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『【見えない真実の中で】 』
風祭・烈(w3c831)&エメラルダ(w3c831)

 ――サルデス(中国)地方山間部。
 第二次神魔大戦後の傷痕が色濃く残る道路を、一台の大型バイクがエキゾーストを轟かせて疾走してゆく。補修が終わっていない路面はガタガタだ。激しい振動に車体が揺れる中、風祭烈はストロークを調整しながら巧みにハンドルを捌いていた。ゴーグルで目元は隠れているが、微笑みを浮かべており、何となく楽しそうにも見える。
「ねぇ‥‥烈」
 震える澄んだ女の声と共に、青年の細い腰に回した白い腕に力が込められた。烈は背後に顔も向けず、バックミラー越しに映る、優麗なエメラルドグリーンヘアを舞い躍らす美女に口を開く。
「あん? どうかしたのかよ? エメラルダ」
「どうか、したかじゃ、ありませんわッ、どうしてコアヴィークルをッ、使わないのッ、ですの?」
 振動に揺れる度、エメラルダのよく通る声が途切れた。よほど不安定な悪路が怖いのか、彼女は青年との隙間を作らぬよう、彼の背中に豊かな膨らみをグイグイと押しつける。
「トルネードか? あんなんはバイクじゃないだろ? 地面を走ってこそツーリングだ♪」
「‥‥ツーリングって、烈? わたくし達はッ、遊びに来たのではッ、ないのですわよ」
 呆れたような響きで窘めるエメラルダ。烈の肩越しに覗かせた顔は御機嫌斜めだ。青年は首に巻いた赤いマフラーを棚引かせ、屈託のない微笑みを浮かべて応える。
「分かってるさ。俺達は噂の真偽を確かめに向かっているんだろ?」
 ――或る村でサーバントが出現するという噂が流れていた。
 交通の便も悪く、情報も伝わり難い村に出現するサーバント。その真偽を確かめる為に、烈とエメラルダは悪路を駆け抜けているのだ。
 彼等の向かう先に、小さな村が浮かび上がっていた――――。

●サーバントの行方と憎む瞳
 ――烈とエメラルダは村に到着した。
 先にタンデムシートの美女を単車から降ろし、突風を浴びて乱れた如き暴れた長い黒髪の青年がゴーグルを額にあげる。曝け出された素顔は未だ少年らしさを醸し出すものだ。隣でヘルメットを脱ぐエメラルダが、美しいエメラルドグリーンの長髪を左右に揺らして、端整な風貌に安堵の色を見せる。そんな中、烈の黒い瞳が周囲を見渡す。
「ここがサーバント出現報告があった村か」
「本当に殆ど復興は進んでいないようですわね」
 アスファルトの至る所に亀裂が走っており、民家は半壊した物や焼け焦げた跡がそのままの状態だ。山間地帯の小さな村とはいえ、戦災の跡が生々しく残っている。
 無理もない。第二次神魔大戦当時は、魔に属する者達と神帝軍の戦いで幾つものテンプルムが墜落したのだ。約10キロの浮遊要塞が落下した衝撃は想像を絶するものに違いない。それでも、この村は被害が少ない方だろう。それ故、パトモス軍による復興も遅れていると推測された。
「‥‥どちらさんかな? 旅人が好んで訪ねる場所ではないがね」
 遠巻きに二人の若者を窺っていた村人の一人が声を掛けて来た。壮年の男の瞳は疲労感に満ちており、訪問者を歓迎する様子は無い。烈が口を開こうとした刹那、エメラルダが丁寧に頭を下げる。
「突然の来訪、申し訳ございません。わたくし達はサーバント出現の噂を聞いて参りましたの」
「いるんだろ? サーバントが。俺達が退治してやるぜ」
 青年が胸元で拳を滾らせ、二カッと白い歯を見せた。しかし、村人達の反応は芳しくない。周囲では小声で『魔皇か?』『国は復興できないばかりか、こんな若者を寄越したのか?』『敵じゃないのか?』等、様々な言葉が漏れる。壮年の男は村人を窘める事なく、口を開く。
「‥‥サーバント? はて、そんな話は知りませんが」
「知らないだと? そんな事は無いぜ! ちゃんと情報は‥‥ッ!」
 身を乗り出していきり立つ烈。刹那、青年の胸元を何かが強襲した。痛みは無い。跳ね返ったモノが地面に転がり、黒い瞳を落とす。それはどこにでも落ちている石ころだ。
「おいッ、誰だよ、今、石を投げつけ‥‥ッ!?」
 怒りを露に声をあげる魔皇の瞳に映ったのは、未だ幼い少女だ。薄汚れたワンピースに小さな石ころを抱え、何度も烈とエメラルダへ投げつけて来る。その瞳は怒りと憎しみに彩られており、逢魔は困惑の色を浮かばせていた。青年がゆっくりと向かう。
「随分な歓迎じゃないか。俺がおまえに何を‥‥ッ、おいッ!」
 烈が近付くと、少女は踵を返して山の方へ逃げて行った。青年とてヒーローに憧れる男だ。落ち着いた後、話を訊こうとしていたのだが、そう巧く事は運ばなかったようだ。目線を合わせようと腰を落としたままの格好で、魔皇は軽く溜息を吐く。
「逃げる事は無いじゃないかよ。なあ? エメラルダ?」
「あんな風に女の子に近付けば逃げて行くのは当然ですわ‥‥」
 呆れたように腰に手を当て、青年を咎めた。逢魔とはいえ、お姉さん属性が高いようだ。その後、押し黙る村人に青い瞳を向けて事情を訊ねる。
「あの‥‥先ほどの少女は‥‥」
「‥‥神魔大戦の所為で家族を失った娘です。今は小学校の被災者キャンプで暮らしていますが‥‥恐怖で口が聞けんようになってしまったのです。我々も自分達の事で精一杯で‥‥」
 烈達は言葉を返せなかった。魔に属する者が神帝軍と戦った事で広がった戦災。全ては魔属のエゴと言う者も少なくない。ここにも魔を憎む子供がいる現実‥‥。
「‥‥行くぜ、エメラルダ」
「烈? あの娘を追って何が言えますの? わたくし達には、何も言えませんわ」
 山へ向けて歩み出した魔皇の背中を見つめ、逢魔の美女は表情を曇らせた。青年が振り向く。
「俺達はサーバント出現の真偽を確かめに来たんだろ? 調査しないで帰る訳にはいかないからな」
 烈の不敵な微笑みにエメラルダが瞳を和らげる。
 ――もう‥‥どっちが口実ですの?
「‥‥困った魔皇様ですわ☆」
 エメラルドグリーンの長髪を舞い揺らし、青年へと駆け出した――――。

「‥‥烈!」
「ああ、雑魚じゃ見つからなくても仕方が無かったな!」
 山の中を調査していた魔皇と逢魔は瞳を研ぎ澄ます。二人の視界に映るは、数匹の獣型サーバントだ。低い唸り声をあげる獰猛なサーバントへ向けて、青年が拳を滾らせ身構えると、スレンダーな身体から金色のオーラが放出され、魔の刻印が浮かび上がる。烈の後方に構えるエメラルダも瞳を閉じた刹那、全身を水の粒子が駆け巡り、柔らかな水の衣服を纏って刻印を輝かせた。美女の耳には美しいヒレ状のものが顕われており、彼女がセイレーンである事を示す。
「烈、無茶はしないで!」
「雑魚相手に無茶もあるかよッ! 行くぜッ! 真魔炎剣<フレイムパニッシュメント>!!」
 勢い良く地を蹴り、青年が疾風の如く跳び込む。飛び掛かるサーバントへ向けて燃える拳を叩き込む度に一瞬炎が迸った。少し離れた先では、エメラルダが流水の竪琴を奏でながら美しい歌声を響かせる。
 所詮は雑魚。逢魔の旋律に躍動する烈は、まるで演舞の一シーンのように次々とサーバントを沈黙させてゆく。最後の一匹が逃げに入るのを、真獣牙突<ビーストビート>の残像を描きながら一気に間合いを詰め、渾身の一撃を頭部へと叩き込むと、サーバントは地面にメリ込む結果となった。
「手応えの無い雑魚だ‥‥ぜ‥‥ッ!? おまえ?」
 視線を感じた烈が眼光を流す中、視界に映ったのは先ほどの少女だ。魔皇の視線を追ったエメラルダが素っ頓狂な声をあげる。
「え? ちょっと、危ないじゃありませんの!」
 二人が少女に近付こうとした刹那、彼女は石を投げつけると、涙を舞い散らせて森の奥へ再び駆け出した。挿し伸ばした青年の手が虚しく宙を泳ぐ。
「あぁッ、たくッ話しにならないぜ! おいッ、奥は危ないぞ! おいッ」

●真実は胸に、唸れドリルクラッシャー!!
 ――少女は瞳を閉じたまま森の奥へ向けて必死に走っていた。
 緑の茂みを抜け、ささくれた枝に衣服の切れ端を持っていかれようと駆けるのを止めはしない。視界が涙で霞む中、道なき道を走り抜ける。刹那、行く手を遮るように彼女の目の前に姿を晒したのは、正に怪獣だった。鋭利な爪の四足サーバントは背中に翼を生やしており、異なる獣の頭部が三つ並んでいる。獰猛そうな赤い眼光が、ペタンと尻餅を着いて怯える少女を捉え、低い唸り声をあげていた。地を蹴ると同時、赤い眼光に未だ幼い怯えた顔が迫る。
 ――赤い鮮血が舞い散った。
 少女は瞳を見開き、戦慄く。彼女の瞳に映るは、身を挺して自分を庇った黒髪の青年だ。ガッシリと少女の身体を包み込んだ烈は、背中からの夥しい流血の痛みを堪えて微笑んで見せる。
「‥‥危ないじゃないかよ。‥‥どうして? って顔だな。人を助けるのに理由はいらないだろ? ‥‥俺は隠れ家(瑠璃)も友も守れなかった、だから今度こそ守りきってみせる! 真ッステイクランチャーッ!!」
 右腕に金色の粒子が集束すると共に、形成されたのは銃身のような魔皇殻だ。腰を捻ると同時、腕を背後のサーバントに向けると、幾つもの杭の雨がバラ撒かれた。命中率は低いものの、壁の如き巨大な相手にダメージを与える事は容易い。怯んだ隙に烈が叫ぶ。
「エメラルダッ!! 殲騎を呼ぶぞ!!」
「ええ、分かりましたわ!」
 スックと立ち上がり、青年はライダースーツの下から腰に装着してある風車のついた変身ベルトを曝け出す。同時に背後でエメラルダが竪琴を爪弾き、美しい声を奏で出した。烈の瞳が力強く研ぎ澄まされる。
「螺旋の鼓動を刻むものよ! 全てを貫くものよ! 我が身に眠りし大いなる力よ! 今こそ魂の絆の名の下に、その力解き放て! 来れ、螺旋皇帝!!」
 刹那、烈とエメラルダの下にコアヴィークルが出現し、金色の奔流が天を突くと、浮遊バイクは上昇しながら変形を始めた。同時に金の粒子と共に出現した幾つものパーツが組み合わさり、シートに座る魔皇と逢魔を包んでゆく。少女が見上げる中、形成されたゆくのは人型の巨人だ。腕に装着された螺旋の突起を薙ぎ振るい、頭部に浮かぶ眼光がギンッと輝く。
『螺旋皇帝! ドォリルッカイザァー!!』
 その巨体は重厚な装甲に包まれたメカニカルな姿だ。武骨な上半身背面には大型ブースターが模られており、裏腹に延びた両足はシャープなラインを描いている。力強さに優麗なフォルムを描く殲騎を見つめ、少女は思わず立ち尽くした。
「行くぞッ! サーバントッ!」
 ドリルカイザーがブースターから粒子を噴射し、二本足で立ち上がったキメラ型サーバントに接近すると共に、ステイクランチャーを放つ。しかし、杭の効果が薄い事は先ほどの戦闘で承知済み。そのまま肉迫、ダークフォースを付与したドリルを振るい接近戦へと転じた。素早い挙動で次々と洗礼を浴びせる殲騎。だが、鮮血を舞い散らすキメラは負傷した部分を急速に再生させて反撃に移る。その攻撃は紅蓮の炎であり、青白い稲妻であり、吹き荒ぶブリザードと様々だ。衝撃に揺れるコックピットの中、エメラルダが前のシートで奮闘する烈へ告げる。
「烈、キメラは幾つものサーバントを取り込んでいますわ! 無茶はしないで!」
「貫いても切りが無いぜッ! 真燕貫閃<スワローピアッシング>!! これでも駄目かよッ」
 烈は様々なダークフォースを駆使し、キメラに挑んでいた。激しく揺れる視界に捉えたサーバントへと次々と螺旋の洗礼を叩き込むが、ドリルカイザーが反撃を躱す間に再生を果たしている。それでも彼は接近戦を止める気配がない。エメラルダは軽く溜息を吐いて見せる。
「‥‥無駄ね。だったら、無茶にならないように私がサポートしますわ。清水の恵み!」
 逢魔の特殊能力『清水の恵み』は、被ったダメージを回復するものだ。これなら多少無茶をした接近戦を展開させても、疲弊は低減される。機動力に優れた殲騎は、バーニアを噴いて巧みに旋回を行いながら、キメラのあらゆる箇所にドリルにより攻撃を続けてゆく。
 ――あれ?
 苦戦を強いられる激闘を見守る少女は何かに気付いた。もしかすると――――。
 彼女は声にならない口を大きく開く。エメラルダの視界がそれを捉える。
「烈、あの子が何か叫んでいますわ‥‥。今、口の動きを読みます‥‥胸? 烈、キメラの胸部は再生が遅いのかもしれませんわ!」
「胸部かッ! エメラルダ、一気に片付けるぞ!」
「ええ! いきますわよ! 霧のヴェール!!」
 逢魔の特殊能力『霧のヴェール』により、ドリルカイザーに靄のような霧が纏わり付く。おぼろげな残像を描いて飛び込む殲騎へ向けてキメラが口から攻撃を浴びせるが、直撃する事は無い。霧のヴェールは命中率を低下させるのだ。所詮は知能の低いサーバント。肉迫するまで攻撃を続ける中、バーニアを噴射して全速力で突撃した螺旋皇帝が、眼光を輝かせ、真アクセラレイトドリルを引き構える。
『貫け! ドリルクラッシャー!!』
「行きなさい! 迦楼羅ッ!」
 キメラの胸部へ叩き込まれる螺旋の洗礼。尚も高速回転を見せる中、鳥型魔獣殻『迦楼羅』が巨大化、殲騎の背部に結合すると共に、金色の翼を開いて更に加速し皮膚を抉る。サーバントの咆哮が山林に響き渡り、鮮血が回転に沿ってぶちまけられ、緑の木々を赤く彩ってゆく。
「うおおおぉぉぉッ! コイツで留めだッ! 真ロケットガントレッド!!」
 鈍い反動と共に、真アクセラレイトドリルを装着した腕が放たれた。勢いで殲騎が砂煙をあげて後方で滑る中、加速に次ぐ加速の一点集中撃は、遂にキメラの胸部を貫き、肉の風穴にドリルカイザーが覗く。そして、ゆっくりとキメラ型サーバントは地響きをあげて倒れたのである――――。

●エピローグ
「おかげで助かったぜ」
「本当ですわ☆ 烈じゃ一生掛かってもキメラを倒せなかったわ。ありがとう♪」
 殲騎を送還させた後、二人は少女に労いの言葉を告げた。彼女は腰を落とした青年の背中を見つめると、躊躇した掌で不安気に擦る。
「あん? こんなの掠り傷だぜ! ヒーローの勲章さ♪」
「心配しなくても、わたくしが治療したから大丈夫ですわ☆」
 ガッツポーズを見せたものの、エメラルダの一言で烈の表情は脆くも崩れた。そんな二人の様子が何となく可笑しくて、少女は微笑みを浮かべ、魔皇と逢魔も笑い声を響かせる。
 結局、サーバントの情報元は不明確なままだが、キメラ型サーバントが出現していた事は事実だ。
 そして、何より一人の子供に笑顔を取り戻させた事が、烈とエメラルダにとって最高の喜びだった。
 彼等はこれからも復興と外敵に正義の拳を振るう事だろう――――。


<ライター通信>
 この度は発注有り難うございました☆
 はじめまして♪ 切磋巧実です。
 値上がりしているにも拘らず、発注して頂き、誠に嬉しい限りです。しかも初ノベルですか!? お目に留めて頂き、有り難うございます。そして、諸事情によりお待たせ致しました。
 さて、いかがでしたでしょうか? 殲騎戦が盛り上がる様、綴らせて頂きました。ドリル、カッコイイですよね(^^ スパロボに出そうなデザインがグッと来ます☆ キメラ型サーバントですが、立ち上がれば殲騎と同等の大きさだと解釈して下さい。それと、ブスターですが、装備で確認できなかった為、逢魔が装備していた迦楼羅に換えさせて頂きました。蟹型魔獣殻も演出してみたいですね(笑)。
 尚、DFと殲騎召喚プロセスは、設定を元に切磋のオリジナル演出が施されております事を御了承下さい。また、モブキャラの少女も今回限りです。一話完結のアニメみたいな演出と解釈して下さい。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
切磋巧実 クリエイターズルームへ
神魔創世記 アクスディアEXceed
2006年01月27日

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