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『思い出納め 』
剣皇寺・獅子吼(w3d795)

時は12月31日…大晦日。
聖夜の祭で浮き足立った世間の波も、今では落ち着き。きたる新年に向けて、遣り残したことを片付けようか…そんな少しせわしなさの漂う空気があたりを満たす、その日。
残すところはあと何時間? 時を逃さぬよう、時を知るために身につける時計が、逆に人々の背中を押してゆく。
そんな喧騒の片隅で…私は何を見つけたのだろう?

●さりげなく、人間らしく。
ひとつひとつが派手、と言うわけではない。
しかしよく見てみれば、それぞれが質のいいものだとわかる。
丁寧に選び抜き、置く場所のバランスにさえも気を使い並べれば…それだけで全体を落ち着いた感じにさせて。
そこに在るものが全て当たり前の空気を作り出す。勿論部屋の主――名を剣皇寺・獅子吼という――のことも。
自分の身さえも、ひとつのパズルの1ピース。
それは調和と呼ぶべきか、擬態と呼ぶべきか。

定期的な掃除を欠かしてはいないので、散らかっている、と言うわけでもない。しかし早々片付けることのない場所だってないわけでもない。
大き目の家具のうしろとか、普段手の届かない場所。
「せっかくの年越し、いつもより手をかけないとね」
共に過ごす、王魔が来ちゃう前に。

●手始めに。
「やっぱり自分の部屋からかな。やる気の持続具合にもよるけどね」
苦笑しつつ自室に向かう。
居間と同様、洗練された家具が彼女を一部として迎える。
木製を示す茶と、彼女の瞳と同じ青を基調に揃えられたその空間で、優しい金の流れが彼女と共に移動する。
自慢の髪が汚れぬよう、軽く結って纏め。さてどうしたものか、と手順を思案する。
生憎天気は芳しくない、窓を開けずに出来る事に限定されてしまうけれど…人を呼ぶのだ、やれる事はやっておこう。
「記念日とかじゃないけど…ちょっとくらいはりきってもいいよね」
人は大晦日と言うだけでも、イベント気分になれるものだ。獅子吼だって例に漏れない。

●写真。
入口近くにある本棚もまた、普段余り手をつけない場所のうちのひとつだ。
ジャンルごとに分けるのは、そう普段から気をつけてやることでもない。買った順に、開いている場所に入れていくのが関の山だ。
「意外と増えたな…」
改めて、その量に軽く驚く。青の瞳がくるりとまわり。
前に整頓した時はいつだったか。数年前に一度並べなおした時は…そう本を読む暇もなかったせいだろうか、あまり蔵書はなかった気がする。
ゆっくりする時間が増えた…それって、力をふるう必要も減ってきたと言う事だから、悪いことではないよね。

ひらり。
まずは拭き掃除…中の本を取り出していたところで、何かが舞い落ちて。
「…ん?」
手に取れば、それは昔撮った写真。
別段特別な場面と言うわけではない、日常の一場面を切り取っただけの一枚だ。
写っているのは、五体満足な――現在は利き腕であった左腕を失い、隻腕なのだ――獅子吼と、年の離れた彼女の兄。
「ああ、そうか…こんな写真、まだ残ってたんだね」
神魔大戦の時に、全部なくしちゃったと思っていたけれど。
懐かしいような、しかし胸の奥をちくりと刺すような思いが、兄への感情とともに甦る。

親が早くに他界した分、親代わりでもあった兄。少し生真面目すぎるところもあって、却って苦労背負い込むタイプで…妹として、心配していた。
褒める時や、慰める時にはいつも、頭を撫でてくれた兄。楽器や剣を手にすることで、人々の羨望の眼差しを受けるようになっても、兄が頭を撫でるのは変わらなかったし、自分もまたそれが続くことを当たり前だと思っていた。
思っていた。それはあくまでも過去形でしかない。

「…割と好きだったんだけどな、あの大きな手で、撫でてもらうの」
唯一の肉親…と思っていたんだけど…
あるべき左腕の位置に視線を向け、ふぅ、と一息。
自分の左腕を奪ったのは、その兄だ。
奪うだけでは満足できなかったのか、彼は眉間から左頬まで達する傷までこの身に残していった。
「…もう少し……早く戦いが終わっていたらな」
なんて、ね…今更、言っても仕方のないことなんだけど。
ケリは自分でつけなくちゃ。ずっと前から、そう決めているのだから。

●揺るがすは一瞬。
見つけなければ、今思い出すこともなかったかもしれない。同時に、忘れられない記憶でもあるけれど。
「どうしようか…これ」
破り捨てることは出来ない。そう思うと同時に、まだ彼を見捨てているわけではない自分に気づく。
「写真が悪いわけじゃないけれどね」
飾ることも出来ないものであることはわかりきったことだ。
手前にあった本のしおり代わりに挟み、その本をジャンルごとの山にわけ。
何事もなかった…そう思わせる動きで作業に戻る。それが出来るくらいには割り切ることも出来ているから。

「…さて、早く済まさないと、王魔が来ちゃうか」
今すべきは、友を迎える準備なのだ。

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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★PCあけましておめでとうノベル2006★┗━┛

【w3d549maoh/空月・王魔/女性/25歳/孤高の紫】
【w3d795maoh/剣皇寺・獅子吼/女性/26歳/修羅の黄金】

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■         ライター通信          ■
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一月も下旬となりましたが、あけましておめでとうございます!
このノベルがあけましておめでとうノベルであるかぎり、意地でもそう挨拶します…改めて初めまして、桐島めのうです。

年末の話題でのシナリオでしたので、ご参加いただけるか不安な面もあったのですが…ご参加ありがとうございました!
もう一方と対になるように書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。あわせてご賞味いただければ幸いです。

それではまた機会に恵まれました時には宜しくお願いいたします(礼
ありがとうございましたっ♪
PCあけましておめでとうノベル・2006 -
石田まきば クリエイターズルームへ
神魔創世記 アクスディアEXceed
2006年01月23日

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