌に驚愕の色が浮かぶ。
「嘘ッ! スピードが落ちない!? 反重力ブレーキも故障しているの!? そんなぁ‥‥!? ッあれ? 高度が上がらないッ!?」
 パフティは素っ頓狂な声を響かせた。悪い事が重なるとは正にこの状況を言うのだろう。このままでは何れ視界を遮るものと遭遇し、大激突してしまうに違いない。谷間や崖でもあれば本当に墜落してしまう。知らずに人間が横切ろうものなら、ひき逃げ犯だ。アセシナートばかりか、エルザードにまで追われてしまう事になるだろう。運命は一気にお尋ね者街道まっしぐら。町や村の致る所にパフティの家庭的な雰囲気を醸し出す風貌の人相書きが貼られ捲り、行き交う人々が、『未だ若い可愛らしい娘なのに』と憐れむ眼差しを流すに違いない――――。
「いやッ! そんな人生まっぴらゴメンだわ!」
 ブンブンと首を横に振り、少女は逞しい想像の世界から現実に舞い戻った。しかし、このままでは何れ想像は現実と化す。そんなパフティの首の後ろで触覚が跳ねる。
「そうだわ! 慣性制御で質量を減らして空気抵抗で減速すれば‥‥」
 幸い低空ながら浮上したまま猛スピードで爆走している状況から察するに、慣性制御ユニットが完全に壊れた訳ではない。
「考えてる時間はないわ! モラヴィ、頑張って!」
 フットペダルを調整しながら操縦桿を握り締める。刹那、ガクンと大きく機体が揺れ、エネルギーが一時的にダウンした事を示した。次にモラヴィは地面に腹を擦り、激しい衝撃がコックピットの少女を揺らす。柔らかそうな茶髪と豊かな二つの膨らみが振動に揺れる中、苦痛を浮かべるパフティの瞳が大きく見開かれた。瞳に映るは再び突入せんとする広大な森だ!!

●激突と気絶とひとつの旅の終わり
<森の中へ俺は不時着したって事か?>
 黄色の丸いライトの顔(前面)を向け、膝を抱いて茶髪を風に揺らすパフティに訊ねた。少女は腰をゆっくりとあげてモラヴィに向き直る。
「そうよ。私が村のベッドで意識を取り戻した時、お医者さんが言ってたもの‥‥」
 ――おまえさんは、骨折、打ち身、火傷、擦り傷などを至るところに拵え、機械と共に森の中に倒れていたのを村人に発見され、村で治療したっちゅーことじゃよ――――。
「でも、よく頑張ってくれたわ♪」
 少女はモラヴィに身を寄せ瞳を閉じると、滑らかなボディを撫でて感謝を告げた。ふわりふわりと浮いた超小型ドリファンドは照れ臭そうに機体を揺らす。
<いやあ、照れるなぁ(俺は機能停止してたけど)‥‥でも、最後に攻撃して来たのは何だったんだ?>
 パフティは表情を引き締め、ゆっくりとモラヴィから身を離した。
「多分あれは‥‥そうね、その話はまだだったわね。それは‥‥あっ!」
<どうした! パフティ!?>
 突然声をあげて空を指差す少女。指先の示す先に映るは、厚い雲間からゆっくりと姿を見せる懐かしい母船の姿だ。ゆっくりと高度を下げてゆく交易船。確か地図の通りだと街がある筈だ。
「バザールを張るんだわ。行きましょう!」
 半透明のキャノピーを開き、パフティが軽やかな身のこなしでモラヴィのコックピットへ滑り込む。
<よーし! とばすぞパフティ!>
 出力をあげ、ドリファンドは街へ急いだ。開け放ったままのキャノピーから半身を覗かせ、風に茶髪を揺らしながら少女が微笑む。
「ずいぶん留守にしたから、怒られる覚悟はしておかないとね☆」
<なあ、街に着くまで、さっきの話の続きを聞かせてくれよぉ>
「なに言ってるのよ。もう直ぐじゃない♪ また今度ね。あッ、みんなぁーっ!!」
 街に着陸した母船から姿を見せた懐かしい仲間達の人影を捉え、パフティは涙を舞い散らせながら笑顔で大きく手を振っていた。
 ここに一つの旅を終わりを迎えたのである――――。


<ライター通信>
 この度は5度目の発注ありがとうございました☆
 お久し振りです♪ 切磋巧実です。
 前回のノミネートお受けできず申し訳ありませんでした。今回も厳しかったのですが、二度目のノミネート発注という事もあり、応えさせて頂きました。
 さて、いかがでしたでしょうか? 母船の名前ですが、発注内容のみでは応えられないのが現状です。また、真の支配者も共有舞台であるソーンのアセシナートを使用する場合、厳しいです。アセシナートに力を貸す異世界からの悪しき存在なら問題ありません。今回はもし次のエピソードがあればと思い、どうにでも解釈できるよう巨大な靄とさせて頂きました。浮遊要塞でも巨大メカでも大丈夫かと思います。但し、現在のレギュレーションから察するに、もし『誰か』を登場させて物語を膨らます場合、もう一人PC登録して頂き、グループでの発注が無難と思われます。
 はい、仰りたい事は分かります。ノミネートに対応していませんね(苦笑)。対応策としては、お手数ですが、ファンレターで窓開け依頼を行って頂くか(発注内容に関わる事を書いちゃ駄目ですよ)、月に一度は開けるよう努めますので、待って頂くかとなります。依頼して頂いた場合は返信にて窓開け日をお知らせします。次があればの話ですが(^^;
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 9月から約6ヶ月。無事帰還まで描かせて頂き、有り難うございました。
 それでは、また出会える事を祈って☆
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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聖獣界ソーン
2006年03月13日

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