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『ちょこれーと配達員 』
パパラチャ・カーネリアン3162)&ヴァイエスト(3139)&アイディル(3143)

■休日のおしごと
 今日はぽかぽか心地よい陽気の日。
 穏やかに吹く風に誘われるように、パパラチャ・カーネリアン(3162)はのんびりと街道を歩いていた。
 ほんのりと漂ってくる咲き始めた梅の香りが、春がすぐそこまで来ていることを感じさせられる。
 とはいえ、今のパパラチャにとってはあまり関係のない話。それよりも今日は毎年恒例の忙しい日だったはずなのに、珍しくお休みがもらえたことが何より嬉しく、どうやって遊ぼうかということで頭がいっぱいだった。
 どうしようかな、まずは白山羊亭で美味しいご飯を食べようかな。
 そんなことを考えながら、通い慣れたアルマ通りの石段を駆け抜けていく。途中すれ違う人や店先に腰を下ろしている人がパパラチャを見つけて声をかけてくる。
「おや、今日は仕事はないのかい? いいチーズが手に入ったんだ、旅の共に少し持っていきなよ」
 ぽんと投げられたチーズを、くるりと飛び上がりながら空中でキャッチさせる。
 沸き起こる拍手に一礼するパパラチャ。なんだか今日は、朝から良い出来事ばかりだ。もっと面白いことが起こりそうな予感がして、パパラチャはとても気持ちいい気分だった。
 そっとチーズを懐にしまい、早速駆け出そうとするパパラチャは急に首元を摘ままれ、空に引き上げられた。
 足元を失い、ばたばたともがくパパラチャをからかうかのように、彼を摘み上げている当人、ヴァイエスト(3139)が話しかける。
「おいラチャ、こんな昼間から出歩いて……仕事はどうしたんだ?」
「今日はお休みなんですよ。それより放して頂けませんか?」
「ほう、珍しいな。今日は年に一度の日だというのに休みか……いよいよ仕事を干されでもしたか」
「違いますよ。今日はたまたまお休みをもらえたんです。お仕事なくなったわけじゃありません」
「そうか。暇なら手伝ってくれ。人手が足りてないんだ」
 お休みなんだけどな、と思いながらも断りきれず、パパラチャはヴァイエストに摘まれたまま、依頼内容を聞かされた。
 
■ちょこれーと
「あ、ちょうど良かった。今準備がところだよ」
 エプロン姿で厨房から現れたアイディル(3143)の姿に、パパラチャは何となく嫌な予感がした。
 今、背に背負っているものは間違いなくこれから調理されるものだろう。
 その後もう一度仕事を任される、そんな予感がしたのだ。
「アレは買ってきてくれた?」
「はい。これですね」
 背中に抱えていた大きな袋をとさりとテーブルに載せた。中身を確認し、アイディルは満足げな笑みを浮かべる。
「うん、これくらいあれば充分だね」
 袋の中にはたっぷりのチョコの素。依頼では「カカオを持って来い」と言われてたが、カカオ豆からチョコレートを作成するには道具も材料も、ついでに料理の腕前も必要となる。依頼人が幼いアイディルだと知り、店のお姉さんが気をきかせて、彼でも作りやすいチョコレートの欠けらの方を入れてくれたようだ。既に一度調理されているこの欠けらなら、単純な練り作業だけで手作りのチョコレートに早変わりさせられる。
 早速とばかりにチョコレートの欠けらを鍋に放り込み、暖炉で湧かせていた湯の中に浮かべて湯煎(ゆせん)をはじめた。
 油分が分離しないように、時折湯煎から外しながら木ベラで練るように混ぜる。
 充分溶けて液体状になったところに、用意してあった生クリームをだまにならないよう均一にさっくりと混ぜていく。
「よし、これくらいかな」
 充分混ざったのを確認したところで、チョコレートを陶器製の型へ流し込んだ。
 冷めないうちに木の実などのトッピングを加えて、後は冷えて固まるのを待つばかり。
「はい、こっちは冷めないうちにどうぞ」
 そう言ってアイディルは、牛乳を混ぜたホットチョコを2人に差し出した。甘いチョコレートの香りが配達で疲れている体に快い。一口なめると、ほろ苦いカカオの味と優しい牛乳の甘さが程よく調和し、口の中に暖かく広がっていく。
「どうかな、ちょっとだけ果実で風味付けしてあるんだ」
「美味しいですよ。これなら、甘すぎずさっぱりしていて何杯でもいただけますね」
「そう? お代わりあるからたくさん飲んでって。でもその代わり……ちょっとお願いしてもいいかな?」
 自分に来る願いごとといえば、配達物だ。一体何を届けるのだろうと傾げるパパラチャに、アイディルはそっとチョコを入れた箱を差し出した。
「このチョコをお姉さんに渡して欲しいんだ」
「お姉さん……ですか?」
 それは時を遡ること数日前。街中でたまたま出会ったお姉さんに、アイディルはチョコレートを食べさせてもらったらしい。
 場所はアルマ通りより1つ中に入った商店街。お菓子と料理の店が建ち並ぶ通りでの出来事である。
「その日、何故かその道を歩きたくなって、僕はいつもの道から曲がって商店街の方を抜けていったんだ。そうしたら綺麗なお姉さんが声をかけてきてくれて、僕に『はい、どーぞ』ってチョコをくれたんだ」
「で。そのお礼に……菓子をプレゼントする、という寸法か」
「うんっ、あんなに美味しいお菓子くれたんだもん。僕もお返しがしたいんだっ」
 目を輝かせて満面の笑みを浮かべるアイディル。
 だが、彼は大きな勘違いをしていることにパパラチャとヴァイエストは感づいていた。
 アイディルがプレゼントをもらったという店は、丁度新商品の菓子を売り出しており、販売促進のキャンペーンを行っていたはずだ。
 偶然にもパパラチャも、その店で試食品の菓子を店頭で販売員から受け取った覚えがある。
 アイディルが受け取ったのはいわゆるバレンタインディ。見知らぬお姉さんに、しかも相手は営業目的とはいえ、女の人にチョコレートをもらい、すっかりバレンタインプレゼントしてくれたと思い込んでしまっているようだ。
 手渡されたこの配達物は恐らくホワイトディのプレゼントなのだろう。相手の女性は、アイディルのことなど殆ど覚えていないはず。そう思うと少し憐れに思えて仕方ない。
「それで……これをどちらにお送りすれば良いでしょうか?」
「あっ、そうだよね。えーと……」
 インクとペンを探しに、厨房の奥にある扉の向こうへとアイディルは消えていった。その姿を眺めていたヴァイエストがぽつりと言葉をもらす。
「ラチャ。気付いてるだろ……その送り先」
「何となくですが……ですが、もしかすると彼の御方もアイディルさんのお心を読み取り、ちゃんと受け取ってくださるかもしれませんよ」
「気楽なもんだな」
 ひとつ息を吐き出し、厨房と向かい合うようにして建てられている居間へとヴァイエストは足を向ける。
 ソファにごろりと横になり、残っていたチョコをさりげなく口に運ぶ。
「ん……少し苦いな」
「湯煎の温度が高かったんでしょう、おそらく」
 チョコレートはデリケートな食品だ。兎角温度に関しては大変で、テンパリング作業(湯煎でチョコレートを練る作業)の温度を間違えると、あっという間に分離してしまう。
 だが、ちゃんと形になるように作れた辺りは、アイディルの腕もそこそこ悪くないといったところだ。
「ラチャも食べるか?」
 言いながら、ぽんと1粒放り投げてきた。
 全身で抱きかかえるようにチョコレートを受け取り、パパラチャはちょっとだけチョコレートにかじりつく。
 先程のホットチョコとは少し違う苦味を含むチョコレートの味に、こういうのも悪くないなと心の中で呟いた。
「なんというか……美味しいのではありますが、少々苦味が強いというか……」
「たしかに、不味くはないが、両手をあげて美味いとも言い難いな」
 ほどなくしてアイディルが羊皮紙を片手に戻ってきた。
「はい、詳しく書いておいたよ。よろしくね」
「確かに承りました」
 チョコが詰まった箱はちょっとだけ重い。パパラチャは一瞬よろめきながらも、ちゃんと背中に箱を背負い込んだ。
「それでは行って参ります」
「いってらっしゃーい」
 2人に見送られながら、パパラチャはひらりと窓から外へ飛び出していった。
 
■相手のいないお届もの
 目的の店がある通りの前まで来て、パパラチャは重要なことにはたりと気がついた。
「……これは」
 依頼書にはこう記されている。
 ――パパラチャへ。一緒にお渡しした手紙と一緒にプレゼントを渡してください。場所はアロマ通りを右へ曲がった先のお店の前にいるお姉さんです。お願いします――
「店の前……」
 改めて通りを見るも、そこに人影などあるはずもなく。
 休日であることも重なり、どの店も固く門を閉じ、人の気配すら感じさせられない状態だった。
「……仕方ないですね。分からないことには、お渡しが出来ません」
 くるりときびすを返し、パパラチャは仕方ないという風にとぼとぼと、来た道を引き返していった。
 
 荷物を返そうと2人が待っている部屋へ戻ると、パパラチャは思わずため息をついた。
 神経を使うチョコレート作りに疲れたのと、すっかり待ちくたびれてしまったのだろう。ソファにはすやすやと眠るアイディルの姿があった。
「ええと、どうしましょうか……」
 困った。依頼人が寝ているのは予測不可能だった。
 置き手紙と一緒に荷物を置いて帰るのもひとつの手ではあるが、依頼として受けた以上、報告する義務がある。
 とりあえずゆすって起きないものかと、パパラチャはアイディルの傍へいき、体を揺らそうと試みた。
「んー……」
 腕に触れるか否かの場所でいきなり寝返りをうたれ、潰されそうになる間一髪の危機を、紙一重で逃げるパパラチャ。
 落ち着いたところで、手の届く腕の部分を引っ張ってみてもやはり効果はない。
「うーん……困ったものです」
 パパラチャの悩みなどいざ知らず。すやすやと天使の寝顔を見せるアイディル。
「ああ、戻ったみたいだな」
 寝室から持ってきたのだろう。毛布を手にヴァイエストが部屋に入ってきた。
「それで、渡し相手は見つかったか?」
「あの情報だけで探すというのは砂の中の砂金を探すようなものです」
 首を振るパパラチャ。確かにその通りだとヴァイエストは苦笑いを浮かべた。
「そうだな……どうせ分からないんだ。ラチャの方で適当に見繕って渡してやってくれ」
「えっ、でもさすがにそれは……」
「荷物が戻ってきているなんていうのをアイディルが知ったら悲しむぞ。それよりは他の誰かにプレゼントしてやったほうが、アイディルも嬉しいと思うだろうな」
 確かに、誰の手にも渡らないまま、プレゼントが戻っていたらショックだろう。
「そうだな……ラチャ。お前がもらっておくっていうのはどうだ?」
「えっ、わたくしめがでありますか?」
「ああ。保管するということでどうだ。それで、関係がありそうな女性を見つけたら渡しておく。というのなら配達の任務を放棄したわけじゃなくなるだろ」
「うーん……そうですねぇ……では、このお荷物はわたくしめが大切にお預かり致します」
 今日は見つけることが出来なかったが、明日また行けばもしかすると販売員が売りに出ているかもしれない。その時プレゼントを渡せば名目上は何とかなるだろう。
「んー……お姉さん、ありがとぅ……」
 幸せそうな寝顔で呟くアイディル。その寝顔を眺めながら2人はお互いに顔を見合わせながら肩をすくめるのだった。
 
(おわり)

文章執筆:谷口舞
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2006年03月13日

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