▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『【 真白の傷口 】 』
桐生・暁4782)&梶原冬弥(NPC2112)



◆□◆□◆


  溶け行く雪の、何と美しい事か
  儚く消える、真白の結晶
  ゆるゆると地を流れるは透明な液体
  ふっと、触れてしまえば消えて行く
  淡い命を思う時
  その先に見えるは―――――


◇■◇■◇


 道の端に積み上げられた真っ白な壁。
 1つ1つの結晶はあんなにも儚気なのに、こうして集まるとこんなにも強く逞しく見える。
 けれどコレも、後数日で消えてしまうのだろう。
 壁の下からは透明な液体が流れ出て、道の途中にポッカリと開いた穴へと吸い込まれて行く。
 「もう・・・雪、消えちゃうね。」
 桐生 暁はそう言うと、そっと雪を手に持った。
 小さな雪の塊が、暁の体温の上でふわりと溶ける。
 ・・・それに重ねるのは、あの日失われた1つの命・・・。
 決して還って来る事のない、過ぎ去ってしまった日々に生きていた、一つの存在。
 「・・・つめた〜。」
 へろんと、力の抜けたような笑顔を浮かべると、暁は隣を歩く梶原 冬弥に抱きついた。
 厚いコート越しに感じるしっかりとした存在を、確かめるようにキツク抱きしめる。
 「ったりまえだろ?雪が熱くてどーすんだっつの。」
 「そーだよね。」
 「つーか、イタイんですけど。」
 「え?あー・・・ゴメンゴメン。冬弥ちゃん、なんか細っこいから心配で〜。」
 「お前がソレ言うかぁ〜?」
 苦々しい表情でそう言うと、暁の腕を取った。
 「骨と皮?」
 「筋肉もちゃんとあるってばー!」
 「どーだか。」
 ふっと笑った後で、ポンと頭に手を置くと、冬弥が歩き始めた。
 その背を見詰めながら、溶け行く雪の存在を確かに感じていた―――。


■◇■◇■


 「それじゃぁな。」
 「うん、また・・・。」
 夢幻館に帰る道すがら、ちょっと道草だと言って家まで送ってくれた冬弥。
 パタンと閉まった扉が何故か寂しくて・・・・・。
 暗い部屋の中、無情に薫るは孤独のみ。
 「・・・大好きだよ。」
 暗い部屋に向かい、そう言い放つ。
 言葉は吐息として揺れ、部屋の中に溶け消える。
 その場の空気として存在し、そしていつかは暁の部屋から消えてなくなってしまうのだろう。
 ――― 答える者がないなんて事は、知っていた。
 だって、この空間には“暁”しか存在していないのだから・・・。 
 ・・・寂しい・・・悲しい・・・孤独・・・
 そんな、弱い部分は、自分の中だけにしまっておくべきものだから・・・。
 “桐生 暁”が、そんなに弱くては駄目だ。“桐生 暁”は軽くて、ヘラヘラしていて・・・強くないと。
 弱みなんてない。弱い部分なんてない・・・完璧でいないと・・・。
 最近ちょっと、人に深入りしすぎている気がする。
 引き返せなくなる前に、戻らないと―――
 この胸の傷が、これ以上広がる事のないように・・・絆創膏で、塞いでおくんだ。
 ・・・これ以上・・・広がる事のないように、蓋をして―――
 「大好き・・・!」
 すぅっと息を吸い込み、叫んでみた。
 これで、最後だから・・・この傷と向き合うのは・・・最後だから・・・
 答えがないなんて事は、最初から知っていた。
 だって、この空間には―――
 「でっけー独り言。」
 ガチャンと扉が開き、先ほど帰ったはずの彼の声。
 一瞬だけ頭の中が真っ白になる。だって、この空間には暁しかいないはずだから・・・・・。
 瞬きをしてから、振り返ったそこ。
 困ったような顔をして立っている冬弥。
 「独り言じゃなくて、お前にしか見えない“何か”と語らってたとか、そーゆーオチでもあんのか?」
 からかうように、いたって軽い言葉を暁に浴びせる。
 「とーや・・・ちゃん・・・?」
 「おー。お前に渡しといてくれって言われてたモノがあったのに、渡すの忘れ・・・・・」
 「もう、超好きっ!」
 「は?」
 全然要領を得ていない様子の冬弥に抱きつき、ギュっと確かめるように腕を回す。
 「な・・・ちょっ・・・お前・・・なにして・・・!?」
 「愛してる〜!」
 「ふざけんなっ!なに言って・・・つーか、これはなんの遊びだっ!?」
 開け放たれていた扉を必死に閉め、冬弥がトンと溜息混じりに扉に身体を預ける。
 「どーした。今度は。」
 「・・・ばーかとかさ、何でもいいんだよ。」
 「今日俺、お前にバカっつったか?」
 暁に抱きつかれたまま、ずるずるとその場に腰をおろす。
 「ホント、何でも良いんだよ。ただ、それだけで・・・。」
 「お前なぁ、主語省きすぎ。」
 ポンポンと優しく背を叩く。その速度が心地良い―――
 「なんかね、嬉しい。」
 「そーか。何が嬉しいんだかさっぱりだけどな。」
 「・・・変・・・かな・・・?」
 「さーな。俺には全然ワケがワカンネーよ。いきなり抱きつかれて、バーって話されても・・・」
 「大好きにさ、答えがあるって嬉しいよね。」
 「ばーかでもか?」
 「・・・うん・・・。」
 背を叩いていた手が止まり、暁の肩をトンと向こう側へ押しやった。
 冬弥が暁の顔を覗き込む。
 首を傾げ、斜めに暁を見上げ・・・
 「なんかあったか?最近お前、情緒不安定気味だぞ?ま、ワケわかんねーのはいつもの事だけどな。」
 「ひっどー。」
 「お前の日頃の俺に対する仕打ちのが、よっぽどヒデーだろーがよー。」
 「そーかな〜?」
 クスクスと小さく笑う。
 その頭を、冬弥が撫ぜ・・・ふっと、真剣な面持ちで暁の瞳を覗きこむ。
 「本当に・・・大丈夫か?何かあったんなら、言えよ?」
 「・・・どーして・・・」
 「は?」
 ギュっと、抱きつく。
 言いかけた言葉を飲み込んで―――

  『どーして、そーゆー事、真剣な顔でサラっと言っちゃうワケ・・・?』

 「だぁぁっ!!お前・・・抱きつくなって・・・!!」
 冬弥が力任せに暁を引き剥がす。それに対して、小さく微笑んだ後で暁は口を開いた。
 「あー・・・乱暴にするから〜。俺ってば繊細なのに。」
 「嘘をつけ、嘘を!お前は十分ズブテーだろーがよーっ!」
 「繊細だよ・・・俺・・・。」
 儚い笑みを浮かべると、暁は俯いた。
 そして、顔を上げた時にはいつも通りの笑顔だった。
 「あーあ、ばんそーこー剥がれちゃったから、責任とってよね!」
 「は?絆創膏?お前・・・怪我してたのか!?」
 焦った様子の冬弥を見て、思わず小さく声をあげる。
 「怪我してんなら先に言えよっ!大丈夫だったか?」
 「そーじゃなくって・・・んー・・・でも、どうだろうね・・・。」
 曖昧な微笑を浮かべ、うろたえる冬弥の腕をそっと取る。
 「・・・温かい。」
 「冷たかったら死んでるな。」
 「ねぇ、冬弥ちゃん。」


  「大好き・・・。」



□◆□◆□


 溶ける雪を想う
 その先に、待っているであろう暖かな春を想う
 そして、夏を想い、秋を想い、冬を想う
 再び雪の舞い落ちる季節が訪れる前に
 七色に輝く夏がやって来る
 だから・・・
 世界が真白に染まる前のほんの刹那の間だけ
 悲しい思いを遠くにおしやって
 ―――決して消える事のない記憶だけれども
 いつまでも
 悲しい想いは切ないから・・・・・・









          ≪END≫




PCシチュエーションノベル(シングル) -
雨音響希 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年01月30日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.