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『餅搗唄 −白くて柔らかくて。 』
リージェ・リージェウラン3033


「矢張りね、御正月を迎えるに当たって、餅を搗かないと駄目だと思うの。」
 “正月”と云う言葉には縁程遠い様な外見をした黒い麗人が呟いた。
「……ノイル、御前、餅搗きしたいだけだろ。」
 彼方が黒なら此方は白か。全体的に色素の薄い、銀髪に眼鏡を掛けた青年が呟き返した。
 ノイルと呼ばれた黒の麗人はにこりと笑って頷いた。
「うん。と云うか、見たい。」
 ――餅搗きが。
 青年は短く溜息を吐いた。
「……だってさ、如何する、ユーリ。」
 こてん、と仰け反る様にして、青年は後ろに居た黒髪翠眼のユーリとやらに無理矢理視線を向けた。
「ルー、頭に血が上るから止めなさい。」
 低い男性の声でユーリは青年を窘め、其れから考える様に続けた。
「……まぁ、有るけどな。臼と杵。」
「ほんと、わぁっ、だから好き、ユーリっ。」
 ノイルは両手を組んで満面の笑顔、と喜びを顕わにし、比例してルーの溜息が深くなった。
「だからって未だ遣るとは……、」
「良いじゃないか。御方があんなにも喜んでるんだから。」
 其の科白はノイルの後押しをしている様で、然し、言外にもう何を云っても無駄だと云う意が含められていた。
「……解ったよ……遣れば良いんだろ。」
 結局、苦労性の青年は溜息を吐かずには居られない様だ。

 斯うして、良く解らない侭に餅搗き大会は開催される事となったのだ。

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「……毎度思うんだが、ユーリってノイルに甘い気がする。」
 ――何か弱みでも握られてんのか、
 晴天の某日、某処屋外で其の餅搗き大会は開催された。
 突然の開催にしては結構な人数を集めた其の会場の端っこで柱に凭れ乍、半ば強制的に巻き込まれた青年――ルーファスはぽつりと呟いた。
「別にそう云う訳では無いんだが。」
「……ッ、……気配を消して背後から近附かないで下サイ。」
 其処に件の男性――秋乃・侑里が突然現れる。
 此の男。臼や杵、更には会場を用意したりと此の会を主催している割に、普段通りきっちり三揃いのスーツを纏っている辺り参加しようと云う意志が感じられない。
「此の位は気が附かないと不可ないな。」
 侑里は其の侭ルーファスの隣に腕を組んで立ち止まる。
「さいですか。…………ま、ぁ、皆が愉しそうだから良いけどな……。」
 二人の視線の先に居るのは、其れ其れ愉しそうに餅搗きを愉しんでいる人々。
 餅搗き大会、と云っても内輪だけの小さなモノかと思っていたのに、蓋を開けてみたら一寸した地域振興の催しを呈している程の賑わい振りだ。
「嗚呼、色々準備した甲斐が有ったよ。……何より御方が愉しそうで良かった。」
 そう云って侑里が眼を細めて見遣る先に、此の大会開催の原因である人物――ノイルが、一生懸命杵を握っている子供達を笑顔で応援していた。
「……彼の人の我侭が発端だからな。」
 此で詰まらなそうにしてたら間違いなく張っ倒してた、と至極真顔で呟くルーファスは不図気配を感じて其方に振り返った。
「……ん、」
 すると其処には別の柱の影から遠目に餅を観察する少女――リージェ・リージェウランの姿が。
「餅搗き……。餅……。初めて見る物だな。美味しいのだろうか……、」
 興味は有るのだが良く解らない物だけに如何しようと云った其の様子を見て、侑里が穏やかに話し掛ける。
「御嬢さん。良かったら、見ているだけではなく参加しないかい、」
「む、然し遣り方が良く解らないのだが……。」
「なに、心配しなくても簡単だ。」
 彼の木で、と杵を指し、器の中の餅を搗くだけだから、と簡単に説明をする侑里。
「ほう……。」
「口で説明するより実際遣った方が簡単で解り易いだろ。――ノイル、」
 リージェと侑里の遣り取りを見ていたルーファスがそう云って、今度は大柄の男性と喋っていたノイルを呼んだ。
「……え、嗚呼。何、如何かした。」
 ワンテンポ遅れてからノイルが振り返って問うて来る。
 侑里とルーファスはリージェを連れて其方へ近附き乍答えた。
「此の仔にも搗かせて遣って呉れないか、興味が有るらしいんだ。」
「嗚呼、どうぞー。」
 そう笑顔でリージェを案内しようとしたノイルの横から、先程ノイルと話していた大柄な男性――オーマ・シュヴァルツが勢い良く飛び出した。
「よぉ嬢ちゃん、無駄の無い良い筋肉してるな。如何だ、何なら筋賀新年(中略)ギラリマッチョマイ臼&杵で搗かないかッ。」
「お、ぉお……、」
 (中略)って何だ、とか思いつつも勢いに押され気味のリージェに助け船を出したのはノイルで。
「こらオーマ、行き成りだと驚くでしょうってか君の持参した道具は既に良く解らない、と云うかキモ怖い生物……か如何かも定かじゃないモノ達が次々とハート形の餅を搗いてるじゃない。」
 と、長い科白を表情を変えずにほぼ一息で云い切った。
 其れを聞いて不図視線を巡らせると、人面門松と人面鏡餅軍団が他の参加者に混じって餅を搗いているのが発見出来た。
 因みに、臼に附いているアニキフェイスが搗く度投げキッスを飛ばして来る。……眼が合えば常人には軽くトラウマモノである。
「…………。」
 ルーファスがそっと侑里の陰に隠れる。屹度眼が合って仕舞ったのだろう。
 其の頭をぽすぽすと撫で乍侑里が感心の意を含んだ声音で呟いた。
「……世の中は不思議で一杯だな。」
「おお、済まねぇな。何だか知らんが沸いて出て来るんだよな。」
 ――御陰で俺は料理の方に専念できる訳だが。
 成程確かに。相変わらず可愛らしい、今日はワンちゃん柄のふりふり桃色エプロンを着けたオーマの前の作業台には様々な材料が並んでいた。
「ずんだ豆に餡、黄粉、御手洗、蓬、納豆。黒豆白豆……大抵の餅なら作れるぜ。」
 オーマはそう自信たっぷりに説明し乍も同時に、慣れた手附きで蓬餅に餡子を詰めていく。
「おぉ……。」
 其の姿を尊敬の眼差しで眺めるリージェにノイルが亦視線を戻してにっこりと声を掛けた。
「じゃぁ御嬢さんは先ず搗いてみようか。……そうだ、御名前は、」
「そうだな、解った。む、嗚呼、名前はリージェだ。」
 頷くリージェに、侑里が杵を手渡す。
「はい、どうぞ。リージェさん。」
「有難う……良し。」
 杵を受け取ったリージェは臼へと向かい合う。
 ――此で、中の餅を搗けば良いんだよな。
 取り敢えず、教えられた事を思い出して、ゆっくりと杵を振り上げて。
「……たああああああああッ、」
 力一杯振り下ろすっ。
 ――ズダンッ。
 大凡餅搗きとは思えない様な鈍い音が響く。
「おーおー、流石だな嬢ちゃん。良い搗きっぷりだッ。」
 オーマがリージェに向けてグッと親指を立てた。
「成程、此で良いのか、」
 褒められた事で、自分の遣り方で間違っていないのだと安心したリージェは亦杵を振り上げる。
「良しっ嬢ちゃん、其処で杵を一回転だッ、」
「こ、斯うかッ、」
 突然の指示に、其れでも器用に杵を一回転させて餅を搗くリージェ。
「おぉぉ……。」
「……否、確かに凄いんだが感心してないでっつか嘘教えて遣らないで下さい。」
 指示を出したオーマを筆頭にノイルは目を輝かせて、侑里は至極真顔で感嘆の声を上げた処に、突っ込みに廻らざるを得ないルーファスがげんなりと呟いた。
「む、違うのか、」
「廻したりしないで……普通に搗けば良いんだ。」
 違うと云われて如何すれば、と云ったリージェにルーファスが諭す様に返した。



「ふっ、中々骨が折れる作業だ…………む、」
 アレから勢い衰える事無く、力強く搗いていたリージェだが一部を除いて言葉を失っている様な周囲に気が附いて手を止める。
「皆引いているな……。私の作業は此処迄にしておこう。」
 そそくさと杵を他の人に渡し、オーマの居る作業台の方へ遣って来た。
「お、今度は丸めてみるか、其処の固まりが今来た処だ。」
 と、用意したのか簡易コンロで餅を揚げ乍オーマが、湯気を上げている餅の固まりを示した。
「嗚呼。……何だ、此の不思議な感触は……。」
 手を洗ってからふにふにと指で突いてみる。味は如何だろう、と一寸千切って味を見た。
「余り味はしないのだな……。此は本来如何遣って食べるんだ、」
 作業台の上に有る、様々な材料を眺め乍リージェが首を傾げる。
「そうだね……特に此、と云って決まってる訳じゃないんだけど……。」
 何時の間にかノイルが向かいで餅を均等に千切っている。
「其処に有る調味料を附けたり、掛けたりして食べるかな。」
 ――餅其の物には味が無かったろう、
 と侑里が、今度は食事用のティブルを用意させ乍笑った。
「そうか……、料理に使ってみても面白そうだな。チーズと一緒にグラタンとか色々使い道が有りそうだ。」
 侑里の言葉に頷いて、リージェは想像を膨らませる。
「近くに台所があれば作れるんだが……。」
「嗚呼、オーブンとか他の材料……牛乳とか其の辺は確か建物の中に有るぞ。作るか、」
 リージェの呟きにルーファスが、建物を指して首を傾けた。
「本当か、なら、借りるとしよう。」
 わくわくと愉しそうなリージェにルーファスは微笑むと、千切った餅を適当に皿に載せる。
「じゃぁ、俺はこっち手伝って来る。」
「嗚呼、行ってらっしゃい。」
 ノイルが笑って手を振り、オーマが声を掛ける。
「美味いの期待してるぜッ。」
「任せておけ。」
 其の声にリージェは軽くガッツポーズを返すと建物の中へと消えていった。


     * * *


 小一時間もすればティブルの上には様々な餅料理が並んでいた。
「やぁ、此処迄勢揃いすると壮観だねぇ。」
 ノイルが其の光景を眺めて呟く。
 餡子、黄粉、御手洗等の各種餅に、雑煮、リージェの作った餅入りグラタン、オーマの作った納豆掻揚げ餅……と上げれば切りが無い程で。
「其れでは、冷める前に戴こうか。」
 侑里が微笑んで食事の開始を促した。
「いっただきまーす。」
「お、嬢ちゃんのグラタン美味いじゃねぇか。」
「嗚呼、餅の食感が良いアクセントに為っている。」
「そ、そうか。良かった。」
「オーマの掻上げ餅も美味しいよー。」
「良い酒の友だな、此。」
「だろー。」
「七輪も有るから焼き餅が良かったら使い給え。」
「ぁ、焼く焼く。」

 ――わいわいと賑やかな会食が始まった。





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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★PCあけましておめでとうノベル2006★┗━┛

[ 3033:リージェ・リージェウラン / 女性 / 17歳(実年齢17歳) / 歌姫/吟遊詩人 ]
[ 1953:オーマ・シュヴァルツ / 男性 / 39歳(実年齢999歳) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り ]

[ NPC:ノイル / 無性 / 不明 / 占術師 ]
[ NPC:ルーファス / 男性 / 21歳 / 派遣社員 ]
[ NPC:秋乃・侑里 / 男性 / 28歳 / 精神科医兼私設病院院長 ]

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■         ライター通信          ■
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初めまして、徒野です。
此の度は『餅搗唄』に御参加頂き誠に有難う御座いました。
“明けまして御目出度う”とか謳って置き乍こんなにも御届けが遅く為って仕舞って申し訳有りません……ッ。
サブタイは、餅に初遭遇した時の感想、のイメェジで。
…………いやはや、ネームセンス皆無です。
そして我の強いNPC達が出張り過ぎてて申し訳無いです。
初めての餅搗き体験や餅料理食事会がリージェ嬢の良い想い出に為ると良いのですが。

此の作品の一欠片でも御気に召して頂ける事を祈りつつ。
――其れでは、亦御眼に掛かれます様。……御機嫌よう。
PCあけましておめでとうノベル・2006 -
徒野 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2006年01月24日

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