▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『◆ 失われた歌声 ◆ 』
工藤・光太郎6198)&黒羽・陽葵(5784)



◆◇


 風が吹く―――
 高いビルの屋上で、相手と向き合いながら・・・そっと、低く言葉を紡ぐ。

  『           』

 風が言葉をかき消す。
 バラバラに・・・1つ1つを引き裂き、散って行く。
 けれど、相手には伝わったのだろう。
 表情がはっきりと見えたわけではないが、微かに・・・その口元が笑んだ気がした。
 ニヤリと・・・それは、一体何の笑みなのだろうか??
 自信から来るものなのか?
 それとも、今の言葉を聞いて??
 キレイ事だとでも言うかのように、まるで、何も知らない子供を見詰めるかのように―――
 その瞳は、柔らかくも冷たかった。
 ・・・そして・・・微かな哀しみを宿していた・・・。


  『どんな理由があったとしても、犯罪は犯罪だ』


 再度同じ言葉を繰り返す。
 今度は聞こえていなかったのだろうか・・・相手は、微塵も表情を変える事が無かった。


◇◆


 学校で一番空に近い場所で、君は歌を歌う。
 ・・・いつも途中で途切れるその歌は、綺麗だった。



   光を纏いし夢を見る
     闇に落ちし永久を視る

   空を見ては解き放つ
     魂の欠片は淡く舞い

   海を見ては紡ぎ出す
     歌は哀を含んで揺らぐ

   刹那の境界は2つを隔て
     決して絡む事の無い


   ――― 定めの絆・・・ ―――



 歌は風に乗って揺れる。
 儚気に、朧気に。
 風を纏って舞うメロディーは、どこか心の奥深くに突き刺さる・・・・・。


◆◇


 その日の風は、どこか哀しかった。
 何故だろう・・・普段なら、風にそんな想いを感じ取ったりしなかった。
 それなのに―――
 これは、きっと“予感”なのだと思った。
 何かか確実に動き出していて、きっとそれは誰にも止める事が出来なくて・・・。
 動き出した歯車の音は、甲高い音。
 錆付いた音は、耳の奥で反響し、いつまでもいつまでも・・・止まる事の無いまま。



 町を歩いていて、人々の雑踏が五月蝿くて・・・その合間を抜けるように突如として響いた銃声は、工藤 光太郎の足を止めた。
 悲鳴が響く。
 咄嗟に、身を翻した。
 声の方に走る―――もう、その時には既に分かっていたんだ。
 コレが風の正体なのだろうと言う事を・・・。
 人々を掻き分け、中央に倒れる人物を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。
 鮮血に濡れるアスファルトの上、ぐったりと力なく開かれた青の瞳と目が合う。
 「黒羽・・・・・・・」
 呟いた声は、あまりにも小さな声だった。
 それこそ、1陣の風でも吹けば儚くかき消されてしまうほどに。
 それなのにも関わらず、黒羽 陽葵の耳には届いたのだろうか。ゆっくりと、光の失われかけた瞳を向ける。
 「・・・・・・工藤・・・?」
 「黒羽・・・・・・!」
 駆け寄り、膝を折る。
 力なく投げ出された手を取り、しっかりと力を入れて握る。
 まるでそれで繋ぎ止めようとでもするかのように・・・しっかりと、強く、固く。
 「・・・どんな理由があったとしても・・・犯罪は犯罪―――――・・・」
 黒羽がそう言って、自嘲気味にハッと声を上げた。
 口の端から、鮮血が流れる。
 1筋の赤い線は、ゆるゆると頬を流れ、パタっとアスファルトの上に落ちた。
 「工藤の言う通りだ、俺も・・・今俺を撃った奴もおんなじ・・・」
 「・・・・っ・・・・」
 かける言葉が見つからなくて、段々と失われて行く体温が残酷で・・・工藤は唇を噛んだ。
 どんな表情をしているのか自分では分からなかった。
 ただ、心の奥に溢れる感情は、確かな熱を帯びて居座っていた。
 「・・・そんな顔、するなよ・・・」
 ふっと、微笑む黒羽の瞳 ――― 光を失いつつあるソレに、工藤は小さく押し殺したような声をかけた。
 「もう・・・しゃべんな・・・。」
 話せば話すほど、黒羽の命の炎が消えてしまいそうな気がして・・・一瞬でも視線をそらしてしまえば、その瞳は閉じてもう二度と開かなくなってしまいそうで・・・工藤は必死になって手を掴んでいた。
 ―――そんな事をしていたところで、もう・・・どうしようもない事なのは分かっていた。
 感じた予感は確実で、段々と離れて行く黒羽の意識は遠くて・・・。
 ざわめく周囲の声。
 野次馬は何もしてくれない。ただ、この光景を見て何かを囁き合うだけ。
 「・・・結局・・・」
 「え・・・?」
 微かに動いた黒羽の唇から零れる言葉。
 瞳がゆっくりと工藤に向けられる。けれど・・・もう、何も見えていない瞳の色をしていた。
 「結局、見つけられなかったよ、父さん。」
 何の事だろうか。
 その真意を探ろうとする前に、黒羽がポツリと呟いた。
 「でももう眠いんだ、眠い・・・」
 ふわり、微かな笑顔は―――きっと、黒羽自身が微笑もうとしていたわけではないのだろう。
 視線を空へと向ける。
 この青い空を・・・もう二度と、黒羽が見る事はない。
 ―――ゆっくりと、しかし確実に閉じて行く瞼。
 「黒羽、寝るなよ・・・!」
 掴んだ手に力を入れる。強く・・・強く・・・。
 「知ってるか?いつも授業中居眠りして、何時の間にか俺が起こす係になってたんだぞ?それにオメー、まだこの前借りた金返してないだろ。クラスの奴にもCD返すとか言ってたじゃねーか。あぁ、それに・・・・・・」
 もう動かない、止まってしまった黒羽の時間。
 繋ぎ止める様に、言葉をかけていた。
 ・・・でも、もう・・・それも・・・虚しいだけ。
 すっと、手を胸の前に置く。
 ( お前、元々よく喋る奴だったけど・・・よく通る不思議なお前の声、聞いてたかった )
 もう声に出しても届かないから―――だったら、音に乗せない言葉を紡ぐ。
 ( ふざけ合ったりして、もっと一緒に・・・・・・・・ )
 空気を震わせない、この言葉なら・・・届くのではないかと、一握りの希望を乗せて。



    ――――― もっと一緒に ・・・・・・・



◇◆


 巨大な木の下で、心に流れる歌を紡ぐ。
 黒羽が歌っていた歌―――――
 勿論、あんなに上手くは歌えない。なにせ、工藤は壊滅的に歌が下手で・・・。
 それでも良く通る声は綺麗だった。


   海を見ては紡ぎ出す
     歌は哀を含んで揺らぐ

   刹那の境界は2つを隔て
     決して絡む事の無い


   ――― 定めの絆・・・ ―――


 歌声が途切れる。
 その先は、知らない・・・黒羽も、そこから先は歌わなかったから・・・。
 「続きは?」
 不意に木の上からそんな声がかかり、工藤は視線を上げた。
 ふわり、鳥のように舞い降り・・・
 「昼寝邪魔されるし、そのスゲー歌声には感動し尽くしましたよ。」
 嫌味か・・・?
 刹那、そう思う。
 「続きは・・・知らない・・・。」
 「は?続き知らねぇ?ふーん。」
 何かを考え込むように視線を宙に彷徨わせた後で、ニヤリと微笑むと悪戯っぽい瞳を輝かせた。
 「適当に続き歌ってやるよ。」
 そう言って、すっと空気を胸いっぱいに吸い込み―――――


   再び現れた鳥を空へと放してやる事など・・・・








     ――――― もう、出来やしない ・・・・・・・・・












            ≪ END ≫


PCシチュエーションノベル(ツイン) -
雨音響希 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年02月27日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.