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『■たぬきの恩返し■ 』
龍神・瑠宇4431)&夜崎・刀真(4425)

 むかぁしむかし そのむかし
 いっぴきのたぬきがおったとさ



「あー! 福引やってる〜!」
 それは、二人で買出しに出かけた帰りのこと。
 券が何枚たまっただろうと刀真が数えていた時、瑠宇が目ざとく福引所を見つけた。
「瑠宇、引いてくか?」
「うん!」
 ここで頷かない瑠宇ではない。
 刀真から券を受け取り、たたたっと福引所に駆けてゆく。荷物を持ってマイペースに歩いてくる刀真を急かし、彼が辿り着くのを今か今かと待って、瑠宇は刀真が引くところをじっと期待の目で見つめた。
「がんばれトーマ〜!」
 はりきる瑠宇。けれど。
 一回目───ハズレのティッシュ。
「最初はこんなものだよね」
 二回目───ハズレのティッシュ。
「むぅ、まだまだ〜っ」
 三回目───ハズレのティッシュ。
「トーマ! 次最後の一回だよね」
「ああ」
「お願い、瑠宇に引かせて!」
 ティッシュも増えて悪いものではない、と思いつつも刀真は瑠宇に券を渡す。どうせまた外れだろう。
「いっくよ〜」
 刀真がそんなことを思っているとは露知らず、彼が見守る中、嬉々として挑戦した瑠宇は───。

 カランカランカラン!

 二等の鐘の音が係りの者の手の中で鳴る。
「お客さん、二等! ペア温泉旅行券当たりだよ!」
「ええっホント!? やったあ!v」
 マジかよ、というような刀真をよそに、瑠宇は鼻唄交じりに券をもらってきて、尋ねた。
「ね、トーマ。次の休みの日、いこーね♪」
「ん。まあ、一泊くらいなら休日利用して行けるか」
 その間食費も電気代もガス代も浮くし、と現実的に考える刀真である。幸い交通費つきの券だったから、刀真と瑠宇は行くことになったのだ。
 ───地元の近所からは、「不気味なお化け旅館」と称されている、その旅館に。



 妖怪屋敷。
 そう言っても過言ではない旅館を目の前に、早くも刀真は旅行に来たことを後悔していた。
「わあ、トーマ、すごいところだね!」
 逆にわくわくしている瑠宇は、やはりつわものかもしれない。
「なあ瑠宇、今からでもいいから引き換えして別の骨休みに」
「やだ! 瑠宇、ここに決めたもん! 楽しそうだし♪」
 刀真の言葉をひったくって、旅館の中へと入っていく瑠宇。
 そんな瑠宇に逆らえるはずもなく、刀真はひとつため息をついて、まあ休日の思い出の一環にはなるか、と自分を騙し騙し荷物を持ちなおす。
 そこへ、
「に〜もつ〜おもちしましょう〜か〜?」
「わっ!!」
 にょきっと現れた老婆の首に、刀真はたじろいだ。
 いや、老婆の首ではなく正確には旅館の女将だったのだが。
(そこらの妖怪より妖怪っぽいぞ)
 まだドキドキする心臓を抑えつつ、
「結構です。荷物と言っても少ないですし」
 とあくまで見た目は素っ気無く答える刀真。そうですか〜とこちらは、妖怪風味たっぷりに瑠宇と刀真を部屋へと案内し始める女将。
 しかしこの女将、部屋への道中一々やることなすこと言うこと妖怪くさく、あまりの異様な態度に刀真の表情がどんどん引きつってゆく。
「なあ瑠宇」
 やっと、といった感じで部屋に辿りついた刀真は荷物をおろしながら、旅館案内図を早速見ている瑠宇に声をかけた。
「おかしいと思わないか? 俺達の他には客もいないみたいだ」
 そればかりではない、やけに旅館自体も静まり返っていた。
 けれど瑠宇は案内図から目を離さず、きらきらと輝いている。
「そっかな? あれじゃないからじゃないかな、あの、えーと。しーずん」
「旅行シーズンじゃないからって事か?」
「うんうん」
 はあ、と刀真はため息をついた。───仕方ない。瑠宇がここまで気に入っているんだから、少しくらいの……そう、少しくらいの怪異には目をつぶってつきあうとするか。
 乗りかかった船といった気分で刀真は、瑠宇と自分との二人分のお茶を淹れ始めたのだった。



 ベランダから見える風景は、なかなかのものだ。
 眼下には、ここの旅館の売りであろう、露天風呂が見渡せた。なかなかに入り心地がよさそうだ。
 これだけのものがあって客が他にいなさげなのは、間違いなくこの旅館に「なにか」があるからだ。
 部屋で露天風呂の用意をしている時に聞こえる不気味な笑い声、そして刃物を研ぐ音。
 そんなものは無理矢理気にしないことにして、刀真は瑠宇を護るようにして部屋を出た。古い旅館だからか、床がいやに軋みを上げる。
「あっ、今の時間、混浴だって!」
「、」
 露天風呂の入り口に立って無邪気に言う瑠宇に、今度こそ言葉をなくす刀真。
「……部屋の風呂に入るか、後で来るか」
「なんで!? 今はいろう〜! ほら、瑠宇先にいってるよ!」
「お、おい!」
 こんなときばかり刀真の手を振りほどくのがうまい瑠宇、はしゃぎながら更衣室に入っていく。分かれているのは実際脱衣所だけで、中は繋がっていた。多分、時間を決めて混浴にしてあって、ほかの時間は何かで区切ってあるのだろう。
 幸い(?)湯煙で殆ど見えない状態だ。景色のほうを見ればさすがに景観が見渡せるので、刀真はそっちに集中することにした。
「あー……肩こりが取れる」
 と爺むさく呆ける刀真に、ぱしゃぱしゃと泳いだりはしゃいでいた瑠宇が駆け寄ってきて、
「なになに? トーマかたこってるの? 瑠宇、もんであげる!」
「!? る、瑠宇いいって!」
「あ、ホントだ! なんか入ってるみたいにかたいよ、特にココ」
 ……結局はおとなしく瑠宇に肩を揉んでもらう刀真、立つ瀬がないとはこのことであった。
 その後は「トーマ、背中流してあげるv」と無邪気に言う瑠宇から目をそらしつつ、「いい」と言った刀真が出ようとして、ふと何かの気配を感じた……気がした。
 刀真の手を取っていた瑠宇も、はたとはしゃぐのを一瞬やめる。
「……なんのけはい、だろ」
「さてな……特別悪い気配でもないが」
 とりあえず放っておこう、とさして気にも留めない二人、たっぷりあたたまったところで露天風呂を出て今度はお約束の卓球場へ。
 旅館の浴衣を着て二人で卓球をするのだが、やはり妙な気配はする。
(ついてきてるな)
 思うが、こういう手合いは気にしないふりをするのが一番だ。
 瑠宇も分かっているのかいないのか、卓球に熱中していた。
 無論、圧倒的に刀真のほうがうまかったのだが、なにしろ刀真が勝ったら瑠宇が珈琲牛乳を刀真に。瑠宇が勝ったら刀真がいちご牛乳を瑠宇に勝ってやる、というルールを瑠宇が決めたものだから、熱くならないわけがないのだった。
(ここでわざと負けたら絶対瑠宇には分かるよな)
 そういうことには、何故かという言葉がつくくらい敏感な瑠宇のことである。さて、どうしたものかと考えあぐねているところへ、刀真のほうに来た球が刀真の卓球ラケットのあり得ない場所に当たり、刀真がポイントを取られた。
 ───勝手に球が曲がった。
 その後も不審に思いつつも、刀真に来る球が何故かあり得ない場所あり得ない場所に当たり続け、
 とうとう瑠宇の勝ちとなり、刀真としては助かった、わけなのだが。



「いちご牛乳おいしい♪ トーマ、ありがとねv」
「ん」
 礼を言うなら別のヤツにな、と心の中で言いつつも、瑠宇と刀真は部屋に戻る。刀真も珈琲牛乳を買って、部屋に帰ってから、まだ遊び足りないという瑠宇のせがみで彼女が持ってきたトランプやウノ、ミニオセロで時間を潰す。そうしている間に一度、夕食が運ばれてきた。
 女将は相変わらず怪しかったが、料理の中身は最高だった。
「トーマ、このこかぶのスープおいしいよ♪」
「このレシピはもらえないだろうな」
「あっ、レシピもらってこう! トーマに作ってもらいたい、このトマトの前菜v」
「いや旅館とかのレシピは簡単にはもらえないようになってるんだ」
「そこをなんとかって、頼み込むの。熱意は通じるよ、きっとv」
 信じているのだから、こんなところが瑠宇のいいところであり、騙されやすいところなのだ。そんな瑠宇を見て、本当においしそうに食べるなあと微笑ましく思い、やっぱり来てよかったな、と思い直しながら刀真は箸を進める。
 食事が終わると、女将に一応レシピを聞いてみた。料理長に聞いてみるとのことで、だいぶ刀真も女将の怪しい言動に慣れてきた。
 寝る前にもう一度トランプをやる。テレビは見放題だから、これを使わない手はない。だが、トランプは瑠宇の圧勝、テレビも何故か時折ノイズが入る。
 そうこうしているうちにほのぼのと時は過ぎ、瑠宇が眠そうだったので、食事のあとに敷かれてあった布団に入ることにした。
 時間はまだ早いが、こういうところに来るとはしゃぎすぎて眠くなってしまう者もいるのだ。瑠宇がそのいい例だろう。
また明日の朝早くから遊びにつきあわされるんだろうなと考えつつ、刀真もまた眠りについた───と思った、その時である。

 眠くまたたきをする目の前に、火の玉が現れた。

「!」
 同じく見ていたのだろう、反射的に飛び起きようとする瑠宇を、刀真は抑え付ける。小声で耳打ちをした。
「静かに、瑠宇。いい子だから寝たふりしててくれ」
「でも、トーマ」
「いいから、な?」
 こくんと頷いた瑠宇。
 次いで、ラップ音。謎のうめき声が聞こえてくる。
 今までのことで、二人とも既に事の真相を理解していた。だからこそ、寝たふりなのだ。
 ところが瑠宇は本当に寝てしまうし、刀真もまた、一定期間のその怪奇現象に飽きてきて眠りに落ちそうになるしで、「犯人」はムキになったようだ。
 ぺたり、ぺたりと近寄ってきて……、

 ぱしっ

 刀真が「犯人」を見事に捕まえた。
 ギリギリのところまで近づくのを見計らって、そのまま手で捕らえたものは─── 一匹の、化け狸だった。
「どうしたの? トーマ」
「犯人、捕まえたぞ瑠宇」
「えっ、ホント?」
 瑠宇も飛び起きた。しゅん、とうなだれている化け狸は、一見普通の狸とあまり変わらない。強いて違うところと言えば、表情がある、というところだろうか。
「今までの仕業も、この旅館をこんな風にしているのもお前の仕業だろう」
 刀真が問い詰めると、火の玉で器用に、

 そのとおりです

 と空中に書く狸。
 刀真はわざとらしく、にやりと微笑む。
「そんな悪い狸は、狸鍋にでもしてやろうか」
 驚いて毛を逆立て、ぽろぽろと涙をこぼす狸。
 瑠宇が、慌てて止めに入った。
「イジメちゃダメ。ゆるしてあげて」
「でもな、こういったヤツは大抵同じことを繰り返すんだよ。だから脂の乗った今が食べ時なんだよ」
「ダメ、お願い、トーマ」
 瑠宇は、刀真が本気でないことに気づいていない。狸をかばって、瞳を潤ませる。
 はあ、とため息をついて、刀真はじろりと化け狸を見やる。
「もう二度と。本当に二度と、こんな真似はしないな? 旅館も元に戻すか?」

 はい げんかくを ときます

「約束を破ったら、すぐに俺が飛んできて、狸鍋にしてやるからな」

 はい

 火の玉で意思を伝える狸は、必死である。さすがに可哀相になってきた刀真、約束をさせて手を離すと、途端に化け狸は逃げていった。



 それから本当に二人は寝て、翌朝のこと。
 すっかり旅館も明るくなり、化け狸の幻覚等のせいで「そう」なっていた怪しかった女将も旅館も元通り、今までのことはすっかり忘れたようで、二人にお土産のオススメを説明したりしている。
「……元に戻ったみたいだな」
「うん、よかったね♪」
 確認して、お土産を買って───帰路につく。
 バス停までの道のり、ふと茂みから出てきた化け狸。何をするかと思えば、手に持っていた袋をその場に置き、逃げてゆく。
「なんだろ?」
 瑠宇が開けてみると、たくさんのお菓子が入っている。それも、昔ながらのお菓子ばかりだ。
「おいしそう〜♪ いただきまーす!」
 喜んで瑠宇が手にしたとたん、

 さらさらさら………

 お菓子はすべて、葉っぱに転じた。
 やっぱりこういうオチだったかと刀真は苦笑を禁じえなかったが、怒る気はしない。がっかりする瑠宇に、刀真は「ほら、見てみろよ」と地面に落ちた葉っぱを指し示した。
「あっ」
 瑠宇が声を上げる。
 そこには葉っぱで、

 たのしかった ありがとう

 と、描かれてあった。



 むかぁしむかしからいた いっぴきのたぬき
 さみしさといたずらごころでしていたいたずらを みやぶられ
 そのご むらでときどきこどもと
 あそぶようになったと おんじんのふたりのみみに とどいたそうな



《END》
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こんにちは、ご発注有難うございます。今回、「たぬきの恩返し」を書かせていただきました、ライターの東圭真喜愛と申します。なかなかに昔話風にいかず、また、女将等ももっと味を出したかったのですがそうするとNPC扱いになってしまうので文章でしか出来ませんでしたが、露天風呂と卓球の場面は少し遊びを入れてみました。
昔話風に、少しでも感じられて下されば幸いです。
「ここはもっとこう」「こんなことはしない」などありましたら、遠慮なく仰ってくださいませ。今後またご縁がありました時の参考にさせて頂きますのでv

ともあれ、ライターとしてはとても楽しんで書かせて頂きました。本当に有難うございます。
お客様にも少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
これからも魂を込めて書いていこうと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>
それでは☆

【執筆者:東圭真喜愛】
2006/01/20 Makito Touko
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
東圭真喜愛 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年01月20日

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